↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/141

困った事

十六夜は、龍の宮から帰る炎嘉に、輿の中から話を聞かされた。

相変わらず神世は、連帯責任だ。

分かっていたが、何もしていないのにその皇子皇女までが罪人のように回りから疎まれるのは、十六夜には理解できなかった。

だが、八重の事もあった。

しかも八重は、罪人であった叔母には会ったことも無かったのに、同じような罪を犯して高瑞に処刑されたのだ。

だが、十六夜は二人の涼と涼夏という皇子皇女を、助けてやりたい、と思った。

母親が罪を犯したとしても、父親にも捨てられようとしているという事実はあまりにも重い。

十六夜はここのところ再編成が始まってから、下位の宮々を見ているが、どうも下位でも上位に位置している宮々は、浮足立っているようにも見える。

陸は旭の皇女を娶って、傘下を抱える予定であるから忙しいはずなのに、しょっちゅう庭をあの妃と歩いている。

しかも、その陸の援助を受けて自立を目指している涼弥まで、コソコソと陸の宮へ来て、陸の妃の妹とうろうろしているのは見ていた。

最近は、涼弥もさすがに出て来なくなったが、それまでは、ほんとにやる気あんのか、と上から見ていて思っていた。

何しろ、職人達は一生懸命宮のためにと自立しようと頑張っているのに、陸の宮に預けているそれらを労うのではなく、ひたすらに時間いっぱい、べたべたしながら庭に居るのを見ていると、夏奈を返したのはもしかしたらそっちが良いからなんじゃねぇのか、とか思えて来て、ムカついて来て見ないようにしていたぐらいだ。

そこへ、これだ。

十六夜からしたら、全部見ていたので涼弥が沙汰を受けるのは当然だと思っていたし、それは良かった。

だが、炎嘉が言うには、恐らく宮を地に堕とした皇子皇女は、個別に沙汰を下さなかったとしても、宮で肩身の狭い思いをすることになると。

なぜなら、罪人が産んだ子であるからだ。

その罪人本人が死んでいる以上、宮が地に堕ちたのはあの女のせいだと、その子供だと怨嗟の念を宮で一心に受けねばならなくなるぐらいなら、沙汰を受けて宮を出て、新しい生活をした方がいいのだ、ということらしい。

蒼にはいろいろ話していたので、その辺りの事情には蒼も詳しいのだが、だったら志心さえ良いのなら、ここで受け入れてやろう、と二つ返事で言ったので、十六夜は二人を見ることにした。


涼弥の宮を見ていると、二人は部屋に籠っているようだったが、いくら少なくても侍女が数人は必ず傍に詰めているものなのに、誰もその傍に居ない。

もっと目線を近づけて宮の中を調べると、涼弥は罪人の子の世話はする必要はない、と臣下に言っているのが聴こえて来た。

…お前が女に現を抜かしてる間、宮を見てたのはその息子だろうがよ!

十六夜は思った。

なので、不憫に思って何とか話しかけて安心させてやろうと見ていると、二人は誰も居ないのをいいことに、ソッと宮を抜け出して、結界外へと飛んで行った。

…どこへ行くんだ?

十六夜は、まさか死ぬんじゃないだろうなと、警戒して上空からじーっと二人の姿を追った。

すると、二人は小さな小屋に入って行った。

…玉ねぎ小屋か?

十六夜は、記憶の中にある物から、そう思ってそれを見た。

すると、そこに陸の宮で良く見る、迅がやって来て入って行った。

…約束してるのか。

小屋の小さな窓から中を見ていると、三人は、思った通り今回の事の話をしていた。

迅が言った。

「…待たせたか。すまぬな、どうあっても話したかったが、もしかしたら本日の事で出て来ないかもしれないと思うて。」

涼が、言った。

「確かに宮から出るな、それどころか部屋から出るなと言われておってな。明日にはこちらへ来られない可能性があるのよ。父は完全に我らを切り捨てるつもりぞ。」

迅は、眉を寄せた。

「ならば沙汰次第では主らは宮を出されるやも知れぬな。」

涼夏が、頷いた。

「分かっておってよ。なので、二人で何とか月の宮の蒼様にお願いしようかと。はぐれの神になるので、罪人の子となればどうなるか分かりませぬけど、もしかしたらと。」

迅は、眉を寄せた。

「…難しいやもな。志心様の皇子が犠牲になっておるし…月の宮とは仲が良いから頻繁に来られるだろう。顔を合わせてもしやとならぬか。」

…そうだな、ここでははぐれの神が罪人の血筋でいろいろあったもんな。

十六夜が思って聞いていると、涼夏は言った。

「それはもとより分かっておりますけど、それしかありませぬから。陸様だとて、我らの事は遠ざけようとしていらっしゃるでしょう?」

…みんな保身ばっかだ。

十六夜は、それを聞いて呆れていた。

迅は、頷いた。

「…その通りよ。主らどころか父上は、涼弥殿のことも切り捨てるおつもりぞ。職人は、皆明日返される。恐らく支援も止まる。どちらにしろ、主らの宮はしばらく立ち行かなくなる。」

