師走
師走の会合は明日だ。
なので、どうあっても維心は今夜泊まるわけには行かないので、長居はできなかった。
維月を呼びに行かせると、維月は十六夜と共に楽しげに話しながら出発口へとやって来た。
維心は、その姿に何やら昔を思い出して、落ち着かなかなくなった。
「…維月。」維心は、手を差し出した。「帰るぞ。」
維月は、頷いて維心の手を取った。
「はい、維心様。」と、十六夜を振り返った。「それじゃあね、十六夜。また話すわ。」
十六夜は、頷いた。
「ああ、また後でな。」と、あっさり維月の額に口付けた。「新しい奴らの様子も知らせるよ。」
維月は特に大した事だとも思っていないようで、普通に頷いた。
「分かったわ。」
だが、維心は穏やかには居られなかった。
まるで以前の二人に戻ったように見えたのだ。
「…なぜにそのように近いのよ。」と、維月を抱き寄せた。「主らは兄妹で落ち着いているのではないのか。」
維月は、頷く。
「はい。あの、体の関係とかありませぬわ。」
十六夜も、頷く。
「やれと言われたらできるけど、べつにそんなの必要ないしな。それがなんだよ。」
維心は、恨めしげに十六夜を見た。
「それは当然よ。取り決めがあるしの。だが、口付けたりせなんだではないか、アレ以来。」
十六夜は、顔をしかめた。
維月が、慌てて言った。
「あの、そんな意味はないんですの。ただ、夏奈殿の意識に引きずられておった時に、側で慰めてもらっていたのでそういうことに。だからといって、特別意識が変わったとかではないんですの。より近くに寄り添うためにっていう感じで…だから、体云々ではないのですわ。」
十六夜は、頷いた。
「別にな、オレが維月を愛してるのは何もしててもしなくても関係なくて、とりあえず深い意味はないんだよ。地上に居る時ちょっとこれまでより近いぐらいで。夜は別々に寝るぞ?一緒に寝ても何もしないけどな。」
維月は、頷いた。
「そう、何もしませんわ。意識はこれまでと変わりませんから。」
そうは言っても、何やら気になった。
近くなって、また元に戻るような事があり得る位置に十六夜は居る。
何しろ、これまでと意識が違わないと言うが、これまで気が向かないと降りて来なかった十六夜が、維月が帰って来たらすぐ降りて来るようになったのだ。
絶対に、何か変わっているが、本人達が気付いていないのだ。
「…我には何か変わったように見える。だが、まあ良い。とにかく明日は会合なのだし、帰ろうぞ。」
維心は、維月を抱き上げた。
維月は、少しバツが悪そうな顔をしたが、しかし十六夜に頷き掛けて、そうして維心に抱かれたまま、月の宮を飛び立って行ったのだった。
十六夜と維月の関係の変化は気になったが、それでも維心はやらねばならない事があった。
まだ、新しい編成の問題が全く解決していない。
今日は年内最後の会合だったが、早々に志心は欠席の知らせが来て、まだ立ち直れていない事実をそこに知った。
炎嘉には話してあったが、まだ陸の宮の件が全く解決していない。
維心は、会合の前に上位の皆を集めて話をし、経過を伝えておいた。
なので、会合の間には上位皆で入場することになった。
皆が一斉に立ち上がって上位の王達を迎える中、その間を歩き抜けながら、チラと涼弥を見る。
最下位になった永峰と共に、そこに並んでいるのかと思ったが、永峰は今日は欠席だった。
まだ、宮があんな様子なのでとても会合に来るどころではないようだ。
必然的に涼弥は、最後の席に座って、固い表情でいた。
回りの他の王達も、誰も話し掛ける事ができないようで、ただ遠巻きにしているのが気で感じられた。
そんな中でメインテーブルに付くと、炎嘉が言った。
「…今年最後の会合を始める。」と、皆を見回した。「最初に、祟り神が発生しかけて我らが処理したが、その際多くが犠牲になった。皆噂に聞いておるだろうが、高峰の宮がそれを発生させたのだ。前々から対応せよと言っておったのに放置した結果の惨事よ。罰は言い渡した。高峰は命を懸けて排除しようとしておったのでそれを汲み、宮は残す。が、次の安峰も王として不適格とし、代は永峰にすることでの処分ぞ。序列は最下位とし、祟り神になりかけて、白虎の皇子志夕さえも犠牲にした夏奈は処刑。そして、その夏奈が祟り神になる原因を作ったとして元の夫である涼弥にも沙汰を下した。序列最下位より二番目、これより下位の中での序列の上昇は努力により認めるが、三番目には永劫に上げぬ事とする。皇子皇女は罪人の子として追放。崩落した永峰の宮を建設することで沙汰は終いとする。左様取り決めたことをここで皆に告示しておく。」
下位の王達は、同情したような視線を涼弥に向けていた。
いろいろ事情があるのは、皆知っていたからだ。
炎嘉は続けた。
「では次に前に決めた通り、下位から三番目に上がる宮の進捗具合を聞こう。塔矢。」
塔矢が、答えた。
「は。鳥の手助けで宮は無事に立ち上がり、臣下も新しい宮に参じて仕え始めました。元より何事も己でこなして来た臣下達なので、最初は軍神達も職人と共に作業に没頭しておりましたが、今は蓄財ができて来たので軍務の方に集中できるようになっております。宮の中は恵麻が回しておるので問題ありませぬ。傘下のもの達には翠明様に倣って統治する体制が整いました。あれらの陳情は我がまとめて上位の皆様に申し上げ、我が処理できるものは我がやるように回り始めておりまする。」
