遊び
蒼は、数あるゲームの中から、対戦式のものを選んだのを後悔していた。
グループに分かれてフィールドに降り立ち、そこに散らばる武器を拾い集めて装備して、撃ち合う形の戦闘ゲームだ。
さすが神だけあって、最新式の全面タッチ型のコントローラーをすぐに使いこなして、お互いガンガンと撃ち合うのだが、白熱してしまう。
思えば、戦い関係には闘神なのだから熱くなるのは分かっていたのだ。
ちなみに翠明は闘神ではないので、つい勢いに負けて殺られてしまうので、ではと綾がやり始めたら、これがまた強い。
綾の鷲の血が、恐らく勝負勘というのを持っているからなのだろうが、焔でもたじたじだった。
「…くそ!また綾か!」焔が叫んだ。「何故に主はそんな所に居るのだ、いつもいつもわけの分からぬ場所に潜みおって!」
大きな画面は十二分割されているのだが、焔の場所は死亡、と表示されていた。
綾は、ホッホと笑った。
「まあ焔様はご油断なさいますこと。そんなことでは…、」
綾がそこまで言った時、綾の画面も死亡、と表示された。
「え?」
「甘い。」維心が、ニッと笑った。「油断するからぞ。焔の仇をとってやったわ。」
綾が、悔しそうな顔をする。
焔が、パアッと明るい顔をした。
「やったぞ、維心!主は味方にすると心強いの!行け!最後まで行ってしまえ!」
広い広いフィールドの、真ん中に位置するフラッグまで行き着けるのはたった一チームだけだ。
その回りでフラッグを巡って撃ち合うので、最後はもう、修羅場だった。
「維心、背は任せよ!」
炎嘉が叫ぶ。
維心は頷いた。
「頼んだぞ。こやつが厄介なのだ!」
そこに残っていたのは、志心だった。
もう、十二分割の画面で残っているのは三つだけ、つまり維心と炎嘉と志心だけだった。
「主らの好きにはさせぬ!」
志心が、果敢に地面を転がりながら、右に左に撃ち込んで来る。
それを、炎嘉と維心は背中合わせでフラッグを挟み、何とか撃ち倒そうとしていた。
気が付くと、ブワッと三人から何かが沸き上がった。
蒼は、仰天した。
闘気が上がり始めたのだ。
「ちょっと!ダメですって、こんな所でそんなもの出しちゃ!」
「キャー!」
妃の何人かが、悲鳴を上げる。
回りの食器やら、さっき見ていたメンコやらが気に煽られて宙を舞い、大変な様になって来た。
蒼は、咄嗟に三人を月の結界で包んだが、何しろ急だったのでまだ漏れてくる。
それでも三人は、闘気を収める様子もなく画面に目を凝らして必死に攻防を繰り返していた。
炎嘉が、志心の前に躍り出た。
「終わりぞ!」
志心が、光る目で画面に向かって睨みを聞かせて叫んだ。
「甘いわ!」
だが、炎嘉が言った。
「維心!」
炎嘉が、その場に崩れて『死亡』表示になる。
だが、維心がまさにその時に志心の真後ろに回り込み、志心がハッと気付いた時には、維心は至近距離で志心に留目を刺した。
「終わりぞ!」
志心が、『死亡』表示になった。
全部の画面に、勝利と敗北の文字が6つずつ表示され、維心のチームが勝利したと知らされる。
箔炎が、叫んだ。
「もう一勝負ぞ!もう一勝負!炎嘉と維心が組になって勝てるはずがあるまいが!もう一回チーム分けを変えてやろう!このままでは気が済まぬ!」
焔が、自分が戦って勝ち残ったわけでもないのに、フフンと上から見て言った。
「良いぞ?そっちの三人も、次は参加させたいしの。」
英、加栄、覚が神妙な顔で下を向く。
闘気は収まっているが、最後に大きな気の三人が、そんなものを撒き散らして必死になっていたのを見た直後なので、参加したいとは思わないらしい。
蒼が、パンパンと手を叩いた。
「ちょっと、片付けをしなきゃならないんで!闘気は無しですよ、回りが大変な事になるんですから!咄嗟にオレが三人を包みましたけど、それでも影響は完全に抑えられてなかったんですからね!落ち着いてください。」
侍女や侍従がわらわらと入って来て、辺りに飛び散った破片やらなんやらと必死に片付けている。
炎嘉が、ため息をついた。
「すまぬな、つい意地になってしもうて。無意識に出ておるから、どうしようもないのよ。何しろ志心は強敵であるから、我らが必死にならねば倒されると思うた。結局、我が身を捨てねば留目を刺せなんだであろう?」
維心は、頷いた。
「誠に、実践でもそうであったが、こやつは誠にすばしこいのだ。炎嘉と我で手こずるなどあり得ぬ事態ぞ。まあ、たった一人で立ち向かって来た気概は認めてやろうぞ。」
志心は、フンと鼻を鳴らした。
「一対一なら勝てたわ。こちらに手駒が残っておらなんだのが敗因よ。次は負けぬ。」
今のところ誰も傷ついては居ないが、この様子だと闘気のせいであちこちで被害が出そうな感じだった。
蒼は、言った。
「片付けたら、別のゲームも一度やってみましょうよ。その後で、またやりたかったら戻って来たらいいと思いますよ。次は、同じ戦うのでも共通の敵と戦うやつがあるので、それをやりましょう!」
