二重生活
ひとしきり泣き喚いて涙と鼻水で無残に汚してしまったドレスやリボンを脱ぎ捨てて、元の藍色の魔女の衣装へと着替えたわ。時間をかけて結い上げられた髪もほどいて、いつもの慣れ親しんだ姿に戻るとようやく人心地ついた気がしたわ。
「さあ、アリスちゃん。お顔を拭きましょうねー」
「……ぐすっ……」
「温かいミルクには蜂蜜も入っていますのよ。はい、あーん」
セレスは侍女から受け取った蒸しタオルで、腫れた目元を優しく拭ったり、赤子に与えるようにカップを口元へ運んでくれたわ。私はされるがままに世話を焼かれて、まだひんひんと鳴る喉をさすられながら、午前の座学で使った勉強部屋へと戻る。
心はまだ鬼婆にズタズタにされたままだったけれど、そんな私の前に用意された次なる教材の山を見た瞬間、涙で潤んだ視界の霞が急速に晴れていくのを感じたわ。
そこに並んでいたのは私が王立学院に入る理由としていた、幾何学模様が刻まれた魔法陣の展開図。
「せ、先生!これについて詳しく教えてくださる?これは何?どういう意味なの?」
私の声はまだ少し鼻声だったけれど、傍らに控える教師にびっしりと書き込まれた文字や記号を指さして、食い入るように問いかけたわ。
「それはルーンです。私共人間が魔力を具象化するために編み出した、最古の言葉でございます。太古の昔の人間たちは、雷が木を焼いた跡や、凍りついた湖面のひび割れ……自然界に存在する強大な力が世界に刻みつけた現象の残滓を模倣し、記すことで法則を再現しようと試みたのです」
「ルーン……」
「はい、例えばこの螺旋を描くような記号は魔力の指向性を、その隣にある三つの点は魔力の定着を意味するのです。魔法陣はこれらを論理的に組み合わせて綴るものとお考えください」
魔法陣の本格的な学習は学院に入ってからだそうだけれど、自分の放つ魔法の感触が世界の法則をなぞるような文字として紐解かれていく作業は、今まで知らなかったパズルを解くような興奮を与えてくれたわ。
「アリスティアお嬢様、素晴らしい集中力ですが……別の科目も学びませんか?」
午前の座学なら数分で飽きて放り出す私が時間を忘れて没頭していた時に、教師が恐る恐る声をかけてきたわ。でも私はぴくりとも動かない。今だけは私が自ら進んで学ぶ唯一の時間よ。このルーンの迷宮に潜っている間だけは、アンリエットに否定された私の本来の輝きを取り戻せるような気がしたんだもの。
教師は困ったように周囲を見渡して、助けを求めるように隣に座るセレスへと視線を送ったのが視界の隅に写ったわ。
「アリスちゃん、そろそろ別の科目を……」
セレスの静止。私はページを掴む手に力を込めようとしたけれど、こればかりは教師のように聞き流すわけにはいかない。頭を切り替えて次の策を講じることにしたわ。
ゆっくりと顔を上げ、まだ赤みの残る瞳を潤ませて上目遣いに見つめる。そしてセレスの袖を震える指先でぎゅっと、壊れ物を扱うような手つきで掴んだわ。
「……お姉様、お願い。あとちょっとだけ」
これよ。マナーの時間で得た、ひ弱で健気な妹という最強のカード。今にもこぼれ落ちそうな涙を溜めて見つめれば、セレスの瞳がみるみるうちに揺らぎ始めたわ。
「……っ。あ、あと少し、本当にあと少しだけですわよ?」
チョロいわね、お姉様。
「セレスティアお嬢様……」
「先生、アリスちゃんの納得がいくまで少しだけお付き合いして差し上げて」
「……かしこまりました」
私は心の中で小さな勝利の旗を掲げて、再びルーンの海へと深く潜っていったわ。
今日の全ての授業が終わって西日が照らされる頃、私は家に帰るためにジェラールの執務室を訪れたわ。見送りに来てくれたセレスも一緒にね。
