会合の後の宴
結局、炎嘉は事前に取り決めてあった二番目の王達と、下位から三番目に新たに上げる王の名を上げて、その傘下となる宮をそれらに知らせた。
二番目は領地が増える事になるが、元々力があるので少々増えても問題はないが、問題は下位から上がるものだ。
ちなみに、前の会合で告示されたのは塔矢に30の宮、吉賀に10の宮、陸に30の宮も合計70だ。
自立を諦めたのは190の宮だったので、残りは120だった。
それを、下位の宮の中でも今回の事で発奮して、指定されていなかったにも関わらず、元々自立していた宮だったが、宮の蓄財を更に増やして自分達も三番目にと頑張っていた宮があった。
銀令という若い王が治める、箔炎の宮の近くの下位の宮の王だった。
その辺りにも、実は多くの宮が点在していて、その中には自立を諦めた宮もあった。
それらをまとめさせるのに、銀令はもってこいの男だったのだ。
なので、そこまで頑張った銀令の功績を認めて、彼を三番目に上げる事を決め、一年後までに30の宮を治めることができたら、それらを含めた領地を許し、三番目の中での序列を与えようと取り決めたのだ。
そして、そうなると残りは90の宮だ。
もう、他に三番目の宮には他を世話できるほど成長できる宮はない。
なので、二番目から選ぶことになった。
翠明、公明、樹伊の三人で二番目の上位三位までを独占して不動なので、四位以下の宮、英、加栄、覚の三人に30ずつ振り分けることになった。
こうなると、またこの三人の地位は不動となる。この後から、メインテーブルに着くことを許すかもしれない位置まで、この三人は上がる事になったのだ。
聞いた三人は仰天していたが、しかし宮始まって以来の大きな領地の変動に、嬉しいよりも戸惑っているようだった。
ちなみに旭は蝦夷全体を統治していて力もあるのだが、如何せん遠いので会合にもなかなか来ないので、地位はこれらの下になる。
これで、自立を諦めた宮々の振り分けは終わったが、一年後まで保留になっている陸がどこまでできるのかが心配だった。
皆が宴の席に揃い、始まった宴だったが、激減した下位の席はすかすかに見えた。
こんなに減ってしまったかと思うと残念だが、しかしこれは必要な事だった。
やはり王と呼ばれて会合に来るからには、他の宮の世話に頼りきりでは示しがつかない。
会合に出るということは、それなりに発言権を持つので、多数決の時も意見を出せる。
己でやって行ける宮だけが、そういう力を持つのだとハッキリさせた方が良いのだ。
最上位の王達が壇上に座って酒を酌み交わしていると、旭が少々困惑気味にこちらへやって来た。
炎嘉は、覚悟していたようで、チラと旭を見て言った。
「なんぞ旭、あんなやつを勧めよってと文句を言いに来たのか。」
旭は、首を振った。
「いや、我とて宮を見に参って己で決めたことぞ。もしそれで否と思うたら、主らが何を言うても断っておったわ。なので此度の事は我にも責がある。文句など無いが、どうしたものかと思うておって。」
焔が、言った。
「どうしたものかとは?連れ戻ると決めておるのではないのか。」
旭は、頷いた。
「愛羅はそれで良い。だが、麗羅ぞ。あれは侍女から聞いたところによると、涼弥に嫁ぎたいと思うておったようだが、こんな事では嫁がせることなどあり得ぬ。元より顔で選んだような縁であるし、我は此度の件が無くとも許すつもりはなかった。なので…主らの中の誰かに頼みたいと思うてな。今回連れて戻ったら、また縁が無くなるではないか。なのでここで決めてしまいたいのよ。」
旭すら滅多にこちらへ来ないのだから、麗羅はもっとだろう。
愛羅が行き遅れたのも、結局そのせいであったからだ。
炎嘉は、顔をしかめた。
