第5話「鍛冶師の紅玉髄」
翌朝、馬の体力が戻ったのを確認して、移動を再開した。
「この先にある街まで行く。そこで旅支度と必要なものを揃える」
オーリが手綱を握りながら言った。
「馬はどうするの?メリーは?」
「馬は売る。代わりに、この馬モドキに馬車を引かせる」
「メリーに?」
私は後ろを振り向く、馬車を引く馬よりも一回りも大きな白いユニコーン。メリーは馬車の後ろをついて歩いている。心なしか、誇らしげに見えた。
「――馬モドキのほうが高く売れるか?」
オーリのこぼした呟きに、メリーは悲鳴のような唸りをあげた。断固拒否の意志を指名しているようだった。
◇
街が見えてきたあたりで、オーリはメリーの角に布を巻いた。
「なにしてるの?」
「目立ちすぎる。角を隠す」
「メリー可哀想」
「我慢しろ、馬モドキ」
メリーは不満そうに鼻を鳴らし、布を振り払った。
メリーが嘶くと、角から光が溢れ出して角が見えなくなった。ドヤ顔をしているように見えた。
「隠せるのか?この術を見せびらかすために隠さなかったのか?馬鹿馬鹿しい」
オーリの言葉に不満げな様子で蹄をならすメリーだった。
◇
街の入り口に着くと少しだけ騒ぎになった。
原因はオーリだった。
「あの~御婦人。通行証等はお持ちですか?」
街の入り口にいた兵士が尋ねる。
「無い。夫を殴り屋敷を出てきてしまったのでな。娘を連れて実家に帰る途中の旅支度をしたくてここに来た」
大きな帽子を目深にかぶったオーリは、不機嫌そうな表情で、兵士と目を合わせることなく答えた。兵士は気まずそうな表情で馬車の中に居る私と目が合った。
しばらくして、集まってきた兵士達が何かを話している。
「本当に母親か?美人だけど、怖え」
「あんなに美人な奥さん怒らせるなんて、旦那なにやったんだ?」
「よっぽどろくでもない旦那だったに違いねぇな」
「娘さんの顔見たか?隠していたけど痣やら傷跡があった」
「まさか娘に暴力とか?ひでえ野郎だな!」
オーリのうそを信じて勝手に話が進んでいた。
(オーリが美人って褒められると、ちょっと嬉しい気がする)
兵士のリーダーっぽい若い人がオーリに話しかけている。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。本来は通行証無しでは通せません。ですが、私共の判断で今回は緊急性ありとします。どうぞお通りください」
「わかった。感謝する」
オーリは見たことのない笑顔を兵士に向けた。
オーリは兵士に目を向けて短く礼をして街の門をくぐった。オーリの顔を見たリーダーっぽい兵士が、顔を真っ赤にして倒れたのが窓から見えた。
(これが魔女の力か、きけんだあぶない)
いつの間にか、私の頭の中でオーリは悪魔から魔女になっていた。なぜかはわからない。
◇
街を歩く兵士に馬商人の居る場所を聞き、馬を売った後、馬小屋に馬車とメリーを預け、歩いて鍛冶屋を探した。
「剣と盾」が描かれた看板の置かれている店に入ると、若い店員が奥から出てきた。
「いらっしゃいませ」
若い店員はオーリを見ると少し怪訝な顔をした。
「武具を見繕いたい」
オーリが言うと。店員は棚を示した。剣、槍、盾——様々な武具が並んでいる。
「こちらから選んでください」
棚に書かれた値段を見て、オーリは少し考え込んでいた。
(資金が足りないな)
「もう少し手頃な物は」
「うちにあるのはこれで全部だよ」
店員は私を見て、一瞬——顔色が変わった。
「……あんた、どこかで見たような」
オーリが素早く前に出て、視線を遮った。
「気のせいだろう。他に武具を扱う店は?」
店居は少し考えてから奥に消えた。店の奥から筋肉質な店主が出てきた。店主はオーリと私を見ると、一瞬眉毛が動いた。
少し考えてから店主は話し始めた。
「資金不足か?――町外れに、元鍛冶屋の男が住んでいる。腕は確かだが、今は表立って店を開いていない。俺の紹介だと言えば、話くらいは聞いてくれるだろう。訪ねてみるといい」
「わかった。感謝する」
私とオーリは足早に武具店を後にした。
「気の所為、ってことにしておく」
店を出る瞬間、店主はオーリに向けて言ったであろう言葉が響く。
(気の所為って何のことだろう?)
