互いの一番星
温泉街の明かりがつき始め、道行く車もヘッドライトを点灯し始めた。
辺りはどんどん暗くなっていく。
「滞在は長くてあと三日、もしかしたら新幹線の混み具合でもっと短くなるかもしれない……」
本当はこんなこと言いたくない。
ずっとここに、佳代子ちゃんの隣にいたい気持ちが私の声を震わせる。
「そうなんだ……あと三日か、じゃあ明日も温泉行こうよ!」
「え?佳代子ちゃんは温泉でいいの?」
「だって、柚ちゃんとの思い出沢山作っておきたいんだもん。あとあたしも柚ちゃんも温泉大好きだし」
そう言って佳代子ちゃんは眩しい笑顔を見せる。
「あ! 柚ちゃん見て見て! 一番星! そう言えばいつの間にか空晴れたね~」
佳代子ちゃんの指さす先のすっきりとした藍色の空には一番星が光っている。
「二番星見っけ! あ! 三、四、五番星もみ―つけたっ!」
佳代子ちゃんはまるで小さな子供のように夜空に手を伸ばして次々と星を見つける。
私はその手をそっと掴んだ。
「わ、私にとって佳代子ちゃんは、あの一番星と同じなの……!真っ先に駅で困ってる私を見つけて、声をかけてくれた。佳代子ちゃんが隣にいるだけで、一緒にいるだけで私の世界が一段と明るく見えるの!」
吐いた息が白くなるほど気温は下がっている。
けれど触れた手の温度はどんどん上昇していく。
「ふふっ! 柚ちゃん、あたしなんてそこら辺の星とおんなじ、ただのド田舎の女子高生だよ? 柚ちゃんが駅にいてくれたから私が見つけられたんじゃん」
「あたしの一番星は柚ちゃんだよ」
「…………うん」
私の声は思いっきり涙声になっていた。
目にはいつの間にか涙が溜まっている。
「なんで泣いてるの~あたしまでなんか悲しくなっちゃうでしょ~!」
二人向き合ったまま、佳代子ちゃんは泣いている私を慰める。
「今しか言えないから言うね! あたし、柚ちゃんのこと、大好き」
その言葉に私ははっと顔を上げる。
「柚ちゃんの新しい表情が見えるたびに最初に声をかけてよかったなって思うんだ。だからこれからも、東京に帰っても、ここでのこと度々思い出して!」
「……佳代子ちゃんだって泣いてるじゃん」
佳代子ちゃんの目には今にも零れ落ちそうな大粒の涙が溜まっている。
「……ごめん」
二人そろってふかーく深呼吸をする。
「私も佳代子ちゃんのこと、大好き。東京に帰ってもここでのこと絶対忘れない。だから明日も温泉行こうね!」
「うん! 絶対!」
気が付くと頭上は満点の星でいっぱいで一番星がどこにあったかなんて忘れてしまった。
「あったかい飲み物飲む?」
そう言って佳代子ちゃんが道端の自販機で缶のココアを奢ってくれた。
小さな街頭の下、ココアの飲み口から漏れる湯気と吐く息の白が星空に吸い込まれていく。
「一番星、みーつけた」
私は佳代子ちゃんに向かって気づかれないように小さく指をさした。
「ん? 柚ちゃん、なんか言った?」
「うぅん……なんでもない」
恥ずかしさをごまかすように私はココアに口をつける。
別れることが分かっているのにあなたのことが好きになってしまったんだ。
一番星みたいなあなたの笑顔が本当に眩しくて、忘れられないのはお互い様かもね。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




