第14話 リスは名剣に挑む
雲一つない、抜けるような青空。その燦然たる太陽の光が、開会前の熱気に沸く競技場のボルテージを一段と上昇させていく。
予想を遙かに超える観衆の多さに、兵団関係者に用意された席に座るアナトも緊張を隠せない。
「まさか、こんなに一般客が集まるとはな。いくら他国の重鎮を招いてるのが物珍しいとはいえ、単なる訓練兵の力比べだぞ」
そう言ってアナトが視線を向けるのは、競技場の中央の上の方に設られたロイヤルボックスに座している面々だ。
ノルザークの輝石の採掘と精製を一手に担う、ダッケルグ商工会の会長イブラナ・ダッケルグ、数年前のノルザーク国内の反乱をほぼ独力で平定したという、伝説に名高い『救国の英雄』ソルグ・グリンスキー、シュルツガルト最強の戦士と謳われる『赫き戦神』カイル・サークマンなど、少し見ただけでも錚々たる面子が集まっている。
そして、最も注目すべきは、スカラード共和国の頭首、『聖石の巫女』シェナが直々にやってきているという事実だ。
農業大国として有名なスカラード共和国は、『聖石の巫女』と呼ばれる20代ほどの女性君主が、十数年ごとに交代してその役目を務めるという変わった国であることで有名だ。
『聖石の巫女』は代々シェナという名前を世襲すること、そして基本的にヴェールで顔を隠していることから、実は同じ人物が役目を継ぎ続けているのではないかという噂もまことしやかに囁かれている。
流石に150年以上も生きられる人間などいるはずがないので都市伝説の類だが。
その横に並ぶ、現シュルツガルト公国公王ザルハルト・シュルツガルトと合わせると、さながら国のトップによる会談場にでも迷い込んだかのような錯覚を覚えてしまう。
こんな最高権力や最高戦力がゴロゴロ集まっているこの大会で、もし敵が行動を起こせるとしたら、それは相当に綿密な計画を立ててきたか、無謀の成せる技かのどちらかしかありえないだろう。
ちなみに、アナトがいるのは兵団関係者席の中でも前方に突出した観覧席であり、ロイヤルボックスに近くかなり見やすい席に陣取っている。ここにはアナトだけではなく、『耳』のエリン、セレーナ、護衛のレイモンドとアイリスの姿もある。
万が一に備えて『拡大共感』の能力者である彼女たちも守れるよう、こうして警戒をしやすい場所にまとめて集められているのだろう。それに、もし仮に自分たちが襲われようものなら、即座に上のロイヤルボックスから、ソルグやカイルといった化け物じみた実力者たちが助太刀に入ってくれる手筈が整えられているに違いない。
とはいえ、会場に詰めかけているのはこうした天上人たちだけではなく、普通の一般市民も含まれる。あくまで囮作戦を仕掛けようとしているのだから間口を開けるのは道理かもしれないが、まさかこんなに人が集まってくるとは、兵団側も予想外だったのではないだろうか。
「いや、十年近くもルシェナの圧政に耐えてきて、そこから一年近く戦争が続いているんだ。久しぶりに得られたちょっとした娯楽の機会に飛びつきたいと思うのは、そう不自然なことじゃないと思うけどね」
「兄ぃの言う通りなのです。実際、わたしもどんな試合が見られるのか、今からワクワクしてるのです」
レイモンドの意見を肯定するのは、目をキラキラと輝かせてあちこちに視線を飛ばしているアイリスだ。
彼女が戦兵になったのがいつ頃なのかはわからないが、おそらく女の子らしい遊びよりも、苛烈な戦闘に興味を持つような育ち方をしているとみえる。おしゃれなどに気を使う暇もなく成長すると、女子はみんなこんな風になってしまうものなのだろうか。
そんな疑問を抱いたアナトは、後ろの席で他愛のない話に花を咲かせている(といっても傍目から見ると独り言を言っているように見えてしまうのだが)少女二人に声を掛ける。
