↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰被りの蛋白石  作者: 島ながぁ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/27

第14話「変色する琥珀」

 ヴォルフの瞳に緑色の光が仄かに宿る。


「なんだいきなり――は?」


 瞳が映し出した光景にヴォルフは驚愕した。


◇


 夕日に染まる街を黒い雲が覆っていた。雷鳴が轟く空からは、大粒の雨が降っている。


 ヴォルフは泥のなかに倒れていた。


 むせ返るような鉄と不快な焼けた肉の匂い。


 起き上がろうとして、右腕がないことに気づく。まるでさっきまで何事もなかったかのように激痛が走り出す。


 苦痛に表情を歪めながら立ち上がる。


 瓦礫と化した屋敷、破壊された庭。


 屋敷の敷地には夥しい数の死体がある。


 武装した集団と兵士達。そのなかにプラムの首が転がっていた。


 その表情は、驚愕のまま固まっている。


 ハジャルの姿がない。


 ヴォルフは周囲に目を向け、少し離れた所にハジャルの姿を見つけ、足を引きずりながら駆け寄る。


 ハジャルは虚ろな目で横たわっている。起こそうとした瞬間気がつく。腹から下が無い。


 焼けた腹部から臓腑がこぼれている。


 近くには大柄な虎獣人――タオが倒れている。その身体は何かでズタズタに引き裂かれていた。


 タオの背後には、大きな瓦礫とその下から覗く子供の手。


 ヴォルフは、後ずさりしてなにかに躓く。


 黒く太い鱗のついた尾のようだった。ヴォルフはその根元へ目を向ける。


 瓦礫の中心に“ソレ”がいた。


 大きな黒い竜が、巨大な翼を広げ空へ向け悲鳴のような咆哮を上げている。


 竜の手にはオパリアを抱えていた。


 目は半開きで、ぐったりして動かない。


 オパリアは、息をしていない。


 黒い竜は、再び咆哮を上げると、口から炎を吐く。周囲を、全てを焼き尽くすように暴れ始めた。


 ヴォルフの身体も炎に包まれる。


 ――そこで意識が途切れた。


◇


 ヴォルフの視界が戻る。


 「何だよ今の――なんつーもん視せやがる」


 息が荒い。汗が止まらない。


 ヴォルフは荒い息のまま、空へ目を向ける。夕日に染まり始めていた空に、暗雲が近付いていた。


 (――今向かってる屋敷、だよな?クソっ!なんでこうなるんだよ!)


