第19話 君を生かす理由
総攻撃まで、あと四時間。
既に太陽は沈み、訓練兵舎の周囲は静謐な暗闇に包まれている。その兵舎の三階の廊下を、アナトはたった一人で所在なく歩いていた。近くには、今は護衛の戦兵はいない。彼らには、もうまもなく始まる戦いのために、手筈を整えてもらっているからだ。結局アイリスたちも巻き込んでしまったが、事情が事情だ。アナト一人の手では、どうしてもできそうになかったのだ。
兵団内に紛れ込んでいた内通者。そう目される人物を捕縛することが。
ファランとともに駆けずり回っているうちに見つけた綻び。それを紐解くと、一人の怪しげな人物が浮上してきたのだ。
計画を入念に話し合い、できる限りの準備も整えている。ゆえにアナトは計画の決行まで、こうして兵舎でなんとはなく時間を潰しているだけだ。本当は、ギリギリまで細心の注意を払って計画の粗を探した方がいいのかもしれない。
ただ、今は、少し気持ちを整理する時間が欲しかった。
ローグが、自分の両親を殺した張本人だった。その事実は、聞いた直後こそアナトの激情を震わせたものの、今はその波は何処かへと消え去ってしまっている。思ったよりもショックを引きずっていない自分に、アナト自身も少し驚いているくらいだ。
だが、その理由は、なんとなく分かっている。
ローグが、ともに十年以上を過ごしたにも関わらず、頑なにアナトに淡白な態度を取り続けていたわけが、ようやく理解できたからだ。
おそらく、ローグは分かっていたのだ。自分がアナトに関わり過ぎれば、将来アナトの心を致命的に傷つける日が来ることを。
だから、万が一にも自分を慕うことのないよう、あえて無関心な態度を貫き続けた。
それに気づいたアナトの口から、掠れた呟きが虚空へと漏れる。
「ばかやろう……」
だとしたら、それはなんて浅はかな考えだったのか。それほど長い時間一つ屋根の下で暮らして、何一つ生まれないことなど有りえやしないのに。
集落で過ごしていた時、アナトはいつも、ここではないどこかへ行きたかった。世界の全てはアナトに無関心で、それは自分が間違ってこの世界に迷い込んだからなのだと夢想していた。何か途方もなく大きなものと戦うことができれば、誰かが自分を許容してくれるのだと思いたかったのだ。
それは、なんて滑稽な誤りだったのだろう。自分のことを気にかけてくれていた人物は、ずっとすぐ側にいたというのに。自分の生は、誰からも望まれないものなどではなかったのだ。
自分に生き方を教えてくれた師が、両親の仇だった。その事実に悲嘆にくれてもいいはずなのに、矛盾した柔らかな感情がアナトの心を満たしている。
ローグのことを、赦せるわけではない。ただ、今だけは、その事実に満足しておきたかった。
そこで、ふと、疑問が頭を掠める。
では、今は?
