物語
そのまま、露天風呂へ行くのも忘れて、主要キャラを受け持っている王達は、ずっとそのRPGをプレイしていた。
その間、妃達は一時離れて露天風呂へと行き、それと入れ替わりに、数人ずつ分かれて他の王達も風呂へと向かったが、主要キャラを受け持っている者達は、それを他の誰かと代わるという選択肢もあるのにそれもせず、ただ黙々とその、自分のキャラの旅を続けていたのだ。
一度、苦労して山脈の向こうへとたどり着いたのだが、敵国の王があの剣を手にしたいと思っているようで、神殿を取り囲んでいて、中へと入ることができなかった。
最初、焔は強行突破しようと騒いだが、維心と炎嘉が真正面から行って、剣を解放するのに時がかかっては全滅すると言って、それには同意しなかった。
総勢14人が座っているが、妃も入れたら21人が居る。
コントローラーは14個準備してあって、基本王が使っているが、王によっては妃に代わって妃が戦闘に加わったりもするので、相変わらず戦闘場面では14人が敵を袋叩きにしてしまうので負ける事は無い。
その14人の内、主要キャラと言われているのは6人だ。
それを、維心、炎嘉、焔、箔炎、駿、志心が担っていた。
つまり、他の8人はモブキャラなので、誰が戦ってもいいわけで、それで皆、間を縫って風呂へと向かって入って来ることができたのだ。
もちろん、主要キャラだって妃に代わるなり、他の誰かに換わるなりしたら、その間はその神が進めておいてくれるのだが、この6人が、どうあっても全て自分のキャラは見届けるのだと聞かずに、こうなっていたのだ。
気が付けば、時間はもう、11時に近くなって来ていた。
…そろそろ、迅と涼夏は帰しておくかな。
蒼は、神世にしてはかなり遅い時間になってしまっているので、夜番で交代に来ていた侍女の千代に言って、二人にもう帰っていい、と伝えさせたのだった。
王達が必死なので、蒼が言った。
「そろそろ、眠い方々も居るとか思いますが、一旦終わりにして部屋へ帰りますか。」
だが、炎嘉が目を血走らせた状態で振り返った。
「先が気になって眠っておられぬわ。眠い者は帰って良いから。我らが進めておくゆえ。また筋は教えてやろうぞ。」
焔も、ウンウンと頷いた。
「我は行くぞ。これから敵国の王城へ潜もうと思うておる時に、何を言うておるのだ主は。」
蒼は、確かに徹夜で進めたくなるゲームだもんなあと仕方なく皆を見た。
「ほら、みんなもし眠かったら戻っていいから。勝手に進めてくれるみたいだし。」
覚や英、加栄は立ち上がりづらそうだったが、それに翠明が立ち上がった。
「どら、もう戻るか。主らも寝ておくと良いぞ。明日になってもまだ終わっておらなんだら、また戦闘に加勢せねばならぬからの。もう寝ておこう。」
三人は立ち上がったが、英が言った。
「その…我は、筋が気になりますので。」と、皆が驚いた顔をしたが、英は続けた。「どうも、我はこういう物語などが好きで、書などもよく読むもので。一度読み出したら止まらぬのです。最後まで見ておきたいと思うてしもうて。なので、皆は先に戻っておいて欲しい。佐江も、先に戻って寝ておれ。キリの良いところで戻るゆえ。」
言われた佐江は、頭を下げた。
「はい、王。」
焔が、言った。
「主は話が分かるヤツよなあ。だったらこちらへ来い。正面になって画面が見えやすいぞ。」
英は、頷いて立ち上がった。
「では、我はそちらへ。」
英達の位置からは背後に近くなるので、見ようと思うと後ろ向きに座る必要があるのだ。
維月は、言った。
「では、王よ。我も戻ってよろしいですか?」と、綾を見た。「綾様はいかがなさいますか?」
綾は、頷いた。
「我も。先が気になりますけれど、眠気には勝てませぬ。神殿にたどり着いて終わりだと思うたら、あの敵国のサベージとか申す将軍め。あれがあの村を焼き討ちしたのを、我はこの目で見ましたわ。許しませぬから。早う敵の王城を崩して、胡坐をかいておるあの将軍の首を取って頂きたいものですわ。」
結構過激な発言が出ている。
翠明が、綾を咎めた。
「こら、気持ちは分かるが興奮するでない。人が作った話であるぞ?ささ、戻ろう。また明日になったら結構進んでくれておるから、先が見られるわ。」
維心が、維月を見た。
「戻っておるが良い。我も、キリの良いところまでやったら戻るわ。だが、これから敵国へ参るし、ここで寝るのもと思うての。」
維月は、内心苦笑した。
内容は知らないが、今が多分、一番キリが良いところなのではないだろうか。
だが、それを言わずに頷いた。
「はい。では、御前失礼致します。」
そうして、残ったのは維心、炎嘉、焔、箔炎、駿、志心の6人と、英、高彰、樹伊、蒼の4人の10人で、いざ敵国へと、画面の中のキャラ達は旅立って行ったのだった。
