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一月二日

次の日の朝、前の日が遅かったので、維心も維月も日が昇るまで眠っていた。

珍しく維月の方が先に目覚めて、隣りで眠る維心の顔を見た。

維心は、眠っているのに唇を引き結んで、寝ている時ですら己を律しているのが見て取れた。

その美しい顔にジーッとしばらく見とれてから、維月は維心の唇にソッと口付けた。

途端に、維心は目を開いた。

「…維月。」と、窓の方を見た。「…もう日が昇っておるの。珍しく寝入ってしもうた。」

維月は、微笑んだ。

「おはようございます、維心様。その美しい瞳の色が見たくて、お起こししてしまいました。」

維心は、微笑んだ。

「いくらでも眺めておれば良いぞ。」と、維月を抱き寄せて額に唇を寄せた。「さて、皆はどうしておるかの。茶でも飲んで様子を見て、また広間へ参るとするか。」

維月は、頷いて目を虚空に向けた。

「…炎嘉様はもう起きておられますね。箔炎様と焔様と共に、広間で茶を飲んでいらっしゃいます。蒼はまだ寝ているのでしょうね、来ておりませんわ。そういえば、杏奈様が来ておられなかったのは、子の夜泣きが酷いからのようですわね。本日も恐らく来られないでしょう。」

維心は、頷いた。

「子が幼いと妃は大変であるからの。綾も椿もよう参ったものよ。主が退屈してしまうところであったわ。本日もあれらと茶会をするのか?」

維月は、苦笑した。

「はい。どうしても王と共にであると、我らは話すのも遠慮してしまいますし。皆様お疲れになられましょうし、息抜きも必要なのではないかと。」

維心は、ため息をついた。

「仕方がない。我は主とずっと共に居たいが、主らの楽しみを奪うつもりもないゆえな。また、良い頃合いを見て席を立つが良い。」

維月は、頷いた。

「はい、維心様。」

そうして、二人が起き出して連れてきた侍女達に手伝われて着替えると、居間で茶を飲んでゆっくりとした。

すると、十六夜の声がした。

《おはよう、維月、維心。あのさ、聞きてぇことがあるんだけど。》

維心が、窓を見た。

「何ぞ?何かあったか。」

十六夜は答えた。

《昨日のことなんだが、お前らが人世のゲームをし始めたらフォローするのに、隣の部屋に迅と涼夏が居たんだが、知ってるか?》

維月は驚いた顔をしたが、維心は頷いた。

「知っておる。ずっと気配があったゆえ。というか、涼夏の方は後から来たようだったがの。夕方ぐらいか。」

十六夜は、頷いた。

《そう、迅が退屈だろうから話し相手として来ていいって蒼が言ってたからな。で、お前らが引き揚げてくから、あいつらも帰ったんだが、二人で帰りながら話してるのを聞いちまって。》

維心は、顔をしかめた。

「主な、気持ちは分かるが他神の会話をあれこれ盗み聞きするでないわ。」

十六夜は、答えた。

《聴こえちまうもんは仕方がねぇよ。聞かれたくなければ月の光が入らない場所で話してくれなきゃな。オレの結界の中で、無視する方が難しいっての。》

維心は、呆れたように息を吐いた。

「…して?聞きたいことは何ぞ。」

十六夜は続けた。

《なんかさあ、愛羅は陸んとこに帰りたくないって言ってるのか?陸の宮の臣下内じゃあ有名で、知らないは陸だけみたいだぞ。というのも、陸がやる気をなくしちゃ困るから。旭んとこの軍神と仲良くなってる陸の軍神が、どうやら聞いたみたいだ。迅が言ってた。ここにもはぐれの神の時代に陸の軍神と仲良くなってた奴が居るみたいで、それづたいに迅は知ったみてぇなんだが。》

維月は、口を袖で押さえた。

維心は、顔をしかめた。

「…知らなんだ。そこまで噂が回っておるのなら、恐らくそれは誠であろうな。確かにそれは不味い。臣下が陸に隠すのは当然ぞ。それにしても、旭はどうするつもりなのかの。来ておったら聞けたのにな。」