「失礼いたします、お父様」
先にセレスが扉を開けて中に入ると、書類の山に埋もれていたジェラールの顔が一瞬で蕩けたわ。
「おお!セレスティア、パパの愛しい天使!今日もなんて可愛らしいんだ!勉強は疲れていないか?喉は渇いていないか?今すぐ最高級の紅茶を淹れさせよう!」
娘をこれでもかと甘やかすジェラール。領主としての威厳なんて微塵も感じられない、ただの親馬鹿の姿ね。けれど後から入った私の姿を見たら、いつもの顔に戻ったわ。彼は涙で赤く腫れた私の顔を見て、からかうように口角を上げたのよ。
「随分と絞り取られたようだな。アンリエットが実技の教師を代わったと聞いたが」
「……あんなの教育でもなんでもないわ。ただの虐めよ。貴方もあれの夫なら少しはあの執拗さをどうにかしなさいよ」
恨めしそうに睨んでもジェラールの表情は変わらない。
「自業自得だ。朝の俺に見せた無作法をアンリエットが見逃すはずがない。彼女の目に入ればこうなることは火を見るより明らかだったからな」
ジェラールは私を一瞥するとククと意地悪く笑ったわ。
この男!すべて分かっていて私をアンリエットに預けたのね!愛娘のセレスにはあんなにデレデレのくせに、私に対してはこの言い草よ!セレスを護衛するために養子になって、一応は私も娘のはずなのに!
すかさず隣で心配そうに私の顔を覗き込んでいるセレスを盾にしたわ。魔道具の勉強の時に味を占めた、必勝の健気な妹カードよ。
「お姉様聞いて。あいつってば、こんなに私が傷ついているのに笑いものにするのよ。……ひどいわ。もう私、このお家にはいられないかもしれないわ……」
再び瞳を潤ませて震える指先でセレスの袖をぎゅっと掴む。こうすればセレスの正義感と姉性本能に火が付くのは分かっていたわ。
「……っ!お父様!アリスちゃんはあんなに一生懸命頑張ったのですよ!お母様の指導は私でさえ見ていて胸が痛くなるほどでしたのに……それを自業自得と言って笑うなんて、お父様はデリカシーというものが欠けていらっしゃいますわ!」
「お、おいセレスティア、私は単にアリスティアの振る舞いが招いた結果だと説こうとしただけで……」
「アリスちゃんはお母様に指導されて泣いていたんですよ!?謝ってください、今すぐアリスちゃんに謝ってください!」
セレスが私を庇うように一歩前へ出て、ジェラールを鋭い視線で射抜いたわ。さっきまで意地悪い顔をしていたジェラールが、愛娘のガチギレを前にして「あ、いや……すまない、そこまで追い詰めるつもりではなかった」と見る間に狼狽し始める。
私はセレスの背中に隠れながら、ジェラールだけにハッキリと見えるようにニヤリと挑発的な口角を上げたわ。
ざまあみなさい。私の勝ちよ。
勝ち誇った私の笑みに気付いたジェラールが、苦虫を噛み潰したような顔をしたわ。
「セレス、ありがとう。今日はもう自分の家に帰るわね」
用済みと言わんばかりに普段通りの呼び方に戻すと、セレスは一瞬だけ「あ……」と小さく声を漏らして、目に見えてしょんぼりと眉を下げたわ。さっきまでの甘えるようなお姉様呼び。至福の響きが失われたことに姉としての切なさを感じているみたいね。
けれど彼女はすぐに気を取り直して「ええ、気をつけてくださいね。また明日」と笑顔で手を振ってくれたわ。私はジェラールをもう一度だけ勝利者の余裕たっぷりに見据えてから、テラスの専用勝手口をくぐってから外へと飛び立つ。
風を切り裂いて最短距離で下層区を目指す。街の灯りが星屑のように流れていって見慣れたパン屋の屋根が見えると、速度を緩めることなく二階の自室の窓へと飛び込んだわ。
