04. 魔法科の一日~戦闘魔法初級~
入学二日目から、早速授業開始だ。
授業内容は多岐に渡るけれど、全て、初級、中級、上級とある。魔法科は内容が多岐に渡るので、専門教科を決める。
専門教科は上級を履修しなければ卒業できない反面、専門教科以外は初級でも単位さえ取れれば問題ない。
私はほぼ全教科で飛び級を目指しているので、飛び級試験ばかり受けている。
今日も午前中は試験だ。最初は魔術回路論。どのような組み合わせが有効かとか、魔法を発動させるために必要な回路はとか、延々と記述させられる大変疲れるものだった。前世で暇にあかせて魔法書を読み漁っただけに、魔術回路論を含めて理論関係は得意だ。多分、上級クラスに入れるのではないかと思う。
午後からは戦闘魔法初級だ。ひらひらしたローブは危険だからと、更衣室で訓練着に着替える。学園で顔を出すのは躊躇いがあるけれど、この授業はローブが無く、顔を晒さなければいけない。
広めの演習室に入れば、十人の同級生の中、八人が揃っていた。自己紹介で魔法騎士を目指すと言っていた二人以外は、全員戦闘初心者だったらしい。魔道具を作ったり、魔法薬を作るのに戦闘スキルは必要ないから、当然なのかもしれないけれど。
この講義だけは先生が四人もいる。それだけ危険だということなのかと思うと、ちょっと怖い。
「まずは火球を部屋の端にある人形にぶつけろ」
言われた後、詠唱して火を発動させて球体にしたら、誘導して人形に当てる。
うん、ちゃんと火球が作れたし、人形の中心にも当たった!
ちょっと嬉しいと思いながら周囲を見れば、私と同じように当たったと喜んでいる。
「バカヤロウ!!」
なのに何故か罵声を浴びせられる。
「そんなにちんたらやってたら逃げられるだろう、もっと早く動け!!」
そう言って先生が手本を示す。行くぞといった瞬間、一瞬で火球が現れたと思った直後、人形に当たる。手元ではなく、人形の至近で火を呼び出しているみたいだった。しかも無詠唱で。
「弱くて良い、できるだけ早く攻撃を当てろ!」
怒られてできるだけ早く魔法を起動する。人形の直ぐ近くに火を呼び出したので、さっきよりずいぶん早い。威力も弱くて良いらしいから、無詠唱にしてみた。種火のような小さくて弱い火だったけど。
「無詠唱か!」
直ぐ近くにいた教師から声をかけられた。
「ええ、弱くても良いとのことだったので……」
「そうよ、今のようにできるだけ早く攻撃を当てて! 安定して早い攻撃ができるようになったら、徐々に威力を上げていくの」
私の傍にいるのは女性教師だった。この国では女性騎士が存在しないと思っていたけど、魔法騎士なら女性もいるのだろうか。
「女が珍しい?」
「ええ、この国では女性騎士がいないと聞いていたので」
正直に肯定する。
「王都にはいないわよ。でも辺境だと男手が足りなくてね。攻撃魔法や戦闘が得意なら、女でも騎士になるの。私はラングーラン出身でね」
成程、ラングーランは魔獣の多い辺境だ。隣国とのいざこざは少ないけど、魔獣が多すぎて、人同士が戦う状況ではないからだと言われている。
前世では殆ど王都から出たことが無かった。今世でも領地と王都の往復だけで、辺境まで足を伸ばすことも、他国に行ったこともない。長期休暇に入ったら、一度国外旅行に行ってみようかな。その前に来年来る可能性が高い嵐が片付いたらになるけれど。
この後、授業が終わるまで、教師から「遅い!」と延々怒鳴られる。
まずは無詠唱で初級魔法を出すのが直近の課題だ。
私の他にも無詠唱で初級魔法を発動させられる同級生は、威力を上げろと檄を飛ばされる。
皆、戦闘能力は低いけど、魔法士を目指す人たちばかりなので、授業が終わるまでには全員が無詠唱魔法に成功した。
でもそんな程度で教師が納得する筈もなく、威力が弱いとか、無詠唱でも遅いと怒られまくる。最低限、街道で頻繁に出現する魔獣を倒せる程度になれとのことだ。
この後、防御魔法も授業で習うけれど、そちらも街中で強盗に襲われた時に、警備兵の救援が来るまで持ちこたえろとか、要求が高い。
王国きっての名門学園なのだから、戦闘系が専門でなくても最低限、魔法で身を守れて当然だそうだ。
戦闘魔法初級の単位が貰えないと卒業できないから頑張らないと。
普通は二、三年かけて単位を取得するみたいだけど、私は一年で終わらせる予定だ。領地に戻る道中にでも、護衛付きで魔獣狩りを試してみても良いかも。
初級の火魔法を出すだけの授業だったのに、終わってみれば疲労困憊だった。馬車の中でエメに着替えを手伝ってもらった後、気付いたら寝ていた。
目が覚めたら自室のベッドの中というのは大変恥ずかしい。
「お目覚めですか?」
にっこりと微笑むエメが、幼子を見るような眼差しをたたえている。
「オベールさんが、マリスお嬢様をベッドまで運んでくださいました」
えっ!?
そんな恥ずかしすぎる……。
「恥ずかしがることはありませんよ。淑女とはいえ、まだまだ育ち盛りですからね。学園の授業についていくだけで大変でしょう? お母さまも入学したての頃はよく馬車の中で寝てましたよ」
お母さまも寝てたのね……。って、寝てたのは馬車の中だけで、ベッドまで運んでもらったことはないのでしょう!
やっぱり恥ずかしすぎる……。
「マリスお嬢様、お母さまが学園に入学したのは十二歳ですよ。七歳の頃は遊び疲れて、オベールにベッドまで運ばれたことが何度もありますよ。結構なお転婆でしたからね」
私の心の中を見透かしたように言葉を重ねる。
七歳の身体は、まだまだ体力が無い。ちょっと体力作りをしないと駄目なのかも。