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第33話 恋人と血の戦いーアンジェリーナの決意

 百目は、まるで子供が新しい玩具を前にしたように――楽しそうに、笑っていた。


「――ルール説明だ」


 その声は軽い。だが、空間そのものが粘つくように歪む。


「この扉の先に、お前の対戦相手がいる」


 中央に佇む――あの“肉の扉”。


 蠢く顔。


 閉じたはずの口が、笑う。


「勝敗はわからない。そういう風に作った」


 “作った”。


 まるで世界そのものを細工したような言い方。


「そして――」


 百目の無数の視線が、虎徹とアンジェリーナを舐める。


「ここから出られるのは、一人だけだ」


 沈黙。


「勝者には、褒美を」


 にたり、と。


「では――行け」


 


 虎徹は、何も言わない。


 ただ一歩、踏み出す。


 ドアノブに手をかける。


 ――躊躇は、ない。


 だが。


 ほんの一瞬だけ。


 背後を見た。


 

 アンジェリーナと、目が合う。


 

 言葉はない。


 だが、それで十分だった。



 扉が、開く。


 闇に、呑まれる。



 バタン、と閉じた。


 

 残されたアンジェリーナ。

 

 百目は、その顔を覗き込むように近づく。


「不安か?」


 

「……ねえよ」


 即答だった。


 だが、その拳は震えている。



「ほう」


 百目は愉悦を隠さない。


「いい反応だ」


 

 空間が歪む。


 宙に――巨大な“視界”が展開される。


 

 それは、戦場。


 

 そして。



 アンジェリーナは、それを見て。


 息を、止めた。


「……っ……」


 

 そこにいたのは――



 虎の獣人。


 巨大な体躯。


 黄金の縞。


 静かに立つだけで、空気が軋む。



「……あ……」


 声にならない。


 百目が、囁く。


「さて」


「恋人と、血」


「どちらを応援する?」



「……黙れ」



 だが視線は、逸らせない。


 


 扉の向こう。


 

 虎徹は歩く。



 対面。



 男がいる。



 視線がぶつかる。



「……あんたか」



「うむ」


 低く、重い声。



「名を聞こう」



 虎徹は、少しだけ笑った。



「やめとこうぜ」


「情が湧く」


 

 一瞬の沈黙。



「……そうか」


 男は頷く。



 だが。


 次の言葉が、空気を裂いた。


 

「なぜだ」


「なぜお主から――懐かしい匂いがする」


 虎徹の眉が、わずかに歪む。


(……やっぱりか)


「聞くな」


 それだけだった。


 男は、静かに目を閉じる。


「……であるな」


 そして。



 開いた。



 獣の眼。



「ならば、力で問おう」


 


  戦闘開始



 爆発するように――距離が消えた。



 爪。



 ガキン!!


 虎徹の斧が、受け止める。



 衝撃で、地面が砕ける。



「――重っ……!」



 だが次の瞬間。



 牙が迫る。



 首を振るだけで、風圧が刃になる。



 虎徹は滑るように回避。


「ちっ……規格外かよ!!」


 笑う。



 ――楽しい。



「来い!!」



 スキル発動。



十戒武装デカログ・アーセナル



 空間に、斧が展開される。


 十。


 全てが――意思を持つように浮かぶ。



 一斉射出。



 斬撃の嵐。


 だが――



「ぬううううう!!」



 止まらない。



 血を撒きながら、それでも前に出る。


 爪が、虎徹の頬を裂く。


「……っ!」


 返す。



 拳。



 叩き込む。



 巨体が吹き飛ぶ。



 だが、倒れない。



 ゆっくりと立ち上がる。



「……見事」



 そして、笑う。



「楽しい」



「これこそが――」



「自由だ」



 再突撃。


 交差。


 肉が裂ける音。



 血。


 互いに、深く。


 そして――


 静止。


 虎徹の斧が、腹を裂き。


 獣人の爪が、肩に食い込む。


 どちらも、致命。


 だが。



 崩れたのは――



 獣人だった。



 膝をつく。

 


「……敗けだ」


 虎徹は、無言で立つ。



「名を」



 今度は、受けた。


 

「虎徹」


「コテツ・ヤマモト」


 

 男は頷く。


「……ナウルだ」



 一拍。



「……娘がいる」


 虎徹の目が、わずかに揺れる。



「……アンジェリーナ」



 沈黙。



「……そうか」



 理解した。



 すべて。



「……幸せにしろ」



 短い言葉。



「……ああ」



 斧が振り下ろされる。



 終わり。


 

 ■


 

 扉が開く。


 

 出てきたのは――虎徹。


 

 アンジェリーナが駆ける。



「兄貴!!」


 だが。

 


 虎徹の顔を見て。



 止まる。


 

「……言うな」



 震える声。



「墓場まで持ってけ」



 虎徹は、少しだけ笑った。



「……そうだな」


 

 沈黙。


 

「……俺はよ」



 言葉を探す。



「うまく言えねえ」


 

 でも。


 

「お前は、もう俺の番だ」


 

 それだけだった。

 


 アンジェリーナは、強く頷く。


「……ああ」


 

 それでいい。


 

 それだけでいい。


 


 ■


 


 百目が、拍手する。



「素晴らしい」

 


「最高だ」


 

「愛と血、選択と結果」


 

「完璧な劇だった」


 

 にやり。


 

「――これで“死の運命”は回避された」


 

 意味深な一言。


 

 そして。



 空間に、刀が現れる。



 青龍刀。


 

 その刃には――眼。



「褒美だ」



 虎徹が掴む。



 馴染む。



 最初から、持っていたかのように。


 ■



 気づけば。


 朽ちた屋敷。


 現実。


 風が吹く。


「……帰るか」


 

 虎徹の声は、重い。


 アンジェリーナが肩を貸す。


「なあ」


「俺たち、番だよな」


「ああ」


「じゃあ、無理すんな」


 

 沈黙。



 歩く。


 雑草を踏み分けて。


 去っていく。




 その背後で。


 影が、蠢いた。


「――次は、あいつだ」


「もう決まっている」


「さて……」


 “誰を壊そうか”


 声は、夜に溶けた。

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