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第26話 終わったのは戦いだけ

――戦いが、始まる。


 だが。


 本当の意味での“終わり”は――


 まだ、先にあった。



 ――月が、やけに明るい夜だった。


 ロスモンド・エルの広場。


 石畳の上に、五つの影が伸びる。


 風が止まる。


「……来るぞ」


 ハヤオが低く言う。


 その視線の先――


 ポリンキーズ、スミノフ三兄弟。


 ジャンが斧を担ぎ、歯を見せて笑う。


 ポールは眼鏡越しに冷静に距離を測り、

 ベルは緩く笑いながらも、足の位置は完璧だった。


 ――隙がない。


「いいか、セリス」


 ハヤオが一歩前に出る。


「こいつら、一人ひとりは――」


 ガキンッ!!


 言い終わる前に。


 ジャンの斧が振り下ろされていた。


「説明は戦いながらしろ!!」


 重い一撃。


 腕が軋む。


 その刹那――


「背後、いただきます」


 ポールの剣が閃く。


 ギリッ――躱す。


(やっぱり三方向……!)


「じゃあ、僕はこっちね〜」


 ベルがセリスへ踏み込む。


 三方向同時攻撃。


 完璧な連携。


「ちっ……!」


 ハヤオが後退する。


 セリスは動かない。


 キィンッ!!


 火花が散る。


 数合。


 刃と刃が激突するたび、夜気が震える。


「ふん……ナウシカ、やるじゃねえか」


 ジャンが笑う。


「嫌いじゃないぜ」


「ええ、非常に合理的な太刀筋です」


 ポールが分析する。


「うん、トトロにはもったいないね」


 ベルが軽口。


「うるせえよ!!」


 ハヤオが吐き捨てる。


 その瞬間――


「――加速する」


 スキル《アクセレーション》。


 世界が遅くなる。


 ハヤオが消える。


 次の瞬間。


 ドンッ!!


 拳がジャンを捉える。


「ぐっ……!」


 受け止める。


 だが押し切れない。


 そのまま――


 ドゴォォォン!!


 噴水ごと、吹き飛ぶ。


 石が砕け、水が夜に散る。


「……っはは」


 瓦礫の中で、ジャンが笑う。


 血を拭いながら。


「やっぱりバケモンだな、お前」


「お前らもな」


 ハヤオが息を整える。


 その頬に――


 一筋、血。


 ベルの一撃が、かすっていた。


(……ちゃんと通してきやがる)


 その事実に、わずかに笑う。


 ポールが言う。


「では――こちらも本気で」


 ジャンが立ち上がる。


「おう」


 ベルが肩を回す。


「いくよ〜」


 三人、同時に手をかざす。


「「「――分体創造」」」


 スキル《クリエイト・アバター》。


 ――増える。


 三が、六へ。


 完全な複製。


「「「「「「どうだ」」」」」」


 六つの声。


「くそっ……!」


 ハヤオが舌打ち。


「これがあるから厄介なんだよ……!」


「ジャン、前に出ろ」


「任せろ」


「ベル、後ろ頼む」


「はーい」


 自然な連携。


 言葉少なく、役割が決まる。


 ――チームだ。


「セリス!!」


 ハヤオが叫ぶ。


「帽子の奴が本体だ!!それ以外は――」


 言い切れない。


 三対一の猛攻。


 押される。


「……なら」


 ポールの声。


「先に彼女を落としましょう」


 ベルが笑う。


「だね〜」


 ベルと2人が、セリスへ向かう。


 ――その時。


「……そいつ」


 セリスが、ぽつりと呟く。


 小さく。


 だが、確実に。


「斬っていい?」


 ――空気が、歪む。


 ハヤオの背筋に、寒気。


(……来る)


 セリスが刀を肩に担ぐ。


 ゆっくりと。


 重心が、前へ。


 髪が逆立つ。


 瞳が、赤く染まる。


 刀が――熱を帯びる。


「「「やばい」」」


 ベルが揃って呟く。


「「「下がれ!!」」」


 ジャンとポールが叫ぶ。


 遅い。


「――砕け散れ」


 踏み込む。


「一刀両断」


 振り下ろされる一閃。


 ズドォォォォン!!


 炎が、夜を裂く。


 分体が吹き飛ぶ。


 ベル本体も、壁へ叩きつけられる。


「がっ……!」


 その一撃で。


 流れが、完全に変わる。


(今だ――!!)


 ハヤオが動く。


 不可視。


 加速。


「そこだ」


 本体――ポールへ。


 ドンッ!!


「くっ……!」


 受ける。


 だが。


 背後。


 もう一つの衝撃。


《アクセレーション》。


 二重。


 崩れる体勢。


 そのまま――


 ジャンへ。


「ぐあっ!!」


 受け止めきれず、倒れる。


 ――決着。


 静寂が戻る。


「……う、うーん……」


 ジャンが目を開ける。


「イタタ……」


 ポールが体を起こす。


「ここどこ……?」


 ベルが呟く。


 目の前。


 仁王立ちの影。


 逆光。


「……あー」


 ジャンが空を見る。


「ここ、地獄か」


「因果応報ですね」


 ポールが頷く。


「うん、諦めた」


 ベルも納得。


「おい」


 ハヤオの声。


「人の嫁捕まえて鬼ってなんだよ」


 一拍。


「……いや、鬼だったわ」


 自分で言って笑う。


 その後ろ。


 セリスが、静かに立っている。


 誰も、見ない。


 見れない。


「……あのさ」


 ハヤオが言う。


 少しだけ、声が柔らかい。


「お前ら、最悪だけどな」


 三人、止まる。


「何回も殺されかけたし」


 間。


「……でも」


 小さく笑う。


「嫌いじゃねえ」


 さらに一拍。


「ポリンキー、好きなんだよ」


 沈黙。


「お前らもな」


 ――。


「……友達じゃねえけどな」



「……へっ」


 ジャンが笑う。


「上等だ」


 立ち上がる。


「負けは負けだ」


「合理的判断です」


 ポール。


「うんうん」


 ベル。



 ――その時。


「いいわ」


 セリス。


 全員、凍る。


「助ける」


 一歩。


「でも」


 微笑む。


「教えて」


 ハヤオを指す。


「残りの話」


「女関係」


「タルトって女」


「ほんとに死んだの?」


 ――沈黙。


 風が、戻る。


 誰も、動かない。


 ハヤオ、後ろで手を合わせる。


(頼む……)


 無言の祈り。


 ジャンが口を開く。


「いいぜ」


「やめろぉぉぉ!!」


 ハヤオ絶叫。


 虚しく。


「タルトはあだ名だ」


「本名はタリア・シャイア」


「タリアは花が咲くって意味だ」


「昔の恋人ですね」


 ポールが補足。


「やめてええええええ!!」


 声が響く。



 ――。


 ……沈黙。


 ……風の音だけ。


 セリスが、ゆっくり口を開く。


「へぇ……恋人」


 温度がない。


「花が咲くような女」


「生きてるのかしら」


 ハヤオの口から、白い息が漏れる。


 魂が抜けかける。


 ギラリ。


 刀が抜かれる。


 ゆっくり。


 微笑み。


「……ねえ」


 優しく。


「逃げたら、ちゃんと追いかけるから」


 一歩、近づく。


「隠しても」


 さらに一歩。


「見つけるからね?」


 ハヤオ、悟る。


(……終わった)


 ポリンキーズ三人、同時に思う。


(さっきより詰んでる)


 ――戦いは終わった。


 だが。


 本当の意味での地獄は。


 ここからだった。



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