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やり直し

夕刻になり、二人で毎年恒例の枝垂れ桜を見に行った維心と維月が戻って来るのを待ってから、全員が一度、控えの間へと戻って、そうしてわざわざ寛げるように部屋着に着替えて応接間へと集まった。

これは、普通あり得ない事だ。

つまりは、他人の家に行って、寝てもいいぐらいのジャージに着替えて集まっているのと同じ感じで、普通、最上位の王がそんなことはしない。

妃達も伴っているのだから、更にあり得ない事態だった。

だが、このまま最長三日間、ここから動くつもりもなかった王達は、最悪そのまま寝てもいいように、もうこの際部屋着でいいやという感じで、礼儀もへったくれもない状態で、出て来たわけだった。

そこに、蒼は何が何でもやり遂げる、という意思を感じた。

「もうな、なりふり構っていられぬのよ。」炎嘉が、言った。「寝たくなったら寝られる者から寝て、起きておる者が進めて行くしかなかろうが。途中交代して眠る意思がある者は寝たらいいし。幸い、ここは畳の間であるから、いくらでもそれができる。」

焔、うんうんと頷いた。

「どうせ我ら、縁者のようなものであるから。今さら部屋着がどうの思わぬ。一緒に風呂まで入っておるのに、襦袢であっても驚かぬわ。」

維心が言った。

「あのな、妃が居るのだから襦袢はならぬ。だが、部屋着なら良いかと思うて。維月も身軽で良いとか申すし、長時間付き合わせるのに重い着物ではまた倒れるやもしれぬし。」

倒れたのは、石の不具合があった時だけなんだけど。

維月は思ったが、黙っていた。

蒼が、言った。

「月の宮なんですからそんなに畏まらなくても良いと思いますよ。じゃあ、妃の皆はこちらの畳に集まって、王達は中央の広い畳で。画面の目の前になるので、やりやすいでしょう。」

皆、言われた通りに動く。

維心、炎嘉、焔、箔炎、駿、志心、高彰、英、翠明は真ん中の畳に移って画面の方を向いて座り、妃達はテーブルのこちら側の畳、王達の後ろに当たる位置に並んで座った。

ちなみに本日来ている妃は、自分の里なので維月、そして綾、椿の三人で、英は妃を連れては来ていなかった。

自分が妃に構っていられる暇がないと判断したようだった。

蒼が、最後に王達の右側、テーブルを挟んだ位置に座り、コントローラーを操作した。

「迅と涼夏がスタート画面にしてくれてる。」と、セーブデータを探した。「最初のセーブの所で良いですか?最初の村を旅立った直後ですけど。」

炎嘉が、そこに転がしてあるコントローラーを皆に配りながら頷いた。

「良いぞ。と言うか9人か。そっちの妃達にも配っておくか?戦闘を早く終わらせるためには、戦う人数が多い方が良いだろう。」

蒼は、手を止めた。

「…というか、最初からやります?面倒でも、二週目からは持ち物もレベルも引き継いで始めからできますけど。セーブデータを使うと、またレベル上げから始めなければならないし逆に面倒かも。」

志心が、目を丸くした。

「そんな便利な機能が?」

蒼は、頷いた。

「エンディングに納得いかないのは人も同じですからね。納得してたとしても、全部の起こりうるエンディングを見尽くしたいと、何度もやる強者もいます。だから、二回目からは引き継ぐか引き継がないか決められるんです。どうします?」

維心は、言った。

「攻略よりも良いエンディングを見たいという気持ちで集まっておるから。全部引き継いで始めた方が良いだろう。最後のレベルなら、最初の街道で出て来た魔物など一瞬だろうし。」