 ヴォルフは、馬を急かし走り出しながらプラムへ声をかける。


「プラム!兵士達に屋敷内には絶対に入るなと伝えろ!」


 ハジャルはヴォルフに並走して馬を走らせる。


「師匠?どうしたんですか?」


 ハジャルはヴォルフの表情を見て察知する。


「何か視えたんですね」


 ヴォルフの表情には焦りと困惑が浮かんでいる。


「ハジャル!お前も後方で待機しろ!絶対に出てくるな!」


「師匠は!?師匠はいくんですか!?」


 ヴォルフは更に馬を急かして屋敷へ向かった。


「オーリのやつ。何をやってんだ」


◇


 ヴォルフが屋敷の前に到着すると、敷地内から大気を震わせる咆哮が響いていた。


 空は暗雲が覆い、今にも振り出しそうだった。


 遠くで雷鳴がしていた。


「もう始まってやがる」


 怯え、震えた馬から降りて、破壊された門を走り抜ける。


 ヴォルフの目の前には破壊され崩れた屋敷と巨大な、黒い竜がいた。


 その姿は、先程視た光景のものと同じ、だが、大きさが違った。


「視たやつよりもでかいじゃねぇか。どうなってんだ?」


 武装した集団が竜を囲み応戦している。集団の表情には恐怖と混乱が見えた。


 その時、ヴォルフの真横に、竜の巨大な尾が振り下ろされた。


 門の内側に隠れていた、魔術師風の男が黒い尾の下敷きになる。


 魔術師風の男は、身体を折り曲げた姿勢で、潰れて動かなくなる。


 ヴォルフは、周囲に目を向ける。


 武装した集団の一人が肩から引き裂かれ、悲鳴を上げる。


 踏み潰され、無残な肉塊に変わった人間。


 鎧を纏った男が巨大な歯に噛み砕かれる。


 屋敷のほうに、大柄な虎獣人の姿を見つけ、ヴォルフは駆け寄る。


 黒い竜はヴォルフへ目もくれず、武装した集団に襲いかかっていた。


「タオ!何があった!」


 虎獣人――タオはヴォルフに目を向ける。タオの後ろには、三人の獣人の子供がいた。


 そして、額から血を流し、意識の無いオパリアの姿。


「俺にもわからん!あの婦人が、突然竜になって暴れ出したんだ!」


「あの婦人?オーリか!――後ろの子供たちは?」


「娘だ、うさぎ獣人と人族の子供は知らん」


 ヴォルフはオパリアへ目を向ける。


「なるほどな、あいつら、ママを怒らせたんだな」


「ママ?」


 タオは怪訝な顔をする。


「気にすんな」


 黒い竜は武装した集団を蹂躙していた。


 鋭い爪で引き裂き。


 太い尾で叩き潰し。


 分厚い鎧ごと噛み砕き。


 口から吐いた炎で焼いていく。


「理性があるようには、見えねぇな。タオ!動けるな?今のうちに離れるぞ!」


 ヴォルフとタオが子供達とオパリアを連れて離れようとすると、白い虎獣人の子供がヴォルフを止める。


「待って!まだオパリアの治癒が終わってない。今動かすのは危険よ!」


 うさぎ獣人の子供達もタオを止める。


「ダメだよ」


「ダメダメ」


「治癒って。オパリアには魔法が効かねえ。手当なら外で――」


 ヴォルフがオパリアを抱きかかえようとすると、オパリアの額の傷が仄かに光っているのに気づいた。


「こいつは――、気孔術か?」


「気孔術だと?メイメイなぜだ、なぜ人族に気孔術を施す」


 タオの表情が険しくなる。


「オパリアには恩があるの!だから助けたい!」


 メイメイはオパリアの手を取る。傷口の光が強くなる。


 その瞬間、頭上から影が落ちる。


 黒い竜の尾が落ちてくる。


◇


 振り下ろされる竜の尾を、タオは斧槍で受け止める。だが、その重さにタオは片膝をつき苦悶の表情になる。


「見た目以上に速く、重いな」


「見境なしかよ。仕方ねぇ」


 ヴォルフは舌打ちをして剣を抜く。


 振り下ろされた尾の衝撃で、屋敷の壁が崩れた、大きな瓦礫が子供達の上に落ちてくる。


 ヴォルフは素早く剣を振り、瓦礫を斬り払った。


「メイメイ。話は後でする、治癒が終わったら三人を連れて、ここを離れろ」


 タオは斧槍を振り上げ、尾をはじき飛ばす。


「タオ!俺は背後から狙う、正面は任せたぜ」


 ヴォルフの瞳に緑色の光が宿る。剣に手をかざし緑色の炎をまとわせた。


「まさか、緑炎と共闘とはな、いいだろう」


「それはこっちのセリフだぜ。蒼雷」


 タオは身体に蒼白い稲妻を纏い、大きく跳躍した。


◇


「がああああああ!」


 咆哮とともに、蒼白い稲妻をまとわせた斧槍から収束した雷撃を繰り出す。


 放たれた雷撃は黒い鱗を焼き穿つ。だが、竜の身体に小さな傷を付けただけだった。


「なんだこの硬さは?」


 黒い竜は空中のタオへ鋭い爪を振り下ろす。


 タオは瓦礫を蹴り、蒼白い軌跡を残しながら鋭い爪の間をすり抜けた。


 再度、雷撃を繰り出す。


「相変わらず。速ぇな」


 背後に回ったヴォルフは、竜の背を一気に駆け上がり、翼を斬りつける。斬りつけられた翼は一瞬で緑色の炎に包まれた。


「視えてるよ」


 ヴォルフは、着地と同時に、二歩後ろに下がる。着地した地点に、尾が振り下ろされる。


 「焼けた端から再生してんのかよ」


 竜の翼の炎は既に消えかかっていた。ヴォルフは思わず苦笑いする。


◇


 私が目を覚ますと、メイメイとイーラン、アーランが覗き込んでいた。


「オパリア起きた!」


「起きたオパリア!」


 イーランとアーランは飛び跳ねて喜んでいる。


「あれ?傷が――」


 私は額に手を当てた、傷がない。身体の傷もなくなっていた。


「まだ動かないほうがいい。気孔術でオパリアの魔力を使って治癒したから。かなり消耗してるはず」


 メイメイは、そう言って起き上がろうとした私を止める。


 (キコウジュツ?なにそれ、魔法とは違うのかな)


「多分、大丈夫。私、人より魔力が多いから」


 私は、ゆっくりと立ち上がる。特にふらつきや、消耗した感じはなかった。


「黒い竜――」


 黒い竜と対峙するのは、ヴォルフとメイメイのお父さん、虎獣人タオ。


 竜の身体には細かい傷がつき、そこから黒い霧が滲み出いていた。


 周囲には破壊された屋敷と庭、武装した集団、けが人が何人もいた。


 そして、沢山の死体。


 辺りには、濃い鉄の匂いが立ち込めていた。


 (オーリ、なんだよね?)


「オパリア、今のうちに離れるよ」


 私は、メイメイの言葉に促され、屋敷の外へ向かう。


 屋敷の門を出た私達は、プラムと兵士達に保護された。私は足を止め振り返る。


 黒い竜は、狂ったように、苦しんでいるように、暴れていた。


 (オーリ)


 ヴォルフとタオが抑えているけど、長くは持たない、二人の疲労した様子から見て分かった。


 太い尾の一撃で、タオは吹き飛び、屋敷の壁へ叩きつけられた。


「タオ!チッ――」


 ヴォルフがタオに目を向けた瞬間。右腕を鋭い爪で引き裂かれた。


 黒い竜の口から炎が漏れ出す。


「オーリを、止めなきゃ」


 私は、引き止める兵士を振り払い、黒い竜――オーリへ向かって、走り出した。


 空を覆う暗雲から、大粒の雨が降り出していた。




 【第15話へ続く】



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。