三日目の
維月が目を覚ましてふと横を見ると、維心が居なかった。
…もしかして帰って来られていないのでは。
窓の方を見ると、もう日が高くなって来ている。
月の宮の時計では、午前7時半を回っていた。
維月は急いで起き上がると顔を洗って、侍女達に手伝ってもらって軽く客を対応する時の着物を着付け、髪を結ってもらって準備を進めた。
何しろ皆が揃うので、あれこれ飾りが多くて時間が掛かって仕方がない。
維月はあれもこれもと、まるで鎧を身に着けている心地になった。
そんな支度が終わり、やっとのことで応接間へと向かうと、そこではやはり、まだ維心、炎嘉、箔炎、駿、志心がメインキャラを動かしていて、英と高彰、樹伊、蒼が補佐に回っていた。
こちらのテーブルの所ではなく、全員が前の畳の方へと移っていてそこで座っていて、脇息などを持ち込んでそれにもたれたりしながらやっているのだが、焔はその畳に上で転がってしまっていて、代わりに焔のキャラは高彰が動かしていた。
維月は、頭を下げた。
「おはようございます、維心様。一晩中励まれて?」
維心は、こちらを見た。
「おお、維月よ。まあ、酒も飲んでおらぬし特に眠気は来ぬでな。もう今から最終ぞ。やっと剣を引き抜くことになったのだ。」
炎嘉は、転がっている焔をツンツンと引っ張った。
「こら焔!寝ておる場合ではない、このために何時間も励んでおったのに!剣を抜くぞ?!もう準備はできたのだ!」
志心が、フンと呆れたように鼻を鳴らした。
「起きぬよ。昨夜だって寝入った後、何度起こそうとしたのだ。お蔭で半分は高彰がやったのだぞ、こやつのキャラ。」
そこへ、翠明と共に綾がやって来た。
綾は、画面を見てあ、と声を上げた。
「まあ!良い時に参ったのではありませんこと?あれを抜くのでは?」
志心が、頷いた。
「そうなのよ。焔が夜半から寝てしもうて起こそうとしておるのに駄目なのだ。もうこのまま行くか。」
翠明が、苦笑した。
「誠に肝心なところで寝ておるのだな、焔は。して、あの焼き討ちした将軍とやらは?」
それには、維心が答えた。
「つい今しがた倒したところよ。あれを倒さねば、剣を引き抜いても横取りしようとして参る。ゆえ、面倒だし先に殺しておこうということになって。」
蒼が、頷いた。
「実は一度、やってるんだよね。強行突破して剣を引き抜いたんだけど、そしたら回りの兵士達がワッと出て来て一斉に囲まれて。強制的にエンドって感じ。だから、先に倒しておこうという事になって、今やっと多くの兵士を倒したところなんだ。だから、やっと引き抜けるんだよ。」
綾は、スッとした顔をした。
「ああ!あの男さえ倒してくださったのなら我は胸がすきましたわ。誠に、罪もない人々をあのような目にあわしおってからに。許せませぬから。」
段々に思い出して来たのは、綾の目が薄っすらと光る。
翠明は、慌てて言った。
「こら、怒るでないというに。だからこれは人が書いた物語よ。作り話なのだから、落ち着くのだ。」
しかし、炎嘉が神妙な顔をしながら翠明を見た
「だがの、侮っておったが面白いのだ。」翠明が驚いた顔をすると、炎嘉は続けた。「もう終わりか、もう終わりかと何度も思うたが、まだ先がある。いろいろな通過点があって、それも意味があったのだと後で出て参る。そうして、その全てを回収してやっと今があるのだ。なかなかに、面白いものぞ。」
蒼が、頷いた。
「それでもサブイベントは飛ばして来てますからね。実際はもっと、キャラ一人一人の物語が脇道にあって、丁寧にクリアするとかなりの長さになります。皆様は一直線に剣を抜くことに邁進されたのでこの速さでしたが。」
英が、蒼を見た。
「そうなのか。まだこの、我らが動かしている人それぞれの物語が残っておると。」
蒼は、まずいことを言ったかな、と思ったが、頷いた。
「そうなんだ。一冊の本としてなら物足りないだろう?それぞれの生き様とか、家庭事情とか、そんなものが脇道に反れたら見られたと思うよ。」
志心が、言った。
「ならばセーブデータがあるゆえ、そこへ戻ってまた脇道だけ回収して行けばどうか?サブイベントがみられるのではないか?」
それはそうだが、またかなりの時間を食うだろうし、恐らく一日では終わらない。
蒼も維月も思ったが、維心が言った。
「とにかく今を終わらせようぞ。これは一人では抜いてはならぬのだ。さあ全員で。」
6人が、剣へと手を伸ばす。
そうして、剣は引き抜かれた。