炎嘉も、頷いた。

「そうしよう。今回は途中で頼まれる手紙なども配りに行かねばならぬし、その辺の魔物にかまけておる暇などない。そう設定してくれぬか。」

蒼は、頷いた。

「じゃあ、始めからにしますね。」と、セーブデータの画面を戻した。「…全部引き継ぎで…コントローラーを持ってる方は起動させて触れてください。」

皆、もう慣れたようにコントローラーを操作した。

画面に、各コントローラーを認識しましたと表示が出る。

「はい、ではキャラとコントローラーを連動させますから、オレが言うキャラの方は順に承認していってくださいね。では、アランのかたー。」

炎嘉が、承認した。

「はい、エリクシルのかたー。」

維心が承認する。

そうやって6人とコントローラーを連動させてから、やっとスタートボタンが出た。

「では、始めます。」

スタートボタンが押された。

壮大な音楽と共にオープニングムービーが流れて、そうしてはじまりの村編が始まったのだった。


楽な着物で脇息にもたれ掛かって、まるで部屋で女神だけで集まって話しているかのように、維月、綾、椿は並んで画面と王達の背を眺めて、茶を飲みながらゲームの成り行きを見守った。

王達は、必死にコントローラーを握って頑張っているが、こちらは見ているだけなので、余裕もある。

三人は、小声で話しながら気楽にしていた。

「…月の宮は時計というものがあるので分かりやすいですわね。」綾が、言った。「ほら、このような時間まで、友と過ごしたのなど初めてですわ。何やら旅行にでも来たような。」

見ると、時計は午前0時に近くなっていた。

維月は、頷いた。

「誠に。恐らくこのまま進んで参るのですわね。目を離したら見られなさそうですけれど、お休みにならずで大丈夫ですか。蒼が、先ほどゲーム機が置いてあるのと反対側の隣りの部屋に、我らのために布団を敷かせておいたと申しておったので、控えまで帰らずともあちらで休めますけれど。」

椿が、眠そうにした。

「まあ。我はでは、お隣りへ参ろうかしら。眠気が来てたまりませんわ。」

綾が、うーんと画面を見て、言った。

「…そうですわね。筋は知っておるので、どうなるのか気になるということはありませぬし。ですが、維月様も共にそちらで休まれるのですか?それではあまりにも…。」

何しろ、維月は龍王妃なので、同じ部屋で居ることすら本来敷居が高いのだ。

それを、共に休むなど、あり得ないほど大変なことだった。

だが、維月は笑った。

「まあ。それは知らぬ女神とはそんな事は致しませぬけれど、お二人とは友ですのに。それに、月の宮は他とは違うので、我の里であるのでそんなご遠慮はいらないのですよ。お気を遣われるのなら控えに戻っても良いのですけれど…。」

綾は、慌てて首を振った。

「そのような!維月様と共に休めるなんて、目が覚めてもお隣りに居られると言うことでしょう?夢のような事ですわ。参りましょう、こんな機会はありませぬもの。」

維月は、苦笑した。

だが、女子とお泊りなんて、何百年ぶりだろう。

維月もワクワクして、維心の背にお隣りの部屋で休んでいます、と声を掛け、維心がそれどころではなく頷いたのを見てから、綾と椿と一緒に、隣りの部屋へと移って行ったのだった。


