06. 学園二年目
学園に入って二年目に入った。
一年での卒業を目指したけど無理だった。一応、卒業だけはできるが、みなし成人として領主就任の推薦は出せないと言われたからだ。もう一年、頑張らないといけない。
戦闘魔法中級は悲鳴を上げながら身を守ったり、攻撃したりしてやり過ごしていたけど、なんとか上級クラスに上がれた。
昨年、中級クラスに割り振られた薬草学と治療学は、変わらず中級のままだ。成績が悪かった訳ではない。むしろ良い方だった。でも人の生命に関わるものだから、経験が少ないと駄目なのだと説明された。上級に進むには薬草院や治癒院での課外活動が必須らしい。身バレを防ぐために課外活動ができないというよりも、将来の職業と見据えて、本気で取り組まない限り、絶対的に時間が足りないほどの活動時間が必要なので、上級クラスに進むのは諦めた。けれど領民のためにも自分のためにも、できる限りの勉強だけはしたくて、今年も中級クラスを受講することにした。
高等科の方は卒業資格を得た。
昨年、飛び級試験のために作った、回復薬と傷薬の三級ポーション作成魔道具の運用が評価されたからだ。
この国では夏の終わりに嵐が集中する。嵐が去った後は、井戸水が濁ったり、川が増水する所為か、腹を下す人が増え、病も流行する。
昨年の夏の終わりまでに、魔道具が領地内の全ての代官屋敷に送られ、各村にも十分な量を保管できるように手配した。結果、病はさほど大きな流行にはならず、腹を下したものの、大して寝込まずに回復し、死者の数が三分の一に減少したと報告があった。
残念ながら体力のない老人や乳幼児の多くが助からなかった。それでも大きな成果だった。
この成果のお陰で、高等科の教師からは、みなし成人として領主就任の推薦を出そうと言われたのだけど、肝心の魔法科からは推薦が出なくて、学長からは「もう一年頑張りなさい」とにこやかに笑われたのだ。
ちょっとくやしい。
とはいえ同級生の皆と仲良くなれたので、もう一年一緒に勉強できるのは嫌じゃなかった。
魔法騎士志望のルー・アーフェンとネール・アーフェンは、戦闘魔法の助手として授業に参加するようになった。凄い!
でもとっても柄が悪くて「ちんたらしてると蹴るぞ!」って毎回言っている。でもって本当に蹴る。地味に痛い。つい痛くて「この狼野郎!」って悪態をつくと、もっと蹴られる。ルー君とネール君はそれぞれ古語で銀狼、黒狼という意味だから、狼って言っても間違いではないのに……。
同級生が少ないので、私たちの代は戦闘魔法初級クラスと中級クラスが合同になって、今年唯一の同級生全員が一緒に受ける授業になった。
昨年、全員一緒に学んだ魔術概論、魔術理論、生活魔法は全員が上級クラスになって、見事に全員が終了したのだ。
医術師志望のリーリアンと魔法薬師志望のア・フォートはとても仲が良くて、二年目からは寮で同室になったらしい。一緒に居ると、お互い得るものがあるし、常に頑張ろうって気になれると言っていた。
昨年与えられた研究室では、周囲は優しいお姉さんとお兄さんに囲まれてて、とても楽しく研究ができる。他科からあまり良い目で見られない代わりに、魔法科内は結束が固くて仲が良い。本名は名乗らない同級生が半分くらいいるし、私も名乗っていないけれど、そんなことが些末に思えてしまうくらい心地良い。先生も学園卒業後も研究科に籍を置いて、時間がある時にでも研究に通えば良いよと言ってくれている。
幾つかの単位が取れたので、昨年よりちょっと通学が楽になった。登校しない日もある。そういうときは溜めがちな領主の仕事を片付けることにしている。もっとも昨年も豊作だったし、堤防の補修や修復も順調なので、そうは大きな問題もなく、仕事の方も順調だ。
豊作だったり景気が良かったりすると、野盗が減るから討伐も殆ど無くて楽なのだ。
「お嬢様、少しゆっくりなさったら如何でしょうか」
オベールがお茶と茶菓子を持って執務室に入ってくる。
「うーん、仕事は終わったのだけど、高等科の課題が終わらなくて……。卒業資格を出すくらいなのだから、もう課題は不要だと思うのに、どうしたことかしら」
「高等科は王立学園の中でも一番の難関学科ですからね。優秀な卒業生を出すのを使命としている所がありますから、卒業可能でも、実際卒業するまでにより優秀な学生にしたいのでしょう」
「そこまで成績に拘らなくて良いのに。高等科を卒業していなくても、優秀な領主は沢山いるわよ」
「左様でございますが、学べる機会というのは短くて、しかも後々役立つものです」
しみじみと言われてしまうと言葉が出ない。
私の二度の人生を合わせても、オベールの人生経験の半分にも満たない。年長者の意見として傾聴しておこう。