↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直し令嬢の生き残り計画  作者: 紫月 由良
破滅回避編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/44

04. 敵は父親の顔をしている

ここから新規エピソードが挿入されます。

(話の筋は変わりません)

 屋敷を出たのが八日も前だって思えない。


 馬車を降りて見上げても懐かしいと思わないのは、あっという間に時間が過ぎたからかもしれなかった。何日も屋敷を空けていたというより、昨日、出かけたように思うのは。


「留守の間に変わったことは?」

 移動しながら、出迎えたオベールに状況を聞く。


「パトリス様がお帰りになられました」

「お父さまが……?」

 オベールの言葉に疑問が湧く。


「このまま執務室に行くから、状況を教えてもらえるかしら」

 返事を聞かず侍女に上着を預けて、二人で執務室に入った。


「一体、何しに戻ってきたの?」


 私が物心ついたときから家に居ないのが当たり前だったのに。

 帰宅するのは、夫婦としての体面を取り繕う必要があるときだけ。夫婦同伴での夜会だとかそういった類の。


「執務室とご当主様の私室に入りたいご様子でした」


 ――公爵家から生活費なんかを引っ張り出そうとしたのかしら? お母さまの私室の方は、愛人のために宝石を見繕いたかったってところでしょうね。

 前世では気付いたらお母さまの宝飾品がすべてなくなっていた。


「それで執務室には入ったの?」

「入れる理由がございません」

 必要がない、って判断。まあ悪くない。


 転職を繰り返しながら給金と立場を上げていく下級使用人と違って、立場によっては終生雇用になる上級使用人は、公爵家に対する忠誠心が高い。不利益をもたらす存在だと思えば排除とまではいかなくても、対応は冷ややかになる。


 特にオベールは公爵家に絶対の忠誠を誓っている。

 例えたった一人しかいない跡取りだったとしても、後継者たりえないと判断したら切り捨てるくらいに。前世の私は、だから次期当主の座を追われ、公爵家から放逐されたのだ。


 この執事によって――。


 逆に言うと、公爵家にとって利のある存在だと認められれば、強力な後ろ盾になる。出し惜しみなく前世の知識と経験を活かせば、今世では頼もしい味方になるだろう。

 心を許せるかどうかは別として……。


「当主様のお部屋はお嬢様が封印されたのでしょうか?」

 普通なら五歳の幼女が大人顔負けの魔法を使えるなんて思わない。


 ――でもお母さま亡き後の私の行動を見て、年齢通りの能力ではないと判断したのかしら?

 お母さまは優秀な当主だった。母としても教師としても優秀だったと判断すれば、私が見た目通りの五歳の子供だとは思わないかも。


 少なくとも十七歳から五歳に時間が巻き戻ったなんて、非現実的な事実よりも説得力があるし現実的だ。


「お母さまの部屋を荒らされたくなかったの。私だけのものだから」

「左様でございますか」


 今の言葉は私の対応に従う、と考えて良さそうかしら?

 判断はつかないけれど、外出前の対応が正解だったと思うことにする。


「お父さまはどうされたの? また帰宅すると言っていたかしら?」

 おおよそのところは想像できるけれど、念のため確認する。


「大層、ご立腹の様子でございました。よほどのことがなければ帰宅されないでしょう」

 やはり、といったところだ。


 きっと思うようにいかなかっただけでなく、オベールをはじめとする使用人たちから冷ややかな態度を取られて立腹したのね。古参の使用人はお父さまを快く思っていないから。


「お金を無心したくなるか、公爵家の財産を掠め取りたくならない限り……ね」

「そうでございましょうな」


 お母さまの生前から愛人を囲っていたお父さまに対して、エメやオベールといった主だった使用人から、良く思われていなかったのは知っていたけど、好ましからざるというより、害のある人間認定されている気がする。


「お父さまと縁を切ることはできないの? お母さまが亡くなった今、配偶者がいない訳だし、愛人がいるんだから、そちらの方と結婚すれば良いと思うのだけど?」


 結婚しなかったのは相手に財産がないから。公爵家の婿である限り、交際費だとかガルリオ領の税収が懐に入るから、できる限り長く公爵家の一員で居続けようと思っているのは知っている。


