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灰被りの蛋白石  作者: 島ながぁ


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第25話・オーリ編「玉髄の航路」

 海上を巨大な水しぶきを上げながら爆進する白い小型船。


「はえ~元々人間やったんか」


 白毛のうさぎ獣人。イーランは、半人半鳥のファルクスに目を向けて綿菓子をつまみながらそう呟いた。


「元々な、戻れるなら戻りてぇよ」


 ファルクスは、釣り上げたばかりの小魚を鋭い歯で丸かじりながら海を眺めている。


「その割には、焦りなどはないんだな」


 ファルクスの様子に、黒髪金色の瞳の女性――オーリが問いかける。


「焦っても戻らねぇからな。それに、死んでねぇから何とかなるだろ?」


 ファルクスは魚の血で真っ赤になった鋭い歯を見せてニヤリと笑う。


「達観しとると言うか何と言うか。また血塗れやん。ほら、イケメンが台無しやで」


 イーランは、布でファルクスの口元を拭う。


 白い布は、すぐに魚の血で真っ赤になっていた。


「自分で拭けるって、俺の歯鋭いからやめろよな」


 ファルクスは、少し恥ずかしそうにしてイーランから布を受け取り口元を拭く。


「こいつ見てるとなんか、ムズムズするわぁ」


 イーランは、落ち着かない様子で耳をかいていた。


◇


「お前達の持っている情報を知りたい。かわりに、こちらも情報を出す」


 オーリは、イーランとアーランに目を向けて情報交換を提案する。


「先ずは、あのネズミ頭達の島についてだ」


「私もお伺いしたいです。何が起こっているのですか?土の士族、長代理として知らなければなりません」


 オーリに続いて白いネズミ獣人のメレも問いかける。


「かまへんけど、ワイらが知ってるのは大した情報やないで?」


 イーランは、綿菓子を食べ終わるとその場に座り直して話を始めた。


「帝都に襲撃があった事。襲撃者の中に土の士族の戦士がいたこと。戦士達は捕縛された後一人残らず昏睡状態。何も分からんからナッツ島に調査に来たんや」


 イーランの言葉にメレは驚き目を見開いた。


「帝都に土士族の兵士が!?」


 オーリは、目を細めて淡々と告げる。


「あの偽海賊達が、あの島で攫ったネズミ頭達をどこへやったのかが疑問だったが、そういうことか」


 ファルクスは、大きな鉤爪で器用に歯に詰まった小骨を取りながら首を傾げる。


「それにしてはおかしくねぇか?自分の国を襲撃だなんて、魔法かなんかで操られてんのか?」


 イーランは首を振り、ため息をつく。


「詳細はわからん。調査早々、夢のお告げに出くわすとは思わんやかったけどな」


「さっきも言っていたが夢のお告げとはなんだ?特異体質者か?」


 オーリが、尋ねるとイーランは少し困った顔をして言い淀んだ。


「外の人間には、あんまし言えんのや。

特異体質ってのはあってんねんけどな。島に着いたら直接本人に聞いてや」


 オーリはそれ以上追求することはなく。何かを考えているように、すれ違う船の残骸を見ていた。


◇


 波を掻き分け進む高速船の上で、暫くの間、皆無言だった。


 考え込んでいたオーリが、突然口を開いた。


「お前達の島はどんな場所なんだ?」


 オーリの問いかけにイーランは耳を少し動かした。


「ワイらの島か?やお島って言うんや。ほかの島と違って、3つの島が潮の満干で地続きになる島で、三つの士族がそれぞれの島を治めとる」


 オーリは島の名前に聞いてイーランに目を向けた。


「やおとは、八百万と言う言葉から来ているのか?」


 イーランは、少し驚いた表情をしてオーリの目をまっすぐに見る。


「そうやけど、よく知っとるな。何処で聞いたんや?」