いつもの小麦の香ばしい匂いと、少しだけ焦げたような安心する家の匂いが鼻をくすぐった瞬間、さっきまでジェラールを出し抜いた勝利の余韻さえ霧散したわ。着地と同時に私は階段を駆け下りる。
「あ!お姉ちゃん!お帰りなさ……あれ?」
パタパタと足音をさせて駆け寄ってきたノアを無言で抱きしめる。
「……お姉ちゃん?どうしたの?」
心配そうに私の顔を覗き込もうとするノアを、逃がさないようにぎゅっと抱え込んだまま厨房の奥へと進む。そこには夕食の支度をしていたレヴァンが立っていたわ。
「あらあら、アリス?随分とお疲れね……お勉強、そんなに厳しかったの?」
私はレヴァンの問いかけにも答えないで、彼女の腰にしがみつく。アンリエットの冷たい言葉でカサカサに乾いた私の心に、レヴァンのエプロンから漂う粉の匂いとオーブンの余熱が染み渡っていったわ。
「ちょっと、そんなにくっつかれたらご飯の準備ができないわよ」
レヴァンは重たそうに私をぶら下げたまま困ったように笑って、背中をぽんぽんと叩く。この「しょうがないわね」という響きを含んだ声が今の私には何よりも心地よかったわ。
「ノア、急いでご飯の支度を終わらせましょう。今日のアリスには温かいご飯を食べて早く寝るのが一番だわ」
「うん、お姉ちゃん元気ないもんね」
その夜、私は徹底して二人から離れなかったわ。食事の時は三人の椅子を隙間なく並べて、お風呂では彼女の手をぎゅっと握ったまま湯船に三人で身を寄せ合うようにして浸かる。
「アリス、髪を洗うから一度手を離してちょうだい」
「嫌よ。片手で洗いなさい。貴女ならできるわ」
「もう、わがままなんだから」
レヴァンは呆れたように溜息を吐きながらも、片手で丁寧に私の銀髪を泡立ててくれたわ。
それでも寝る時だって、私はノアとレヴァンの手をそれぞれ掴んで離さなかったの。川の字になって眠るのが精一杯のベッドの真ん中で、二人の体温を全身で感じながら潜り込む。
「お姉ちゃん、明日はお休みする?」
「……うるさいわね。寝なさい」
ノアの無邪気な声を聞きながら私は二人に包まれて瞳を閉じる。
明日の朝が来ればまた冷徹な世界に戻らなきゃいけない。けれど今夜だけは最強の魔女であることも忘れ、ただの弱虫な子供に戻って温もりに溺れていたかったのよ。
それからの日々は足早に過ぎていったわ。
毎朝のように「もう嫌だわ、一生ここで寝ていたい」と愚図り、レヴァンに「数百年生きた魔女様が子どもみたいなこと言わないの」と呆れられ、ノアに「はいはい、お姉ちゃん頑張って」と焼き立てのパンを口に放り込まれて送り出される。
領主館に到着した私を待っているのは退屈な座学の授業から進化していったわ。
「……で、ロシュフォール家を取り巻く現在の派閥関係ですが……」
最初のうちは国や王都や学院といった基礎の内容で、私が関係しそうな内容は頭に入れていたわ。けれど授業が進むにつれて、内容はより現実的で退屈極まりない現在の貴族の関係とか、昨今の情勢だったりへとシフトしていったのよ。
……ダメだわ。教師の言葉が一言も脳に入ってこないわ。私の脳は興味のない情報を自動的にシャットアウトしてしまうのよ。
右から左へ受け流される親派だの政敵だのといった単語たち。私は虚ろな目で教科書の隅に描かれた偉大なる初代王様の肖像画に、立派な髭を書き足す妄想をして時間を潰していたわ。
「ではアリスティアお嬢様。国境防衛で王国の双壁と呼ばれる、ロシュフォール家の同盟相手であるグランミュール家。彼らとの結束の固さは社交界で何と称されているでしょうか?」
不意に飛んできた質問にビクリと肩を震わせたわ。
え?結束?称され方?知るわけないじゃない。どうせ最強コンビとか安直な名前でしょう?
