第16話「天秤の金緑石」
タオ達四人をチンタオへ送りながら、オーリを捜す為の旅が、始まった。
私達七人にメリーを加えた、賑やかな一行だった。
◇
「馬車、もらっていいの?」
プラムの領主邸の前で、私はプラムに聞いた。
王国の紋章と、見たことのない紋章がついた立派な馬車が、一台用意されていた。
「王妃様からの贈り物です。オパリアさん宛に、詳しい理由はわかりませんが」
プラムが言った。
「オーリじゃなくて、私に?」
「そうらしい。詳しい理由は――王妃様に会ったときにでも聞けばいい」
ヴォルフは何か知っている様子だったけど、教えてくれなかった。
私は、よくわからないまま、メイメイ達と一緒に、馬車に乗り込んだ。
◇
アダマス領の荒れた街道でも全く揺れない。すごい馬車だ。
メリーが馬車を引き、ハジャルが御者と周囲の警戒。
馬車の中には、私、メイメイ、イーラン、アーランの四人。
タオとヴォルフは、それぞれ馬に乗って並走していた。
「それにしても、でかい馬だな」
タオが、メリーを見て感心していた。
「メリーはユニコーンだよ」
「ユニコーン――だと?!」
タオの声が、少し上ずっていた。メリーは隠していた角を見せて、どこか誇らしげにしている。
「ユニコーン!?」
「聖獣!?」
メイメイと双子も目を丸くして驚いていた。
「チンタオじゃ、ユニコーンや竜は、神の使いって言われてるんだ」
「そうなの?」
「ああ。俺も実際に見るのは初めてだ」
メイメイも、窓からメリーを見て目を輝かせていた。
「本物の聖獣だ」
メリーは、そんな視線に気づいているのか、ドヤ顔で悠々と馬車を引いていた。
◇
旅は、驚くほど順調だった。
途中、何度か野盗に襲われることもあったが——
「なんか、気が抜けるな」
ヴォルフが一言呟く、大抵の野盗はヴォルフ、ハジャル、タオの三人に、あっという間に捕縛された。
私達が加わると、さらに早かった。
「よわ〜い」
「ざ〜こざ〜こ」
イーランとアーランが、縄で縛った野盗を並べながら煽っている。
「相手がかわいそうになってきますね」
ハジャルは、思わず呟いた。
「まあ、これくらい余裕がある方がいいだろ」
ヴォルフは、涼しい顔をしていた。
◇
夜、私達は、街道に近い川沿いで野営をした。焚き火を皆で囲んでいる。
夕食は干し肉とスープだった。
「チンタオってどんな国なの?」
私は、メイメイ達にチンタオのことを聞いた。メイメイは、干し肉を齧りながら教えてくれた。
「チンタオっていうのは、私たち士族が統治する島の集まりの名前なの。士族っていうのは、貴族とか兵士みたいなものね。」
「メイメイ達は、チンタオの貴族なんだね」
「普段は治めている島の政を行い。有事の際には、率先して武器を取り戦う。それが士族の役目だ」
タオは、士族の役割について教えてくれた。
(なんだか、ママに聞いたオブシディア家の役割に似てるな)
◇
「気孔術っていうのは?私、魔法が効きにくい体質なんだけど。治癒魔法も効かないのに、気孔術で傷が治ったのはなんでなの?」
私の質問にメイメイとタオは、少し答えづらそうにしている。ヴォルフが変わりに答えてくれた。
「気孔術っていうのは、主にチンタオで発達した魔法とは別の技術だ。俺も少しだけ使えるが、見せれるものじゃないな」
ヴォルフは、気孔術も使えるらしい。意外と多芸だ。
「魔法は外に出す技術だ。気孔術は、身体の中の魔力を操作するものって考えればいい」
「そうなんだ、覚えることはできるかな?」
「わかりやすいな。助かる」
どうやら、タオとメイメイは気孔術について説明するのが苦手だったようだ。
「使えるようになるかはわからないけど、教えてほしい」
私がそう言うと、イーランとアーランが名乗り出た。
「教えるよ〜手を出して」
「簡単だよ〜やってみて〜」
イーランとアーランは私の手を取って、魔力を流し循環させた。
「このやり方って――」
前にオーリがやっていた方法だった。でもオーリよりも繊細で、私は身体の中に、微かに流れを感じる事ができた。
「教える側に、かなり繊細な操作が必要になるが、魔力の流れを感じながら覚えられる方法だ。まあ、下手な奴がやると暴発するがな」
チンタオでも一般的ではない教え方らしい、タオは訓練方法について教えてくれた。
「本来なら長い時間をかけて、少しずつ流れを身に着けていくものだ、他にも方法はあるが、どれも危険がある。双子なら問題はないだろう」
(他のやり方ってなんだろう。少し気になる)
少しだけ、魔力の流れというのが、わかるようになってきた気がする
イーランとアーランはすぐに辞めて、ぐったりしていた。
「魔力多い〜」
「抵抗強すぎ〜」
どうやら私の体は魔力の量がかなり多いようだった。
交代で見張りをして眠る、今日は双子とタオが見張りの番だった。
◇
私が目を覚ますと、まだ夜中だった。汗が止まらない。嫌な夢を見た気がするけどよく覚えてない。
いつもの習慣で、オーリを探して周囲を見る。
(オーリは、いないんだった)
夢の中で、何度もオーリを呼んでいた気がする。
目を覚ましても、その不安は消えなかった。
馬車の中で、そっと身体を起こした。
メイメイは、すやすやと眠っている。
