動向は
蒼は、早朝に先触れを出して龍の宮に訪れた。
維心は、維月がまだ帰っていないのでもう起きていて、居間へ出て来て待っていてくれた。
相変わらずスッキリと美しい姿に見とれてから、蒼は頭を下げた。
「蒼。よう来たの。」
蒼は、顔を上げた。
「朝早くから申し訳ありません、維心様。維月は元気なので、午後にはこちらに帰れそうなんですけど、先にお話し中しておきたくて。」
維心は、頷いた。
「良い。あれに何でもかんでも聞かせると、時に面倒なのだとわかったわ。同情するのも良し悪しよな。座るがよい。」
蒼は、維心の前に腰掛けた。
そして、本題に入った。
「あの、十六夜が炎嘉様から聞いたと言って。涼弥の宮の皇子皇女なんですけど。」
維心は、困ったような顔をした。
「すまぬの。主にばかりと思うたが、他に行かせる場所がない。宮に居ても肩身が狭いだろうし、涼を王座に就かせるわけには行かなくなったからの。」
蒼は、首を振った。
「良いんですよ、だって皇子皇女なら、ある程度躾はされてるから受け入れも面倒がないし。軍も即戦力だから助かると嘉韻も言ってたぐらいです。なので、十六夜が昨夜二人と直接話して来たみたいで。二人とも、月の宮に来たいと言ってるし、多分今日辺り出て来ると思います。」
維心は、頷いた。
「朝から鵬に書状を書かせて義心と帝羽に持って行かせた。今頃は沙汰を知っておる頃よ。なに、殺しはできぬ。我が処刑以外でと申したしな。それを違える事は、破滅だと涼弥は知っておるゆえ。自暴自棄にならぬかと、そこだけ案じておるのだ。なので、義心を行かせた。仮に涼弥がおかしな動きをしたら、斬る許可も与えてある。なので二人は主の宮に行くだろう。」
そもそもが義心が来て逆らえるほどの力を持つ神など、あの辺りには居ない。
蒼は、ホッとして頷いた。
「良かった。涼弥に沙汰を一任したって聞いたので、もしかしたらと案じていたんです。じゃあ、あの二人はそれで良いとして、あの、迅をご存知ですか?」
維心は、当然のように頷いた。
「知っておる。優秀らしいな。義心が言うておった。」
蒼は、頷きながらもどこから話そうかと悩んでいるようだ。
そして、少し口をつぐんでから、続けた。
「あの…十六夜があの辺りをずっとここ最近見てたので、オレもあの辺りの事情には詳しいんです。愛羅殿の腹の子が、男だったのはご存知ですか?」
維心は、眉を跳ね上げた。
どうやら、知らなかったらしい。
「…男だったか。」
維心は、それだけでいろいろ察したらしく、険しい顔になった。
蒼は、頷いた。
「そうなんですよ。昨夜あの二人に話し掛けた時に、密かに迅と会っていたそうで。だから十六夜は迅と話したんですけど、父親は腹の子が男だったらその子に跡を継がせると明言しているらしくて、昨夜それがわかったところだったみたいで。迅は、このままでは宮が割れるので、恐らく自分は消されるだろうと。だから、宮を出たいと言うんです。月の宮に来たいみたいで…でも、十六夜もさすがに気持ちは分かっても、その場で決められないから、返事を保留にしたそうです。どうしたら良いでしょうか?別にオレは、迅は優秀だと十六夜から聞いてるし良いんですけど、何かややこしいことになりませんか?」
維心は、ため息をついた。
昨日、義心が言っていたことだ。
確かにあの陸の様子だと、愛羅可愛さにその子を王座にとなるだろうし、それを成すためには、公表できない母から生まれた、迅を密かに排除することも厭わないだろう。
義心が言うぐらいなのだから、迅は本当に優秀な神なのだ。
臣下がまだ先も分からぬ生まれたての赤子よりも、優秀だと分かっている迅を王座にと思うのは当然だ。
迅が言うように、宮は真っ二つになり、陸が強硬手段に出る可能性は高かった。
維心は、額に手を置いた。