「エリン、セレーナ、お前たちも試合に興味あるのか?」
アナトの問いかけに二人は会話を中断し、視線をこちらに転換させる。
「うーん、ウチはあんましやね。技の凄さとかようわからんし、争い事は好きやないしなぁ。でもセレーナが見たいゆうし、ちょっとは気になるかなぁ」
「そうか。セレーナの方は...、言うまでもなさそうだな」
期待に溢れるセレーナの表情を見て、アナトは彼女がいかに試合を楽しみにしているかを察する。
セレーナもエリンと同じく争いを好むタチではないが、彼女は『拡大共感』の能力者であるだけでなく、取りまとめた情報を総合して、次にとるべき戦略の案を上層部へ提案する、という役割も任されている。その実力は、将来参謀としての働きを期待されているほどだ。セレーナの才覚もさることながら、彼女の考えを、表情だけで正確に読み取ることができるエリンがいなければ成し得ないことである。
ともかく、そのためにも強力な兵士一人がどれほどの力を発揮できるのか、明確に理解しておきたいということだろう。
セレーナの反応に頷いたアナト。それに対して、あ、とエリンが話を付け加える。
「でもウチ、アナとかリスっちの試合は楽しみにしてるんよ。リスっちの出番は、確かいっちゃん最初やったよね」
「そうだけど、俺たちにあんまり期待するなよ?二人とも相手が格上なんだ」
「あー、リスっちの相手、連隊長やったっけ。それはキビしそうやなあ」
ファランの相手が誰だったかを思い出して、エリンは納得したような表情になる。
「今回の試合、武器はなんでも好きなの使えばええんやろ?連隊長があの剣使うんやったら、リスっちに勝ち目あらへんのと違う?」
「まあ、イルシア以外、出場者は不死者ばかりだから、手加減する必要もないしな...」
基本的に戦場に立つのは不死者なので、リンクの契約を結ぶ際に、普通は強い方が不死者になることを選択する。故に、今回の大会に出てくるような面々はほとんどが不死者だ。
本気の戦闘でうっかり酷い傷を負わせてしまっても、後々若干の溝が生まれる程度しか問題がないので、武器について、特に制限は設けられていない。
ついでに、もし敵の侵入が明らかになった場合、少しでも武装しておいてもらった方がいいという思惑もあるのだろう。
そんな話をしていると、隣で対戦表に目を通していたレイモンドが顔を上げた。
「確かに彼女の朱霊剣は脅威だけど、あれは対多数、遠距離の敵に効果的なんだ。体一つですばしっこく動くファランにどれだけ効果的かはわからないんじゃないかな」
「そうなん?よぉわからんけど、リスっちには頑張って欲しいとこやね」
エリンが言葉を切ったところで、ちょうど場内に、壮年の男性の声が響き渡った。
「静粛に!」
その胴間声を聞いて、観衆たちの視線は一気に競技場の中心に立つ人物へと向かう。
声の主は、人でも殺しそうな鋭い三白眼を持つ、緑の髪を芝のように刈り込んだ男性。
キリルハイト兵団軍団長、グングニル・クランツだ。
アナトも訓練兵団の入団式の時に顔を見た程度の記憶しかないため、改めてクランツ軍団長の風貌を認識する。
軍団長の前には、複雑な文様の魔法陣が浮かんでいるが、これは拡声の魔法陣だろう。流石に軍団長といえども、この巨大な競技場全体に届くほどの声を出すことはできないため、魔法陣を通すことで声を増幅しているのである。
続けて、大きく息を吸った軍団長の口から言葉が発された。
「本日、遠路はるばるお越しくださった皆様には、心よりのお礼を申し上げさせていただきます。それではこれより、キリルハイト訓練兵団の訓練兵による武術大会を開催する!出場権を得た者は、己の良心に従い、正々堂々試合に挑むことを期待する!以上!」
