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第34話 殺しに来たやつを助けるとか、どういう状況だよ。

――夜の路地。


 血の匂いが、濃い。

 

 アンジェリーナは、必死に虎徹の身体を支えていた。


 重い。


 それだけじゃない。


 ――温かい。


 流れ続ける血が、手の中で命の重さを主張してくる。

 

「……くそっ……!」

 

 虎徹の呼吸は浅い。


 肩の傷は深く、止血も追いついていない。


 意識は、ほとんどない。

 

(まずい……このままじゃ……)

 

 その時――

 

「いたかっ!?」


「こっちだ!!」

 

 怒声。


 鉄靴の音。

 

 オークの集団が路地に雪崩れ込んでくる。

 

(……最悪だ)

 

 アンジェリーナは影に身を潜める。

 

(マフィアが回してる……医者も使えねえ……)


(どこ行っても密告される……詰みだ……)

 

 歯を食いしばる。

 

 その時。


 

 ――背後。

 


「おいおい……マジかよ」

 

 軽い声。

 

 だが、その一言で。


 空気が変わった。

 

「……っ!!」

 

 振り返る。

 

 そこにいたのは――

 

 二つの影。

 

 一人は、笑っている。

 

 ハヤオ。

 

 もう一人は――

 

 “無”。

 

 セリス。

 

 人形のように、立っている。

 

「……お前……」

 

(最悪だ……)


(よりによって……こいつらかよ……)

 

 だが、顔には出さない。

 

「……久しぶりだな」

 

 平静を装う。

 

 ハヤオはニヤリと笑い――

 

 そのまま、虎徹の横にしゃがみ込んだ。

 

 指で、つつく。

 

「おーい、生きてるか〜?」

 

 反応は、ない。

 

「うわ、マジで死にかけじゃねえか」

 

 ケラケラ笑う。

 

「いい気味だな」

 

「……殺せ……」

 

 かすれた声。


 虎徹。

 

 ハヤオは肩をすくめた。

 

「いや、放っときゃ死ぬだろ」

 

 軽い。


 あまりにも軽い。

 

「頼む!!」

 

 アンジェリーナが叫ぶ。

 

「助けてくれ!!」

 


 一瞬の沈黙。

 


 ハヤオは、ゆっくり顔を上げた。

 

「……この前、殺しに来たよな?」

 

 刺すような視線。

 

「それに――」

 

 一歩、踏み込む。

 

「今も、俺たちの“首”に値段ついてる」

 

 空気が凍る。

 

 アンジェリーナの背筋を、冷たい汗が伝う。

 

「……っ」

 

 言い返せない。

 

 その時。

 

 ハヤオが、笑った。

 

「で」

 

「武器、手に入れたんだろ?」

 


 静止。

 


 心臓が、止まる。

 

 虎徹の目が、わずかに開く。

 

 アンジェリーナも、息を呑む。

 

(なんで……知ってる……?)

 

 完全に、読まれている。

 


 だが――

 

 次の瞬間。

 

 アンジェリーナは、表情を消した。

 

 何事もなかったように。

 

 だが。

 

 ハヤオは、楽しそうに笑う。

 

「顔に書いてあんだよ」

 

 軽く肩を叩く。

 

「百目が教えてくれた」

 

「……あいつ……!!」

 

 歯ぎしり。

 

 怒りと、悔しさ。

 

 そして。

 


 ――諦め。

 


 アンジェリーナは、目を閉じた。

 

 覚悟を決める。

 

 ゆっくりと、頭を下げる。

 

「……お願いします」

 

 言葉が、変わった。

 

「助けてください」

 


 一拍。

 

「……兄貴なんだ」

 

 震える声。

 

「俺を……拾ってくれた」


「地獄から、引き上げてくれた」

 

 そして。

 

 絞り出すように。

 

「……番なんだ」

 

 

 ――その言葉で。

 


 止まっていた“何か”が。

 

 動いた。

 

 

「……ハヤオ」

 

 セリスの声。

 

 微かに、だが確かに――生気が戻る。

 

 目に、光が灯る。

 

 

 ハヤオは、無言。

 

 だが。

 

 セリスの脳裏に浮かぶ。

 

 兄の言葉。


 イグニスの。


 拳。

 

『武を振るう者の拳には――』


『正義と、信念と、仁を込めろ』

 

 


「……めんどくせえな」


 舌打ち。


 

「助けよう」

 

 

 セリスが、はっきりと言った。

 

 

「……お前なあ」

 

 ハヤオが頭を掻く。

 

「わかってんのか?」

 

「こいつ、治ったらまた殺しに来るぞ?」

 

「うん」

 

 即答。

 

「それでもいい」

 

 

 静かな、強さ。

 

 

「……はあ……」

 

 大きなため息。

 

 

「ほんと知らねえからな」

 

 

 観念した。

 

 

 その時。

 

 セリスが、にやりと笑う。

 

「大丈夫」

 

 懐から取り出す。

 

 ――骨の鍵。

 

 

「これがある」

 

 

「……それ使うなって言ってんだろ」

 

 ハヤオが即ツッコミ。

 

「ガチャだぞそれ」


 

「何出るかわかんねえんだよ」


 

「え、何それ」

 

「だからやめろ!!」

 

 

 緊張感、崩壊一歩手前。

 

 

「いいから!!」

 

 アンジェリーナが叫ぶ。

 

「なんでもいい!!」

 

「助けてくれ!!」

 

 

 その声は――

 

 もう敵のそれではなかった。

 

 

 ただの。

 

 “家族を救いたい者”の声だった。

 

 

 ハヤオは、肩をすくめる。

 

「……しゃーねえな」

 

 

 立ち上がる。

 

 

「じゃあ、まずは――」

 

 振り返る。

 

 迫るオークたちへ。

 

 

「邪魔者、片付けるか」

 

 

 口元が、笑う。

 

 

 戦闘の火種が――

 

 再び、灯った。



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