オーリに聞いたけど、教えてくれなかった。
◇
オーリは道すがら、街の住民に聞き込みをした。
「町外れの鍛冶屋? ああ、あの人かい。何処かの屋敷お抱えの鍛冶師だったって噂だよ」
老婆が教えてくれた。
「御婦人。屋敷、というのは」
「あらやだ、御婦人だなんて。詳しくは知らないけどねぇ。何でも、その屋敷が火事になって、それから塞ぎ込んでるって話だよ」
オーリは黙って聞いていた。
「それにしてもえらいべっぴんさんだねぇ。昔話の魔女様みたいさね」
老婆の言葉にオーリは聞き返した。
「魔女?それはどういった昔話ですか?」
(魔女の昔話。ママから聞いたことがある気がする。どんな話だっけ?)
老婆の話によると、魔女は実在した人物だったようだ。大昔、この地域は隣接する国と争い続けて疲弊していたらしい。
その戦乱で家を燃やされた魔女は怒り、大暴れして、国境に一夜で大きな山・カルダ山脈を作りだし、戦争を終結させた。というものだった。
魔女は黒い髪と金色の瞳の美しい女性だったらしい。
「(なんだその化け物は?しかし、この地域では黒い髪を称える文化があるようだな)」
オーリは、自身の考えていた事が口に出ていることに気が付いていなかった。老婆には聞こえていないようだったが、私にはバッチリ聞こえていた。
◇
「思ったより。長い話だったな。それにしても、魔女か。今もいるのだろうか?」
オーリは魔女が気になるようだった。
「なんで魔女の事を気にしてるの?」
「現状頼れる先がない、後ろ盾がない状態では動きの自由こそあれ。不自由にもなる。可能であれば利用するべきだ」
(オーリは、コーリツと言うやつを考えているらしい。私にはよくわからない)
「いずれにしろ、協力者は必要だ。だが、急ぐほどでもない」
「ふーん」
老婆から聞いた街外れの小屋は、鍛冶場と隣接していた。
奥の鍛冶場から金属を打つ音が響いていた。
小屋に入ると、誰もいなかった。しかし——棚に並んだ武具を見て、オパリアが目を輝かせた。
「見て、オーリ!」
剣、短剣、槍。どれも、素人目にも見事な仕上がりだった。
私は棚に駆け寄って、一本一本を見て回っていた。
武具の知識のないオーリにも——それが只者の作ではないことがわかった。
「これは、予想以上だな。予算が足りるといいが」
オーリは店の奥へ声をかける。金属を叩く音が止まる。
「誰かいないのか?」
奥から、傷跡だらけのいかつい男が出てきた。
◇
オーリを見て、男は眉間に皺を寄せ目を細めた。
「若い女性がこんな所に何の用だ?」
「武具を用意してほしい。だが、資金にあまり余裕がない」
男が一歩、前に出た。
「ふん。街中の武具屋の店主から聞いたのか?アイツもお節介だな――」
その時——男の目が、オーリの後ろで武具を眺めていたオパリアを捉えた。
男の手から、持っていた金槌が落ちた。
「オパリア――お嬢様?まさか、生きて――」
「詮索はしないでもらうとありがたい」
オーリが、男の言葉を遮った。
男は、オーリの目を見て。何かに気づいたような顔をした。
「あんたのその目――そうか、わかった」
男は深く聞こうとしなかった。
「だがコレだけじゃ足りねぇな。今から必要なものを紙に書いて渡すから。魔物を狩って持ってきな。多分アンタなら苦も無いだろう」
◇
男はカウンターから紙を一枚取り出し、何かを書き込んでオーリへ差し出した。
「わかった。用意しよう」
オーリは受け取ろうとする。しかし——男は紙を、手放さなかった。
「一つだけ聞いていいか」
「なんだ。手短に頼む」
「ご当主夫妻は――?」
男の声は、震えていた。
オーリは、少し間を置いた。言葉を選んでいた。
「あの屋敷にいたのは――オパリアだけだった」
オーリの目を見て、男は深く息を吐きながら目を閉じた。
「そうか――わかった」
男はうなだれるように頭を下げた。
「俺からも、お嬢様を頼みます」
「頼みは聞き入れない」
オーリが言った。
「オパリア自身に、生きる道を選ばせるつもりだ」
男は、それ以上何も言わず、紙から手を離した。
◇
小屋を出て、オーリは紙に書かれた内容に目を通した。
「これは、丁度いいな。オパリア、お前にも手伝ってもらうぞ」
