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霧島百万両始末記  作者: 水前寺鯉太郎


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17/23

「幕府の毒饅頭、死地への国替え」

【江戸・霧島藩下屋敷——朝】

 「……く、くにがえ……?」

 惣兵衛の手から、愛用の胃薬の袋がパラリと落ちた。

 幕府からの使者が残していった一通の書状。そこには、霧島藩の「九州からの追放」と、新たな領地への移動が淡々と記されていた。

【沙汰】

霧島藩主・孝四郎。

江戸の冬を救いし功績、殊勝なり。よってその功に報い、九州の小藩から、関東の要所**「下総国しもうさのくに泥沼どろぬま藩」**三万石への加増・転封を命ずる。

なお、現在の霧島領は今後、幕府直轄の「天領」とし、チャバコおよび菊炭の利権は公儀が管理するものとする。

 「三万石への『加増』だと!? 笑わせるな!」

 鷹之介が、書状を床に叩きつけた。

 「泥沼藩といえば、名前の通り一年中地盤が緩く、農作物は育たず、水害が絶えぬ呪われた土地ではないか! 今の霧島は実質十万石以上の稼ぎがある。これは加増ではなく、ただの身ぐるみ剥ぎだ!」

 「……お茶も、クヌギの木も、もうありません。私たちは、どうすれば……」

 お鶴が、震える声で孝四郎を見つめた。

 知覧との同盟、肥後との貿易協定。それら全てを「物理的」に引き剥がし、孝四郎から武器(商品)を奪い取る。それが幕府の老中、そして裏で糸を引く宮地の狙いだった。

 【江戸・老中控室】

 「くふふ……どうだ、孝四郎。どんなに知恵を絞ろうと、お上の『一筆』には逆らえまい」

 宮地紋太夫は、老中の陰で、今度こそ勝利を確信していた。

 霧島が天領になれば、利権は幕府(と、それを取り持つ自分)のもの。孝四郎は泥沼の地で、何もできずに朽ち果てるはずだ。

 【泥沼藩への出発前夜】

 下屋敷の庭。

 「……殿、逃げましょう」

 おりんが、静かに荷物をまとめていた。

 「このまま泥沼に行けば、待っているのは借金まみれの餓死です。今ある金を持って、江戸を離れて職人に戻れば——」

 「——逃げねえよ」

 孝四郎が、暗闇の中で一本の「特製チャバコ」に火をつけた。

 彼の瞳には、絶望ではなく、獲物を狙う職人の光が宿っていた。

 「おりんちゃん、あっしは職人だ。……職人ってのはな、『欠陥品』を見つけると、それをどうやって『直す』かばかり考えちまうんだよ」

 「……直す? あの泥沼をですか?」

 「ああ。地図と古い帳面を洗ってみたが、あの『泥沼』……確かに米は育たねえが、代わりに**『あるモノ』**が腐るほど眠ってやがる」

 魅力91。孝四郎は、不安に震える惣兵衛の肩をポンと叩いた。

 「惣兵衛さん。胃薬は多めに持っていけよ。……泥沼藩の借金、全部チャラにして、江戸中の度肝を抜く『新しい光』を作ってやるぜ」

 【一ヶ月後・下総国 泥沼藩】

 そこは、見渡す限りの湿地帯だった。

 領民は痩せ細り、家々は傾き、いたる所に泥水が溜まっている。

 「……ひどい。これが、私たちの新しい家……」

 お鶴が絶句する中、孝四郎は泥の中に手を突っ込み、真っ黒な土を掴み上げた。

 クンクンと、その匂いを嗅ぐ。

 「……へえ。やっぱりそうだ。ここには**『泥炭でいたん』と『天然ガス』**が溜まってやがる」

 知謀75。江戸の職人時代、質の悪い燃料でも燃える道具を開発していた孝四郎は、この土地が持つ「地下資源」の可能性に気づいていたのだ。

 「いいか、みんな。米が育たねえなら、この泥を燃やして**『火の街』にするんだ。……霧島じゃあチャバコと菊炭だったが、ここでは江戸の夜を昼に変える、『新型の照明』**を売り出すぜ!」

 追放された死地で、孝四郎は幕府も予想だにしなかった「第三の革命」を起こそうとしていた。

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