 オーリはイーランから目をそらし、言葉を選ぶように答える。


「知っている言葉ではあるが、昔住んでいた国でそういった表現があった。数え切れないほど沢山という意味もあったな」


 イーランは額に指を当て考えている。


「なんや聞いたことあるような――狐か烏のヤツラなら、なんか知っとるかもしれんな」


 ファルクスは、また釣り上げた魚を頭からまるかじりししながら自身を指さした。


「八百島ねぇ。俺が島に入っても大丈夫なのか?鳥肉扱いされたりしないか?」


 オーリとイーランは、少しだけ考える仕草をしている。


「お前みたいな珍獣誰が食うんや」


「土士族は食おうとしたぜ?」


 イーランはゆっくりと土士族のメレに目を向けた。


「あはは、その節はどうも」


 ネズミ獣人のメレは、少し恥ずかしそうに頭を掻いている。


「あー、何も言えんわ」


 ファルクスは自身の翼の腕を指さす。


「まぁ実際。食えるけどさ、害が無いとは言えないぜ?」


 ファルクスの発言を、イーランとメレは一瞬理解できなかった。


 オーリは目を細める。


「呆れたものだな、自分で食ったのか。」


 ファルクスは肩をすくめて答える。


「好きで食った訳じゃねえよ。この姿にされた後、散々実験と称して解剖されてな。腕や足、体の殆どが再生するってことに気付いたんだ」


 ファルクスの声が、少しだけ低くなった。


「それで、逃げ出す時に狭い通気口を通るのに、体を細くする必要があったんだよ。だから――自分で腕を食いちぎった」


 イーランとメレは、言葉を失っていた。


 イーランは、顔を引きつらせながらファルクスに尋ねる。


「逃げ出す時って――お前、どっから逃げてきたんや」


「わかんねぇけど、西の方だと思う」


 メレは、ファルクスの腕を見ながら尋ねた。


「あのー、美味しかったんですか?」


 ファルクスはメレに目を向ける。


「美味くはなかったぞ?臭い鳥肉って感じだった――。って、なんで涎出てんだよ。食うなよ?」


 メレの口元から少しだけ涎がたれている。


「そうですか」


 メレは少し残念そうに肩を落とした。


「手羽か」


 オーリは、手にしたナイフでファルクスの翼をつついている。


「なんでナイフ持ってんだよ。食べる気じゃねえよな?」


 ファルクスの青ざめた表情を見ながらオーリはナイフを研いでいる。


「お前が釣った魚を全部食べるからだ」


 オーリは笑顔でそういった。


「俺が釣った魚だから俺が食ってもいいだろ!?」


「お腹、空いてきましたね」


 メレの目はどこか虚ろになっている。


「こどもが腹をすかせているのは、視るに堪えんな」


 オーリがナイフを持って迫ってきていた。


「子供じゃねえだろ、悪かったって!獲ってくればいいんだろ!?クソ!」


 ファルクスは、器用に銛を足で掴み、翼を広げ船から飛び出した。


◇


「マジで食う気やったん?」


 イーランの問いかけにオーリは首を振る。


 オーリは、空を舞うファルクスの姿を眺めながら答えた。


「ああでも言わなければ、この二人だけで船の食料まで食い尽くしかねんからな」


 メレは、自身と同じ大きさの魚を無心で貪り。あっという間に完食していた。


 上空を旋回していたファルクスは、何かを見つけた様子で銛を片手に海へ飛び込んだ。


「オカンみたいやな」


 イーランは、少し笑いながら海を眺める。


 ファルクスは銛の刺さった大きな魚を

足で鷲掴みにして水面から飛び上がった。


「これで文句ないだろ!?」


 びしょ濡れになりながら船に向かって滑空してくるファルクス。


 ファルクスの下、海面に影が見えた。


「なんだあれは?」


 オーリの言葉にイーランは目を向け、表情を変える。


「気づけや!なんかきとるで!?」