自分は、どうして戦うのだろう。
イルシアと出会って、世界を知って、自分の存在を認めてくれる人たちができた。この世界に生まれてきたのも、決して間違いなどではなかった。
もう、アナトは十分すぎるほどに満たされている。
もし、あの小さな村に戻ってイルシアと共に素朴に暮らしていくことができれば、それはどれだけ幸福なことだろうか。
それなのに、こうして戦争を止めるなんて大それた考えを実行するために、なぜ自分は刀を握り続けるのだろう。
守護者が死ねば自分も死ぬ。だからこそ彼女を放っておけないというのはもちろんだ。なんの意義も持たぬまま死ぬはずだったアナトを救ってくれた恩も感じている。その眩しすぎる在り方に、心のどこかで憧れているからかもしれない。だが、そのどれもが、アナトがイルシアを助けたい理由に、どこかそぐわない気がしていた。
計画開始の予定時刻まで、もうほとんど時間は残されていない。それでも、この僅かな時間で、アナトはどうしてもその理由を知っておきたかった。もう間もなく向かう戦いの相手を前にして、刃を鈍らせることなどしたくなかった。
「『特殊共感』」
エリンに頼んで『拡大共感』を使わせてもらってから、大体丸一日が経過している。単発で『拡大共感』を発動した場合、その持続時間はせいぜい一日弱だ。
そのため、今アナトの視覚に共有される景色は、守護者のものでしかあり得ない。
瞳に映るのは、手入れの行き届いた庭園の並木と、その下に並べられた花壇に咲き誇る、色とりどりの花々。そして、雲ひとつない闇夜に浮かぶ、月や星々の煌めき。
その様子から、導き出される場所の候補は一つしかない。
アナトは黙って《リンク》を切ると、その場所を目指して、階下へと続く階段へと足を向けた。
数分後、アナトは訓練兵舎内にある中庭へと辿り着いた。基本的には殺風景なきらいのある訓練兵舎だが、日々の鍛錬で疲弊した訓練兵の憩いの場として、このような空間が設けられている。
中央の道を挟み込むようにして花壇が設置され、初夏に咲く花々が、その鮮やかな花弁を夜風に涼やかに揺らしている。その道の最奥に設置された、木製の何の変哲もない簡素なベンチ。そこに、疲れを滲ませた顔で、イルシアが背中を預けていた。
公宮に足を運んでいたためか、身に纏っているのはいつもの鮮紅色の兵服ではなく、淡い紫紺のドレスだ。大人びたその意匠は、彼女の水色の髪によく映えていて、場違いな憧憬すら抱かせるほどだ。普段彼女がつけている髪留めさえも今は外されており、その美しい髪の一房が夜風にくすぐられ、中空に舞う。
その様子は、月明かりに照らし出される庭園に、さらに幻想的な雰囲気を醸し出していた。
しかし、だからだろうか。イルシアの姿は、今まで見たことがないほどに、どこか弱々しかった。
イルシアから目を離すことができないまま、アナトはゆっくりとベンチに続く花壇の間の道を進む。花々から発される独特の香りが、アナトの鼻腔を優しくくすぐった。吹き散らされた花弁が、何枚かアナトの視線の先を横切っていく。
しかし、その明媚な風景も長くは続かず、アナトはイルシアが腰をかけているベンチの目の前に到達する。
イルシアも、アナトがやってきたことには気づいているだろう。
『特殊共感』で、アナトが彼女の居場所を突き止めようとしていたことも。
だが、イルシアは、視線をアナトに合わせようとはせず、地面の上へ落としたままだ。
その行為を咎めることなく、アナトは黙したまま、彼女の右隣に腰を下ろした。
しばしの沈黙が、二人のいる中庭を包む。
目の下にできた仄かな隈。憔悴しきった様子のイルシアを見て、アナトはようやく静かな声で彼女に問いかけた。
「お前、寝てないんじゃないのか」
今度は、沈黙で返されることはなかった。視線の位置を変えないまま、イルシアは勤めて普段と変わらぬ声で、
「平気だよ、この程度で音をあげるわけにいかないもの」
それでもそこには、隠しようのない痛みが透けて見えていた。アナトと離れていたこの一日半、彼女がどこで何をしていたか、アナトは知らない。だが、彼女のことだ。アナトに負担をかけぬよう、二日間で勝負をつけるために、きっと無茶な奔走をしたのだろう。そして、その信念を、完膚なきまでにへし折られた。
