05. 魔法科の一日~飛び級~
学園に入学して一か月が経過した。
飛び級試験の為の適性試験がひと段落したので、結果が発表される。
放課後に一人ずつ教師控室に呼ばれた。
成績表を見れば、戦闘魔法以外は上級を目指したけれど、幾つか中級止まりのものと初級止まりの科目があった。
一つ目は薬草学。薬草採取や薬草栽培の経験が絶対的に足りなかったからだ。
二つ目は治療魔法。こちらも中級だった。本で学んだだけだったから、筆記問題では症状と魔法や魔法薬の使用の組み合わせを答えられても、実際に患者を前にしたら判らないことだらけだった。この後は実技中心に学んでいくことになる。
逆に魔法陣作成と魔道具作成に関しては、上級より上の研究課程に進むことになった。自分の研究室を持ち、何らかの成果を出すことを目的とした科だ。授業は受けても受けなくても良いけれど、知識の補完を図る目的で出席しようと思う。
研究科編入は入学後に提出した魔道具が評価された結果だったらしい。
私は回復薬と傷薬の二種類の三級ポーションを作る魔道具を提出した。どちらも一定の火力で薬を合わせ、煮込みながら魔力を注いで効果を上げる。火加減と魔力注入を一定にしないといけない、特に魔力を一定量、安定させながら注ぐのが難しく、品質にばらつきがでる。
だから二つの魔道具を使って、誰でも一定品質のポーションを作れるようにした。一つ目は適温になるような魔法陣を書いた鍋敷き。これの上に調合鍋を置いて作成する。二つ目が魔力を注入する魔法陣。魔石から一定の魔力が放出されるようにしたものだ。三級のポーションは使う薬草が違うだけで、回復薬も傷薬もさほど使う魔力に違いはないから、二つの魔法陣をセットにすれば、どちらも安定供給できるのだ。
三級ポーションに限定したのは、必要な魔力が少ないのと、工程が少なく作成が容易だからだ。使い方さえ覚えれば、殆どの領民が使いこなせる。難点は金を使うから高価なこと。鍋敷きの方は丈夫であれば何でも良いのだけど、魔法注入の方は、薬で変質せず、成分が溶け出さないようにしなくてはいけないので金を使った。魔石そのものが悪影響しないように、魔石が薬の外に出るように、細長い板状にして、上の方に魔石を取り付けた。
「魔道具の担当教師と魔法薬の担当教師が面白いと言っていた」
ユーグ先生から褒められる。
「三級ポーションは薬師なら作れて当然、むしろ練習するのに丁度良いとされていたからな。薬師以外が作るという発想が無かった」
「田舎の方だと、医術師も薬師もいませんから、街よりも薬が必要なんです」
「三級ポーションが不足するなんて、街中では考えられんからな。着眼点が素晴らしいと絶賛だった。しかし純金の道具だと随分高価だろう、実際にはどう扱うんだ?」
「代官屋敷に置く予定です。各村に道具を置くことはできませんが、道が通っている間なら、その日中に届けられます。それに三級ポーションの材料になる薬草なら、そこら辺に生えている雑草みたいなものですから、常に一定数の薬を村長の家に置いておけば、不足して困ることもそうはないでしょう」
「領外に売るのか?」
「いいえ、技量の悪い薬師が増えては困りますから、基本は領内でのみ流通させます。少量は宿場町に安く卸しますが、旅人が道中に使う程度の分しか置かせません」
「賢明だな」
三級ポーションは街なら安価で出回っていて、流通も安定している。品質は決まっているので安心して使える。
供給過多にして、薬師の生活を脅かしたり、流通の安定性を壊すのは得策ではない。
しかも得られる利益が少ないとなれば不利益ばかりである。
「話は変わるが、戦闘魔法を中級まで履修する気はないか」
突然の提案に驚いて、言葉が止まった。中級に進めるなんて思っていなかったし、そのつもりもなかったからだ。
「無詠唱で魔法を発動させられるから、それなりに素早く魔法展開ができる。一応、初級はその程度で十分とされている。ユエィン君の実力なら中級に進んでも、まあついていけると思う。
それでねユエィン君だけでなく、上位貴族の子とかとても裕福な家の子にも勧めているのだが、やはり狙われやすい立場だと、初級程度では身を守れないんだ。護衛がいたとしても中級程度の実力があれば安心だ。
公爵家の令嬢には辛い授業かもしれないが、自分の為だと思って頑張ってごらん」
まさかの戦闘魔法中級。だけど公爵令嬢であり、次期公爵としては、戦闘力はあって無駄ではないかもしれない。
「私に中級の実力がつくでしょうか?」
「やってみなければ判らないが、意味のない努力にはならないと思うよ」
「……考えてみます」
取り合えず保留だ。他の教科が予定より順調に消化できれば、戦闘魔法中級に割く時間ができるかもしれない。そのときは履修しようと思う。
面談では他にも高等科の卒業資格についても話があった。
知識に関しては全く問題ないとの事だった。だけど領地経営に関しては、先代の政策を踏襲しているだけで、問題解決も新しい政策もしていないので、経営手腕が不明だと言われた。卒業までに新しい政策を打ち立てて結果を出さないといけなくなった。
他にも長期休暇の度に課題を出すので、解答を提出するように言われた。
中々厳しい。
将来の領主や、王宮官吏を輩出するための学科だから、厳しくて当然かもしれないのだけど。
淑女科だと作法の他に、詩作、朗読、楽器演奏、刺繍などが一定の技量を持つこと。夫の代わりに領地経営や家の采配を取り仕切ることが多少はあることを考えて、高等科中級クラスくらいの経営学や算術も要求されるが、全て実技試験と筆記試験しかない。それなりの成績さえ出せば、卒業できてしまうのでとても楽だ。