蒼は、同じ戦うでもRPGでNPCと戦う方がよっぽどマシだとそう言った。
炎嘉は、残念そうな顔をしたが、頷いた。
「そうであるな。いろいろゲームというものにも種類があるようだし、これだけというのもの。主に任せる。」
知らない世界の事なので、神達は案外従順にこちらの話を聞いてくれる。
蒼は、ホッとしながら次のゲームを起動するために、コントローラーを操作し始めたのだった。
RPGは、上手く行った。
何人かの主要プレイヤーを数人の王が受け持ち、その他は戦闘の時だけ参加できるという、戦うのを楽してストーリーを進めたい人向け、と製作者側が勧めた方式で、ゲームは進んでいた。
最初は明るいお話で進んで行くし、敵が出て来てもみんなで袋叩きにするのであっさり倒せるしで、楽勝で進めていた一同だったが、段々に問題が出て来た。
そう、大国同士の戦だ。
自分達の立場は、そのうちの一つの国の一般人で学生で、旅を始めたのは授業で聞いた、山脈の向こうにあるという、大きな神殿に眠る伝説の剣とやらを取りに向かうためだった。
それを手にしたものは、平和な世を治めることができるというものだった。
そんな大層なものなのに、誰もまだ手に出来ていないのは、その剣が持ち去る相手を選ぶからだという事だった。
意に沿わぬ相手が持ち去ろうとすると、その相手はその剣に刺されて死ぬという、大変にハイリスクハイリターンな代物で、最初皆の間では、そんなものを取りに行くよりさっさと王城にでも行って王を倒して自分がこの国を治めたら良いのでは、などという恐ろしい意見まで出た。
だが、落ち着いた翠明が、言った。
「こら。物事には順序があるし、人が作る物語には筋というものがあるのよ。現実にこうしようではなく、筋がそうなっておるのだからその剣を何も考えずに取りに向かうのが順当な道ぞ。逆らわずに参ろうぞ。」
そんな翠明の意見により、皆でその剣を取りに行くことになり、旅をしているわけだ。
そもそも、それが伝説なのか本物なのかも、誰にも分かっていないという代物なのだ。
学生の興味で行くわけなので、あっても無くてもどっちでもいい感じだった。
メインキャラの他に、NPC達も数人合流し始めて楽しく旅をしていると、戦火がその近くまで迫っているのを知った。
次の村へと歩き出したその時、パッと画面が変わる。
さっきまで世話になって笑い合っていた村人達が、成す術もなく大型の魔物を使役した、敵国の兵士にどんどんと殺されて、村は焼き討ちされて行くアニメーションが流れる。
その後、急いでその村に戻った一向は、前日に世話になった村の惨状を目の当たりにすることになった。
炎嘉が、叫んだ。
「あ、酒場のジャックが!」と、倒れて動かないジャックに歩み寄った。「なんという事だ…罪もない民を皆殺しにしおってからに!」
同じような事を、炎嘉のキャラが言っているのが吹き出しの中に文字で表示されている。
何しろ、このジャックと楽しく話して飲んだというエピソードは、このために挿しはさまれているものであるのだろうと思われた。
炎嘉は、まんまと製作者の意図に乗せられているわけだ。
志心が、深刻な顔をした。
「…どうする?全部見て回るか。しかし、生き残っておるものは居ないようぞ。」
確かに見渡す限りの焼け野原で、瓦礫がまだくすぶっているのが見えるぐらいで、動くものは何もない。
維心が、言った。
「…今の我らにできることは何もない。あの時こちらにもう一泊していれば、今少し被害を押さえる事ができたやもしれぬが、こうなったからにはどうしようもない。我らは先に進むしかあるまい。誠にあるのかも分からぬ、剣とやらを手にするしか無いのだろう。」
焔が、コントローラーを振り回して言った。
「我らが居ったらあんな魔物などすぐに片付けてやったのに!敵国の奴らに腸が煮えくり返る心地ぞ!」
振り回されたコントローラーがそれを感知して、画面上の焔のキャラが右往左往していて滑稽だったが、笑える雰囲気ではない。
仕方なく、瓦礫の中から幾つかアイテムを回収し、皆は当初の予定通り次の村へと向かった。
「…王。」蒼が、振り返ると、美津が小声で続けた。「あの、迅殿と昌士殿が王にお目通りを、と。」
もう話が終わったのか。
蒼は、慌てて言った。
「ええっと、今はちょっと。明日じゃダメか?聞いてみてくれ。」
暗く沈んだ雰囲気なので、皆が頭を切り換えて現実に戻って来れるか疑問だ。
美津は、頷いた。
「分かりました。ではそのように。」
蒼は、確かに重大時なのだろうが、話し合う時の雰囲気も、大切だと思っていた。
どんな結論を出したにしろ、その希望を通したければ、皆の機嫌が良い時の方がいいに決まっている。
蒼は心配だったが、その方が良いだろうと美津を見送ったのだった。