「そうよなあ…確かに美しい皇女であるが、我は無い。維心も絶対無いだろうし、志心はあの調子、となると高彰、樹伊、駿辺りではないか?翠明は綾しか要らぬだろうし、公明も桜が居るしなあ。子を生んだばかりで煩わせたくはあるまい。」
駿は、首を振った。
「我もそんな気になれぬ。どうしてもならリュウに。」
確かに歳は見合う。
樹伊が、言った。
「我も…興味があって陸のところに見に参ったら、それは美しかったので宮に迎えたいとは思うたが、玉貴がの。子を生んだばかりで落ち着かぬし、地位からして正妃となるので精神的に負担も重いだろうと、臣下が今はならぬと言うて。」
焔が言った。
「高彰、主が一番良いのではないのか。」高彰が何とか話を振られまいとしていたのを、こちらを向いた。「次がまだ続いておらぬのだし。まだ若いが、主にはあの優秀な高彰の記憶があるのだしの。」
高彰は、首を振った。
「今は妃だなんだと浮かれておる場合ではないのよ。やっと宮をまともにしたところであるのに。興味があったら近いのだから樹伊のように見に参ったわ。」
旭は、ため息ついた。
「…どこもならぬか。焔は?宮が近いし、戦の際にも助けてもろうたし。」
焔がとんでもないという顔をしたのに、隣りの炎嘉が言った。
「ああ、焔はならぬ。こやつはトラウマがあって己が慕わしいと思わぬと妃が不幸なのだ。桜がそうだった。欲しければ己で言うゆえ、押し付けぬ方が良いぞ。」
維心が、言った。
「銀令はどうよ?」旭が眉を寄せる。それでも維心は続けた。「あれは間違いないぞ。まだ300にもならぬのに、此度の事で己も上にと励んで此度の機を掴んだのだ。明るい気質でハキハキと小気味良い奴であるし、姿も金髪で青い瞳で美しいぞ。涼弥は美しいとはいえもう400だったが、あやつなら歳も見合うし何より若々しい。麗羅も気に入るのではないかの。」
旭は、チラと下位の席を見た。
そこで話している銀令は、確かに若々しくて何より生気に溢れていた。
とはいえ、愛羅の二の舞は踏みたくない。
「…ならば、あれが確実に三番目に上がると決まったら考えようぞ。陸のこともある。簡単には信じられぬからな。一年後まで見守ろう。」
駿が、言った。
「だが、此度の事で株を上げたゆえ、縁談が多く舞い込む事になるぞ。というか、なっておる。あれの友が妹云々言うておるのが聴こえて参る。先に婚約でもして、様子見する方が良いのでは?嫁ぐのは一年後にしてもの。」
確かに地位が上がるとなると、娶ってもらうのに良い位置になるので、友なら話が持って行きやすい。
一年経ったら妃が五人くらい居た、とかなるかもしれないのだ。
いくら下位でも、財政が潤っていると、複数妃を娶ることもあるからだった。
炎嘉が、言った。
「どうするのだ。銀令は恐らくこのままだとどこかの宮の皇女を娶る事になるぞ。あれは若いしあの性格だし美しいゆえ、好まれるのよ。気が付いたら五人ぐらい娶っておるやもしれぬ。こういう事は早い者勝ちだからの。」
旭は、そわそわと下位の席を見て居たが、腰を上げた。
「…分かったわ。今婚約して一年後に、格が上がったら嫁がせる。そうでなければやめても良いしな。炎嘉も言うように、早い者勝ちであるから。」
炎嘉は、頷いた。
「そうよ、押さえておいた方が良いのよ。荷もゆっくり準備してやれるからの。良いではないか。」
旭は、下位の方へと足を向けて言った。
「もう荷はできておるわ。ではの。」
そう言って、旭は下位の王達の所へと歩いて行った。
…もう準備してあるのか。
皆は驚いたが、早く嫁がせたいと旭も必死なのだろう。
余程愛羅が行き遅れたのが残念であったらしい。
あれだけ美しいのだから、良い縁もあったはずだからだ。
焔が、言った。
「…まあ、銀令は旭からの話なら断れまいし。他の王達も黙るしかあるまい。」
皆は頷いて、旭が銀令に話すのを見守ったのだった。




