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第25話 巻き込まれた三人組の不運な夜

――深夜。


 ロスモンド・エルの広場。


 昼間の喧騒は消え、石畳は月光に濡れている。


 風が、ゆっくりと流れる。


 その中央に――


 仁王立ちの女と。


 正座する男。


 構図が、異常だった。


「……マリーの家は?」


 静かな声。


 冷たいというより――


 温度が存在しない声。


 セリス。


「うーん……知らない、かな……」


 ハヤオは正座のまま、目を逸らす。


 風が、止まる。


「ふーん」


 セリスが首を傾げる。


 柔らかい仕草。


 だが。


「家知らないなんてこと、あるの?」


 逃げ場はない。


「ほ、ほら……仕事だけの関係だったし……」


「デートは?」


 間髪入れない。


「……買い物とか……したような……」


「へえ」


 一歩。


 コツ。


 石畳に響く音。


「じゃあ――タルトって?」


 止まる。


 完全に。


 ハヤオの呼吸が、止まる。


「……どこにいるの?」


 ――沈黙。


 風が、消える。


 音が、消える。


 世界が、止まる。


「……び、病気で……死んだ……気がする……」


 言った。


 言ってしまった。


 ――。


 …………。


 ………………。


 セリスは、何も言わない。


 ただ、見ている。


 まばたきすら、しない。


 その数秒が――


 異常に長い。


(……終わった)


 ハヤオの背筋を、冷たい汗が流れる。



 その時。


 物陰。


「「「うわ~~~~……」」」


 三つの声が、完璧に重なる。


 スミノフ三兄弟――ポリンキーズ。


「おい……ほんとに行くのか……?」


 ジャンが顔をしかめる。


「このままでも、あの女性が処理してくれそうですが」


 ポールが冷静に言う。


「帰ろうよ……これ絶対やばいやつだよ……」


 ベルが本音。


 ――完全にコメディ。


 空気が、少しだけ緩む。


 だが。


 次の瞬間。


 ハヤオが顔を上げる。


 目が合う。


「あ」


「やべ」


「終わった」


「おーい!!こっちこっち!!」


 全力で手を振るハヤオ。


「「「このバカァァァ!!」」」


 小声絶叫。


「気づきやがった!!」


「仕方ありませんね……」


「え〜やだよ〜……」


 三人、観念して出てくる。


 歩きながら――


「お前が前な」


「いえ、あなたが」


「じゃあジャンでいいじゃん」


「ふざけんな」


 軽口。


 だが自然に並びが決まる。


 前衛ジャン、中衛ベル、後衛ポール。


 ――無意識の連携。



「……よぉ」


 ハヤオが立ち上がる。


 無理やり、笑う。


「来たな、ポリンキーズ」


「だからその名前やめろ!!」


 ジャンが即ツッコミ。


 だがその直後。


 三人、同時に止まる。


 ――セリスと目が合った。


 沈黙。


 完全停止。


(……なんだこれ)


(視線だけで足止まったぞ)


(帰りたい)


 空気が、一気に冷える。


 さっきのコメディが、嘘みたいに。


「……あー……」


 ジャンが喉を鳴らす。


「そっち、終わってからでいいぜ……?」


「ええ、遺恨は整理してからにしましょう」


「僕たち恨まないでね〜……」


 完全に及び腰。


 だが。


「いや」


 ハヤオが言う。


 一歩、前に出る。


「いい」


 拳を握る。


「殺ろう」


 三人が顔を上げる。


 その目に、わずかな変化。


(……逃げたな、こいつ)


(でも正解だ)


(後ろが地獄だからな)


 ハヤオは理解している。


 ここで続ければ――


 終わるのは戦いの後じゃない。


 今だ。


(だったら)


(前に進むしかねえ)


「終わったら……」


 振り返らないまま言う。


「ちゃんと話す」


 その一言で。


 空気が、凍る。


 セリスが、微笑む。


「……うん」


 小さく。


「楽しみにしてる」


 ――逃げ場、消滅。



 ジャンが肩を回す。


「……ほんと、ろくでもねえな」


 ポールが頷く。


「ですが、条件は対等です」


 ベルがぼそり。


「まあ、殺れば関係ないよね」


 三人、構える。


 自然に散開。


 連携、完成。


 ハヤオ、セリスも構える。


 月光の下。


 五つの影が交差する。


 ――戦いが、始まる。


 だが。


 本当の意味での“終わり”は――


 まだ、先にあった。


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