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蒼が起き出して来ないので、早起きな王達は、先に自分達が作らせた、美しい設えのメンコを厨子とその蓋の上に綺麗に並べて、畳の上に揃えた。

あんなに小さな物なのに、最早工芸品ではと言うほど美しい色合いの絵柄が並び、維月も思わずため息が出た。

たかがメンコ、だと思っていたのに、神達が本気になるとこんなことになるのだ。

天然素材の貝を薄くして貼り付けてあったり、真珠を砕いて絵の具にしてあったりと贅の限りを尽くしてある。

そんな中でも炎嘉のメンコは華やかで、維心の職人が作ったキリリと引き締まった様子とはまた違う。

志心の宮では全体的に白っぽい色合いで、それがまた透き通るように美しかった。

「そちらの。」維月は、指を差した。「その白い色合いの中に花があしらってある物がとても好みでありますわ。飾って眺めていたいもの。」

志心が、微笑んだ。

「おおそれか。簡素過ぎるかと思うだが、品もあるしあえて手を掛けなかったのが良かったのかの。主の目に留まって、我が職人も喜ぶだろうて。真珠を砕いて全面に塗ったのよ。」

炎嘉が、言った。

「なんの、維月よ、我の物はどうか?金粉を振って赤い花が引き立っておろうが。」

維月は、フフと笑った。

「はい、炎嘉様。誠に華やかで炎嘉様にお似合いの形でございますわね。」

維心が言った。

「今回は披露目だけであるし、取る事はできぬが来年は是非に主が言うたメンコを手にして見せようぞ。叩き付けてひっくり返したら己の物になるのだと蒼が言うておったからの。」

志心が、ムッとした顔をした。

「別に取らずでも維月が欲しいならやるつもりであったわ。我から強奪しようとは主も甘いぞ。」

だからメンコぐらいで争わないでってば。

維月は思ったが、駿が言った。

「こうして見るとどれも素晴らしいものよな。確かにひっくり返して己の物になるのなら、取りたい物が多くある。とはいえ、叩き付けて大丈夫なのかの?漆塗りにしてある物もあるが、割れるのではないのか。」

王達は、顔を見合わせた。

言われてみたらそうなのだ。

「…そうであった。考えてもおらなんだわ。割れてしもうたら価値がなくなるではないか。だから蒼はシンプルな方が良いとかうるさいほど言うておったのだの。分かった気がする。」

焔が、頷いた。

「絵を書く程度の方がいいとあれは言うておったな。つい凝ってしもうたが、確かになあ。」

維月は、あんなに美しい物を叩き付けるなんてと、維心を見た。

「維心様、観賞用の物と、戦闘用の物を分けて作るのはどうでしょうか。今回は、皆でこうして鑑賞するために持って参ったということで、来年は蒼にどのように使うのか詳しく聞いて、その上で作るというのではどうでしょう。」

維心は、頷いた。

「良い考えよ。では、この宮にあるメンコを使って見せてもらえば、どうするのか分かるのでどこをどう作れば割れないのかなど分かりやすいよの。そうするか。」

焔が、頷いた。

「それで良い。なあ、では今年はこれらと鑑賞するのだから、傍で見たいの。畳に上がっておる我らだけでなく、そちらに座って居る者達も間近で見たいであろう?遠いのでハッキリ見えぬし。」

妃達は、全員畳に上がることができないので、遠慮して畳には上がっておらず、離れて見ているのだ。

維心が、さっと目の前の厨子を持ち上げると、維月の前に置いた。

「よう見たいだろう?志心の宮のメンコが好みか。よう見てみよ。どの辺りが良い?」

維月は、目の前に置かれた平たい厨子の中に、行儀よく並べられたメンコには見えないメンコ達を見つめて、言った。

「そうですわね…色合いが。」と、先ほど選んだ物を指先で触れた。近くで見るとより繊細な絵柄なのだとわかる。「真珠がとても良い感じに全体の雰囲気を幻想的にしていて、その中に見え隠れするピンクや、それによく見ると薄い黄色の花々がそれは控え目で愛らしく感じます。真珠で描かれているのは、雲なのでしょうか?それとも霧?どちらにしろ、見ていて心地よいですわ。」