「…そうであるな…我としては、内政干渉になるので誰を王座にとまで、口出しはできぬ。罪人の子を王座に就かせる事は阻止できても、その赤子より迅にせよとは言えぬのよ。まあ、迅は宮を出たいと云うぐらいであるから、恐らく王座に未練はないのだろう。そこは賢いやつだとわかる。そもそもが旭の皇女を娶らせた時に、こうなるだろう事は我らにもうっすら分かってはいたのだ。責任は感じておるから、力になってはやりたいが…今、陸はすぐには迅を手放しまい?あの辺りを知っておるなら分かろう。迅は、今回の再編成で持つことになる、傘下の統率を一手に引き受けておるのだろうが。あれがいきなり居らぬようになれば、途端に困るはずよ。陸としては、恐らく赤子が育って迅から学び、力を付けたところでと考えているのではと思うがな。」
蒼は、勝手だなと思った。
利用するだけ利用して、後はお払い箱なんて自分なら耐えられない。
「…そんな勝手な。多分、迅はそれが嫌だから宮を出たいと思ってるんだと思うんです。赤子が悪いのではないのに…どうしたら良いんでしょうか。」
維心は、うーんと首を傾げた。
「…そうよな。迅はいったい誰の子なのだ?まずはそこからよ。もし地位のある宮の皇女であったら、たまにあるのだ。隠れて生んで、その事実は隠して父に託し、皇女は他に嫁がせる。下位の宮の王になど嫁がせられぬからの。我が話してその宮の王から圧力を掛けさせる事もできる。もしくは、迅に旭より上の序列の皇女を娶らせる。まあ、最上位だわな。そうしたら、愛羅より地位のある皇女であるから、勝手な事はできぬ。そんなところか。」
蒼は、顔をしかめた。
最上位で今、皇女が居るのは蒼だけ。
杏奈との間に納弥の後に生まれた子だが、まだ百歳だ。
だが、杏奈の子なのでコンドル、鷹なのだ。
鷹は鷹しか生まないので、嫁がせるわけにはいかないし、そんな政略で娘を嫁がせたくはない。
同じ理由で鷹の箔炎の皇女も無理だ。
次は二番目の上位、翠明、公明、樹伊だが、全員皇女は居る。
樹伊には玉貴との間に子が多いし、最近生まれたのも皇女。
翠明にも綾との間に皇女が生まれているが、まだ幼い。
公明のところにも、桜との間に皇女が居て、みんな適齢期ではないが、それでも、ギリギリ縁談もあり得る位置だった。
「…だからって、みんな嫁がせようと思いますでしょうか。」蒼は、顔をしかめた。「みんなかなり若いし、最上位から三番目の宮に。しかもゴタゴタしてるのに。」
維心は、頷いた。
「そうよ。なので難しいのだ。炎嘉も頭を抱えような。己が勧めた婚姻でこれであるから。あれのところは恵麻の他に炎耀の皇女がまだ居るが、どうであろうの。逆に恵麻のように気の強い皇女であった方が、今は需要がありそうよ。」
どうしたら良いのか。
蒼が唸っていると、維心は言った。
「…ならば、やはり迅が誠に誰の子なのか、知る必要があろうな。あれはそこそこ気が強いゆえ、恐らく力のある神の子のはずなのだ。陸と比べても、成人したてにしては大きく見える。そこを調べる事から始める方が良いな。」
蒼は、困った顔をして維心を見上げた。
「でも…陸に聞くよりないんじゃないでしょうか。迅だってそんな生まれた時のことなんか知らないでしょうし、陸しか知らない事なんですよ。臣下も…知っていたとして言うと思いますか?」
維心は、ため息をついた。
「…仕方がない。こうなったら此度の事で、あれももしや自分にまで沙汰がと思うて怯えておるだろうし、炎嘉に話してみるわ。この際、何かあったら宮の格は上げられぬし、迅の事にしても神世の倣いと黙認して来たが真実誰の子で公表しないのか、そこのところを密かに詰めてみようぞ。それで、あれが迅はとても言えぬ相手の子であるから、宮を出すと申すのなら主の所へ行けば良いし、言ったなら言ったで相手次第で考える。そも、あれだって上手く佳織をいなせなかったのが問題なのだ。夏奈が祟り神になる力をつけたのも、結局のところ佳織と共感してあの力を吸収できなければ成せなかったことであるからな。旭の皇女を娶っておるので沙汰を下さぬでおったが、よう考えたら涼弥が重い罰を被っておるのに、あれに何も無しなのは不公平。今一度考えて、また知らせる。」
蒼は、頷いて立ち上がった。
「よろしくお願い致します。では、お忙しいでしょうしもうお暇します。また月から見ておりますので。」
維心は、頷いた。
「何かあったら知らせるが良い。」
そうして、蒼は帰って行った。
維心は面倒は続くものよと鵬を呼んで、炎嘉に書状を書かせたのだった。




