先輩風、吹かします
ライバー寮にはちょっとしたラウンジがある。
配信後、疲れた私は気分転換にラウンジを訪れた。
夜遅くに来るのは初めてかもしれない。
照明はまだついている。誰かいるみたいだ。
「ふーんどうしましょうか……」
何かつぶやいている人がいる。初めて見る人だ。いやどこかで…
「こんばんは。どうしたんですか?」
とりあえず話しかけてみる。
「あわわ。こんばんは。わたし荒水天をしている本名は…」
「本名はまた今度でいいですよ。私は菜の花です」
偽Seasonalの人だ。どうしたのだろう。
「わたし悩みがあって。すごいところに来たというか」
「すごいところ?」
「あんなに個性的な人たちとは戦えないというか」
「あの、それは違うと思うけど」
ここははっきりと言ってあげたほうが良い気がする。語弊はあるけど。
「ここからは内緒話だし、お互いタメ口にしようよ。一応同期らしいし」
「ええそうしま……そうしよ」
「あのね。大手のオーディションを受ける人に個性的な人はいないよ」
「そうなの?」
「だって今はもう敷かれたレールだよ。本当に個性的な人は自力で新たな分野を開拓するでしょ」
「たしかに」
「私たちはあくまで一般人。だからすこしずつスキルを覚えていかないといけない。この世界にはまだまだ化け物のような人たちがいるんだよ。その人たちと会うたびにへこんでちゃいけないよ」
「わたしは思いあがってたのかもしれない」
自信はあってもいい気がするけどなあ。
「大体、個性なんか持ってても大変なだけだよ。突然だけど天はコスモス畑を見てどう思う?」
「きれいだとしか」
「ここで個性的な人間はこう思うわけ『この景色は!!胸がうずく。我の中にある百鬼王の愛した花。その香りが!!色が!!王の覚醒を加速させる!!全身に王の力が駆け巡る!!ふふこれで封じられた百鬼王の封印を解くことができる。覚えているか夜叉神。抑えきれないこの力で貴様を滅ぼしてくれる』ってね」
「思わないでしょ。しかもそれ個性じゃなくて中二病じゃん」
「天だって突然、軟体動物になって関節が540度曲がったら困るでしょ。個性ってそういうことだよ」
「それ個性じゃなくて体質じゃない?」
「ハゲるのも一種の個性だし」
「唐突に髪の毛の話はやめて」
「ともかく、個性なんか気にするなってこと。個性があっても無くても、税金は取られるし気にするだけ損だよ」
「税金は関係ないような」
天さんは釈然としてなかったけど、元気は出てきたみたい。よかったよかった。