だが、彼女に投げ出すことは許されない。それが、イルシア・シュルツガルトという少女の根幹を支える願いなのだから。そして、優しすぎる彼女は、その痛みを、誰かに分け合ってもらうことさえ簡単にはできない。
嘆息し、アナトは下ろしていた左腕を持ち上げ、手を伸ばす。
アナトは、どうしようもなく普通の人間だ。ローグと暮らしていた時は、愛情もなかったが、心を焼かれるような痛みを与えられることもなかった。だが、今はそうではない。
この世界で生きるのは、辛く苦しいのだということを、アナトは三年前の炎の夜に知った。そして、その苦悩を分け合う誰かがいれば、その苦しみはいくらか和らぐのだということも。
アナトは一人で全てを抱え切れるほど、強い人間ではない。痛みを分け合える誰かがいなければ、きっと重みに潰されて倒れてしまう。だが、その重みを渡した分だけ、誰かの重しを請け負うことくらいならできるはずだ。
アナトは伸ばした左腕で優しくイルシアの肩を引き寄せ、その華奢な体を、そっと己の左肩に凭せかけた。
一瞬驚くように身を固くしたイルシア。だが、すぐにその体から力が抜ける。
触れ合った部分を通して伝わるその感覚に、アナトは『特殊共感』でも発動させているかのような錯覚を覚えた。心臓の鼓動も、微かな息遣いも、触れ合うだけで、これほど近く感じる。
「普段、命なんてクソ重いもんをお前に預けてるんだ。せめて心ぐらい、俺にも背負わせてくれ」
左肩に伝わる温かな感触。そちらに顔を向けることなく、アナトは縋るような声で願いを口にした。
それはきっと、あまりにも遠い聖女への、みっともない懇願だったのかもしれない。
だが、その言葉に、イルシアは僅かに体を寄せて、
「うん、そうだね...、少し、疲れたかも」
初めて聞く、弱音だった。
あまりにも隔絶していると思っていたその距離が、今はこんなにも近い。
イルシアは、聖女などではない。そう在ろうとする、自分と歳の違わない、一人の少女なのだ。
そんなことに気づけないで、三年も踏み込むことを躊躇してしまった。
「なぁ、どうして、あの日、俺を助けたんだ?お前は何も事情を知らなくて、俺は見ず知らずの他人だった」
ずっと、聞くことを無意識に避けていた。その疑問を、アナトは真っ直ぐにイルシアにぶつける。
「関われば、確実に厄介ごとに巻き込まれる。そんな奴を、どうして《リンク》の契約を結んでまで助けようとしたんだよ」
「……うまく、説明できないんだけど。きみが、あまりにも辛そうな顔をしてたから、どうしても放っておけなかったの」
それは、ある意味予想を裏切らない答えだった。彼女は、困っている人を放っておくことができない性格なのだから。
だが、その言葉に、アナトは少し違った感情を見出す。あの日のイルシアを駆り立てたのは、おそらく、それだけではなかったはずだ。
その答えを探すかのように瞳を震わせ、意を決したようにイルシアは語り出した。
「今まで、話したことなかったよね。私が、どうして公宮を離れたか」
「そう、だな。俺は、詳しい話は何も知らない」
かつて、聡明なイルシアは、次代の公王と目されていたほどだったと聞いている。そんな彼女が、どうして王位継承権を放棄して野に下ったのか、アナトはその理由を問うたことはなかった。それはアナトが、侵してはならない領域だと、勝手な線引きをしていたせいだ。だが今ならば、その境界を踏み越えていけるような気がして。
アナトが首肯して話を促すと、イルシアは依然としてアナトと視線を合わせぬまま、ゆっくりと口を開く。
「小さい頃ね、道で行き倒れてる女の子を見つけたの。同い年くらいだったかな。その時馬車に乗っていた私は、思わず御者の人に頼んで、彼女を家に連れ帰ったの」
語られ始めたのは、イルシアの過去。初めて聞くその話に、アナトは黙って耳を傾ける。口を挟めば、彼女の心が挫けてしまうような予感がしたからだ。
「目を覚ました彼女は、ゾーイと名乗ったわ。それで、行くあてを無くしたから、侍女として雇って欲しいと言ってきた。それがあんまりにも必死そうだったから、私はすぐにお父様に頼んで、彼女を自分の側付きにしてもらったわ。ゾーイは頑張り屋さんで、すぐに仕事を覚えて一生懸命働いてくれたの」