外に出ると、月明かりが周囲を照らしていた。タオが焚き火のそばに座っている。
(イーランとアーランが居ない)
「どうした?」
タオが私に気付き、声をかけてくる。
「ちょっと寝れなくて、散歩してくる」
「そうか、あまり離れるなよ」
◇
野営地を少し離れたところで、私は足を止めた。何か聞こえた気がした。
近くの岩陰から、話し声が聞こえた。
「暗殺は中止にしたで、ランガルの中でも動きが統率されてないみたいや――報告は以上や」
子供の声ではなかった。
私は、そっと岩陰から覗いた。
◇
そこにいたのは、魔法陣を前にした二人の大人だった。
細身の男女。月明かりに照らされて長い耳が見える。
うさぎの獣人だった。
男性の方は、まくし立てるような不思議な口調だった。
「せやから、王都の件はもうしばらく様子見やて、定期報告はしとるんやから、かまへんやろ?」
女性の方は、おっとりとした話し口調だった。
「そうどすなぁ。ここは慎重にいかんと」
二人は、魔法陣越しに誰かと話しているようだった。
(誰?イーランとアーランに、似てるけど——)
少し冷たい夜風に、私の鼻がくすぐられた。
「くひゅん!」
抑えようとした結果、変な声が出てしまった。
「あ、あかん」
「見られても〜たわ」
私の声に、二人が振り返った。
◇
「もうちょい隠すつもりやったんやけどな〜。しゃーなし――殺るか」
うさぎ獣人の男性は、鎖のついた鎌を手に待って構える。
「いややわ〜物騒やね〜。でも――堪忍やで」
うさぎ獣人の女性は、鋭い鉤爪を両手に構える。
私は、思わず剣に手をかけていた。
睨み合いになった。
大人の姿をした男女も、油断のない目でこちらを見ていた。
空気が、張り詰めていく。
(誰かわかんないけど、強そう。どうしよう、皆と離れすぎた)
動けない。一歩でも動けば――
「――遅いと思えば、何を騒いでいるんだ」
突然、後ろから声がした。
振り返ると、タオが立っていた。
「定期報告が終わったなら戻れ。オパリアも、双子もさっさと寝ろ」
その一言で——空気が、一気に緩んだ。
「あ」
「タオ、さん」
うさぎ獣人の男女が、気まずそうな顔をした。
私は、タオを見た。
「タオ、知ってたの?」
「あー、知らなかったのか?」
タオは、頭を掻きながら答えた。
「タオはん、そりゃないですわ」
「バレてたんかい」
◇
翌朝、野営地で全員を集めて、事情を聞くことになった。
「ウチラは、丘士族の幹部や。人攫いについて、ランガル王国に調査に来とったんや」
男性――大人姿のアーランが、説明を始めた。
イーランとアーランは、大人だった。
「子どもだったのは、調査の為の仮の姿やねん。黙ってたこと堪忍な」
女性の方――大人姿のイーランが、続けて謝る。
「双子忍者、と呼ばれてる。チンタオじゃ、それなりに名の知れた、腕の立つ暗殺者だ」
タオが双子について教えてくれた。
「めっちゃバラすやん、せめて暗殺者ってのは黙っといて欲しかったわ」
大人姿のイーランは、呆れた様子でタオに文句を言う。
「俺も聞いたことがあるな、確か天秤とかって呼び名だよな?」
「いややわぁ。大陸の人にも知れとるなんて、照れてまうわぁ」
ヴォルフの話に、アーランは少し嬉しそうにしていた。
私は、目を丸くしていた。
「あの子たちの中身が……」
「ずっと、この姿だったわけやないで?子供の姿は、変装の一つや」
◇
「あー。バレたついでにもう一つ、話しておくことがあるわ」
アーランが、少し言いにくそうに続けた。
「調査結果次第では——王族の暗殺も、視野に入れていたんや」
「暗殺?」
私は、驚いて聞き返した。
「ああ。せやけど」
イーランが、首を振った。
「王族、王妃の暗殺は逆効果、と判断して。大人しくしとった」
空気が、少しだけ重くなった気がする。
「ま!本音言わせてもらうと、暗殺って嫌いやねん」
「せやせや、暗殺なんて、人のすることやないで〜」
「ほんまやで。ってそれじゃウチラ、人でなしやないかい!」
双子は見事なノリツッコミを披露した。少しだけ、空気が軽くなった気がする。
◇
「――どうする、これ」
ヴォルフが、皆を見回した。面倒だという表情をしている。
「あんまり、ややこしくしたくねぇんだが」
「私も、それに賛成だ」
タオが、頷いた。
「秘密にしておこう。ここだけの話、ということで」
私は、少し考えてから頷いた。
「わかった。イーランとアーランのままで、いい」
「助かるわ」
イーランが、少しほっとした様子で言った。
「その代わり、危ない時は、ちゃんと力を貸してほしい」
「もちろんや。お姉さんの胸を貸したる」
アーランが、頷いた。
「アーラン、貸すほど胸あったんか?」
「よく見たら無かったわぁ。幻やった」
双子は漫才のようなことをしてクスクス笑っている。
◇
一同の意見が一致して、旅は再開された。
馬車の中では、子供の姿に戻ったイーランとアーランが、はしゃいでいた。
「秘密やで〜」
「内緒どす〜」
まるで、何事もなかったかのように。
私は、その様子を見ながら、少しだけ苦笑した。
(本当に、色んな人がいるんだな)
馬車は、港街を目指して進んでいった。
【第17話へ続く】