「何?何が書いてあるの?」
私は紙を覗き込んだ。
書かれていたのは——魔物の毛皮、骨、牙のリストだった。
「なにこれ?皮とか骨なんて、なにに使うの?」
「武具は金属だけではなく、動物の毛皮や骨で武具を作るんだ」
オーリは私の質問に簡潔に答えた。
私は、まだ剣を選ぶことに夢中だった。
「持つならオーリの剣がいい。柄が握りやすそうだったし」
「この剣はだめだ。お前が持つべき物ではない。魔物の情報集めと必要な道具を揃える、武具はそれからだ」
「ええー」
私が少し不満そうな声を出すと、オーリは少しだけ、笑ったように見えた。
「訓練も兼ねて、明日の朝から出るとしよう」
オーリは、歩き出した。私はその隣を歩いていく。
◇
街の酒場で、オーリが仕入れた情報によると。必要な素材の魔物は、三種類いることが分かった。
一つ目の毛皮は、大きな牛みたいな生き物の毛皮らしい。
近くの川沿いの草原に、群れでいる事が多いようだ。
私とオーリは川のほとりの大きな
岩の影から姿を観察する。
(ちょっと大きな牛って感じだな、草食べてるし)
牛の魔物が振り返ってこちらを見つめる。その顔を見て思わず全身に鳥肌が立つ。
顔に大小様々な無数の目が生えている。ギョロギョロと別々に動き、私に気付くと一斉に目がこちらを向いた。
「気付かれたか。あの一頭だけでいい。仕留めろ」
オーリの言葉を合図にして、私は走り出した。
牛モドキはとっさに逃げ出そうとするが、オーリの放った魔力の矢が足を貫き、動きを止める。
棍棒をしっかりと握り。私は牛モドキに渾身の力で殴りかかった。
「おりゃああああ」
牛モドキの頭へ、棍棒を正面から振り下ろした。
プチプチと何かが潰れる音、固い何かを砕く感触が伝わってくる。
牛モドキは痙攣しながらその場にゴロンと倒れた。頭は半分潰れていた。
「上出来だな。よくやった」
オーリはナイフを取り出し、素早く牛モドキを解体し始める。
吹き出す赤、引きずり出される中身。ショックだったけど、それほどでもなかった。
(私がやったんだ。――命を奪った)
それよりも、私の手に残った重い感触。固い、骨を砕く感触が、ずっと消えなかった。
牛モドキはお肉も売れるらしい。オーリは皮、骨、お肉、内臓を綺麗に分け、川で汚れを洗い落とし、街に売りに行った。
私はその間、焼いた牛モドキのお肉を齧りながら、川沿いの岩の上で自分の手を見ていた。
(重い――パパとママの仇を討つときもこんな感じなのかな)
オーリが戻ってきたのは太陽が真上から少しだけ通り過ぎてからだった。
◇
二つ目の骨の素材、あの人食い大蟻の固い殻だった。虫の身体の周りの固い部分が骨だと言うことを初めて知った。
「囲まれないように周囲に気を配れ」
オーリは、飛びかかる大蟻を木の棒ではじき飛ばしながら、私に指示を出す。
「殻を叩くな。関節を狙え」
「分かった!でえええい」
私は即席の石斧を大蟻の首元へ振り下ろした。訓練の時はびくともしなかった大蟻の身体は関節から切り離され。地面をのたうち回っている
「もう一撃――!?」
目の前の成果に浮かれて、私は周囲に気を配るのを忘れていた。大蟻が一斉に飛び掛ってきていた。
「周囲に気を配れと言ったはずだ」
私達を取り囲んでいた大蟻は一瞬でオーリに吹き飛ばされた。
「だが――これで二つ目だ、怪我なく仕留められただけでもヨシとしよう」
オーリは、私の額を指で軽く弾いた。
「次からは、周囲に気を配るのを忘れるな」
オーリと私は、大蟻の殻を持って街に戻った。入り口の兵士は、まだ複雑な表情をしていた。
◇
三つ目の牙、これが一番難しかった。
小さいリスのような姿の魔物の牙、武器の研磨剤に使うらしい。
――全然見つからない。見つけても、素早過ぎて捕まえられない。
「こういう相手には正面からいくな。罠を仕掛けろ」
オーリは、森の中を走り回り、泥だらけになった私を見てため息をついた。
オーリの言ったとおりに、紐で縛ったカゴと小さな木の実を置いてしばらく待つ。
「こんなんで捕まえられるの?」
「静かに待っていろ」
私の言葉を遮るようにオーリは人差し指を私の口元へ向ける。
しばらくすると、本当に来た。
カゴの中で木の実を齧っている。