宙を眺めるイルシアの表情は、どこか柔らかい。その思い出は、きっと彼女の中で、幸福な時間だったのだろう。
強い風が吹いて、イルシアの水色の髪が、澄んだ水のように宵闇の中を流れる。一陣の風が去り、イルシアの穏やかな声が、真っ直ぐにアナトの耳に届いてくる。
「ゾーイが来てから一年くらいして、毎年通り、建国記念式典のパレードが開かれることになったの。その時、普段は全然わがままなんて言わないゾーイが、必死に連れて行って欲しい、と私に頼んできたの。もちろん、私はOKしたわ。式典当日、私はパレードがよく見える位置に座っていた。その横に、ゾーイも控えていたの」
建国記念式典。アナトは見たことがないが、その催しには聞き覚えがあった。それは、イルシアの母、シュルツガルト公妃が、何者かの凶行によって命を奪われた場所。
それに思い至り、アナトはこの追憶が行き着く先を直感した。
「パレードが進んで、お母様が乗っていらっしゃった馬車が目の前に来た時、突然ゾーイが前に飛び出していったの。止める暇もなかったわ。ゾーイがポケットに忍ばせていた晶石を投げつけて、爆発が起きた」
その痛ましい出来事を語るイルシアの口調は、どこまでも穏やかだった。些かの湿っぽさも含まず、それでいて、無機質さを微塵も感じさせない、そんな神秘的な雰囲気を帯びていた。
「何が起きたのか、私は全く理解できなかった。爆風が晴れた時、思わず私は、爆発に巻き込まれて倒れているゾーイに駆け寄ったの。混乱していた私は、『どうして?』って、そう聞くことしかできなかった。それにゾーイは静かに笑って、こう答えたの。『この救いようのない世界で、それでも最期に貴女に会えて幸せでした』って」
それは、なんて残酷な遺言だったのだろう。
イルシアが母を亡くしたのは、彼女が十歳の時だったはずだ。そのイルシアと同い年くらいだったゾーイという少女は、短い人生で、一体どれほどの地獄を味わっていたのか。
そして、その少女の言葉は、きっとイルシアに、解けない呪いをかけたのだ。
信頼し、信頼されていた少女に、手酷く裏切られながら、それでも幸福を囁かれて。
たぶん、イルシアは、憎しみという感情を、致命的なまでに失ってしまったのだ。
「そのまま放っておけば、ゾーイの命は保たないことは分かったわ。《リンク》を使えば、命を助けられることも。でも、私は動けなかった。ゾーイの言葉が頭の中をぐるぐる回って、それ以外のことは、全部意識から弾かれてしまった。私が呆然としている間に、ゾーイはもう、二度と動かなくなってしまっていたわ」
初めて、イルシアの声が僅かに詰まった。そのイルシアの髪を、アナトは左手で優しく撫でる。その手から伝わる熱に勇気をもらったのか、イルシアは再び口を開いた。
「そのあと、ゾーイが部屋に残していた手紙から、彼女がルシェナから遣わされた刺客だったことがわかった。でも、あの時のゾーイの言葉の意味を、私はいつまで経っても理解できなかった。だから、私は公宮を出たの」
母を死なせた下手人を自ら招き入れてしまった罪悪感や責任感は、もちろんあっただろう。だが、それ以上に、彼女は知りたかったのだ。自分の見えていない何かを見ていたゾーイの世界を。この世界に絶望して、それでも最期に幸福を見つけた彼女の生き様を。
そこまで語り終えて、漸くこちらを向いたイルシアの翠玉の瞳が、アナトの血赤の双眸に写りこんだ。
「あの日道で倒れていたきみの姿が、その時のゾーイと重なって見えた。それで、今度は、間違わないと思った」
力強く、放たれた言葉。おそらくそれは、後悔から来る偽善などではなかったはずだ。
彼女はきっと、どうしても死なせるわけにはいかなかったのだ。生まれて初めての明確な悪意に晒されて、ゾーイと同じように、世界を見誤って命を落とそうとしていたアナトを。
月光を受けて煌めくイルシアの瞳を見つめ、アナトも視線を逸らさない。
「その選択は正しかったのか?」
真っ直ぐな問いかけ。
この問いに対する回答が、きっと教えてくれるだろう。
イルシアが平和を望む理由を。そして、そんな彼女を、アナトが助けたいと思う理由を。