 前世は私が無能で、家臣たちが頼れるのはお父さましかいなかったから、婿であり続けられた。

 でも現世ではお父さまは不要どころか害悪でしかない。


「貴族の結婚は家同士の契約でございますから、なかなか都合よく放逐できないのでございます」

「そう、お父さまのご実家とはどのような取引を?」


 普通なら結婚相手が亡くなれば、実家に戻るのか屋敷に残るかの二択。

 今回みたいに死亡後も婚姻関係を継続しながら、屋敷に寄り付かず愛人と一緒に暮らすのは、理由があるからだろう。


「……流石に年端のいかぬお嬢様に聞かせるお話では」

 いくら私が次期当主として年齢不相応の言動をし始めたといっても、まだ五歳。


 男女のあれこれや、私と同い年の隠し子がいることを伝えるのは、子供の成長にはよろしくないと思ったのかもしれない。


 気持ちはありがたいけれど、お父さまはこれから私にとって障害にしかならないと知っているから、できるだけ早めに対処したい。

 執事の配慮は、過ぎたものでしかなかった。


「お父さまに愛人がいて、だから屋敷に帰らないのは知っているの。ほかに帰る場所があって、そこにお母さまとは違う女性と、私と同い年の子供がいるのも」


「――!!」

 オベールの驚愕した顔を初めて見た。


「誰がそのようなことをっ!!」

「使用人の噂を聞いて知ったんじゃないわ」


 もし使用人の誰かが、なんて言いでもしたら、紹介状も無しに屋敷を追い出される。本人がやらかした結果なら仕方がないかもしれない。

 実際は前世で知ったから。冤罪で追い出される人が出てしまったら寝覚めが悪い。


「お父さまが毒にも薬にもならないような人だったら放っておくけど、そうではないでしょう? 対策を取るためにも私は知る必要があります」

 前世では公爵家の内情に関わることができなかったから何も知らない。


 作法だとか学問だとか、そういったものだけを詰め込んでいたから、時間を遡った現状でも、教えてもらわなければ何もわからないのだ。


「パトリス様のご実家であるアレオン伯爵家はご存じでしょうか」

「ええ、ギリギリ高位貴族に留まっていられるけど、さほど大きな家門ではない、規模的にはギリギリ中貴族か小貴族といったところね。財政もさほど潤ってなかったかしら?」


「左様でございます」

 前世で貴族年鑑や紳士録などをすべて暗記させられたから覚えている。

 あまり力のある貴族だとアングラート公爵家に圧力をかけられるから、政略としてまったく旨味のない相手を選んだというのは想像に難くない。


「パトリス様の御父上である先代のご当主も、兄君である現在のご当主も堅実な方ではいらっしゃいますが、領地が小さいこともあり懐事情はあまりよろしくございません。そのため、ご実家への融資を条件に婚姻されたのです。融資は支度金として一括でそれなりの額と、ガルリオ領からの収益と同等の支援を毎年行うというものです。万が一、パトリス様が早逝されたとしても、亡くなられて十年までは融資を続ける。当主様が亡くなられた場合は、お嬢様が成人されるまでの間、公爵代理として職務を担う代わりに融資を行うというご約束です」


 ガルリオ領はいくら肥沃で領地の大きさの割に収益が大きい優良な土地だとはいっても、小さ過ぎてそれだけで貴族の体面を保つのは、やりくりが上手くなければできない。

 とはいえ自領以外からの追加収入と考えれば、魅力的過ぎる金額でもある。


「それは……私が十七歳になるまで、お父さまと縁を切りにくいわ」

 ルスュール王国の成人は十七歳。いくら先代が早逝しても、跡取りが未成年なら爵位は相続できず、後見人もしくは跡取り本人が当主代理という立場になるしかない。


「当主様がお亡くなりになったとはいえ、パトリス様は公爵代理として籍を残さねば、アレオン伯爵が黙ってはいないでしょう」

「厄介ね……何か良い方法はない?」


 アレオン伯爵家は目立ったことがないとはいえ知らないわけではない。前世では社交の場で何度も顔を合わせているのだから。


 当主は少し神経質そうな感じだった。私にはあまり好意的ではなくて、でも敵対するというまでではなかった。政治的には中立というより、権力の中枢とは縁がなく、過ぎた野望を抱くほど己を知らなくはなかったから無害だった。本人が政治に興味がなかっただけかもしれないけど、中枢に食い込めるほど家門の力が強くなかったという感じ。


