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第24話 昔の仲間と相席になって過去をバラされた件

 ――重い。


 パイの匂いはする。


 照明も暖かい。


 客の話し声も、確かにある。


 なのに。


 このテーブルだけ――


 空気が沈んでいる。


(……無理だろ、これ)


 ハヤオはフォークを動かしながら、内心で呻く。


 隣。


 セリスが、静かにパイを食べている。


 音が、しない。


 咀嚼音すら。


 ただ、視線だけが――


 ずっと、こちらを見ている。


 逃げ場がない。


(さっきの流れ、まだ続いてるよなこれ……)


 冷や汗が、首筋を伝う。



 ――その時。


 テーブルに、影が落ちた。


「じゃまするぜ」


 どかっ。


 遠慮ゼロで腰を下ろす三つの影。


 オレンジの三角帽。


 ドワーフ三人組。


「おいラナ、俺たちもパイだ」


「いいですね」


「任せる〜」


 ――スリーポリンキーズ。



 その姿を見た瞬間。


「お前らぁぁぁ!!」


 ハヤオの顔が、一気に明るくなる。


(助かった!!)


 心の底から。


(この空気壊せるの、こいつらしかいねえ!!)


「いいとこ来たな!」


 だが。


「……誰だこいつ」


 ジャンが眉をひそめる。


「誰でしょうね」


 ポールが眼鏡を押し上げる。


「誰〜」


 ベルがヘラヘラ笑う。


「おいぃぃぃ!!」


 ハヤオ、全力ツッコミ。


「久しぶりだってのにそれか!?」


「うるせえ!!」


 ジャンが机を叩く。


「俺たちはポリンキーズじゃねえ!!スミノフ三兄弟だ!!」


「テメエが勝手に名付けたせいで定着してんだよ!!」


「だいたいポリンキーって何なんですか?」


 ポールが真顔で聞く。


「怖くないよ〜」


 ベルがのんびり。


 一拍。


「……お菓子」


「……美味いぞ」


「……キャラ」


「ドンピシャだろ。完全に」


 ハヤオが笑う。


「ふん」


 ジャンが鼻を鳴らし、パイを頬張る。


「お前がトトロで」


 ハヤオを指差す。


「そっちの嬢ちゃんがナウシカだ」


 セリスへ視線。


 ハヤオは軽く笑って、


「いいじゃん。お姫様だし――」



 ――ミシッ。


 フォークが、わずかに曲がる。


 音は小さい。


 だが。


 確かに。


 全員、気づく。


(……今、曲がったよな?)


 セリスは何も言わない。


 ただ、また一口食べる。


 何事もなかったように。


 ――空気が、ほんの少し冷える。


(いやいやいや、まだいける)


 ハヤオは無理やり気持ちを戻す。


「で?」


 ジャンが口を拭きながら言う。


「その嬢ちゃんとどういう関係だ?」


 ハヤオ、肩をすくめる。


「結婚した」


 ――一拍。


 三人、ゆっくり立ち上がる。


「「「えーーーーーーーーーーー!!」」」


 店が揺れるレベルの絶叫。


「嘘だろお前!?」


 ジャンが叫ぶ。


「事実は小説より奇なり」


 ポールが冷静。


「……やっぱりね」


 ベルが頷く。


 そして。


 ジャンが、ハヤオを睨む。


「いいか……俺たちは裏稼業だ」


 拳が震える。


「でもな……女を無理やりモノにするような真似はしねえ!!」


(あ、始まった)


 ハヤオ内心で死ぬ。


「脅して関係を持った、典型例ですね」


 ポールが淡々と刺す。


「僕はいつかやると思ってたけど」


 ベルが一番えぐい。


「「「そこまで堕ちたのか!!」」」


 三方向断罪。



「違うわよ」


 静かな声。


 セリス。


 フォークを置く。


 今度は、まっすぐ。


 曲がったまま。


「またこの流れ……」


 ため息。


「私から嫁にしてって言ったの」


 あっさり。


「信じられねえ……」


 ジャンが呟く。


「だってハヤオには――」


 ポールが言いかけた瞬間。


 ピクッ。


 空気が震える。


(やめろおおおおおおお!!)


「お前ら何の用だよ!!」


 ハヤオ、全力で話を切る。


「ああ……」


 ジャンが立ち上がる。


「今はここじゃやらねえ。出禁になる」


「深夜十二時、広場に来なさい」


 ポールが告げる。


「来いよ」


「わかった〜」


 ハヤオ軽く返す。


(行くかバカ)


 顔に出ている。


「来なかったらな」


 ジャンが笑う。


「全部バラすからな。お前の過去」


 ハヤオ、内心ガッツポーズ。


(よし!!話逸れた!!)


(これで女関係は――)


「ねえ」


 終わらなかった。


 セリスの声。


 温度ゼロ。


「スミノフさんたち」


 三人、ピタッと止まる。


「なんだ嬢ちゃん」


 ジャンが振り向く。


「教えて」


 親指でハヤオを指す。


「こいつの女関係」


 ――ゴゴゴゴゴ。


 黒い霧が、滲む。


 テーブルの縁から。


 じわじわと。


「……いいぜ」


 三人、座り直す。


 即断。


「いやいやいや!!」


 ハヤオが叫ぶ。


「忙しいだろお前ら!!」


「……あ゛?」


 セリスが睨む。


 一瞬で。


 全員、黙る。


 カタ……カタ……。


 皿が、震え始める。


 誰も触れていないのに。


 ラナが小さく呟く。


「……うち、そういう店じゃないんだけど……」


 誰も聞いていない。


 霧が、濃くなる。


 ハヤオの視界が歪む。


(……これ、どこからが“半分”なんだ)


(まだ何が出る……?誰の話だ……?)


(終わらねえ……)


 ジャン、立ち上がる。


「……悪いな」


 珍しく真面目な顔。


「これは俺たちでも無理だ」


「ええ、巻き込まれるのはごめんです」


 ポールも同意。


「ごめん……ほんとごめん……」


 ベルが謝る。


 三人、逃げるように去る。


 完全撤退。


 ――静寂。


 セリスが、ナプキンで口を拭く。


 優雅に。


 丁寧に。


 そして。


 にやり、と笑う。


「……まだ半分なの?」


 小さく呟く。


「どこまでが半分なのかしら」


「“あの子”の分も?」


「“あの街”の分も?」


 目が、ゆっくり回る。


 理解してはいけない何かに触れた顔。


 ハヤオ、完全に悟る。


(……終わらねえ)


(これ、一生終わらねえやつだ)


「ねえ」


 セリスが、優しく言う。


 逃げ場はない。


「ちゃんと全部、話してね?」


 微笑み。


 そのまま。


 フォークを持ち上げる。


 少し曲がったままのそれで。


 パイを一口。


「……冷めるわよ?」


 ――その一言が。


 この場で一番、怖かった。


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