炎嘉は、手元の書へと視線を落としながら頷いた。
「主が一番円滑に進んでおるようよ。内容は常、我らの軍神達が見て来て報告しておるので、我らは知っておる。僅かな時間に、大したものよ。」
塔矢は、頭を下げた。
「は。恐れ入ります。」
炎嘉は、吉賀を見た。
「次は吉賀。」
吉賀は、緊張気味で頷いた。
「は。我が宮でも職人を増やして蓄財が滞りなく貯まるようになりました。傘下への支援を開始し、月に一度は報告させて無駄を省くための助言も進めておりまする。塔矢殿と同じように、陳情は報告させて我が何とかできるものは宮で処理しております。手探りではありますが、回り始めておりまする。」
炎嘉は、また頷いた。
「主の宮はあの規模でようやっておる。短い時間によう職人を増やしたの。塔矢のところは臣下全員がやたらと優秀だからできて当然かと思っていたが、主はまだ掛かると思うておったわ。」
吉賀は、頭を下げた。
「恐れ入ります。傘下の宮から召し上げて使う事を始め、基本はできておったので何とか。」
それも那海の助言よな。
炎嘉は知っていたが、言わなかった。
そして、急に険しい顔になったかと思うと、陸を見た。
「陸。問題は主ぞ。形はできておるのにまだ何も手を付けておらぬではないか。何をしておるのよ。信じた我らを裏切るつもりか。」
陸は、慌てて言った。
「申し訳ありませぬ!これから始動させようとしておりまして…形を考えるのに時を取りました。」
炎嘉は、険しい顔のまま言った。
「考えるのに時を取ったのではなく、理解するのに時を取っておるのではないのか?」と、さらに険しい顔になった。「今少し気を入れぬか。詳しい事はここでは言わぬが、迅が宮に出た理由は知っておるぞ。義心が見ておったからの。」
陸は、監視されている、と迅が言っていたのを思い出した。
つまりは、全て、恐らく陸が迅の殺害を指示した事も知っているということだろう。
いつも聞いているだけの、維心が口を開いた。
「…迅と話して参った。」陸が驚いていると、維心は続けた。「曲がりなりにも父であるから、元は気が良い王なのだと主を庇っておったわ。なので、迅に免じて時をやる。我らの総意だと思うて聞け。」
陸は、身を固くした。
迅は、龍王に自分を庇う発言をしたと言うのか。
陸は、心の底から迅に悪かった、と思った。
全ては自分のせいなのに、王座を追われるとあの妃も失い、立場がなくなる事を恐れて消す事を考えた。
あれは、そうなってもまだこちらのことを考えてくれているのに。
陸が涙ぐんでいると、維心は続けた。
「…一年、猶予をやろうぞ。己で回してみよ。それができぬのなら、迅は嫌がっておったがあれに王座を譲るか、どうあってもあれがそれを受けぬなら廃宮か選ぶがよい。それまで序列の上昇は保留にする。その間傘下は我らが面倒を見ようぞ。順次移行させて参れるのならそれで良し、できぬのなら覚悟を決めよ。ちなみに迅は、なんなら我が主を殺してやるがどうすると聞いた時、それを避けたいから宮を出たと言うておった。よう己れを省みたら良いわ。」
陸は、項垂れたまま頷いた。
「は…誠に合わせる顔もありませぬ。」
炎嘉が、脇から言った。
「まあ、主が浮き足立つのも仕方がないがの。それでは失うと言うのだ。一年励むが良いぞ。本来ならこれ程寛大な処置はせぬが、迅が言うなら仕方がない。宮を乱すものを先に縁付けた我らの責でもあるからの。」
すると、旭が言った。
「まさかそんなことになっていようとは。」と、陸を見た。「これは夫としてはこれ以上ないほど愛羅を大切にしておるので安心しておったが、宮の力を失う事態となれば話は変わる。ならば一年後、誠に宮を回せるかどうか確認できるまで、愛羅は我が宮に戻す。下位の宮などに縁付けるほど、あれは粗末な女神ではない。年明けに必ず三番目に上がると言うから許したことぞ。これ以上任せられぬ。」
旭がそう思うのは、無理もないことだったが、急なことに皆が黙る。
陸が、慌てて言った。
「今は身籠っておってとても返せる状態ではありませぬ!どうか我を信じて、今少しお待ち頂けませぬか。」
旭は、首を振った。
「ならば一年後にそれを示せば愛羅を返す。下位のままで任せることなどできぬわ。また子がとかなったら、面倒な事になるしの。帰りに迎えに参って連れ帰る。子は、我が宮で育てるゆえ問題ない。全ては一年後、主が序列を上げたら考えようぞ。」
旭は、頑なだった。
何としても許さない構えだ。
こうなってしまうと、返さないと陸がいくら頑張っても、旭なら軍を出してでも取り返すだろうし、そうなったら一年後に返すどころではなくなってしまう。
なので、陸は頷くよりなかった。
同情はするものの、これまで迅に丸投げして宮の運営に力を入れて来なかったのだから仕方がない。
炎嘉は、続けて言った。
「…では、そこは旭に任せて他の宮の方ぞ。」炎嘉は、手元の書を見た。「この三つの宮の他に下位から三番目に上げる事を決めた宮がある。それから、二番目の宮もその中で序列を上げる。それらは、陸と同じく一年後、傘下を持って回せるようにさせる事にした。名を上げるゆえ、呼ばれたら起立せよ。」
皆が、緊張した顔をした。
炎嘉は、王達の名を呼び始めた。