開会の辞を簡潔に述べ、深々と一礼した軍団長は、堂々とした足取りで競技場の中央の縁に設られた審判用の台へと向かっていく。その姿に、会場全体から大きな拍手が巻き起こった。
アナトもそれに合わせて同じように拍手を送り、暫しして喧騒を取り戻した競技場の様子から視線を外して、眼下の試合場へと視線を向ける。
まだほとんど踏み荒らされていない場内の土は、足跡一つなく綺麗に整備されている。今日行われる十試合を終えた後には、もう原型を留めないほど踏み荒らされていることになるだろうが。
アナトの出場する第三試合まではまだ少しばかり間がある。敵がどう出てくるかも気がかりだが、そちらは意識しても緊張が募るだけなので思考の外に追いやる。決して警戒を怠るわけではないが、この厳戒態勢の中であまり派手な行動は起こせないだろう。
そう考えたアナトは、己の意識を、この場にいないイルシアとファランが対峙することとなる第一試合へと切り替える。
エリンが言っていたようにイルシアが負ける確率は極めて低いが、ファランも戦闘となると、普段の様子からは想像できない頭の回転の速さを発揮するのだ。
「なあ、レイモンド。どっちが勝つと思う?」
「ファランには悪いけど、まず間違いなく連隊長が勝つだろうね。もし番狂わせが起きたら、ファランにマロメ屋のチキンを一週間分くらいは買ってあげてもいい」
「なかなかハッキリ言うな。万一があるかもしれないだろ」
そういうアナトもイルシア贔屓で観戦するつもりなので、ファランも可哀想な男である。
ともあれ、アイリスやエリン、セレーナといった女子勢は軒並みファランを応援するらしいので、それで良しとしておいてほしい。
「とはいえ、ファランが型破りなのも事実だ。面白い試合が見られそうだとは思っているよ」
そうレイモンドが付け加えた時、野太い声が競技場の喧騒を切り裂いた。
「第一試合!キリルハイト訓練兵団連隊長、イルシア・シュルツガルト対、キリルハイト訓練兵団所属、ファラン!」
クランツ軍団長の号令に応じて、競技場の左側の入場門から、イルシアが姿を表す。その姿に、競技場がざわ、とどよめいた。
イルシアは、普段の鮮紅色の兵服ではなく、礼服に近い正規の軍装を身に纏っている。おそらく、他国の重鎮も集まる場で、対外的な印象を気にしたからだろう。その整えられた意匠は、ただでさえ優れた彼女の美貌を数割増しにしており、否応なく観衆の目を惹きつける。
イルシアは競技場の中央より少し左側で立ち止まり、腰に提げた剣に軽く手を当てた。あの細身の紅の剣こそが、イルシアが王家の人間であったことを示す名残―――、王家に代々受け継がれてきた名剣、『朱霊剣』だ。
しかし、一方で、イルシアの反対側、右側の入場門には、いつまで経っても人影が現れる様子がない。
その異常に、小首を傾げたエリンが言及する。
「ん?リスっちはどうしたん?出てきてへんみたいやけど」
「いや、あそこをよく見ろ」
アナトが指し示したのは、イルシアが立っている位置から5mほど前だ。よく目を凝らすと、栗色のふわふわの生き物が、とっとこと地面を駆けているのが確認できる。日の光にキラリと反射する様子から、口に小型のナイフを咥えていることがわかった。
間違いない。
ファランは、リス形態でイルシアに挑むつもりだ。
その魂胆を理解したレイモンドが、珍しく愉快そうに高らかな笑い声をあげる。
「あっはっは、ファランもやるじゃないか。間違いなく連隊長の意表は突いたね。まさかマロンで闘いにいくとは」
「意表を突くっていう問題じゃないだろ。あいつ、本気で勝てると思ってるのか?」
ファランの真意が掴めず、アナトはただただ困惑する。
しかし、特にその小さな対戦者に疑問を投げかけることなく、イルシアは剣の柄に手を添えて戦闘態勢に入っている。
