14時限目 代償
「やばい!大遅刻だ!!!」
乱れた服のまま真白の手を引いて走る。
「大丈夫だよあきくん。そんなに焦らなくても笑」
時刻は11時を過ぎていた。
遅刻したのは初めてだ。
真白の顔を見る。
恥ずかしさが込み上げてくる。
さっきまで、あんなことやこんなことしてたんだよな......
いかんいかん!早く学校に行かないと!
「はぁ...はぁ...」
こんなに走ったのは久々だ。いつ以来だろうか...
「あきくん。大丈夫?」
真白がハンカチを差し出してくれる。
天使にしか見えない。
やっとの思いで学校まで辿りついた。
恐る恐る教室のドアを開ける。
クラスメイトの視線が妙に低い。
「御屋形様!お待ちしておりました!」
御屋形様?何を言ってるんだ?
そんなはずない。俺はただの高校生だ
「山中くん...急にどうしたの?」
「この時をずっと待っておりました」
「拙者、山中甚次郎幸盛でございます」
山中くんが頭を垂れる。
「これまでご苦労だったわ。鹿之介」
真白が答える。2人はどういう関係なんだ?
「はっ」
「真白?山中くんとはどういう関係なの?」
「あきくんの家臣だよ♡」
理解が追いつかない。
「御屋形様、拙者めをお忘れですか!」
「僕はただの高校生で!」
——先ほどの真白の言葉を思い出す...
「——詮久♡」
「もう二度と、貴方を離さない♡」
——
「ふざけるな、こんなの現実じゃない!」
真白の手を振り払う
辺りを見回す。
クラスメイト全員が跪いている。
「あきくん、疲れてるだけだよ」
「思い出して...貴方はずっとここにいたの」
——突如、脳内に溢れ出した、存在しない記憶
月山富田城の風景、甲冑の重さ、毛利元就に大敗した吉田郡山城の戦い、臆病野州と蔑んでしまった挙句、殿軍で死なせてしまった大叔父上...新宮党粛清
感情が抑えられず、吐きそうになるのをなんとか堪える。
「でも俺は高校生のはずだ...」
そんな記憶、あるわけがないのに。
「真白!帰ろう!」
真白の手を引いて走り出す。
「御屋形様!何処へ!」
山中が叫ぶ。
俺は振り返ることはしなかった。
なんとか家まで戻って来れた。
急いで、玄関の鍵をかける。
「はぁ...はぁ...真白、大丈夫?」
さっきのはなんだったんだろうか...
きっと悪い夢でも見ているのだろう。
「あきくん、思い出せない?」
「500年前の約束のこと...」
「約束...?」
「貴方は500年前、神と契約したの。名を杵築大明神」
「それが私♡」
「は?」
言っている意味が理解できない。神?杵築大明神?
「出雲大社って言ったらわかるかな?その旧名が杵築大社」
動悸が止まらない。頭がクラクラする。
「尼子詮久が、中国地方で最大版図を築けたのは、私と契約したから」
「それがなんだっていうの?!」
「契約の代償は、尼子詮久が来世で生まれ変わったら、私と結ばれること」
「は?」
理解が追いつかない。冷や汗が出る。
俺が尼子詮久で、真白は神様だっていうのか?
——朝のニュースを思い出す。
「この国には、我々が理解できない存在が人間に擬態している可能性があります。その存在は複数確認されており...」
——「未確認生物ですが、対象と接触した人間が消えたり、記憶の改竄が見られております」
—— 「国民の皆さんには、不要不急の外出を避けていただき...」
頭が猛烈に痛い...
「ここから...逃げないと...」
「あきくん、逃げる必要なんてないよ。だって私たち、ずっと一緒だったでしょ?」
「大丈夫。怖くないよ。……思い出すだけだから♡」
真白の手が頬に触れる。心地よい。
……ああ、そうだ。ここが正しい。




