泥まみれの忍(しのび)、空腹には勝てず
新メンバー
名前: 影牢
潜入:90 (気配を消す技術は超一流)
武力:80 (小太刀と手裏剣の達人)
知謀:65 (各藩の情勢に詳しい)
魅力:20 (無愛想。ただし食べ物には弱い)
運:5 (だいたい空腹。大事なところで腹が鳴る)
【下総国・泥沼藩 畦道——夕刻】
「……青い火の次は、死体ですか!? もう、この領地は呪われすぎでございます!」
青い炎の発見に興奮する孝四郎の背後で、惣兵衛が今日何度目か分からない悲鳴を上げた。
泥の深い畦道に、真っ黒な「塊」が転がっている。
「……待て。死体ではない」
鷹之介が瞬時に前に出、鞘に収めたままの刀の先で、その塊を突いた。
泥まみれの装束。背中に背負った短い刀。顔を隠す頭巾。どこからどう見ても、それは闇に生きるはずの「忍者」であった。
「忍びか。……どこぞの刺客か、あるいは公儀の隠密か」
鷹之介の殺気が膨らむ。しかし、孝四郎はその忍者の枕元に屈み込み、その男の「腹」に手を当てた。
——ギュルルルルルル。
静かな泥沼に、あまりにも情けない音が響き渡った。
「……なんだ。ただの空腹い奴じゃねえか」
孝四郎が笑い出す。忍者は薄らと目を開け、「……か、かたじけ……な……」と掠れた声を出し、そのまま再び意識を失った。
【泥沼城(仮屋敷)——夜】
ボロい城の板の間に、泥を拭われた忍者が寝かされていた。
お鶴が甲斐甲斐しく、江戸から持ってきた最後のお茶を淹れ、おりんが泥沼藩で唯一収穫できた「痩せた芋」の煮転がしを盆に乗せてくる。
「……お、おお……これは……」
意識を取り戻した忍者は、猛然と芋に食らいついた。その速さは鷹之介の剣筋よりも速く、一瞬で盆は空になった。
「落ち着けよ、忍びの旦那。芋ならまだあるぜ」
孝四郎が煙管をくゆらしながら、柱に寄りかかって眺めている。
「……失礼した。拙者、名は影牢。……面目次第もない。任務の途中で食糧が尽き、この泥沼に迷い込み……三日三晩、何も口にしていなかったのだ」
影牢と名乗った忍者は、深々と頭を下げた。泥を落としたその素顔は、意外にも若く、知的な光を宿していた。
「忍びが食い詰めて行き倒れとは、世も末だな。どこの組織の回し者だ?」
鷹之介が鋭く問い詰める。
「……元は伊賀の端くれ。今は、主を失った『野良忍』にござる。……なんでも、この泥沼に『化け物が出る』との噂を聞き、何か食えるものでも落ちていないかと探りに参ったのだが……」
「化け物じゃねえよ。ありゃあ宝の山だ」
孝四郎はニヤリと笑い、影牢の前に「新作のチャバコ」を差し出した。
【職人のスカウト】
「影牢。お前、行く宛がねえなら、あっしの下で働かねえか?」
「……拙者を? 行き倒れの忍びを召し抱えると?」
「ああ。泥沼から湧き出る『青い火』を江戸まで届けるには、誰にも見つからねえ『隠し道』と、夜通し荷を見張る『鋭い目』が必要なんだよ」
孝四郎は、この忍者の「機動力」を、ガス・パイプライン警備の最高責任者に据えようと考えたのだ。
「……この芋の味、一生忘れませぬ。……影牢、今日よりこの命、お殿様に預けましょう」
こうして、泥沼藩に史上最強(だが、燃費の悪い)ガードマンが加わった。
【泥沼城(仮屋敷)——夜】
芋を平らげた影牢は、少しだけ顔色を取り戻すと、おもむろに指を組み、鋭い口笛を吹いた。
すると、屋根裏からカサカサと音が響き、三匹の「忍犬」が音もなく着地し、さらに床下からは巨大な「蝦蟇」がのそりと這い出してきたではないか。
「ひ、ひええええ!! 化け物だ! 呪いだぁ!!」
惣兵衛が今日十度目の白目を剥く。
「……驚かせて済まぬ。拙者、伊賀の中でも獣の心を通わせる『獣使い』の端くれ。この者たちは、拙者の手足。……そして、同時に呪縛でもある」
影牢が袖をまくると、腕には「裏切り者」を意味する凄惨な刺青が刻まれていた。
「拙者は組織の禁を破った『抜け忍』。……今この時も、伊賀の追手がこの泥沼の縁まで迫っております。拙者をここに置けば、お殿様にも災いが及びましょう」
「——抜け忍? 追手? へえ、そいつは景気がいいね」
孝四郎は驚くどころか、巨大な蝦蟇の頭を「いいツヤしてんな」と撫で回している。
魅力91。その物怖じしない態度に、警戒していた獣たちが一瞬で懐いた。
「影牢。あっしの前じゃあ、『過去』なんてのは、使い古したキセルのヤニと同じだ。掃除しちまえば、中身は新品。お前が何をやらかしたかなんて興味ねえ。……ただ、その『特技』、この泥沼を救うために貸してくれねえか?」
「……拙者の、獣をですか?」
「ああ。その蛇は竹管の中の詰まりを取るのに最高だ。忍犬は夜のガス漏れを見張る警備員。そしてそのデカい蝦蟇は……重い石を運ぶ『牛』の代わりになってもらうぜ」
知謀75。孝四郎は、影牢の獣軍団を、**「世界初の生物ハイテク土木チーム」**として再定義した。
【泥沼藩 境界線——深夜】
しんしんと冷える霧の中、三人の影が音もなく現れた。
伊賀の精鋭「追手三羽烏」。彼らの目的は、裏切り者・影牢の首、そして彼を匿う不届きな大名の抹殺である。
「……ククク。こんな泥沼のボロ城、一刻もかからず血の海よ」
刺客が抜刀し、一歩踏み出した、その時。
ボボボボッ!!
地面の泥から、青白い火柱が噴き出した。
「なっ、何だ!? 鬼火か!?」
「鬼火じゃねえ。……お前らの『死に花』だよ」
暗闇から現れたのは、影牢。その肩には、毒を帯びた「大蛇」が鎌首をもたげている。
「……影牢! 貴様、こんな泥沼の大名に飼われて、忍びのプライドを捨てたか!」
「——プライドじゃ腹は膨れぬ。……だが、あの御方の出す『芋』は、最高に美味かったぞ」
影牢が指を弾くと、沼の中から無数の忍犬が飛び出し、刺客たちの足を封じる。さらに、孝四郎が仕掛けた「天然ガスの罠」が、刺客たちの火薬玉に引火し、山を揺らす爆発が起きた。
【翌朝】
泥まみれで帰還した影牢を、孝四郎は温かい茶(お鶴ブレンド)で迎えた。
「片付いたか、影牢」
「……御意。追手は一時退きました。なれど、伊賀の本隊が動けば……」
「来させておけ。その頃にゃあ、この泥沼は世界で一番『明るい街』になってる。……そうなれば、幕府も手が出せねえよ」
孝四郎は、朝日に照らされる泥沼を見渡した。
抜け忍、獣、そして燃えるガス。
奇妙な仲間たちが、この死地を黄金の都へ変える準備は整った。




