発見
維心達は、蒼が持って来させた使いさしのメンコを前に唸っていた。
蒼は、また何やら侍女が呼びに来て出て行って戻っていない。
焔が、メンコをガン見しながら言った。
「…こんなに擦りきれるものなのか。」と、皆に言った。「かなり強く叩き付けておるぞ。」
志心が、頷く。
「風圧で返すわけであるから、力も入るのだろうの。これでは、ここにあるものではひっくり返したとしても、割れたり傷がついたりで元の形は保っておるまい。そんなものを手にしても嬉しゅうないわな。」
翠明が、言った。
「では、番号でも振り分けておけばどうか?」皆が何の事だとそちらを見ると、翠明は言った。「その番号と、こちらの美しいメンコの番号を連動させておいて、同じ番号の物をひっくり返したらそれが手にできるという風にするのよ。そうしたら、こっちのメンコに傷つかずに済む。」
炎嘉が、手を打った。
「おお!主は賢いの、そうしよう!」と、蒼のメンコを持った。「これを番号をどこかに書かせて作るのだ。来年までに、そう準備しておこう。」
皆も、良い考えだとうんうんと頷く。
するとそこへ、義心が入って来て膝をついた。
皇子を探しに行ったのではなかったかと焔は顔をしかめた。
「何ぞ、何か忘れ物か?まさかもう見つけて来たとは言うまいの。」
維心が、手を振ってそれを黙らせた。
「義心、どうした。」
義心は、顔を上げた。
「は。皇子のマラートが見つかりました。只今蒼様と対面してお話を。」
全員が、仰天した顔をした。
「え、誠にもう?!」
いくらなんでも速すぎる。
皆が喜ぶよりもドン引きしていると、義心は説明した。
「実は、迅殿が戻って来るのに行き合い、その際月の宮の友の軍神と共に居ました。最初、迅殿の気にばかり意識が行って気付きませんでしたが、それはその軍神が同じ気を持っていたから。話を聞いていて、もしやと水を向けたらあっさり本神であると分かりました。蒼様は知らずにマラートの事も受け入れて、こちらで軍神としてお使いになっておったのです。まだ序列はそう高くないので、宮での任務にはついておらず、母親にも気付いていなかったようです。」
炎嘉は、そうかと肩で息をついた。
「碧黎は知っておったのだの。こうなって来て、初めてその皇子が必要だろうと母を探して、そこから情報を得て皇子を見つけさせようと思ったのだろう。誠に、そんなことがなければ、発覚したとしてももっと後になっておったであろうて。それで、月の宮の軍神の一人と申したな?我が知っておる顔か。」
義心は、首を振った。
「いえ、我も初めて見る軍神でありました。最近にはぐれの神からこちらへと迎え入れられ、そこそこの気を持っていたので軍神として仕えておった様子。聞いたところ、陸様の結界外の集落の出であって、陸様の軍神達とは顔見知りであるようでした。」
志心が、言った。
「陸は面倒を起こされてはと、あの辺りのはぐれの神に定期的に着物やらを配っておるそうな。なので、あの辺りははぐれの神でも落ち着いて暮らしておるのだ。では、子供でもそこへたどり着いて生き残っていたということか。」
義心は、頷く。
「は。恐らくそうではないかと。詳しい事を聞いたわけではありませんので分かりませんが、あの集落の出身であるならそうであろうと思いました。名前も、昌士と名乗っておるようで。マラートではありませんでしたが、己で考えたのでしょうか。」
志心は、首を傾げた。
「どうであろうの。とにかく、蒼が話を聞いておるのなら、そのうちに参ろう。思ったより近くに居って助かったの。」
維心が、それには頷いた。
「蒼が普段から良さげな神を拾って世話していたお蔭よな。陸も、知らずに己の子を世話しておった事になるの。財力があるからできたことぞ。誠に惜しいの…世話をさせるには最良であるはずなのに。」
炎嘉が、言った。
「分かっておる。何事も思うようには行かぬもの。これまでの型を変えようと言うのだから、それはいろいろ面倒も起こるわ。此度はその、昌士という皇子が素直に跡目になってくれたら良いが…そも、能力のほどはいかばかりか。そこも探るよりないのか。」
志心が、ため息をついた。
「それはこれから対面したら分かるであろう。とはいえ、蒼はそれをここへ連れて参るのかの。案じられる。」
言われてみれば、蒼の事だから気を遣うだろうと、一旦帰すかもしれない。
焔が、言った。
「また皆で集まってどうの面倒なのだから、できたら本日サクッと決めておきたいのに。連れて来いと申すか。」
それには、翠明が言った。
