第15話 聖女の加護は、俺の稼ぎの1年分!!
――翌朝。
窓から差し込む光。
静かな森の朝。
そして――
「…………」
一枚の紙を持った男が、固まっていた。
その手が。
プルプルと、震えている。
「……なんだ、これは」
低く、重く、しかしどこか現実逃避気味な声。
「ふふん」
対面で腕を組み、胸を張る女――モルテリア。
「大サービスだぞ?」
どやぁ……という効果音が見える顔。
「ふざけんなッ!!」
ドンッ!!と机を叩くハヤオ。
「これ!!俺の一年分の稼ぎより多いじゃねえか!!」
紙をバシバシ叩く。
そこに書かれているのは――請求額。
しかも、容赦ない桁。
「おいおい」
モルテリアが指を一本立てる。
「占いした上に」
二本目。
「旦那が戦闘手伝って」
三本目。
「娘が癒やしまで与えたんだぞ?」
ドヤ顔が止まらない。
「むしろ安いだろ?」
「安くねえよ!!」
即答。
「教会からは夫婦の証明までしてるわよ〜」
横から、にゅっと顔を出すクラウディア。
「ほんと破格よねぇ〜」
にやにや。
「持つべきものは友達、ってやつ?」
「お前ら友達の定義どうなってんだよ!!」
ハヤオ、頭を抱える。
「お前さ……」
ギロリとモルテリアを睨む。
「子供と旦那さえいれば他に何もいらないんじゃなかったのかよ」
「うーん」
モルテリア、少し考える素振り。
そして、
「それはそれ。これはこれだ」
即答。
清々しいまでの切り替え。
「お前なぁ……」
ハヤオ、深いため息。
「子供には最高の教育を与えたいんだ」
モルテリアが、ふっと真面目な顔になる。
「そのためには、金がかかる」
その視線の先――
ノエルが、ちょこんと椅子に座ってパンをかじっている。
その姿に、わずかに空気が柔らぐ。
「……それに」
モルテリアが肩をすくめる。
「聖女が加護まで与えてやったのに、その言い草はどうなんだ?」
「うっ……」
言い返せないハヤオ。
「ねえねえ」
クラウディアが身を乗り出す。
目がキラキラ――というよりギラギラしている。
「教会に来なよ?」
「ノエルちゃんなら聖女認定、確実よ?」
「ぐふふふ……聖女様の最側近として……」
口元が緩む。
「私も成り上が……げふん、げふん」
咳払い。
「支えるわよ!」
下心、隠す気ゼロ。
「それはいい!!」
モルテリア、食いつく。
「は?」
ハヤオが顔を上げた、その瞬間。
モルテリアは、ふっと視線を落とし――
自分の腹に、そっと手を当てた。
「もう一人、増えるんだ」
静かに。
しかし、確かな声で。
「……だから、いいから金払え」
「「えっ」」
ノリヒトとクラウディアの声がハモる。
一拍。
空気が止まる。
そして――
ハヤオとセリスの視線が、ゆっくりとノエルへ向く。
ノエルは――
にこっ、と微笑んだ。
まるで、全部わかっているかのように。
「……」
ハヤオが、ふっと息を吐く。
「……まあ、いいか」
小さく、笑う。
セリスも――
「うん……ノエルちゃんなら」
柔らかく微笑む。
その表情は、昨日までとは違っていた。
どこか――軽い。
どこか――穏やかで。
モルテリアは、それを見て、ほんの一瞬だけ目を細める。
だが、すぐにいつもの顔に戻る。
「ほら、さっさと払え」
「鬼かお前は!!」
「魔女だが?」
「そういう問題じゃねえ!!」
食卓に笑いが広がる。
ノエルが、くすっと小さく笑う。
その笑いは――
不思議なほど、場をやさしく包んだ。
――こうして。
騒がしくも、温かな朝が過ぎていく。
戦いの後に訪れた、
ほんのひとときの、平穏だった。