その様子を認めたのか、軍団長は特に何も指摘することなく、高々と手を頭上に掲げた。
「それでは、試合、開始っ!」
会場全体に響き渡るような大声が、第一試合の開始を告げる。
その直後、凄まじい轟音が、競技場全体を包み込んだ。
音の原因は、誰の目にも明らかだ。
――――競技場の地面が、ある一点を中心走った亀裂によって凸凹に浮き出し、さながら岩山のような状態に変じている。それを成したのは、地面を突き破るようにして現れた白髪の少年。
ファランだ。
誰も予想しなかった展開に、会場のボルテージが一段と跳ね上がる。
あまりに思い切った行動に、アナトも空いた口が塞がらない。
「あの馬鹿、まさか昨日から土の中に潜ってたのか!?全共感で体に悪影響がいかないとはいえ、普通実行しないだろ!」
「僕も驚いたけど、ファランらしいね。目的のためには手段を選ばない…。自分の命しか懸かっていないのならね」
そう言ってレイモンドは苦笑する。彼の言う通り、ファランは自分の身を犠牲にして何かが為せるのなら、それを一分の躊躇もなくやってのけてしまう男なのだ。そして、事実、今回の選択は戦況を有利に運んでいる。
イルシアも、何らかの策が講じられていることには気づいて警戒はしていただろうが、地中に延々潜んでいたなどという荒唐無稽な可能性を意識していたとは思えない。
彼女の体勢が整う前に、突如至近距離に現れたファランは右足を踏み込み、足元を目掛けて凄まじい速さの蹴り技を放つ。
咄嗟にイルシアも回避行動を取ったが、土埃によって若干視界が遮られているためか僅かに反応が遅れ、ファランの蹴りが右足を掠めた。
よろめいたイルシアを、ファランが全身の力を乗せた右ストレートで迎え撃つ。普段からファランは徒手空拳を得手としているが、今回は事前準備をしていたのか、両手に鉛製の籠手のようなものを装備している。
通常状態でも、ファランの拳をまともに喰らったとすれば、数分は悶絶して立ち上がることもできない。これに加えて籠手を装備しているのだから、今のファランの全力の攻撃を受けようものなら、その時点で試合が終わりかねない。
「イルシアっ!!」
思わず叫んだアナトの言葉が届いたのか。
瞬きの間にイルシアの周囲に炎の渦が生成され、ファランの拳は阻まれる。
その変化に、ファランが悔しそうに歯噛みした。
「くっそ、それ出される前に勝負決めたかったんだけどなー」
「そう簡単にやられるわけにはいかないよ。お父様もいらっしゃってるんだし、カッコ悪いところは見せられないもの」
そう言って微笑むイルシアの手の中で赤く光るのは、王家に伝わる伝説の剣、『朱霊剣』だ。
その輝きを目にした観衆たちのざわめきが一段と大きくなる。
「おお、あれこそ、創世の神がおん自ら作られたという伝説の名剣!」
「剣が認めた人物にしか使えないと言われていたが、まさか本当にイルシア様が振るわれているとは!」
「見たかあの炎!あれこそ朱霊剣の真の力!」
騒めく観衆と同じように、レイモンドの横に座るアイリスは目を輝かせて飛び跳ねている。
イルシアがあの剣を抜く機会はさほど多くないので、戦闘マニアらしきこの少女が興奮するのも、当然のことであるのかもしれない。
本当に創世神たる朱雀が作り出した剣なのかは定かではないが、独特の赤い刀身と、使用者の思い通りに炎を燃え上がらせる性質を持っているのは事実だ。
剣の巧者であるイルシアを、さらに稀代の戦士と呼ばしめているのは、この剣の存在に寄るところも大きい。
イルシアを守るように周囲を取り巻いている炎に阻まれ、ファランも何度か蹴り技や拳による打撃を放っているようだが、全て炎によるカバーか、剣戟によっていなされてしまっている。
その様子を見て、アナトは首を傾げた。