蒼が少し抜けて侍女達の様子を見るために応接間を出ると、隣りから迅が一人で出て来た。
その顔は疲れ切っていて、やはり悩んでいたのかと蒼は足を止める。
迅は、蒼に気付いて頭を下げた。
「蒼様。」
蒼は、頷いた。
「涼夏は?一緒に居たのでは。」
迅は、首を振った。
「勝手な事かと思いながら、夕刻になってから母上がこちらを退出する際に、共に連れ帰ってもらいました。長引くだろうと思いましたので。」
蒼は、また頷いた。
「そうか、それで良かった。それで、結論は出たのだな?」
迅は、頷いたがまだ迷っているような顔をする。
蒼は、さらに言った。
「…やはり二人共否と?」
迅はそれには首を振った。
「いえ…結論は出ました。昌士と二人であちらへ帰ろうと。何より昌士を一人にするわけにはいかないので、我は戻らねば。」と、視線を落とした。「そう、決めたのですが…。」
何やら、歯切れが悪い。
蒼は、今迅が出て来たばかりの隣りの応接間へと迅を促した。
「先に話を聞いておこう。こちらへ。」
迅は頷いて、そうして二人で、隣りの応接間へと入った。
そこでは、隣りの画面をそのまま映したモニターが、誰も居ない中で動いていた。
蒼は、迅を適当なソファに誘導し、自分もその前に座った。
「…迷っているのだな?やはり嫌なのだろう。」
迅は、頷いた。
「はい。ですが臣下のこともあるので、放置はできません。昌士は宮の事を何も知らないし、一人では苦労することが目に見えている。なので、一人で帰す事はできません。だから、行くと決心したのですよ。そのはずなのに…涼夏が、反対していて。碧黎様は我らがここに居るべきだと仰った。それなのに行くのかと。涼夏を、置いて…。」
迅は、苦し気な顔をした。
蒼は、身を乗り出した。
「主ら、もしかして恋仲か?」
迅は、驚いた顔をしたが、首を振った。
「いえ、そのような。お互いに確かに親しみはあるのです。同じ記憶を持っておりますし。ですが、そんな感じではない。今生はここへ来るまでそれほど話す事もない仲で。兄の涼輝とは仲良くしておりましたが。」
そうだろうな、と、蒼は頷いた。
二人の間の空気は、同志といった感じで恋仲という感じではない。
だが、僅かな間に空気が変わった気がするのだ。
「…だが、昨日まではそれほど感じなかったが、主らの空気が変わった気がする。主が涼夏の事を話す時の空気が、少し違う。恋仲とは違うが…何やら長年連れ添った夫婦のような。」
そう、激情は感じないが、そこに家族のような親しみを感じるのだ。
とにかく特別であるのは間違いない。
迅は、驚いた顔をしたが、頷いた。
「…そうでしょうな。というのも…我が帰ると申したら、涼夏は酷く泣いたので、慰めようと思わず抱き締めてしまったのですよ。でも、恋愛感情のような感じではなくて、何やら…長年一緒に居たような。家族のような感情です。お互いに婚姻など考えておりませぬが、離れるのがまるで今生の別れのような心地になるです。わけがわからないのですが。」
蒼は、顔をしかめた。
それは、何か意味がある。
命の記憶があるのだと、天媛は教えてくれた。恐らくそれが、何らかの事態を気取って警告しているのだろう。
そうでなければ、考えられないからだ。
「…もしかしたら、思い出せない黄泉での記憶が主を留めているのやも。つまり、涼夏も同じ記憶が命にあって、そんな風になっているのではと思われる。オレにもわからないが…確かに碧黎様は、ここに居た方が良いと仰ったんだ。碧黎様も何かを気取っていらっしゃるのかもしれない。もしくは、流れを見ていて何か見えた事があるのかも。」
迅は、涙を浮かべた。
「それでも、碧黎様は教えてはくださいませんでしょう。我は、何かの意思の元に、行ってはならない方向へと流されておるのでしょうか。それを避けてこちらへ来たのに、結局弟が生まれなかったりと、そちらへそちらへと誘導されておるのでしょうか。涼夏にはそう感じられるようで、ここを出たらもう会えない、と。何しろ、あれを連れて戻ることもできません。罪人の子として追われたあれは、恐らくこのままこちらから出ることは一生叶わないでしょう。娶りたいと思うわけでもないのに、それが何よりつらいような気がして、ただ戸惑っておるのでございます。」
蒼は、多分教えてはくれないだろうが碧黎に聞いてみるよりない、と思った。
そして、ずっと隠していたが、維心達にも迅と涼夏の記憶の事を話して、これから起こるかもしれない何かに、対応できるようにしておく方が良いのでは。
モニターでは、維心達が動かしているキャラが敵のモンスターと戦っている。
蒼は、とにかく碧黎に一度聞いてみようと、迅はそれで屋敷へ一度、帰したのだった。




