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第22話 情報屋に行ったら過去の女関係もバレて修羅場

――風が、重い。


 草原を駆けているはずなのに。


 なぜか、空気がまとわりつくように張り付く。


「……遅いわね」


 ぽつり、とセリスが呟く。


「いや、普通に速ぇぞ?」


 ハヤオが苦笑する。


 だが――その背中に、視線が突き刺さる。


 逃げ場なんて、ない。


「もっと速く行けるでしょ?」


「馬が死ぬな」


「……そう」


 納得したように見えて。


 その手は、ハヤオの背にそっと触れたまま離れない。



 ――“逃げないように”。


「……見えてきたな」


 ロスモンド・エル。


 巨大な城門。


 その内側に広がる、獣人たちの楽園。


 だが――


 セリスの興味は、街ではない。


 ただ一つ。


(……この人、ここに“何回”来たの?)


「俺が転移使えりゃ楽だったんだがな」


「……ここ、来たことあるのよね?」


「ああ、何回か」


「……誰と?」


 即座に刺さる。


「仕事でだよ!!」


「ふぅん……」


 微笑む。


 だがその目は、笑っていない。


(仕事で、ね)


(本当に?)


(本当に、“それだけ”?)


 ――疑念は、まだ小さい。


 だが確実に、根を張り始めている。



 宿を取る。


 中心部。安全。情報も集まる。


「ここは前にも泊まったことがあるからな」


「……そう」


 “またその話”。


 セリスの指が、ハヤオの袖を掴む。


 少しだけ、強く。


 気づかない程度に。


 でも――逃がさない程度に。


「飯でも行くか」


「……うん」


「その前に、寄り道な」


 裏路地へ。


 光が消える。音が消える。


 そして――


 人間の顔が、剥がれる場所。


 そこにいた。


 狼の女獣人。


「よう!!久しぶりだな、ユキ――」


「だからニュイだっつってんだろ」


 顔を上げる。


 止まる。


「……旦那ァ?」


「よ」


「よ、じゃねえよ!!死んだって聞いてたぞ!?いやそれより――」


 視線が動く。


 セリスへ。


 一礼。


「初めまして」


 その瞬間。


 ニュイの本能が、警鐘を鳴らした。


(……なんだ、この女)


(空気が、重い)


「も、もしかして……」


 ハヤオが、軽く言う。


「結婚した」


 ――沈黙。


「…………は?」


「結婚した」


「ええええええええええええええええええええええッ!!?」


 だが。


 叫びながらもニュイの視線は――


 セリスから離れない。


(やべえ)


(これ、マジでやべえやつだ)


 笑ってるのに。


 目が、死んでる。


 いや違う。


 “閉じてる”。


 外を見ていない。


 ――全部、ハヤオだけを見ている。



「で、用件は?」


 ニュイは切り替える。


 生き残るために。


 ハヤオが銀貨を投げる。


「俺たちを狙ってるやつは?」


 受け取る。


「……結構な額だ」


 セリス、無言で聞く。


「コテツ、アントニオ、ショッカー」


 銀貨、追加。


「元締めはドラッグクイーン」


「……あのゲイか?」


「バイだ」


 どうでもいい会話。


 だが。


 セリスの中では別の計算が進む。


(この人、過去の話を“普通に”してる)


(つまり――)


(女も、普通にいたってことよね)


 心が、きしむ。


 音もなく。


「“先生”は?」


「……ルクレールだ。二日先」


 紙を渡す。


「ここだ」


「助かる」


 ハヤオが背を向ける。


 ――その瞬間。


 ニュイは、やめればよかった。


 本当に。


「……旦那」


「なんだ」


「ほんとに、その娘……嫁なのか?」


「そうだ」


 即答。


 その一言で。


 セリスの中の何かが、少しだけ安定する。


 だが――


 次の一言で。


 すべてが壊れた。


「だってよ……あんた、前にマリーと――」


 ――時間が、止まる。


「余計なこと言うな!!」


 ハヤオの怒声。


 だがもう、遅い。



「……マリー?」


 音が、低い。


 深い。


 底がない。


「女の名前よね?」


 一歩。


 近づく。


 コツ。


 足音が、やけに響く。


 ニュイは悟る。


(終わった)


(俺、ここで死ぬかも)


 セリスは笑う。


 柔らかく。


 優しく。


「ねえ、ハヤオ」


 名前を呼ぶ。


 それだけで。


 空気が縛られる。


「“何人”いるの?」


「は?」


「マリー以外にも」


 さらに一歩。


「いるんでしょ?」


 逃げ場、ゼロ。


「違う!!誤解だ!!」


「誤解?」


 首を傾げる。


「じゃあ――説明して?」


 その声は甘い。


 だが。


 完全に支配している。


「ここじゃあなんだから……」


 にこり。


「ゆっくり、聞かせて」


“逃がさない”笑顔。


「……ユキ!!助けろ!!」


 ハヤオが振り返る。


 だが――


 ニュイはもう、いない。


 全力で、走っていた。


(無理だ!!あれは無理だ!!)


(旦那、すまん!!)



「ふーん……」


 セリスが呟く。


「仲間が逃げるくらいの関係……なのね?」


 刀に手がかかる。


 だが抜かない。


 その方が怖い。


「証明して?」


「何をだ!?」


「私だけってこと」


 距離、ゼロ。


 吐息が触れる。


 だが温度はない。


「ちゃんと、言葉で」


 逃げ場はない。


 言い逃れもできない。


「……お前だけだ!!」


 沈黙。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 ――にこり。


「うん」


 満足そうに頷く。


 だが。


 次の瞬間。


 耳元で囁く。


「嘘だったら――」


 声が、消えるほど小さくなる。


「全部、壊すから」


 世界も。


 人も。


 過去も。


 未来も。


 全部。


「ぎゃあああああああああああああああああああああッ!!」


 その悲鳴は――


 ロスモンド・エルの裏路地に、


 “長く、長く”


 こびりついたという。


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