志心が、満足げに言った。

「そこまで気に入ったのなら、それはこれが終わったら主が持ち帰るが良い。」

維月は、志心を見て微笑んだ。

「まあ、ありがとうございます、志心様。額に入れてお部屋に飾らせて頂きますわ。」

維月は、他にも並ぶメンコ達を眺めて、ハッとした。

どこかで見たことがあると思ったら、昔々のテレフォンカードがこんな感じだった。

だが、ここでテレフォンカードなどと言っても誰にも通じないので、後で蒼か十六夜にでも話そう、と、隣りにその厨子を渡した。

すると、また目の前に維心が厨子を置いた。

「我が宮の物ぞ。これはどこが良い?」

維心は、どうやら維月の好みを徹底的に聞き出して、覚えて帰ろうと思っているようだ。

維月が徹底的に気に入る物を、作らせようと思っているのだろう。

維月が苦笑しながらまた、それについて自分が感じる事を述べ、また次、次とメンコを論じさせられていると、そこへ義心が入って来て、黙って後ろで膝をついた。

こうすることで、楽しんでいるのを邪魔するほど話したいことがあると、維心に知らせて声を掛けられるのを待つのだ。

また何かあったか、と維心は嫌な顔をしたが、言った。

「…なんぞ。何かあったか。」

義心は、答えた。

「は。王におかれましてはお休みのところ申し訳ございませぬが、急ぎお知らせして置いた方がと。」

維心は、もう諦めて頷いた。

「申せ。」

義心は、頷く。

「は。旭様の皇女、愛羅様が昨夜流産なされた由。旭様には陸様だけにお知らせになられて、まだ伏せていらっしゃいますが、陸様の宮を窺っておった帝羽が気取って報告を受けました。すぐに旭様の宮を探って参りましたら、やはり事実のようで。ただ、旭様は陸様の訪問を断られました。愛羅様はご無事ですが消耗が激しく、お休みになっておられました。」

それには、全員が驚いた顔をした。

陸の第二皇子が、生まれなかった。

炎嘉が、一気に険しい顔になって、言った。

「…困ったことになったの。陸からしたら愛羅さえ戻れば問題ないし仕方がないと思っているだろうが、旭は愛羅を返すつもりはない。陸の歳を考えても、迅しか居らぬではないか。」

焔が、同じように険しい顔で言った。

「ならば、帰らせるよりない。我らだって思うように生きたいと願うが、王族に生まれてそれが叶わぬ。あれもそんな所に生まれてしもうたと諦めるよりないのよ。陸を降ろして迅を据えよう。元からあやつの方が上手くやりそうだったし、まだ若いのだ。傘下もこれで任せて安心ではないか。そうしようぞ。」

翠明が、言った。

「…だが、王座に付いても己を殺そうとした父親が同じ領地内に居るのだぞ?一度は逃げて参った宮なのに。普通の譲位とは違う。主は父親に殺されそうになった事はあるのか。」

焔は、ぐっと眉を寄せた。

「何を?主だって無いだろうが。」

「我はある。」え、と皆が驚いた顔をすると、翠明は苦笑した。「公青ぞ。あやつは若くして王座についた我の、父親のような存在であった。あれが妃を失って呆けた時、我はあれの代わりに公明の世話から周辺の西の島の王達の世話まで、一手に引き受けてやっていた。それを、あれはどうしたのだ。そこに居る義心に助けられねば、あの頃の我は間違いなく公青に殺されておったわ。父親が戻るまでと必死に努めただけなのに、脅威と見て殺そうとするなど我には衝撃であった。あの後和解したが、それは昔我だってあれの領地を取ろうとした事があったゆえ、仕方がないと己の中で考えたからぞ。迅はどうよ?皇子として宮を滞りなく回し、何とか父親が呆けておる間回していたのに、使い捨てにされようとしたばかりか、臣下の動きから己の地位が危ういと殺そうとしたのだぞ?あれは父親を殺すこともできたが、それをせずに己が宮を出る事で穏便に済ませようとした。その上で、今さらにまた、宮が存続できぬと戻れと言うか。我なら、無理に戻されてもまともに君臨しようとは思わぬ。主らは恵まれておるのよ。同じ王族でも、下にも置かれぬほど大切に育てられた者には、我らの心地など分からぬ。」

言われて、皆が神妙な顔をした。

言われてみたらそうだったからだ。

維心が、ため息をついた。

「…主の言う事はわかる。だが、神世がかかっておるのよ。あの宮一つの事ではないのだ。迅は、確かに王座になど興味はないようで、陸を殺そうとは全く考えていなかった。己が流浪の神になろうとも、穏便に済ませようとした。だが、今さら陸に娘を嫁がせようと考える奴は居るか。このままではあの宮は滅んでしまう。あれだけの財力を三代かけて築いたのに、あっさり滅ぶなど哀れではないか。迅が嫌なら、とにかくあやつが誰かと婚姻して子を残し、それを教育して宮を継がせるしかない。迅は成人しておるし、そちらを急ぐしか方法はない。」

一族の中で王の血筋が一番に気が大きいので、確かにそうなるだろう。

他では宮の力が下がってしまうのだ。

せっかくの明るい雰囲気だったが、一気に深刻な雰囲気になってしまい、皆が黙り込んで考えに沈む事態になってしまったのだった。


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