廊下へと出ると、侍女が寄って来て頭を下げた。

「維月様。お隣りへご移動になりますか。」

維月は、頷いた。

「ええ。蒼から褥を準備してあると聞いておるのですけれど。」

その侍女は、頷いた。

「はい。どうぞ、こちらへ。」

扉が開かれて中を見ると、そこも広い畳の間で、その真ん中に几帳が立ち並ぶ場所があった。

薄暗くなっていて、休めるようにと準備してあるようだった。

侍女に先導されるまま、その几帳の中へと入ると、きちんと三つ、布団が並んで敷いてあって、それはシングルではなく、ダブルぐらいの大きさがあった。

寝台で寝ることが多かった維月は、それだけで何やら懐かしく、嬉しい気持ちになった。

侍女が、言った。

「こちらに衣桁をご準備させて頂いておりますが、お着替えをお手伝い致しましょうか。」

維月は、首を振った。

「いいえ、己で出来ますからよろしいわ。また用があれば呼びますので。戻って良いわよ。」

侍女は、少しホッとしたような顔をすると、頭を下げた。

「はい、維月様。では、失礼致します。」

そうして、侍女は出て行った。

綾が、嬉しそうに言った。

「この褥で休むのですね。畳の間ならそのような事もあるのでしょうが、我ら寝台ばかりで。何やら人のようで嬉しいですわ。珍しいこと。」

維月は、微笑んだ。

「はい。では、袿を脱ぐのをお手伝い致しましょうか?侍女を返してしまいましたし、我はいつも一人でもできるので…。」

綾は、とんでもないと急いで腰の細い帯を己で引っ張った。

「大丈夫ですわ!一人でお風呂に入るようになってから、着替えるのが速くなりましたのよ。」

椿も、サッと袿を脱ぐと、衣桁へと掛けた。

「我も。己でやる方が速いような気がして参って。このような部屋着であれば、さっさと着替えられるので楽ですわ。維月様、お手伝い致します。」

とはいえ、維月もさっさと袿を脱いだところだったので、椿は下に落ちた袿をサッと拾い上げて、それを衣桁へと掛けてくれた。

綾は、出遅れたと素早く袿を脱いで、気を使って着物を衣桁へとふわりと移動させ、綺麗に着物を掛ける。

その慣れた様に、やはり自分でやっているのだろうと透けて見えた。

維月は、自分が布団を選ばないと二人は横になれないと、窓際の端の方の布団を見たが、よく考えたらこの場合、上座に当たるのは真ん中かと一瞬悩んだ。

すると、綾が気を遣って言った。

「維月様、どうぞ中央の褥をお使いくださいませ。我らは両脇を守って休みます。」

夫の序列から言えば、維月、椿、綾という順になる。

綾は、自ら入り口側の褥へと進んで、上布団を避けて座った。

すると、椿は窓側の褥の方へと行き、維月も急いで真ん中の褥の上布団を避けて、そこへと横になった。

ふわりとしていて、蒼はこの下に低反発マットを敷いてくれているなあ、と維月は思った。

「…心地良過ぎてもう、眠ってしまいますわ。」椿は、言った。「申し訳ありませぬ。もう限界で…先に休ませて頂きます。」

維月が答えようとそちらを見たが、椿は既にスースーと寝息を立てていた。

本当に、眠かったのだろう。

維月が苦笑して綾の方を見ると、綾は同じように横になって、こちらを見て微笑んでいた。

「まあ。まるで子供の頃のようですわ。友とこうして休めるなんて、なんて嬉しいこと。」

綾がとても嬉しそうなので、維月も言った。

「我も。いつもは王がお隣りに居るので、こうして友と共に休めるなんて思いもしませんでしたわ。綾様とは、親友だと思うておりますから…とても嬉しいですわ。ねえ綾様、明日は台番所で菓子を共に作ってみませんこと?己で作るのもまた楽しいのですわ。ここは我の里ですから、大抵の事は許してもらえますの。」

綾は、目を輝かせた。

「まあ!是非に、維月様。お正月より、此度の方が楽しいですわね。こうなって来ると、妃は妃で集まって、王は王で集まってお遊びになられた方が、我らも気楽に楽しめると思いますのに。共に居ても、王が間にいらっしゃるから気軽にお話もできぬでしょう。そうは思いませぬか?」

言われて、維月も確かにそう、と思った。

「…誠に。一度王にお話ししてみようかしら…でも、ゲームをしていらっしゃる時はよろしいですけれど、他の時は我がお側を離れると、我が王は大変に難しいお顔をなさるから…翠明様のように理解のある殿方ならよろしいのですけど。」

綾は、ため息をついた。

「確かにそうかもしれませぬわ。龍王様は、維月様をそれは愛しておられますもの。ならば無理かしら…お正月だけでも、気楽お会いしてこうして女同士、楽しくできたらと思いましたのに。」

維月も同じように思うので、少しでもどうにかできないか、一度維心に言ってみよう、と思いながら、綾と共に眠りについたのだった。

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