(こうしてみると牙がすごい)
「今だ。紐を引け」
「うん」
私が紐を引くと、カゴの蓋が閉じてリスの魔物が閉じ込められた。
「やった」
私が近づくと、リスの魔物はピタリと動きを止め。その場に倒れた。
「え?死んじゃった?」
「死んだふりだ。今のうちに牙をもぎ取れ。指を切らないよう気をつけろ」
恐る恐るリスの魔物の口に手を入れて牙を掴む。パキッと軽い音がして簡単に牙が折れた。
「この子はどうするの?」
「カゴからだしてほおっておけ。牙も直ぐに生え変わる」
私はリスの魔物をカゴから出して、少し離れてしばらく様子を見ていると。
何事もなかったようにムクリと起き上がる。周囲を確認すると、落とした木の実を齧り始めた。
「本当だ。もう牙が生えてる」
(私の歯と違う)
私の歯はこの前お肉を食べた時に抜けてしまった。
オーリは大人の歯が生えると言ってたけどまだ生えてこない。
◇
それから数日、私とオーリの二人は森で魔物狩りを続けた。
今日は森の奥、オオカミのような魔物を相手にした訓練だった。
訓練と実践を兼ねた狩り。私の動きは、日ごとに洗練されていった、気がする。
「踏み込みすぎるな。誘い込め」
オーリは簡潔な言葉で指示を出す。
私に何をするかを明確には教えてくれない。訓練の時にホランが言っていた、自分で考えさせるやり方らしい。
「あと少し。ここ!」
オオカミの魔物が飛び込んできた瞬間。私は、ギリギリでかわしながら、オオカミの首元をナイフできり裂く。
オオカミの魔物は着地できずにそのまま倒れ、動かなくなった。
「――やっと倒せた」
息が切れる。心臓の音が大きい。
「上出来だな。今日はここまでだ」
オオカミの魔物を解体しながらオーリは言った。
「オーリの手料理が食べたい」
「旅が始まれば、嫌でも当面そうなる」
私の言葉に、オーリはなんだか、少しだけ嬉しそうだった。
◇
夜、街の宿で。
オーリは一人、鍛冶屋の男を訪ねていた。
「少し話を聞きたい」
男は作業台で武具のベルトを仕上げている。
「何をだ」
男は、手を止めずに言った。
「お前が、あの屋敷――オブシディア家にいた鍛冶師だったということについて、だ」
男の手が、止まった。
「知ってて、ここへ来たのか」
「知らん。貴族のお抱えだったとは聞いたが、確信したのはオパリアを見た反応からだ」
◇
「……ああ。俺はダンプ、オブシディア家お抱えの鍛冶師だった」
ダンプは頭をかきながらゆっくりと話し始めた。
「火事の一週間前、俺は仕事で街に出ていた。何があったのか俺にも分からない。戻った時には――全部、燃えた後だった。屋敷の中も周囲も捜したが誰も居なかった」
オーリは黙って聞いていた。
「屋敷には、俺の妻と娘も住み込みで働いていたんだ」
ダンプの声が、少し震えていた。
「二人とも、見つからなかった」
オーリの目が少しだけ揺らいだ。
オーリは頭に浮かんだことを、それを口にしなかった。今は口にするべきではないと考えた。
「そうか」
それだけ言った。
「お嬢様は――生きていたんだな」
ダンプは、少し安堵したような顔をした。
「でも一体、屋敷のどこに?」
「地下牢に幽閉されていた。オパリアの両親とともにな」
オーリの言葉にダンプは止まる。
「地下牢?オブシディアの屋敷に地下牢なんてなかったはずだ。地下に倉庫があったのは覚えてるが――」
「だろうな。後から改造されたものだろう。異様な数の牢の中にオパリアはいた、他にもいたが――生き残っていたのはオパリアだけだ」
ダンプが、探るように聞く。
「どうやって見つけたんだ」
「偶然としか言いようがないな。ブラムスからも遺言まがいの頼みをされた」
オーリは答えた。ブラムスの名を聞いてダンプは何かを納得した様子だった。
「そうか。ブラムス様が――まあ、深くは詮索はしねぇよ」
男は、また手を動かし始めた。
「武具は、期待しておけ。腕は落ちてねぇ。それに、素材の状態も良い。アンタやっぱり強いな」
ダンプの言葉に、オーリは口の端を上げ答える。
「素材はオパリアが狩った物だ」
「は!?お嬢様が!?」
驚き、叫んだダンプは椅子からずり落ちた。オーリは、振り向くことなく小屋を後にした。