涼夏は、口を押さえた。

十六夜は、もう自立も難しくなるし序列は落ちるし、踏んだり蹴ったりで恐らくもう、涼弥はあの、旭の皇女を娶ることは一生できないだろう、と思った。

そうなってから、皇子達を失ったことを後悔しても、もう遅い。

何しろ、涼弥には他に皇子は居ないし、先に続かないので宮はいずれ廃宮になることになる。

新しく別に妃を娶ればなんとかなるだろうが、涼のようにできた皇子は望めないだろう…何しろ、やはり夏奈は上位の宮の皇女だったので、気だけは大きく継いでいたので、涼弥より涼の方が若干大きかったのだ。

下位の最下位近くまで落ちた宮に、そんなにできた妃が来るとは、考えられなかった。

十六夜が考えながら聞いていると、涼が言った。

「…それは…恐らく父上はまだ知らぬ。我らを切り捨てて生き残るつもりぞ。もう、あんな父上の力になろうとは思わぬが、それでも臣下は案じられる。まあ…もう、侍女すら我らには近寄らぬがの。」

十六夜は、それを聞いて涼が気の毒になった。

見て知っていたが、今まで皆に囲まれていた身には、つらいものだろう。

十六夜は、思わず声を掛けた。

《…沙汰が決まったぞ。お前らの処遇は涼弥に一任になった。維心は処刑以外で沙汰を下せと明日の朝言って来る。》

涼夏が、小さな窓から驚いてこちらを見上げた。

「い、十六夜?!十六夜なの?!」

月の宮の事は知ってるよなあ。

十六夜は思いながら、答えた。

《いかにも、オレは十六夜だ。陽の月だ。炎嘉から、多分お前らが宮を出されて困るだろうから、そっちで何とかしてくれってさっき言われたんでぇ。罪人の子だって言ってもお前らの母親は、志心と会った事はねぇ。だから、お前らが狂って同じ気を出さない限り、志心だって気付かねぇだろうってさ。蒼には言った。どうする?月の宮ヘ来るか。》

涼が、言った。

「誠に月なら申す。どうか我らを受け入れて頂きたいと蒼様にご連絡を。我は何とかなろうが妹は…女が外で生きて行くには厳し過ぎるのだ。」

その通りなので、十六夜は、頷いた。

《分かった。じゃあ、外に出たら月の結界の方へ飛んで、そこで待ってろ。上から見てるから、迎えをやるよ。そこで、関の房ってのがあって、蒼と面会して中に入れるかどうか精査するんでぇ。ま、オレが見たところ変な気は持ってねぇしな。問題ないと思うぞ。》

すると迅が、急いで言った。

「十六夜よ、沙汰が出たと申したな。いったい、どんな沙汰になるのだ。我らはどうか?」

十六夜は、迅を見た。

自分の宮がどうなるか心配なのだろう。

《お前、陸の皇子の迅だな。お前んとこは何もない。最初はどうするかって話してたんだけどよ、そんなことを言ってたらあっちこっちめんどくさいし、そっちには愛羅が居るだろ?そもそも佳織は気を利用されただけだったから、別に罪はねぇんだ。ってことで、お前は陸んとこ帰って生きな。問題ねぇよ。》

だが、心配なのはそこではなかったらしい。

迅は更に言った。

「だが!我の宮の状況を知っておるか?我は、恐らくそのうちに消される。なぜなら、新しい母の腹に居るのは、皇子だと分かったのだ。」

…ああ、皇子だったのか。

十六夜は、だったらあの陸の様子じゃまずいことになるだろうな、と、言った。

《…話してみろ。》

迅は続けた。

「我は、今父上と共に政務に携わっておるが、此度の序列再編成で傘下を抱えることになった。だが、父上はその事に関しては何もせず、やっておるのは我と臣下。それでも、次の王であるから仕方がないと思うておった。だが…父上は、腹の子が男なら、我より気が大きいだろうからそれに継がせる、と明言した。そして、ついさっき分かったのだが、腹の子は皇子だった。ゆえ、我はこれだけ宮に貢献していても、後は王座に就くことはない。それどころか、臣下は我が王座に就くべきだと言うておる奴らも居るゆえ、宮は割れる。父上は、我を消そうと考えるだろう。今の妃に、それだけ傾倒しておるのだ。」

