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沙汰

維心は、炎嘉を連れて龍の宮へ帰った。

臣下が大挙してやって来て出迎えたが、維心は手を振った。

「ああ、義心に後で詳しく説明させる。祟り神が出現しようとしておったが分離して浄化した。志夕が犠牲になったゆえ、弔問の文と品を送れ。」

臣下達は、仰天した顔をした。

「え、跡継ぎの皇子が?!王、志心様にはご無事なのでしょうか。」

鵬が言うのに、維心は歩き出しながら鬱陶しそうに答えた。

「無事よ。とにかく言うた通りにせよ。明日の会合で詳しい事は話すゆえ。まだ沙汰が残っておるから、炎嘉と詰める。義心、参れ。後から鵬に報告してやれ。」

義心は、頭を下げた。

「は!」

そうして、困惑している臣下達を残して、維心は炎嘉と義心を連れて、奥の居間へと戻って行った。


どっかりと椅子に座ると、維心はため息をついた。

「…面倒ぞ。焔の言うように、昔ならすぐに滅しておった。だが、そういうわけにも行くまい。」

炎嘉は、目の前の椅子に座る。

義心は維心の横に膝をついた。

「まあ、ああして分離した方がきつい罰よ。確かに何をしたのか自覚させる事は重要だしな。ところで、どうするのだ。安峰はあんな感じだし王としては不適任ぞ。永峰はどんな感じかの。」

維心は、首を振った。

「詳しくは知らぬな。皇子の立ち合いの会に来ておるのを見たことはあるが、特に目立った所のない奴だった。だが、まだ成人したばかりであるし、誰かがしっかり教育すれば問題あるまい。とはいえ、あの宮の再建は厳しい。建て直さねばならぬのだぞ。罪人の宮を建て直す支援などせぬ。己でできるのなら良いがの。」

炎嘉は、険しい顔で頷く。

「そうであるな。やはり廃宮か。多くの路頭に迷う神が出るぞ。あちこち引き取り手を探さねばならぬ。蒼に丸投げはできぬしの。」

何万にもなるだろう。

そう考えると、再建させるのが一番良いのだが残った臣下の士気は著しく悪い。

新しい宮を建設する気力が湧くのだろうか。

「…とにかく、現状よ。」と、義心を見た。「この後帝羽と新月に何人残っていてどんな状況なのか調べさせよ。そもそも永峰は無事なのかも分からぬからな。」

義心は、頷いた。

「は。仰せの通りに。」

炎嘉は、言った。

「では、あの宮の事は後にして夏奈ぞ。やはり処刑か。」

維心は、頷いた。

「白虎の皇子が死んでおるからな。充分に己の罪を自覚したところで、処刑させる。問題は、その血族と涼弥よ。」

炎嘉は、険しい顔をした。

「無罪放免とはできまい。志夕は跡取りであったし、そこらの神とは違う。涼弥は気の毒だったとはいえ、己で決めて娶っておった妃であるのに、後の事は何も配慮できていなかった。むしろ丸投げであった。あれが狂うた原因でもある。罪がないとは言えぬ。」

維心は、頷いた。

「宮を取り上げる事はせぬが、自立したとしても永劫に上位には上げられぬ。ならば永峰が生きておったなら、あの宮を建てさせてはどうか?それぐらいはせぬことには、償いにならぬだろう。石はふんだんにある領地であるから、財がなくとも手を駆り出されるだけでそう重い罰ではあるまい。新しい宮はそう大きくなくとも良いからの。どうせ下位に陥落するのだから、形になれば良いのだ。」

炎嘉は、ポンと手を打った。

「そうよ、そうしようぞ。ならば永峰が居ったら宮は存続させられるし、はぐれの神を出さずに済む。涼弥には宮を建てさせ、宮の序列は下位の最下位…いや、最後から二番目に落とす。最下位は永峰の宮であろうしの。その中で、これからの評価が上がれば上がるが、永劫に三番目に上がる事はない。」と、あ、と、何かに気付いた顔をした。「…となると、麗羅は娶れぬな。それも運命ぞ。旭が樹伊を気に入ったらしく、あっちに行かせたいような事を言うておったし。」

維心は、頷く。

「維月が何か言うておったが、結局は育った環境が違うと上手く行かぬようになるものよ。涼弥では、旭の皇女を何不自由なく世話はできぬ。夏奈を上手く扱えなんだのだから、もっと上の宮の皇女など無理よ。侍女10人で文句を言うておったのだろう?旭の皇女なら15人はおるのではないのか?」

炎嘉は、頷く。

「それでなくとも大切にしておる皇女であるからの。確かにそれぐらいは付けておるだろうて。主には30人で、維月は25人であろう?」

維心は、頷いた。

「常思うのだが、維月も言うように多すぎる。そんなに要らぬのだ。見えておらぬが常時維月と我の侍女が40人はこの居間を囲んで待機しておるからな。仕切り布を避けたらずらりと並んでおるわ。」