「ははっ。お嬢様もちゃんと”オブシディア家”だったんだな。がははははは!」
ダンプの笑い声が小屋に響いていた。
◇
数日後、武具が仕上がった。
「これは――すごい剣だ!」
私は、渡された短めの剣を見て息を呑んだ。
柄には、小さな細工が施されていた。
(装飾のおかげで握りやすい。すごい剣だ)
「握りやすいように作った。刃も、お嬢さ――嬢ちゃんの力に合わせて調整してある」
ダンプが言った。
「ありがとう!」
私は、深く頭を下げた。こんなに良い剣を私は見たことがなかった。
「大事に、使ってくれよ。まあ、壊れたらそんときゃ何度でも直してやる」
ダンプの顔に、初めて——微かな笑みが浮かんだ。
「コッチは鎧だな大蟻の殻を使って軽さと動きやすさを重視してる」
赤みがかった光沢のある胸当てと手甲、脛当てを手渡される。
「ベルトには目牛の皮を使ってる。丈夫で幅も調整できるからある程度からだが大きくなっても大丈夫無はずだ。」
(軽い!固い!これがあのアリンコの鎧)
私は早速身に着けてみた。とても軽いし動きやすい。
手にした剣でつついてみた。
「おお!斬れない!すごい鎧だ!」
ダンプは唖然として私に注意した。
「ご当主以外にそんな事する奴初めて見た」
(ご当主ってのが誰かはわからないけど、やる人がいるなら問題ないよね?)
その瞬間、私の頭にオーリの拳骨が落ちた。
「あぐう!」
「馬鹿者。むやみなことをするな」
オーリの目が仄かに光ってる。
「こっちもご当主みたいなことしてんな」
ダンプがポツリと呟きながら、どこか楽しそうに私たちを見ていた。
◇
ダンプの小屋を後にした私達は、その足で街の外、近くの森へ向かった。
新しい武具を手に、私は小型を探して森の中を走り回る。
「動きやすい。やっぱり棍棒とか石斧と全然違う」
「当然だ。用途が違う」
私が狩った魔物をオーリが手早く解体し毛皮や骨、牙、爪を、街の武具店、洋服店で売った。
思っていたより、良い値がついたらしい。
◇
夕方。街の酒場で、オーリは一枚の張り紙を見つけた。ネズミのような絵が描かれた張り紙。
「店主これは何だ?」
酒場の女性店主に尋ねた。
「この辺じゃ珍しくもないよ。村や小さい町じゃ寄り合いで金を出して、畑や家畜を襲う魔物狩りの依頼を出すのさ」
「この紙は持っていってもいいのか」
オーリは張り紙へ指をさして問う。
「だめだよ、他の奴らも見るんだから。それにこの魔物、年中出るからって幾つかの村でまとめて出してるのさ。書いてあるだろ?」
「狩った数ではなく、日給制なのか」
オーリの言葉に、女性店主は理由を説明してくれた。
「前は狩った数で報酬を出してたんだけど。バカみたいに狩りまくった奴や、他所から死骸を集めてきた奴らがいてね」
店主は少し呆れたように言った。
「村の寄り合いじゃ報酬が足りないから、時間で雇うことにしたのさ」
「確かに、そのほうが良いだろうな」
オーリは頷いた。
「これを受けたい。どうすればいい」
「下に書いてある地図の印のどれかの村に行って、村長さんと話をすればいいよ」
「何か紙はあるか?写しを書きたい」
「うちに紙はないねえ。酒場だもの、道具屋にこの辺の地図があるからそれに書いたらいいさ」
「そうか。それより、この料理は何を使っているんだ?」
オーリは酒とつまみの料理を注文して、後で道具屋に向かうことにした。
◇
翌朝、私達は旅の支度をしていた。
私は、オーリの持っていた印のついた地図を覗き込んだ。
「魔物退治?これも仕事なんだね」
「そうだ。生活の糧になる」
オーリは手早くメリーに馬具を取り付け。御者台に座った。
「今から行くの?」
「ああ。今から向かえば、昼前には到着する。旅の資金は、多いに越したことはない」
私は少しだけ考える仕草をした。
(本当は特に考えてないけど)
「わかった」
私は馬車に、オーリの隣に座りこんだ。地図に描かれた村へ向かって出発した。
メリーは楽しそうに馬車を引きながら、頭を上下に振っている。
メリーの白いたてがみが嵐のなかの木のように荒ぶっていた。
「オーリとなら、どこへ行ってもいいや」
私の言葉に、オーリは何も言わない。そっぽを向いて、表情を見せてくれなかった。
【第6話へ続く】