「確かに、アイツは近接攻撃に特化してるから手を出しづらいだろうけど、その気になれば炎を無視して攻撃できるはずだ。どうして動かない?」
ファランの強みには、拳術に長けていることだけでなく、極度に痛みに鈍感なこともある。
炎で退路を塞がれているのはイルシアも同じなのだから、様子見のような攻撃ではなく、思い切った打撃を加えようとしてもいい気がするのだが。
そのアナトの言葉に、競技場から視線を外さぬままレイモンドが答える。
「連隊長はカウンターの技も当然持ってる。手を出すことは容易いだろうけど、もしそうするなら、正確に武器の持ち手を狙う必要があるはずだ。だが、至近距離でこれだけの厚さの炎を展開されてしまうと、陽炎で狙いを定めるのは難しいだろうね」
「思い切って攻撃を仕掛けるのは、諸刃の剣になりかねないってことか」
レイモンドの言葉にアナトは納得する。しかし、いつまでもこの膠着状態を続けていればスタミナが保たない。
どちらが先に仕掛けるか。
固唾を呑んで見守る観客たちの視線が注がれる中、行動を起こしたのはファランだった。
地面にほぼ擦り付けるような勢いで加速させた拳を、捻り上げるようにして炎へ向けて突っ込ませていく。
しかしそれは、剣の柄どころか、イルシアの身体すら捉え切れていない。
「なっ!?」
ファランの拳が狙ったのはイルシアの眼前の地面だ。ファランの崩折れるような勢いで放たれた拳撃は、イルシアの前にクレーターのような大穴を穿つ。しかし、あくまで砕かれたのは炎の渦の手前ぎりぎりの位置の地面だ。イルシアにはなんの影響も与えないはずである。
アナトがそう思考した時、視界が一瞬確かにブレるのを感じた。誰かに、視界を間借りされているような感覚。
その正体に気が付く前に、ふと視線がファランを捉える。
倒れ込んだファランに、イルシアが右手に握った朱霊剣の鋒を向けようとしている。
ファランはもう何もできるはずがない。
はずがない、のに。
ファランの手は、叩きつけるように組み合わされていて。
「いや、違う!」
アナトがそう叫ぶと同時、イルシアの背後から、ナイフを加えたマロンが首筋へと飛びかかった。
それを見て、アナトはファランは何を狙っていたのかをようやく悟る。
マロンは、ずっとイルシアの背後にできた岩棚に潜んでいたのだ。
そして、ファランが陽動を仕掛けつつ倒れ込むと同時に『全共感』を発動させ、マロンに乗り移って攻撃に転じた。
完全に虚をついた一撃。イルシアの反応も間に合うはずがない。
誰もがそう思っただろう。
彼女の行動に気がついていたアナトを除いては。
「見つけた」
小さな呟きと共に、イルシアは空いている左手で、マロンの体を優しく受け止めていた。
イルシアはその口から指先で器用に短刀を抜き取り、目の前に倒れるファランの首元に、反対側の手に握った剣を突きつける。
一瞬のち、状況を理解した観衆たちから、一斉に歓声が湧き上がった。
軍団長の、
「勝者、イルシア・シュルツガルト!」
という声と共に、割れんばかりの拍手が場内を満たしていった。
アナトも、それに合わせて惜しみない拍手をイルシアと、健闘したファランに送る。
眼下では、イルシアに助け起こされたファランが、無念そうな表情でマロンを受け取っていた。
「ちくしょー、完全に死角突いたと思ったんだけどな。なんで気づいた?」
ファランの言葉に、イルシアがくすりと笑って返答する。
「『特殊共感』。アナトの視界を借りただけだよ。残念だったね」
アナトが、ファランの攻撃の直後に感じた違和感。
それは、イルシアが特殊共感を発動したことを検知したためだ。
あの一瞬で、即座に判断を下し、対抗手段を用意するその対応力。
その才覚に改めて脱帽し、アナトは会場から拍手の音が聞こえなくなるまで手を打ち合わせていた。




