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温泉巡りの湯本さん  作者: みけめがね


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6/12

汗をかいた後はやっぱり!

佳代子ちゃんとの午後のスキー教室は順調に進んだ。

結構急なコースもゆっくりと滑れるようになった。

現在時刻は三時半、朝とは山の影の位置がすっかり変わっている。


「よーし、今日はこれで降りて、温泉行こっか!」


「うん!」


「じゃあ、お先!!」


「えぇ!?」


私が気づいたころにはゲレンデを高速で滑る佳代子ちゃんは豆粒くらいの大きさになっていた。

ここに来て改めてインターハイ出場選手の凄さを実感した。

十分ほど遅れてようやく私が降りてくるころには佳代子ちゃんはスキーウェアを脱いでインフォメーションセンターで待っていた。

思ったより随分長く待たせてしまったのかもしれない。


「柚ちゃん一日お疲れ様~ 足ガチガチでしょ? 一人でブーツ脱げる?」


「う、無理かも」


「任せて~」


佳代子ちゃんは遅れてきた私に文句ひとつ言わず手際よくブーツをスキー板から外し、私の足もブーツから解放した。

足がブーツの重さと締め付けから一気に解放されて気持ちまで少し和らいだ。


「菜花でのスキーはどうだった?」


「最初は少し不安だったけど、とても楽しかったよ」


「よかった~! その言葉が聞けてあたしも嬉しい!」


借りたブーツとスキー板などを返却して駐車場に向かう。

佳代子ちゃんのお父さんが車の外でタバコの煙を燻ぶらせて待っていた。

車に乗せてもらってそのまま菜花温泉の温泉街に戻る。


「柚ちゃん、スキーはどうだ? 上達したか?」


「ねぇねぇ聞いてよお父さん! 柚ちゃんめっっっちゃスキー上手なの! あたしびっくりした!」


「おぉ~柚ちゃんもこっちの生まれてればスキーでいい成績残したかもなぁ」


「で、でも佳代子ちゃんはスキーも上手だしとてもやさしいんですよ! 私がいくら降りてくるのが遅くても全然怒らなかったし……」


私は思わず俯いてしまった。

今までの東京のクラスメイトや友達と言える人は、少なからず文句を言い合える仲が良い関係だと思っているから。

それが悪いわけじゃないけど、私はその空気が少し苦手だ。


「そりゃそうだよ、だってあたしたち友達でしょ! その前に柚ちゃん初心者だしそんな酷いこと言う人いないよ~」 


さっぱりした佳代子ちゃんの言葉にちょっと安心する。


「あ、そういえば私今日もタオル持ってきてない!」


「じゃじゃーん、そうなることを見越してタオル二枚持ってきてます~」


さすが、佳代子ちゃん用意周到だ。

すると車が三階建てくらいの白いビルのような建物のまえで止まる。


「佳代子ちゃん? 何でここに止まったの? 白いビル? はあるけど」


「柚ちゃん、実はこの白いビルの中に温泉があるんだよ~」


「えぇ!?」


少々疑いながらも車を降りる。

初日に入った温泉とは全然違う外観。

ちょっとレトロな感じの小さいビルのようで、

温泉街を散策している観光客もまさかここに温泉があるなんて思いもしないだろう。

私はビルの階段を上る。


「柚ちゃん、一階が女湯だよ~」


気を取り直して私たちは一階の女湯の引き戸を開けた。

もわっとした温かい空気が充満している。

初日の温泉と同じく脱衣所は温泉の目の前。

今日も私たちだけの貸し切り温泉だ。

温泉の前の方には橙色のタイルが敷き詰められていていかにもレトロな雰囲気をかもしだしていた。

佳代子ちゃんは私の横で汗ばんだ服を脱ぐ。

野球部の男子が着るみたいなピチピチしたアンダーシャツを着ているけど、

大きな胸がかえって目立ってなんだか服を着ているのに卑猥な格好に思えてしまう。

私はブンブンと頭を振って脳内から煩悩を消し去る。


「今日も貸し切りだ、柚ちゃん、ラッキーガールだね」


「へ、うん、ありがと……」


「柚ちゃんまさか……変なこと考えてないよね?」


「いやいやいや! 絶対ないないっ!!」


「えー……全力で否定されるのはなんか悲しい……」


「え……? それってどういう?!」


「もぉ~気にしないでっ! 早く入らないと風邪ひいちゃうよ!」


佳代子ちゃんが赤面してる。会ってから初めてみる表情でやっぱりかわいい。

湯船に入っている白く濁ったお湯は見た感じとても熱そうだ。

私は湯舟に手を浸けて入れる温度か確かめる。


「柚ちゃん、大丈夫そう?」


佳代子ちゃんは一足先にかけ湯を済ませて肩まで湯舟に浸っていた。

白濁としたお湯が佳代子ちゃんの身体の輪郭をぼかしていて、またもや私の頭の中は男子中学生のような思考になってしまう。


「……そこまで熱くない感じかも」


思ったよりもそこまで熱くない温泉だ。

私はかけ湯をして温泉に肩まで浸かってみる。

すると一日中スキーでどっと溜まった足の疲れがほぐれ、じわぁっと消えていく。

まるで疲れが温泉の中にじゅわーっと溶けていくようなイメージで血の巡りが良くなって次第にほかほかと温まる。


「あぁ……気持ちいい……」


「やっぱり疲れた後の温泉は沁みるよね~」


「柚ちゃん! 明日はどこ行く?」


「そういえば菜花温泉の美味しい物とか食べてみたいなって思ったんだけど、佳代子ちゃんはなんか思いつく?」


「そうだね~じゃあ、明日案内してあげる! おすすめのお店があるんだ~」


私たちはしっかり温まって温泉から上がって身体を拭く。

佳代子ちゃんの家のバスタオルだ。

佳代子ちゃんの家の匂いがする。

佳代子ちゃんに抱きしめられた時も同じ匂いがしたな……あぁまた煩悩が……


「━━━━━━━━柚ちゃん! また明日ね!」


「はっ……ま、また明日ね!」


佳代子ちゃんにおばあちゃんの家まで送ってもらってしまった。

軽く頭がぼやっとする。


「のぼせたかな……」


佳代子ちゃんの背中を見送るのがちょっと寂しい。

この心のモヤモヤってなんだろう。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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