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第18話 魔界ゴキブリと俺、どっちがマシ?

――室内。


 静まり返る空気。


 さっきまで庭で殺し合いをしていたとは思えないほど――平和な光景。


 テーブル。


 椅子。


 湯気の立つ湯のみ。


 そして。


「粗茶ですが、どうぞお召し上がりください」


 ぺこり、と頭を下げるセリス。


 所作が綺麗すぎる。


 完全に“良家の嫁”。


「……」


 ハヤオはその光景を見て、顔をしかめた。


「いい。そんなの、こいつに出さなくていい」


 露骨に嫌そうな声。


 しかしセリスは首を横に振る。


「でも、お義姉さん、でしょ?」


 ――その一言。


 ピタリ。


 時間が止まった。


「……は?」


 アツコの動きが止まる。


 ゆっくりと。


 肘をついた姿勢から――顔を上げる。


「……今、なんて?」


「お義姉さん、と……」


 次の瞬間。


 ガタンッ!!


 椅子を蹴飛ばし、立ち上がるアツコ。


「信じられない!!!!」


 絶叫。


 ハヤオが露骨に顔をしかめる。


「うるせえ」


 だが、アツコは止まらない。


 ズカズカとセリスの前に歩み寄る。


「ちょっと待って!!」


「動かないで!!」


 ぐいっ。


 顎を掴む。


 ぐいっと顔を上げさせる。


 至近距離。


 覗き込む。


「……」


「……」


「……うーん」


 真剣な顔。


 異様な沈黙。


「……精神汚染……なし」


「操作……なし」


「常識改変……なし」


「催眠……も……なし」


 ブツブツと呟く。


 完全に不審者である。


「……」


 ハヤオは無言で湯のみを飲んだ。


(また始まった)


「……おかしい」


 アツコが、眉間にしわを寄せる。


 そして。


 振り向く。


「ねえ」


 指差す。


 ハヤオを。


「あんた」


「どうやってこの娘を精神操作したの?」


「してねえよ」


 即答。


 食い気味。


「いやいやいや」


 後ずさるアツコ。


「うそでしょ……」


 両肩を掴む。


 セリスの。


「いい!?よく聞いて!!」


 必死。


「まだ間に合う!!」


「今なら戻れる!!」


「いくらでもいい男いるから!!」


「私ならね――」


 一拍。


 真顔。


「魔界ゴキブリとあいつ、どっちか選べって言われたら」


「魔界ゴキブリ選ぶわ」


「俺の評価どうなってんだよ」


 ハヤオが即ツッコミ。


 だが。


「いえ」


 セリスは――真っ直ぐ見た。


「私は、ハヤオさんがいいんです」


 断言。


 迷いなし。


 沈黙。


「……」


「……」


「……」


 アツコ、フリーズ。


 ゆっくり。


 頭を抱える。


「うーん……」


「うーん……」


「……意味がわからない」


 結論。



 ――数秒後。


「で?」


 ハヤオが腕を組む。


「何しに来た」


 明らかにイラついている。


 アツコは、ため息をついた。


 腰に手を当てる。


「……あんたが嫁もらったって聞いてね」


「……誰から」


「母さん」


 あっさり。


「見てきてって言われたのよ」


「“私の目に叶うなら、うちの嫁にしていい”って」


「は?」


 ハヤオが眉をひそめる。


「で?」


「どうなんだよ」


 一瞬。


 セリスの顔が曇る。


 不安。


 緊張。


 ぎゅっと手を握る。


 それを見て。


 アツコは――


「……どうもこうも」


 肩をすくめる。


「良すぎるでしょ」


「……え?」


 セリスが目を見開く。


「もったいないのよ」


 ズバッと言う。


「セリス」


 指差す。


「いいの?ほんとにこいつで」


「だから俺の評価なんなんだよ」


 ハヤオが再びツッコミ。


 しかし無視。


 完全に無視。



「私はね」


 腕を組む。


 真顔。


「ハヤオの嫁って」


 一拍。


「とりあえず雌で」


「人語理解できて」


「二足歩行の種族で」


「“ウホッ”“キキッ”“ガー”の三語くらい喋れれば」


「それで十分だと思ってたのよ」



「最低ラインどうなってんだよ」


 ハヤオ、真顔。


「なのに何これ」


 セリスを見る。


 上下に視線を動かす。


「ハイスペックすぎでしょ」


「反則よ」


「俺の嫁、魔獣基準かよ」


「そうよ」


 即答。


「お前なぁ……」


 ハヤオが額を押さえる。



 ――その横で。


 セリスは、少し震えながら言った。


「……では」


「私は……ナリカワ家の嫁として」


「認めていただいた……ということでしょうか」


 真剣な瞳。


 まっすぐ。


 まっすぐすぎる。


「……うーん」


 アツコ、腕を組む。


 悩む。


 本気で悩む。


「……なんかもったいないけど」


 ぽつり。


「セリスがいいなら」


 軽く手を振る。


「いいわ」


「えっ……」


「私の下僕、あげる」


 親指でハヤオを指す。


「こき使っていいから」


「物扱いすんな」


 ハヤオが即ツッコミ。


 だが。


「……!」


 セリスの顔が、ぱあっと明るくなる。


「ありがとうございます!!お義姉さん!!」


 深々と頭を下げる。


「いい?」


 アツコがニヤリと笑う。


「うちの家訓ね」


 人差し指を立てる。


「妹は、姉の言うこと絶対」


「私が白って言ったら」


「黒でも白」


「はいっ!!」


 即答。


 キラキラした目。


「おい」


 ハヤオが顔をしかめる。


「騙されるな」


「こいつ、お前を便利に使うことしか考えてねえぞ」


 しかし。


「はいっ!!」


 全く届いていない。


 むしろ。


 尊敬の眼差し。


「……」


 ハヤオは天井を見上げた。


(終わった……)


 完全に。


 手遅れだった。



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