第13話 依頼の中止と残った殺意
――家の中。
「……まずいな」
モルテリアが、ぽつりと呟いた。
静かだ。
だが、声がわずかに低い。
「うちの男ども……今日、死ぬかもしれん」
セリスの背筋が、凍る。
「そ、そんな……」
「運命ではない」
だが、
「実力で、な」
視線が、ノエルへ。
「ノエル」
優しい声。
だが、その奥にあるのは――決意。
「お願いがある」
ノエルが、こくりと頷く。
「この二人を……守れるか?」
セリスとクラウディアを見る。
「うん」
小さな返事。
だが、迷いはない。
「え……この子が……?」
セリスが戸惑う。
モルテリアが微笑む。
「大丈夫だ」
一拍。
「この子は――“触れられない”」
空気が、わずかに揺れる。
「何人たりともな」
ドアに手をかける。
「さあ」
目が細まる。
「化け物同士の殺し合いだ」
――開いた。
戦場へ。
「やめろーーーーッ!!」
――空気が、震えた。
モルテリアの声。
ただの叫びじゃない。
魔力そのものが、空間に叩きつけられる。
ピタリ。
止まる。
風も、殺意も、呼吸すら。
一瞬――この場の“すべて”が凍りついた。
静寂。
そして。
「……おい、おい、おい」
その沈黙を破ったのは、虎徹だった。
ゆっくりと、顔を上げる。
その目が、細くなる。
「お前……」
一歩、踏み出す。
口角が、吊り上がる。
「モルテリアじゃねえか」
その声は――明らかに“興奮”していた。
「はっ……!」
両手を広げる。
「光栄だねぇ……」
笑う。
嬉しそうに。
だがその奥には、獲物を見つけた獣の色。
「俺らの“アイドル”だぞ?」
「……ふざけるな」
モルテリアの声は、低い。
怒りを押し殺している。
「いいから帰れ」
「出来ねえな」
即答。
間もない。
迷いもない。
虎徹は、肩に斧を担ぎながら首を鳴らす。
「ここまで来て、“やっぱ帰ります”はねえだろ」
「これ以上戦うなら……」
モルテリアが一歩前へ出る。
「私も出る」
一拍。
「――夫婦でな」
「「えっ」」
見事にハモった。
虎徹とアントニオ。
同時に、視線が横に流れる。
ハヤオへ。
「……いやいやいや」
ハヤオが即座に手を振る。
「そっちじゃねえ」
親指で指す。
ノリヒト。
「こっち」
「……お前」
虎徹が、心底呆れたように息を吐く。
腰に手を当てて、天を仰ぐ。
「すげえな……」
ポツリ。
「スーパーボランティアかよ」
「うん、勇者」
アントニオが頷く。
「違う」
ノリヒトが真顔で言う。
「巻き込まれただけだ」
「それを世間では勇者って言うんだよ」
「知らん」
肩をすくめるノリヒト。
その横で。
「失礼なことを言うな」
モルテリアが一歩踏み出す。
その瞳は、まっすぐだった。
「相思相愛だ」
――沈黙。
「……いやいやいや」
虎徹が、即座に首を振る。
「無理だろ」
「性格最悪の魔女だぞ?」
「うん、無理」
アントニオも即答。
「お前らな……」
ハヤオが呆れ顔で呟く。
「だいたいわかるぞ」
虎徹が顎に手を当てる。
「未来視して、罠に嵌めたんだろ」
図星。
モルテリアの眉が、わずかに動く。
その横で、ノリヒトが苦笑した。
「……まあ、否定はしない」
「ほら見ろ」
「言うな」
モルテリアが睨む。
空気が一瞬、冷える。
「もういい」
声が落ちる。
「帰れ」
一歩。
「私を敵に回すのか?」
その瞬間。
空気が歪む。
圧。
明らかに、先ほどまでとは“質”が違う。
だが――
「いいな」
虎徹が、笑った。
斧を持ち直す。
「やるぜ」
「兄貴の言う通りだ」
アントニオも牙を見せる。
――その時。
ピッ、と。
軽い音。
宙に、光。
モニターが開く。
『依頼は一時中止だ』
無機質な女の声。
全員の動きが止まる。
『依頼主が死んだ』
一拍。
『殺された』
「……マジかよ」
虎徹が眉をひそめる。
「報酬は?」
現実的。
あまりにも。
『違約金は支払う』
「……なら、いいか」
あっさり。
斧を肩に担ぐ。
「帰るぞ」
アントニオを見る。
「了解」
獣の気配が、スッと引く。
――だが。
「待て」
ノリヒトが口を開く。
「お前」
視線が、まっすぐ虎徹へ。
「名前は?」
一瞬の沈黙。
そして。
「……虎徹だ」
低く。
「山本 虎徹」
「えっ」
ノリヒトが素で言う。
「プロレスラー?」
「違えわ」
即ツッコミ。
間髪入れず。
そして。
虎徹が、ゆっくりと斧を持ち上げる。
――ハヤオを指す。
「いいか」
その目は、真っ直ぐだった。
笑っていない。
「いつかお前を殺す」
一拍。
「覚えとけ」
――静寂。
そして。
「知るか」
ハヤオが、吐き捨てる。
だが。
口元が、わずかに吊り上がる。
「どうせまた来るんだろ」
「……ああ」
虎徹も笑う。
ほんの少しだけ。
「きっとな」
――ギィ。
空間が裂ける。
現れる、禍々しい扉。
クロスした刀。
そして、大きな目。
ギョロリと。
全員を、見渡す。
ドアが開く。
闇。
虎徹は振り返らない。
ただ、片手を軽く上げる。
「じゃあな」
一拍。
「また会うぞ」
その言葉は――
別れでも、約束でもない。
次の殺し合いの予告だった。
アントニオが笑う。
「次は殺すぜ」
「はいはい」
ハヤオが手を振る。
「来るなら来い」
――扉が閉じる。
消える。
静寂が戻る。
風が、遅れて吹いた。