 イーランの声に足元へ目を向けた瞬間


「え――?」


 海から巨大な口が飛び出し、ファルクスは一瞬で吸い込まれた。


 船よりもはるかに大きなイソメの様な生き物だった。


 巨大イソメは、ファルクスを丸呑みにした後、倒れ込むように巨大な水しぶきを上げた。


「船食い!?なんで船食いの巣にきたんや!?」


 イーランは、従者のうさぎ獣人に怒鳴る。


「このあたりに船食いの巣があるなんて情報ありませんよ!ってかあんなデカいバケモン聞いたことないですよ!」


 船頭をしていた従者は、大声で答えながら、即座に船員たちに指示を出した。


「うさぎ頭、あれはなんだ」


 オーリは、海で蠢く巨大な姿から目を逸らさずにイーランに質問した。


「釣りエサに使っとった、ミミズみたいなのおるやろ?あれのデカい版や、船底に齧りついて穴を開けるから船食いって呼ばれてる」


 メレは、恐る恐る海を覗き込んでいる。


「島の外にはあんな大きな生き物がいるんですね」


 イーランは、海中の影を眺めながら険しい表情をしていた。


「デカいっていうても紐みたいに細長いし群れで襲ってくるんやけど――」


「通常はどのように対処しているんだ?」


 オーリの問いかけに、銛弩を手にしたイーランは目を向けずに答える。


「船に取り付いてくるやつを切って捨てるか、数が多けりゃ逃げる。あんなデカいの見たことも聞いたこともないわ」


◇


 三人が海中の影を見据えていると、背後から声がかかった。


「なんやみんな元気やね〜。なんかあったんか?」


 イーランの双子の妹アーランはあくびをしながら歩いてきた。


「アーラン!ちょうどいいとこに!船食いが出た、手伝てくれ!」


「船食い?毒あるから食べられへんやん」


 アーランは、三人の目線の先を覗き込む。


 目線の先、海の底で蠢く大蛇のようなイソメの姿を目にしたアーランは、思わず叫ぶ。


「バケモンやん!なんで逃げへんのや!」


 イーランに掴みかかるアーラン。


「あのバケモンにファルクスが丸呑みにされたんや」


「助けるなんて無理やろ、こんな弩弓じゃ爪楊枝にしかならへんやん」


 二人の押し問答を横目に、オーリは掌を海の底へ向ける。


「まだ聞きたいことがある。生きていれば、だが」


 オーリの掌から放たれた光が収束し、一本の槍のように形を変えた。


 魔力の槍は、海中の巨大イソメを狙っている。


「うそやろ、魔力を形にしよった」


「何この魔力量」


 双子は、その光景に唖然としていた。


「このあたりでいいか」


 轟音と共に魔力の槍が放たれた。


 魔力の槍は、凄まじい速度で真っ直ぐに巨大イソメへ向かっていく。


 巨大イソメは、巨躯に似つかわしくない素早さで、蛇のように躯をくねらせて槍を躱した。


 巨大イソメの躯を掠めた槍は、海底の岩に突き刺さり、砕け散ると同時に大爆発した。


 大量の海水が吹き飛ばされ、巨大な水柱が上がる。


 海水の雨が降り注ぎ、大波に揺られる船。


「少し強すぎたか?」


 オーリは、首を捻りながら自身の掌を眺めている。


「間欠泉ってこんなんやったよな」


「せやね」


 イーランとアーランは、爆発に巻き込まれ空中に吹き飛ばされた巨大イソメを眺めながら呟いた。


 巨大イソメは、錐揉みで回転し、躯を千切りながら海に叩きつけられ、動かなくなっていた。


 その巨躯は所々が焼け焦げ、ゆっくりと波に飲まれて沈んでいく。


 周囲には、焼けた磯の香りが立ち込めている。


 暫くして、穏やかになった海面を眺めていたイーランは、ポツリと呟いた。


「ファルクスどした?」


 オーリは、何も言わずに海に飛び込んだ。




【第26話へ続く】

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