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霧島百万両始末記  作者: 水前寺鯉太郎


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静かなる光、江戸瓦斯(ガス)灯事始(ことはじめ)


 【下総国〜江戸・地下隠密ルート——深夜】

 闇に包まれた街道の地下。そこには、影牢が率いる「異形の軍団」が蠢いていた。

「……行け、青大将。管の中の土を掻き出せ」

 影牢の低い声に応じ、数百匹の蛇が、竹を繋ぎ合わせ漆で固めた「秘密のパイプ」の中を滑るように進んでいく。蛇たちの鱗が管の内側を磨き上げ、わずかな詰まりも許さない。

 地上では、巨大な蝦蟇がまがその強靭な足腰で、重い土留めの石を次々と運んでいた。

「……殿。隠密土木、順調にございます。江戸・日本橋の『丸屋』の軒下まで、あと半里」

「上出来だ、影牢。……いいか、この『風』は目に見えねえ。だからこそ、一寸の漏れも命取りだぜ」

 孝四郎は、暗い地下道で、自ら開発した「圧力調整弁」を調整していた。知謀75。彼は、ガスの爆発を防ぐために、職人の意地で精密なバルブを作り上げていたのだ。

 【江戸・日本橋「丸屋」店頭——翌晩】

 江戸の夜は、相変わらず菜種油の行灯が頼りない光を落としていた。

 そこへ、数日前から「丸屋」の前に設置された、一際大きな「謎の鉄の籠」を、通行人たちが不審そうに見つめていた。

「おい、霧島の殿様がまた何か始めたらしいぜ」「今度は何だ? 炭か、お茶か?」

 その時、店の奥から孝四郎が悠然と現れた。その後ろには、影牢が影のように寄り添っている。

「……みなさん、今夜は江戸の『夜』を終わらせに来たぜ」

 魅力91。孝四郎が不敵に笑い、鉄の籠の中にある小さな栓を捻った。

 シュッ……という、わずかな風の音。

 そこに、孝四郎がいつもの煙管きせるで火を近づけると——。

 ポッ……。

 一瞬、小さな青い光が宿り、次の瞬間。

 パァッ!! と、太陽が降りてきたかのような、眩いばかりの白い光が日本橋の通りを真っ昼間に変えた。

 【日本橋・驚愕】

「……う、うわああああ!!」「なんだ、この光は!? 影がないぞ!」「火じゃない、空気が光っている!」

 町人たちが腰を抜かし、ある者は拝み、ある者は逃げ出す。

 菜種油の百倍はあろうかという光量。そして何より、風に吹かれても消えず、芯を替える必要もない。

「これが、泥沼藩名産……**『不知火しらぬいガス灯』**だ。今夜から、江戸の夜は霧島が買い取ったぜ!」

 【江戸城・老中控室】

 「……何だと!? 日本橋に『不滅の灯火』が現れただと!?」

 報告を受けた老中が、持っていた茶碗を落として割った。

 隣にいた宮地紋太夫も、そのあまりの光景の噂に、顔を土色に変えて震えている。

「……あの泥沼には、呪いの鬼火しか出ないはず! なぜ、それが江戸の街を照らしているのだ!?」

「宮地殿……。もしや我々は、あの職人を泥沼に追放したことで、とんでもない『魔物』を解き放ってしまったのではないか?」

 【日本橋・丸屋】

 光の渦の中心で、孝四郎は静かに煙管をふかしていた。

「……影牢。次は江戸城下、全ての通りをこの光で繋ぐ。幕府が『貸せ』と言ってくる前に、江戸中の商家と契約を済ませちまうぞ」

「……御意。我が獣たち、既に次の配管に向けて動いております」

 孝四郎の狙いは、単なる照明の販売ではない。

 江戸の「インフラ」を私物化することで、幕府が自分を二度と動かせない、真の「経済の王」になることだった。

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