「元ははぐれの神でやっとここで任務についている神なのに、いきなり我らの前で跡を継げと迫られて逃げ出すのではないのか。蒼は正しい。あれが時を開けようというのなら、それで良いのではないか?まだ一年には猶予がある。しばし待ってやるのだ。無理に宮に放り込んでも上手くは行かぬぞ。」
翠明は、こういう神と神の関係にとても気を遣う。
思えば人を世話しているので、そういう気遣いが身に付いているのだろう。
焔は、仕方なく頷いた。
「…確かに、逃げられては困る。分かったわ、急かしはせぬ。」
そんな話をしていた折も折、蒼がそそくさと応接間に帰って来た。
皆が、待ってましたと蒼を振り返る。
蒼は、一斉に皆がこちらを見たので、一瞬止まって顔をしかめた。
「あの?義心から聞きましたか。」
維心が、頷いた。
「聞いた。もう発見できたのだそうだの。主が囲っておった中に居ったとか。」
蒼は、頷いて自分の席へと座った。
そして、侍従に行って茶を持って来いと合図してから、ため息をついた。
「そうなんですよ。今、夕と迅と昌士の三人で、話し合っています。というのも、やはりあちらへ誰か帰らねばならない、という話になって。迅は、あれだけ嫌だと言っていたのに、弟が昌士だと知ると、苦労した昌士に面倒を押し付けるわけにはいかないと、自分が帰ると言い出しました。それを聞いて、昌士も陸に面倒を見てもらっておる集落から来たので、そんなに苦労はしてないと反論して。どちらも相手に面倒を押し付けたくないと思っているらしく、お互いにお互いを庇うような形で。ですが、碧黎様が迅はここに置いておいた方が良いと仰るでしょう?ワケは分かりませんが、多分言う通りにしておいた方が良いと思うのですよ。何しろ、あの碧黎様ですから。」
炎嘉が、それには頷いた。
「そうだの。何か見えておってそう申しておるのだろうからの。して?その、昌士という皇子はどんな様子の神か?王座を継いでやっていけそうな様か。」
蒼は、それには頷いた。
「はい。何しろあの集落は、はぐれの神とは言うて、陸が世話をしておるので、軍神達が頻繁に訪れていて、それらが教育なども軽くしてあったようで、こちらへ来た時は既に読み書きもできましたし、歴史なども少々知っておりました。立ち合いもそこそこ出来て、最低限の礼儀も弁えていた。だからこそ、ここへ受け入れて、あの気の大きさなので、軍神も問題なくできるだろうと、軍に入れたのですよ。あの集落は、はぐれの神なのに本当に優秀な人材が揃っていますね。」
翠明が、言った。
「陸がそうとは思わず世話をしておったからであるな。軍神達も、良い気質の者が多いようよ。でなければ、務めでもないのに教育までしたりせぬからの。惜しいのう…女に惑う性質でなければこんな事には。というか、あれに夢のように美しい女はまずかったのではないか?こちらの不手際なのでは。」
言われて、言い出しっぺの炎嘉が顔をしかめた。
「それは…確かにそうやもしれぬが。我だって、あんなことになるとは思うてもおらなんだのだ。全て上手く回ると思うて。そうしたら、こんなことに。」
「やはり身に過ぎたものは手にしない方が良いのだ。」志心が、言った。「陸には愛羅は荷が重過ぎた。しばらく共に居たのに、結局愛羅は陸を全く慕ってはいなかったのだろう。棚から降って来た牡丹餅では、やはりならぬという事よな。」
蒼は、息をついた。
「でも、それもまだ神世には告示されてませんよね。それが知られてからの、次の会合が恐ろしいですよ。あちこち荒れてるんじゃないかって。」
維心が、しかしケロッと言った。
「問題ないぞ。乱す輩は即、我が断じてやめさせるゆえの。案じる事は無い。」
どうやってやめさせるのか、そこが怖いんですよ。
蒼は思ったが、黙って頷いた。
焔は、言った。
「ということは、しばらく保留か?必ずどっちかは、あの宮を継ぐのだな?」
蒼は、それには顔をしかめた。
「いや…それは、分からないけど。とにかく今話してるから。」と、大きなモニターを指した。「それよりゲームでもしませんか?迅の代わりに涼夏に来させてるので、何かあっても対応できると思います。」
炎嘉が、モニターを見た。
「初めてであるが、やるか。」
侍従が持ってきたコントローラーを手に、蒼は画面を着けた。
するとそこには、そのゲーム機のホーム画面が現れた。
「ああ、めぼしいやつをダウンロードしてくれてる。」と、光の枠が蒼の指の動きに合わせて、ポンポン変わって行く。「どれにしようかなあ。」
神達にはちんぷんかんぷんだったが、全部蒼に任せようと、黙ってそれを見守ったのだった。