私が答えに窮して視線を彷徨わせていると、隣から甘く芳醇な香りが漂ってきたわ。
「アリスちゃん。こちらの焼き菓子、とても歯ごたえがあって美味しいですわよ?」
セレスが小皿に乗った茶色い棒状のお菓子をスッと、視界の端に滑り込ませてきたわ。二度焼きされた石のように硬いビスコッティ。
「このお菓子の硬さ。彼の家との絆もこのように簡単には砕けないそうですわ」
目の前に置かれた歯が折れそうなほど硬いお菓子。そして砕けないというキーワード。
「え、ええ。当然よ。その頑強さからなる関係は鉄の結束と呼ばれているのでしょう?」
セレスのヒントを参考にそれっぽい内容を口に出すと、彼女は満足そうに微笑んでビスコッティを私の口元へ差し出したわ。
「流石ですわ、アリスちゃん!」
「ふふん、これくらい常識よ」
パクッっと食べて口の中に広がる甘さに至福の表情を浮かべる。
結局のところ、セレスが餌をぶら下げて誘導して私が食いつく。頭の中身は空っぽのままなのに、この見事な連携プレーのおかげで優等生としての実績だけが積み上がっていくのよ。
退屈な座学の後は地獄の実技、アンリエットのマナー授業よ。
「やり直しなさい」
私はスープ皿にスプーンを滑らせただけ。ただそれだけの動作がアンリエットの前では神経を逆撫でて、冷たい指摘が飛んでくるのよ。引きつる頬を必死に抑えて訊ねたわ。
「……どこがお気に召さないのよ?」
「スプーンの角度が鋭すぎるわ」
はぁ?この女、目の中に分度器でも埋め込んでいるわけ?誰がいつどこで見てるっていうのよ。
「貴女の所作には空腹が透けて見えるわ。ロシュフォール家の令嬢は、たとえ飢えていても優雅に食事を運ぶものです」
お昼時なんだからお腹が空くのは生理現象じゃない!理不尽にも程があるわ!
「お母様、もうよろしいではありませんか。アリスちゃんはこんなに頑張っていますわ」
隣で同じようにスープに向き合っていたセレスが、たまらずといった様子で私の手を握りしめたわ。彼女の温かい手が冷え切った指先を包み込んでくれる。
「まだ慣れていないだけですわ。それに、これ以上やり直させてはスープが冷めてしまいます」
「セレスティア」
アンリエットは娘の嘆願にも眉一つ動かさなかったわ。
「貴女の甘やかしはこの子のためになりません。王都の社交界は僅かな動作ひとつで、その人間の品格を値踏みする古狸の巣窟です。そこで笑い者にされるのは他ならぬこの子なのですよ」
私のためっていう言葉を盾にされて、セレスは悲しげに目を伏せ手を離す。
「……申し訳ありません、お母様」
「分かればよろしい。アリスティア、もう一度」
「……はい」
無機質な食器の音だけが響く部屋。私は空腹さえもマナー違反として否定され、味がわからなくなったスープを機械的に口に運び続けたわ。
その氷みたいな鉄面皮こそマナー違反じゃないの?たまにはセレスみたいに「アリスちゃん最高!」って顔で私のこと見たらどうなのよ。
けれど魔道具学の時間になると私のスイッチは完全に切り替わるわ。
「ルーンは単体でも意味を持ちますが、複数のルーンを組み合わせることで意味がガラリと変わります。文字の大きさや歪みでも意味が変わることもあるので、綺麗な書体で記載できるように練習いたしましょう」
教師の教えで初めて書くルーン。筆致はまだお世辞にも綺麗とは言えないけれど、夢中になって取り組んだわ。没頭し始めた私を現実に引き戻すように、いつも通りセレスが声をかけてくる。
「アリスちゃん、根を詰めすぎてはお体に障りますわ。今日はこのあたりで……」