炎嘉は、ため息をついた。

「我には20人よ。もっと置けと開がうるそう申すが、要らぬ。とはいえ臣下にも稼ぐ場所が要るゆえな。ここには侍女が余るほど居るのだし、仕方がない事よ。」と、続けた。「して?子はどうする。涼と、涼夏という皇子皇女が居るはずよ。」

維心は、息をついた。

「それらに罪は無いのは分かっておるが、神世が納得せぬからな。特に皇子は、次の王座に就くだろう。罪人の子に王座に就かせるわけには行かぬ。とはいえ、どうしたものか。宮が地に落ちるゆえ、恐らく臣下からの心象も悪うなるゆえそれらも宮で残っても良い事はあるまい。そんな女の血を引くのだと言われ続けようからな。ま、我らが何か言わずでも、恐らく涼弥が宮を出そうとするだろうが。」

炎嘉は、頷いた。

「だろうの。どうする?涼弥に一任するか。」

維心は、考えた末に頷いた。

「…そうであるな。我が子を殺しはせぬだろう。こちらも処刑以外でそちらで沙汰を下せと申しておく。後の事は、蒼に相談して考えるとしよう。仮に宮を出されたとしても、元は王族であるから使えるはずだ。志心も子にまで恨みはあるまい。夏奈と面識があったならこの限りではないが、子があの面倒な気を出さぬ限りは気取りもせぬだろうし。」

炎嘉は、また頷いた。

「幸い、二人共に涼弥に似ておるのだ。皇女の髪の色は夏奈であるが、主も言うように志心と夏奈は面識がないゆえ大丈夫だろう。帰りの輿の中から十六夜に言うておくわ。蒼に伝わるだろうぞ。」

維心は、頷いてため息をついた。

これで粗方終わりか。

しかし、炎嘉が言った。

「して、清は誠に良いの?佳織は勝手に気を利用されただけであるし、問題なかろう。」

維心は、炎嘉を見た。

「言うたようにあれには罪はないとする。犠牲にされただけよ。あちこち沙汰を下しておったらそれに繋がる全てが被害を被るのだ。陸も、となると旭に示しがつかぬからな。」

炎嘉がならばと立ち上がろうとすると、義心が言った。

「あ、いやしばらく。」炎嘉は、また座り直した。「この機会にご報告しておくべきかと思う事がございます。」

維心は、義心を見た。

「申せ。」

義心は、頷いた。

「は。陸様でありますが、妃の愛羅様がご懐妊なさっておいでということもあり、毎日滞りなく幸福にご生活なさっておいでです。傘下の宮にも指示が行き渡り、塔矢様の次に円滑に移行して行かれておるご様子。」

炎嘉が言った。

「それは良い事だが、何故に今ぞ。」

維心が、言った。

「何か問題があるのだな。」

義心は、頷く。

「は。陸様が行なっておられるのは、これまでと変わらぬ業務。傘下の宮の采配は、皇子の迅様と臣下が考えて詰めて全て担っておられまする。」

維心が、考え込むような顔をした。

炎嘉は、言った。

「確かに陸が関わっておらぬのは困るが、皇子が優秀なら問題あるまい。次に代替わりしたらそれが回すのだからの。母は知らぬが、優秀な皇子なのだろう?」

義心は、また頷いた。

「は。大変にものを知った方であるようで。見ておりましても大局を見てものを決められる下位の王族とは思えぬお考えの持ち主で。どなたに教わったのか、最上位の王のようなものの見方をなさいます。勉強家であられるようで、書庫にはよく通われておりますな。」

炎嘉は、言った。

「そういえば炎託が、迅を書庫に入れて良いかとよく聞いて来るわ。あれらは時々立ち合いなどで顔を合わせるようだの。」

義心は、知っていたようで言った。

「そういったことで、迅様には宮を回して行けるだけの力は充分におありであろうかと。」

炎嘉は、顔をしかめた。

「だから何ぞ。何が問題よ。」

「愛羅の腹の子ぞ。」維心が言うのに、炎嘉は驚いた顔をした。「陸は恐らく、母を公表もできぬ迅より愛羅の子を王座に就けようとするはずぞ。気の大きさも旭が混じるのだからそれなりになろうが。」

義心は、維心に頷いた。

「は。我もそのように。涼弥様とのお話の中で、そういったお考えであるのを聞いておりまする。」

だからこの先が、問題ではないかと義心は言っているのだ。

炎嘉は、面倒そうにため息をついた。

「…頭に入れておくわ。とりあえず、今回の事を処理するのが先ぞ。ではな、維心。我は帰る。我も志心の宮に悔みを送らねばならぬ。志心はそれどころではないだろうがの…誰ぞ居ったらあれも少しはマシであろうに。我にはあの折、主が送ってくれた維月が居ったゆえなあ。」

維心は、それを聞いてまたため息をついた。

だが、維月も今は碧黎に世話をされている状態だ。

少しでも、夏奈と同調していた気が残っていたら、志心が面倒な反応を起こすことも考えられる。

炎嘉は、重い足取りで、維心の居間を出て帰って行ったのだった。

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