迅は、冷静に淡々と語っていたが、思えば酷いことだった。

十六夜も、今の様子なら陸は迅が言う通りに動く事は考えられると思ったが、それでも内政に外から干渉することはできない。

なので、慎重に言った。

《…考え過ぎじゃねぇのか。お前の父親なんだろ?》

迅は、ハッキリと首を振った。

「主は父の様子を見ておらぬからそんなことを言うのだ。新しい妃に、どれほど盲目的だと思う。最上位からの話であるから断れぬのは分かるし、あれが来たからこそ宮の中も礼儀に通じて来て品良くなっておるのは確かだが、前の養母である佳織は里へ帰って死に、どこの誰の子か分からぬ我は疎まれる。神世は…子など、簡単に捨てる。主は見ておって知っておろう。涼と涼夏だとて…涼弥殿は良い父親だったのに。今は、女に惑うて宮の格を上げることばかりを考えておるから切り捨てられるのだ。」

見てたから知ってる。

十六夜は思ったが、言った。

《で?じゃあお前はどうしたい。宮を出るのか?でも、皇子が簡単に宮を出て来れるのか。》

迅は、頷いた。

「我が、父上にとって鬱陶しい存在になれば良いのよ。」涼と涼夏が困惑した顔をすると、迅は続けた。「次の王になれないのなら、宮の事は一切しないと父上に申し上げようぞ。恐らく父は怒るだろうが、それでも退かず居たら、腹の子を王にしたい父上は、我を追い出すか殺すしかない。だが、神世の目があるゆえ、殺すことはないだろうて。我も、自ら宮を出ると申す。そうしたら、蒼様は我を受け入れてくれようか。」

十六夜は、助けてやりたいが、維心が何と言うか、と考えた。

宮を追い出されたのならいざ知らず、無理に家出したいと言う皇子を匿うような事をして、神世はどんな反応をするのだろう。

そして、ため息をついた。

《うーん、オレにゃ今すぐ返事はできねぇな。神世が面倒なのは知ってる。だから、お前が言うことがあり得ることもオレには分かる。だがな、じゃあそうしろって簡単にゃ言えねぇんだよ。涼と涼夏の事は分かった。だが、迅、お前の事はちょっと相談して来るから、お前の父親にそんな態度に出るのは待て。どっちにしろ、宮を出たいってならこっちで話し合うから自分で何かするのは待て。分かったな?》

迅は、何か言いたそうだったが、頷いた。

涼が、それを待っていて、言った。

「十六夜、何もかも聞いて悪いのだが、父と母にどんな沙汰が下ったのか、教えてくれぬか。我らは宮を出ると己から申すつもりであるが、親の事であるから先に聞いておきたいのよ。」

十六夜は、またため息をついた。

まあ、言っても良いだろう。

《…そうだな、どうせ明日には分かるだろうし、教えといてやるけど、明日維心から書状が来るまで内容は言うなよ。まず、お前達の母親はオレと維心で祟り神にならないように処理したから今は正気だ。でもな、やった事がやった事だ。佳織と咲奈だけじゃなく、志夕も殺しちまった。宮は大打撃だし、処刑される。》

分かっていたことのようだったが、二人は息を飲んだ。

十六夜は、続けた。

《それから、お前達の父親、涼弥だ。大体な、確かに夏奈は面倒な妃だったかもしれねぇ。だが、自分で決めて宮へ入れたのは涼弥だろう。宮はそれで存続してたのは確かだし、帰すのはいいが、後の事は知らぬ存ぜぬってのはおかしい。何のケアもしなかったわけだし、ああなった原因を作ったとして、序列は下位の最下位から二番目まで移動。未来永劫上から三番目には上げないことになった。で、夏奈がぶっ壊して崩壊した宮を建て直すことだ。あの宮も、下位の最下位に陥落することになったが、存続はすることになったんだ。》

十六夜は、上から見ていて腹が立っていた事もあり、つい私情も交えて言った。

涼夏は、涙を流した。

母親が犯した罪があまりにも重いのを突き付けられたからだろうか。

それでも、涼が言った。

「…感謝する。先に教えておいてくれて助かった。明日、いきなりに聞いたら、さすがに我らも対応に困ったであろう。明日、父からこの話を聞くだろうが、そうしたら己から宮を出ると二人で申す。その後、月の宮の結界へと向かう。それで、良いか。」

十六夜は、答えた。

《分かった。そのつもりでいるよ。後の事は気にすんな。月の宮は静かな所だから、仕事はしなきゃならないが、楽しく暮らせるよ。》

最後の方は願望だ。

仕えられて生きて来たのに、仕えて生きるのは最初はつらいだろう。

だが、この二人は若い。

なので、きっと馴染んでくれると思うのだ。

そして、三人がそれぞれの宮へと帰るのを見守ってから、十六夜は蒼に話そうと月の宮に意識を向けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。