十六夜は、頷いたようだった。

《オレも気になるから見て来たが、旭は愛羅を大切にしてるからなあ。戻すつもりはないように見える。持って帰った荷も前はほどかず置いてたんだが、今回見たら全部ほどいてたんだよな。となると、腹の子供はどうなるんだろうって気になって。》

維心は、それは戻すつもりはないなと額に手を置いた。

「…子は、恐らく旭は陸に返すだろう。というのも、陸の子であるからそう気が大きくないので、旭の宮では軍神としても下位になろうし、良い未来はない。だが、陸の宮なら皇子であるから、迅が居らぬ今跡取りとして大切にされようからの。とはいえ…そうなった時の陸が上手くその皇子を育てられるのかということぞ。自暴自棄になりそうだし、皇子が育つまでの二百年、踏ん張ってくれるかどうかということよ。困ったの…だからといって、あの体たらくを演じた陸に返せと強くは言えぬのよ。少し、炎嘉達とも話しておかねばならぬ。」

維月は、維心を気遣わし気に見上げた。

「お出ましになられますか?」

維心は、頷いた。

「出るか。仕方がないの。」と、立ち上がった。「十六夜、主は上で聞いておれば良いわ。盗み聞ぎしておった事実を知られるのは否であろう?とはいえ、隣りに迅と涼夏が居る時には話さぬようにする。恐らく、聴こえておるからな。あの広間には、音を遮断する膜がない。楽をしたりするのに、音が響かぬからそうしておるのだが、隣りに我らの会話が筒抜けのはずなのだ。とはいえ、どうしたものかの。どうしても、我らが共だとそういう話も混じるのに。」

維月が、言った。

「では、ゲームをしようと申せば?あれは、音が大きいので遮断する必要が出て参ると思うのですわ。自然に遮断の膜を張ることができまする。維心様が張っておられたら、誰もそれを破ることはできませぬし、それを維持するのも維心様次第です。幸い、楽の遊びは昨夜終わっておりまするし、良いのではないでしょうか。」

維心は、頷いた。

「では、そうしようぞ。とはいえ、我は話しを振るぐらいしかできぬから、ゲームの何某かは主が何とかしてくれぬか。」

維月は、頷き返した。

「はい。お任せを。」

そうして、侍女を呼んで二人は広間へと向かうために、着物を公的なものに着換えたのだった。


維心と維月が揃って広間へと到着すると、そこには炎嘉、箔炎、焔、志心、翠明が椿と綾を伴って来ているだけだった。

他の王達は、まだ出て来ていないようだ。

昼からの方が良いだろうと昨夜歩きながら話していたので、恐らく昼ぐらいに出て来るのではないかと思われた。

隣りの部屋には、まだ迅と涼夏の気配はない。

維心は、自分の席へと座りながら、言った。

「…話したいことができての。気になる事を聞いたのだ。」

炎嘉が、眉を寄せた。

「なんぞ、挨拶もそこそこに。正月から面倒ではないだろうの。」

維心は、ため息をついた。

「我だって楽しむだけに集中したいわ。だが、十六夜が昨夜、迅と涼夏が歩いて帰る際に、話しておるのを聞いたらしくて。我に話して来たのだ。愛羅が、帰りとうないと申しておるそうだの。」

炎嘉が、盛大に顔をしかめた。

「誠か。なぜにそれを迅が?」

維心は、答えた。

「十六夜が申すには、旭と陸の軍神は面識があろうが。しょっちゅう行き来しておったのだからの。それで、その筋から陸の軍神に知れたのだ。陸の宮では、陸以外は皆知っておるが、陸は知らぬという状況なそうよ。陸の軍神と、月の宮の軍神がはぐれの神の時に友であったらしく、迅はその情報を得たのだ。宮では、陸のやる気が失せるのを恐れて、誰も陸の耳にそれを入れぬようにしておるらしい。ちなみに、十六夜は旭の宮を見て来たようだが、愛羅の荷はほどかれておってとても一年離れるだけのような対応ではないそうな。そも、戻るつもりならあの宮には品が余るほどあるのだから、再梱包するのを面倒がってそのままにして、宮の物で賄うはずであろう。これは、旭は誠に返すつもりはないなと我は思うたのだ。」

