温泉街のおいしいもの
「佳代子ちゃん、オススメのお店って何のお店?」
「お蕎麦屋さんだよ! あ……柚ちゃんは蕎麦アレルギーとかはないよね!?」
「蕎麦は大丈夫だよそういえばお蕎麦久しぶりに食べるかも」
「ふっふっふっ、めっちゃ美味しいよ~柚ちゃんの中のお蕎麦のイメージ変わるよ~」
しばらく歩いていると前の方に長い行列ができている。
(ここが例のお蕎麦屋さんかな?)
と一度私は立ち止まったが佳代子ちゃんはその行列をスルーして歩き続けた。
「あれ、さっきの場所じゃないの?」
「さっきのお店はとんかつとか揚げ物のお店、あそこいつも混んでるだよね~あたしたちが行くお店はもう少し先だよ」
長い行列のあるとんかつ屋さんから五百メートルくらい先の古い蔵のような建物の前で佳代子ちゃんは足を止めた。
「ここが古民家カフェ兼お蕎麦屋さんの『そば蔵』だよ。今日はそこまで混んでないね」
「わぁ~蔵がカフェになってるんだ。私、古民家カフェ一度行ってみたかったんだよね~!」
「よかった! じゃあ入ろうか」
引き戸のすりガラスのドアを開くとリンリンとドアに吊り下げられていた鈴が鳴って、
お店の奥から五十代くらいの割烹着姿のおばさんが出てきた。
「いらっしゃいませ~! あぁ! 佳代子ちゃんじゃない、そっちの子は見たことないけどお友達かしら?」
「ののさん久しぶり! そうこの子は友達! 親友!」
佳代子ちゃんにそう言われて少し頬が熱くなった気がした。
「あら~! よかったわね~! 昔っから佳代子ちゃんと同い年の子供は男の子ばっかりで、女の子はこの温泉街には住んでなかったからねぇ」
佳代子ちゃんは誰にでもフレンドリーだし、優しいけど今まで女の子の友達はなかなかできなかったのかもしれない。
「あなた、お名前はなんていうの?」
「ゆ、湯本柚です……! 東京から少しの間ですがここに滞在していますっ」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ~東京の子なのね、ここが気に入ったら移住してきてもいいのよ~アハハ」
ののさんと呼ばれているおばさんは笑いながら温かいお茶を二つテーブルに置いた。
外の見える窓際の席。ふとテーブルに置かれたメニューに目を通す。
普通のの冷たいお蕎麦に、温かいお蕎麦。
当店イチオシの”ガレット”という商品があることに気付いた。
写真には茶色いクレープのような生地の真ん中に目玉焼きとベーコンが包まれている。
何とも美味しそうでおしゃれな感じのする料理だ。
「柚ちゃん、決まった?」
「佳代子ちゃん、私ガレットって言うの食べてみたいな」
「いいね! じゃ、あたしも同じの頼もうかな、ののさ~ん! ガレット二つ!コーヒーセットつけてくださ~い!」
「こら、ピンポン押してから注文してね、って言ってるでしょ~」
「この前までピンポンなかったから忘れちゃった」
そう言って佳代子ちゃんは舌を出した。
そういう茶目っ気があるところも可愛い。
しばらくすると厨房からベーコンの焼けるいい音と匂いがしてきた。
こういう待ち時間は嫌いじゃない。
そして出来立てのガレットがテーブルに運ばれてくる。
「「いただきます!」」
とろとろ半熟の目玉焼きの黄身を割って厚めのベーコンとガレットに絡めて食べる。
すると口の中に蕎麦の風味が広がった。
「! ガレットってもしかして蕎麦からできてるの?」
「正確に言うとそば粉を使って作るんだよ~美味しいでしょ」
「凄い美味しい……!」
ガレットは黒コショウがなかなか効いていて、あるとないとじゃ満足度の桁が違うほど貢献している。
始めは温かいお蕎麦を食べようと思ったが、これも全然ありだ。
ガレットは蕎麦の風味も十分に味わえて、しかもアレンジが効く。
お店としてもこのメニューは人気になりそうだ。
私はそんな感じでぺろりとガレットを食べ終えてしまった。
「柚ちゃん。ガレット、どうだった?」
ののさんがテーブルまでやってきて話かけてきた。
「美味しかったです! 東京でも作ってみたいです!」
「よかった~今度は家族とこの村にいらっしゃい、そしたらサービスするよ!」
「え! 絶対連れてきます!」
「うん! いい返事だ! アハハ!」
温泉街の人はとても活気に溢れていて素敵だ。
私も近いうちにやりたいこととか見つけられるかな。
「佳代子ちゃん、今日はありがとう! ガレットすごい美味しかったよ!」
「こちらこそ! そういえば柚ちゃん、いつまでここに滞在できるの?」
そうだ、私東京に帰らなくちゃいけないんだ。
親とは年末前には帰ってくる約束をしている。
私は佳代子ちゃんとのお別れの時が刻々と迫っていることに気が付いてしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