ここの対応もいつも通りよ。私はペンを持つ手をわざと震わせて、潤んだ瞳でセレスを見上げたわ。
「お姉様。私、ルーンに込められた意味をもっと知りたいの。鬼婆……あの女に叱られないようになりたいから……」
「アリスちゃん、なんて健気な……!先生、今日のカリキュラムを延長しましょう。私が許可しますわ!」
もはやルーティン化した作業ね。セレスの姉心を操るなんて赤子の手をひねるより簡単だわ。
「ですがセレスティアお嬢様、本日の予定はこれで……」
「アリスちゃんの向学心を邪魔する道理はありませんわ!」
……操るのが簡単すぎてもはや怖いわ。この調子だと「お姉様、世界征服したいわ」って私が言えばその通りに動きそうだもの。
全ての授業が終わって領主館の一日の終わり、私は帰るためにジェラールの執務室へ向かう。でもそこは八つ当たりの場よ。
「……というわけで、今日もあの女に陰湿な指導を受けたわ。もう怖くて夜も眠れそうにないの」
「おい。今日はアンリエットに泣かされなかったし、その後の魔道具の授業で目を光らせていたと聞いたぞ」
ジェラールが胡乱げに私を睨むけれど、隣には最強の守護神であるセレスがいるわ。
「お父様!アリスちゃんがこんなに傷ついているのに、その冷たい目は何ですか!?お母様の厳しすぎる指導を黙認しているお父様も同罪ですわ!謝ってください!」
「セ、セレスティア……いや、私はだな……」
そうよそうよ!私はセレスの陰でジェラールに向かって、べーと舌を出してやったわ。
「見ろ!そいつが舌を出しているのが見えないのか!?傷つくどころか私を馬鹿にして楽しんでいるだけだぞ!?」
ジェラールの指差す先で私は表情筋を完璧に制御したわ。セレスが振り返った先にあるのは、ただ不当な非難に耐え忍ぶ健気で清らかな美少女の顔よ。
「お父様!何を仰っていますの?アリスちゃんは私を信頼して背中に隠れているだけですわ。見てください!この清らかな瞳を」
「違う!私が見たのはそれじゃない!見ろ、私の目を見て僅かに口角を上げたぞ!ほら、今だ!」
「見えませんわ!いいから謝ってください!」
最愛の愛娘に怒られてしおしおと縮こまるジェラール。無駄よ。セレスの脳内では私はすでに神格化されているんだもの。
一通り八つ当たりし終わったら、テラスから夜の空へ飛び出してパン屋へ帰還する。二階の自室に着いたら、令嬢という皮は脱ぎ捨ててゴミ箱にポイよ。
「レヴァァァァン!ノアァァァ!帰ったわよ!今日の私も死ぬほど頑張ったわ!褒めて!撫でて!温かいスープを口まで運んでちょうだい!」
私は叫びながら厨房へ突撃して、夕食の準備をしていたレヴァンの腰に頭を突っ込む。
「おかえり、アリス。ほらほら、服が粉だらけになるわよ」
「いいの!私は今小麦粉の匂いを嗅がないと死んじゃう病気なのよ!」
すぐに生き返るけれどね。不老不死ジョークよ。
「そんなに甘えちゃって。王都に行ったらどうするのよ」
「お姉ちゃん、今日も凄かった?」
「ええ、凄かったわよ。国を滅ぼすよりアンリエットの前で淑女の微笑みを保つ方が大変だわ」
私は二人の体温に包まれながら深い眠りにつく。明日になればまた「行きたくない!」と叫ぶところから始まるのだけれど。この温もりがある限り、またあの領主館へ飛んでいけるのよ。
秋の初めから終わりまで、私はこうやって外側を磨かれ、内側を癒やされるサイクルを繰り返したわ。
そして気がつけば王都に行く時期が間近に迫っていたのよ。