 だからこそ外戚から圧力をかけられずに済む相手として、お祖父さまはお母さまの婿に選んだのだろう。


「支援を打ち切るための条件は? お父さまに瑕疵があるとか、何かあるのではなくて?」

「可能でございますが、外に愛人を囲っただけではなんとも。公爵家の体面を傷つけたともなれば、話は変わってきますが、他人の目を忍んでとなりますと難しいです」


「そうでしょうね。『恋愛は結婚してから』なんて言葉があるくらいなんだもの」


 結婚は家のため。婚家のために跡取りを産んでから、恋愛を楽しむのが貴族というもの。愛人と隠し子が家に乗り込んできたとか、夫婦同伴の夜会に愛人を伴って現れて、お母さまと公爵家の面子をつぶしたとかではない限り、瑕疵とはみなされないだろう。


「私が十七歳になるまでは追い出せないのね。では成人になったら追い出せるの?」

「今の帰宅しない状態が続いたままでしたら、代理たり得ないとして実家に返すことはできましょう」


「じゃあみなし成人として、その時期を前倒ししましょうか」

 成人年齢は十七歳。爵位を継ぐのも十七歳になってから。

 それまでは後見人を立てる必要があるのだ。


 でも例外はある。王立学院の高等科を一定の条件を満たして卒業すると、見なし成人として認められるのだ。入学時の年齢は問われないけど理由がない限り十二歳で入学するのが一般的。四年制だから卒業時は十六歳。一年早く成人として認められる。但し見なし成人として認められるためには学長推薦がいる。


「来年、入学したら十歳で爵位を継げると思わない? 飛び級すればもっと早くもできそう」

 余裕で高等科を卒業できるとまでは言わないけど、あまり勉強を頑張らなくても卒業する自信ならある。エリク王子の婚約者として、王宮で高等科と同等の教育を受けてきたから。


「しかし学長推薦を得るのは簡単ではございません。高等科を首席卒業なされるとか、学外でそれなりの成果を出されないと……」


 オベールも高等科の卒業生だ。エルネストをはじめとする領地の代官たちも全員が高等科卒業。

 だから前世で淑女科にしか通っていない私よりも事情は判っていると思う。


 しかし首席卒業とは……。


 さすがに首席を取るのは難しい。

 高等科は領地経営などを学ぶ次期当主だけでなく、家を継げない次男以下の子息が、官吏として身を立てるために学んでいるから。学園での成績が就職先や配属先に影響するから、みんな真剣に学ぶし成績に一喜一憂する。


 そんな中で首席卒業できるとは思えない。

 残るは学外での成果。

 私だったら次期当主として領地経営で実績を残すのが一番手っ取り早いだろう。アングラート公爵家での立場を確立するためにも、全力で取り組むつもりだから一石二鳥だ。


「領地経営の傍らで高等科に通うのは難しい? 通学は必要最小限で、領地の仕事が中心になるとは思うけど」

「高等科はそれほど甘くありません」


 成績さえ気にしない――下から数えた方が早いほど悪くはないけど、成績上位者として表彰されるほどでもない程度の順位で卒業する程度なら、正直なところ今すぐでも大丈夫だと思う。

 でも領地経営の片手間で、勉強しながら学長推薦をもらうとなれば話は別みたい。


「領地経営で一定の実績を残してから学園入学の方が早い?」

「早めに入学して知識を付けられた後、一旦休学されて領地で実績を上げ、復学されるのがよろしいかと」

 この言い方だと、勉強はいまさら不要……といっても納得しないよね、きっと。


「とりあえず家庭教師を手配して」


 まずは私には既に高等科卒業程度の学力があることを、オベールを始め家臣たちに知らしめるのが最優先になりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。