志心が、深刻な顔をした。

「それは面倒な。仮にこのまま陸が励んで何とか宮を三番目に上げる事に成功しても、愛羅は戻って参るまい。そうなった時、あれのやる気が続かぬようになるのは目に見えておる。皇子は恐らく戻されるだろうが、赤子が王座に就くことはできぬ。せめて成人するまで育てさせねばならぬが、その意欲があれに残るかどうか不安ぞ。」

焔も、頷いた。

「その通りよ。このままでは傘下が困ることになるぞ。そんな様で三番目に上げて良いのかとなる。となると、迅が戻るのが一番良いのだろうが…迅は、恐らく戻りとうないわな。」

維心は、頷いた。

「我が陸を殺してやると言うても首を縦には振らなんだからの。あれは、どうやらこちらで根を張りたいようなのだ。」

志心が、言った。

「それは月の宮に居ったら他へ行く気になどならぬわ。己を殺そうとした父王の宮を助けるためになど尚の事ぞ。だが…神世のために必要となれば、無理にでも戻らせるしかあるまい。それが、王族として生を受けた者の宿命(さだめ)よ。我らだって、好きで王座に居るわけではないのだからの。」

維心は頷いたが、チラと大きなモニターの方を見た。

「…あちらの、応接間に迅が居ったのは知っておるか。」

炎嘉も、皆も頷く。

「知っておる。何かのために待機しておるのだなと思うておったわ。帰りに蒼に聞いたら、我らがゲームをした時に、それを動かすための機械の扱いが迅にできるので、我らが遊びたくなった時のために居たようだったの。本日は、朝も遅くなるだろうから、昼から呼んであると言うておった。ゆえ、まだ居らぬようだの。」

維心は、頷いた。

「ならば話が早いわ。話を振ってゲームをしたいと申して、こちらに音を遮断する膜を張ろうと思うておったのだが、主らに申しておこう。あれらは、恐らくこちらの話を聞いておる。待機しておるだけでは暇であるからな。突っ込んだ話をすることが多いのに、それでは落ち着かぬから、大きな音がすると聞いておるし、それを口実に我が張るゆえ、主らは上手く話を合わせてくれぬか。」

焔が、頷いた。

「分かった。メンコで遊ぼうと思うておったが、後で良いか。ま、今年できぬでも来年蝦夷へ参った時の楽しみに取っておいても良いやもしれぬしの。」

維心は、首を振った。

「別に、あれらが来るまでは良いぞ?メンコを見せ合うだけでもしたいのだろうが。」

焔は、後ろに置いてある厨子をチラを振り返りながら、頷いた。

「ま、せっかく作らせたしな。皆の物も見てみたいのだ。改良する点が見つかったら来年もっと良いものが作れるかもしれぬではないか。戦うのは、諦めるゆえ見せ合うだけでもやってみぬか。」

炎嘉は、自分の厨子を引き寄せた。

「仕方がないのう。前の畳に参るか?」と、扉に気配を感じて、振り返った。「お。駿、公明、来たのか。メンコは持って来たか?」

二人は、頷いて後ろに引き連れた侍従が持っている、厨子を見た。

「そこに。見せ合うのか?」

駿が言う。

炎嘉は、嬉し気に言った。

「そうよ。こちらへ来い。主らのも見てみたいわ。」

維心も、立ち上がった。

「では我も。我が宮の職人のためにも、皆に披露せねばな。」

そうして、畳の方へと移って行く。

それぞれの侍女侍従が、急いでメンコの入った厨子を持って、畳の方へと回り込んで行くのが見えた。

維月は、正月でさえも、心から遊びだけに集中できない王達の事を思いながら、それを眺めていた。

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