アニメーションが始まった。
長い旅を終えて、剣が引き抜かれたその瞬間、その剣からパアッと大きな力が空へと向かって一直線にうち上がり、そうして空を覆った。
「…結界ぞ。」
炎嘉が、ポツリと言う。
感動的な音楽が壮大に流れ始めて、焔がハッと目を開いた。
「…敵は?!剣はどうした?!」
志心が、シーッと人のように指を立てた。
「今抜いたところよ。」
焔は、画面を見た。
剣力があちこちこれまで旅をしてきた全ての村や町に降り注ぎ光り輝いている。
あの、反政府組織のリーダーや、焼き払われた村の牧師などが各地で空を見上げてそれを見守っているのが描写され、戦火に焼かれた土地から、草の芽が伸び始める。
「…土地を復興させる時に我らが放つ気に似ておるの。」
維心がそれを眺めながら言う。
炎嘉は、頷いた。
「これ程広範囲に一度には無理であるがな。主ならできるのやもしれぬが。」
そうやって皆がその光の中で幸福そうにしている映像が流れ、旅立った村の学校の校舎では、剣のことを教えてくれた教師が微笑んで空を見上げ、そうしてスーッと姿を変えると、神のような様子になり、翼を広げて空へと舞い上がるのが見えた。
「あやつ!」焔が言った。「神だったのか!」
維心が、むっつりと言った。
「人を促して平和を作るために行動させるために、わざわざ人のなりで降りておったということか。まだ、生まれて十数年の子供に、何をさせるのだあやつは。」
とはいえ神とはそんなもの。
短い時間しか生きられない人を動かすには、幼い頃に始めるのが一番だ。
そうしないと時間が足りないからだ。
それに、人は育つといろいろなものに染まって素直にこちらの話を聞かない。
幼い子供の方が、言う通りに動くのは確かなのだ。
エンドロールが流れ始める。
これがどうやら第一エンディングらしいが、他のエンディングがどうなっているのか分からなかった。
高彰が、言った。
「…つい夢中になってしもうたが、他の道を行ってもこの結果にたどり着けたのかの。選択肢には、いろいろあった。反政府組織と結託しない選択肢もあったし、バーントを殺さない選択肢もあった。そうしたら、どうなっていたのか。」
炎嘉は、頷いた。
「誠に。我らはとにかく戦を早く終わらせようと、逆らう者は皆排除しながら真っ直ぐ来たが、蒼が言うように脇道もあった。バーントの実家らしい表示もあったろう。あそこへ行っていたら、また違った心地だったのだろうか。」
「あの朽ちた小屋か?」焔が首を傾げて言った。「何年も使っていないようだと書いてあったが、中を調べたら何か変わっていたのかの。」
蒼は、頷いた。
「恐らくは。エンディングは一つじゃないらしいので、もっと誰も死なない未来があったのかもしれませんね。」と、コントローラーに触れて、画面を操作した。すると、エンドロールとは別の画面が分割されて出て来て、そこに公式のお知らせの項目が出た。「…ええっと、本当のエンディングっていうのが他にありますね。その他、皆殺しエンディングとか、いろいろいろあるんですけど、公式が完全コンプリートだと認めているのは全キャラサブイベントを制覇した後に、バーントを殺さず、敵国の王も殺さない選択をして和解の後に剣を引き抜くってエンディングみたいです。公式から小説本が出てますけど、買います?ここに居る間に全部やるのは無理でしょうし。」
英が、食いぎみに言った。
「そんなものがあるのなら我にも一冊。気になって仕方がないのだ。皆、何やら裏があるような物言いだったのに、結局何もわからないまま終わってしもうて。」
蒼は、頷いた。
「臣下に買いに行かせますね。後で皆様の宮に一冊ずつ送りますから。」
焔が、物欲しそうな顔をした。
「これが真実の終わりでないと聞くと、何やら複雑よな。できたら一つずつ見たいが、確かに時間がない。」
翠明が、言った。
「まだ香を利いておらぬではないか?本日は最終日ぞ、おっとり過ごそう。主ら、風呂にでも行って参ったらどうか?昨夜はこれに掛かりきりで疲れたであろう。」
言われて、炎嘉は頷いてコントローラーを置いた。
「そうよ。次は正月を5日ぐらいにして初日から励もうぞ。今年はこれまで。後は書を見て内容を知ろう。さ、風呂よ風呂。参ろう。」
そうして、何とか神達のRPGは終わった。
蒼は、来年旭の別宮にこれを持って行くのかと手間を考えて気が遠くなったが、黙って6人を見送ったのだった。




