20. その後の
カテゴリーエラーの指摘があったため、連載を再開して恋愛要素を増やす予定です。
続編に繋げるため、この回を大幅に書き直しました。
次章は恋愛と女子学生の話が中心になる予定です。
「また学園に入学するの?」
セスが呆れたように訪ねてくる。
学園の私の研究室には、同級生たちのお茶会の場所として人気だ。
「皆は入れ違いで卒業よね。学園で会えなくなるのは寂しいわ」
魔法科に入学して四年が経過した。
どの科も四年で卒業する予定で授業を組んでいる。同級生たちは普通に四年間在籍したので、今年で卒業なのだ。
「医術師を目指すリーリアンとか魔法薬師を目指しているア・フォート辺りは研究科に進むから、残ると思うわよ。私も残るし」
「そっか、じゃあお茶会は問題なく開けるのね」
「いや、あなた淑女科でしょう? 魔法科の校舎には来るのは大変じゃなくて?」
「そんなもの適当に撒けば良いのよ」
私はにんまりと笑う。魔法で簡単に姿を隠せるため、撒くのは朝飯前だ。
研究科は一定の成果を出し続けるか、学園に貢献し続ければ在籍することが可能だ。普通は就職が決まったら卒業していくので、私のように長く在籍するのは、医術師のように習得に時間がかかる教科を専門にした学生か、学園教師を目指す学生くらいしかいないのだけど。
光石を使った浄化ポーションは、まだまだ市販されていない。光石の発生に関して、まだ研究が終わっていないからだ。一、二年で市販化されると思っていたので、想像以上に時間がかかっている気がする。とはいえ国内でも少しずつ産出が始まっているので、そろそろレシピの公開と市販が開始される準備は始まっている。レシピ公開前は、私が研究室で作るために研究室は残り続けるけれど、公開後はどうなるか判らない。可能性としては、領主としての仕事に、力を注ぐために研究室を閉じ、また何か研究したいときには、先生たちに相談して研究室を開かせてもらうのが、一番ありそうだと思っている。
取り合えず、今は研究したいものがない。三級ポーションは領内に行き渡っているし、リディの病気も快復したからだ。
後はせいぜいが省魔力化した魔道具の開発くらいだろうか。庶民の殆どは魔力量が少ない。そんな庶民でも難なく魔力を補充できるような、小さな魔石を使った魔道具が開発されれば、もうちょっと暮らしは楽になる気がする。
川での水汲みは子供たちの仕事だけど、一年を通して大変な重労働だ。特に冬場は寒いし冷たいし、本当に辛そうだ。でも水魔法を発動できる魔道具があれば、水を溜めるのはとても簡単になる。
嵐の時期には何日も雨が降り続き、家の中に黴が生えることもあるけれど、水魔法と火魔法の応用で、部屋を乾かせるようになれば、快適になると思う。冬の間は部屋や寝床を温められれば寒い日も良い感じに過ごせるだろう。
卒業式が終わり、食堂で学生が全員参加のパーティが始まる。
今年の学年首席も魔法科だ。医術師志望のリーリアンだった。僅差で次席がルー・アーフェンと魔法科が成績上位者を占め、卒業式は騒然となったとか。
学長が三席以降も魔法科ばかりで、王宮から官吏に欲しいと言われ、断るのに難儀したと壇上で話したものだから、驚くと同時に囲い込み競争が勃発したのだとか。
でも実は魔法科の学生はそれなりの家柄や財産のある家の子弟が多く、今更、囲い込みを始めようとしたところで、囲われるような学生は一人もいないのだけれど。
しかも学生時代にスタンピード対策に駆り出された学年なので、あまり強引なことをすればロードレイ辺境伯を始めとする辺境伯家が黙ってはいない。勿論私が当主を務めるアングラード公爵家も。
「みんな凄いね」
「凄いのはユエィンだろう、魔法科初の首席卒業生」
「あなたを見てたら、負けてられないって気になるもの」
「チビッ子が首席卒業したのになあ……」
十倍になって言葉が返ってきた。
パーティの途中から学長が乱入してくるのも例年通りだ。
しかし今年は、学長にくっついて保護者も入り込もうとしてひと悶着があった。リーリアンはもう少し学園で研鑽した後、王宮医術官として就職することが決まっているのだが、自分の派閥の紐付きにしようと思った貴族がいたのだ。他にも辺境に戻って魔法騎士として魔獣討伐や、辺境警備を担う予定の学生を、無理やり家の護衛に引き抜こうとしたり、中々大変だったらしい。
「そういうことをしているとさ、王族権限で虐めちゃうよ。全員顔は覚えたし」
ニヤリと悪い顔をした学長が笑う。学長は王弟なのだ。魔法科では陽気なおじさんのような振る舞いだけど、実はやんごとない立場の人で、実力も折り紙付きの大変優秀な人だったりする。
卒業パーティが終わり、三々五々に帰宅しようとしたところ、しつこい貴族が何人も魔法科校舎の近辺や、門柱付近で張っていた。
「魔法科は匿名性が優先されるって言ってたのにねえ……」
学長が全く残念では無さそうに呟いた。
「家までついてこられるのは嫌です」
「まるで羽虫みたいに鬱陶しいです」
「蹴散らしますか?」
口々に学長に同意する。
「うーん、ここは魔法科らしく攪乱しようか。全員で認識阻害魔法を展開して。次に攪乱魔法と誘導魔法で、講堂に逆戻りしてもらおうか」
全員の認識阻害魔法!
この場には学生だけでも五十人程がいる。全員でとなれば、目の前を学生が通り過ぎても気付かれない。しかも攪乱、誘導となれば、もう一本道でも迷子になれる状態で講堂に辿り着く感じだろうか。壁にぶつかったり、木に突っ込んだりするだろうから、悲惨な状態になることだろう。
私も含めて学生たちはお遊び感覚で魔法を展開していく。掃除が終わった後、ようやくの帰宅の途につけるようになった。
後日、張り込みをしていた者たちの雇用者たちが、学長と国王陛下から、ねちねちと嫌みを言われたとか何とか。次年度からは学生たちだけでなく、保護者たちの管理監督もしっかりしなくてはいけないと、学長がそれはそれは楽しそうに呟いていたのが忘れられなかった。