「わかんないよ。でも、三年間きみと過ごしてきて、わかったことがたくさんある。人と話すのがちょっと苦手なこと。骨の多い魚を食べるのが下手くそなこと。困っている人がいたら、迷わず助けてあげようとすること。普段そっけなくても、大事な時はいつも一緒に考えようとしてくれること」
予想外の言葉に、思わずアナトの頬が薄く染まる。人から褒められることもあまりない経験なので、なぜだか無性に気恥ずかしい。そんなアナトの反応を見て、イルシアは少しおかしそうに微笑んだ。
「それに、私はまだまだアナトのことを知らない。もっときみのことを知りたい。もっときみにたくさんのことを伝えたい。もっと、きみに触れたい…。そう思えた。だから、それは絶対に、間違いなんかじゃない」
一度、イルシアはそこで言葉を切る。疲弊した体から伝わる弱々しさは、依然として彼女から消えていない。しかし、その瞳の奥には、鮮烈な炎を宿していた。
「それは、きっときみだけじゃなくて、世界中の誰もがそう。悪魔なんていなくて、みんな心をもった普通の人間なんだよ。それを理解しようとする努力を、諦めちゃいけないと思う。そうすれば、あの日のゾーイが伝えたかったことを、いつか私も知れるような気がするの」
そう断じたイルシアの言葉が、アナトの心を震わせる。
人を憎まない。憎めない。だからこそ、彼女は平和という途方もない夢を追い求める。それはこの上なく尊い在り方だ。だが、それは人の身にはあまりに過ぎた願い。その矛盾はきっと彼女の心に、棘だらけの蔦のように絡み付いて、傷つけ続けている。イルシアは、きっとまだ、母親のために泣けていないのだ。
そう気づいた瞬間に自然と体が動いて、アナトはイルシアの体を、その両腕で優しく抱きしめていた。
アナトは、赤ん坊のころに両親を失った。両親の顔も、声も、もう記憶のどこにも残っていない。
ローグはアナトに関わることを拒み、世界の大半はアナトに無関心だった。だから、誰かとこれほど強く触れ合うことは、今までの人生にない経験だった。
生まれて初めて感じる人肌の温もりが、狂おしいほどに愛しかった。ああ、無機質だと思っていた世界が、たったこれだけのことで、こんなにも鮮やかに染まるのか。
理解した。これが、アナトが彼女を救いたいと願う、その理由に対する答えなのだと。
胸のあたりに、イルシアの温かな吐息を感じる。そのまま顔を上向けることなく、彼女は吐息と共に言葉を絞り出して、
「いつか、来るのかな。世界中の人が、みんな相手のことを理解して笑い合えるような日が」
「来るさ。お前がそれを願う限り、俺もそれを信じてやる」
そう言って、アナトはさらにイルシアを抱きしめる腕に力を込めた。この世界で、お前は孤独ではないのだと、そう伝えてやりたかった。他ならぬアナトに、彼女がそれを教えてくれたのだから。
「だから、今は、少しだけ休め」
そのアナトの言葉に、イルシアの体から力が抜けた。
暫しして体を離すと、イルシアは目を閉じて眠っている。張り詰めていた緊張の糸が、ようやく切れたのだろう。
イルシアをベンチに座らせ、アナトは彼女の肩に、自分の兵服の上着をかけてやった。
これで、僅かな時間だが、彼女を休ませてやることができるはずだ。
「責任は、取らないとな」
奔走する彼女の時間を、アナトが奪ってのけたのだ。だから、アナトには、その時間をイルシアに返す義務がある。
ーーーー総攻撃が行われるまで、あと三時間。
だが、舞台は整えた。そして、戦う意味も、もうこれ以上見失わない。その決意を胸に、アナトはこの場にいない倒すべき敵に向けて、聞こえるはずのない宣戦布告をする。
「決着をつけよう」
さぁ、これが、彼女の夢を現実のものとするための第一歩だ。
いよいよ、次回から第一章の解決編に入ります!ですが、十万字を突破したところで、ついにストックに追いつかれました…。ということで、ここからは若干投稿ペースを毎日更新から減らしたいと思います。ただ、第一章が終わるまではそれなりの投稿頻度を保っていくつもりです。
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