12時限目 夢の記憶
1528年 出雲国 月山富田城 尼子詮久
「若様、元服おめでとう御座います」
「うむ」
5歳で父を失った私には、物心ついた頃から感情が薄かった。
父の代わりに、祖父の尼子経久に育てられたが、教育は厳しかった。
尼子家の次期当主として育てられた私には、何の決定権もなく、祖父のお飾りでしかなかったのだ。
練習通り作業を終えると、元服の儀が終わった。
「詮久よ。これからはお前が当主じゃ。家臣と領民を思いやり、使えるものは全て使うのだ。良いな」
「はっ、お祖父様」
「特に杵築大社、あれは使える。覚えておくのだぞ」
「杵築大明神が、何の役に立つのでしょうか?」
「御主は神というものをわかっておらんな。人心の掌握に使うのよ」
初めて、興味が湧いた気がした。
そこから私は、のめり込むように杵築大明神を信仰するようになった。
何か...夢を見ていたような...
記憶にモヤがかかって思い出せない。
「あきくんおはよ〜♡」
「真白、キスしたい」
「えー?あきくんだいたーん♡」
「いいよ?って言いたいところだけど」
「まずは朝ご飯食べて歯磨きしなきゃねー?」
真白たんとキスしたい衝動に駆られる。
抑えられそうにない。
真白たんの肩を掴む。
思わず手に力が入る。
「あきくん、痛いよー♡」
「あ、ごめん…真白…」
くす、と真白たんが笑う。
「そんなに焦らなくてもいいのにー」
そっと俺の手に、自分の手を重ねてくる。
「ちゃんと、逃げないから♡」
朝食を食べながらニュースを見る。
臨時速報 日本に未確認生命体を発見
「国民の皆さん。落ち着いて聞いてください。」
この人は確か官房長官だ。何度かテレビで見たことがある。
「この国には、我々が理解できない存在が人間に擬態している可能性があります。その存在は複数確認されており...」
「未確認生物ですが、対象と接触した人間が消えたり、記憶の改竄が見られております」
「国民の皆さんには、不要不急の外出を避けていただき...」
難しい話でよくわからなかった。俺には関係のないことだろう。
一高校生である俺が理解したところで、出来ることは何もないのだ。
そんなことより真白たんとキスしたい...
朝食を食べ終わり、歯磨きをする。
時計を見る。
真白たんとイチャイチャしてる時間はなさそうだ。
学校に遅れてしまう。
「真白、行こうか」
「うん♡」
真白たんが腕に絡みついてくる。
「あきくん、神様って信じてる?」
「いきなりどうしたの?」
「答えて?」
「信じてないかなぁ...」
真白たんは神様を信じてるのかな?
「もし私が神様だったら、どうする?」
——動悸がする。なんだこれ?真白たんの冗談だよね?
「どうしたの急に?怖いよ...」
「あきくん歴史詳しいよね」
「うん...」
「私たちの関係、何か気付かない?」
——尼子...杵築...山中...新宮...
頭にノイズが走る。
「わかんない」
「なーんてね笑 あきくんびっくりした?」
言葉にできない違和感が残る。
まあ真白たんなら大丈夫だろう。
俺の婚約者なんだから。




