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灰被りの蛋白石  作者: 島ながぁ


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第11話「金剛石の梅花」

「こちら側は領境の関所などはないんだな」


 私達は立ち寄った村で少し休憩していた。オーリが、地図を開いて現在地を確認している。


「このアダマス領は元々、オブシディア領だったからな。昔、武功の褒美としてオブシディア家から与えられたらしい」


 ヴォルフが領地の事を教えてくれた。


 アダマス領と言うらしい。


「へーそうなんだ」


 正直、私はあんまり興味がなかった。


「アダマス領と言えば、以前からあまりいい噂を耳にしませんね。最近、代替わりしたと聞きますが」


 ハジャルが言うには、前の領主は良くないことをしていたらしい。


「前の領主は典型的な二世領主だったからな。代替わりした領主も、ほとんど人前にに出てこないらしいしな」


 ヴォルフは怪訝な表情をしている。


「直接関わることはないだろう。オパリア、気にする必要はない」


 オーリはそう言って地図に目を落とした。


「そろそろ出るぞ、夕方までには都市に着くだろう」


 オーリはメリーに跨った。


 ヴォルフとハジャルもそれぞれの馬に乗る。


 私はオーリの手を取ってメリーに乗る。


◇


 街道を東に進む私たちの前に何かが見えてきた。


「煙?何かあったか?」


 オーリの言葉に、私は目線の先へ目を向けた。


 前方の森から煙が上がっていた。


 移動の速度を少し上げて様子を伺う。


 誰かの争う声、金属の打ち合う音。


 (馬車が襲われてる――)


「野盗?それにしちゃ。動きが統率されてんな。どうする?」


 ヴォルフは腰の剣に手を掛けて、オーリに問う。


「オパリア、お前が決めろ」


「助けたい!」


 オーリの問いかけに私は、返事と共に飛び出した。


「あ!おい!――ったく世話の焼けるお姫様だぜ」


 ヴォルフも馬から降り、走り出す。


「師匠だって同じじゃないですか、援護します!」


 ハジャルは馬上から弓を手に素早く矢を番え狙いを定める。


 オーリはメリーから降りて、少し離れた位置から馬車を確認していた。


「貴族の馬車か、見たことのない紋章だな。馬モドキ、オパリアの援護をしろ」


 メリーは返事をするように嘶くと飛び出していった。


 私は、兵士を背後から狙う野盗の一人に近付き棍棒で殴りつけた。


「おりゃ!」


 勢いよく宙を舞う野盗。


「俺達は傭兵だ!加勢するぜ!」


 ヴォルフは大きな声を出して周りの兵士に向け、助太刀の意思を伝える。


 弓を手にした野盗が数人矢を番えている。


「ハジャル。後方に弓三人だ!」


「見えてますよ!」


 ヴォルフが素早く指示を出しハジャルは目にも留まらない速さで矢を連続で放つ。


 放たれた矢は正確に手にした野盗を射抜く。短い悲鳴と共に野盗が倒れていく。


「感謝する!各員、陣形を組み直せ!」


 兵士の号令で陣形を立て直し一気に形勢が傾く。


 野盗達は、不利と感じて一斉に逃げ出した。


 私は三人やっつけた。


 ヴォルフは一人、ハジャルは五人倒していた。


 メリーは六人を蹴っ飛ばした。


◇


「確かに、ただの野盗ではないな」


 オーリは野盗の動き、構え方、貴族の馬車を観察していた。


 馬車の側には、けが人が数人と護衛の兵士がいる。


 一人の青年貴族が、剣を手に野盗に応戦している。


 戦い慣れていないのか、野盗に押されている。


「振り方も、構えも酷いな」


 オーリは青年を観察している。


 野盗が青年の剣をはじき飛ばした。


「あ、オワタ」


 青年は、妙な言葉を口走りながら尻もちをつく、野盗が剣を振りかぶる。


「仕方ないな」


 そう言ってオーリは、素早く剣を抜き、野盗と青年貴族の間に入り込み、剣を振る。


 野盗は、悲鳴を上げる間もなく両断され崩れ落ちた。


「ケガはないか?」


 オーリの後ろ姿を眺めながら、青年貴族は呆然としている。


「あ、貴女は?」


 オーリは少しだけ考える仕草をして青年貴族の問に答える。


「――ただの傭兵だ」


 オーリは、風に靡く長い黒髪を、片手で払いながら青年へ目を向ける。


「金色の瞳――まさか」


 青年貴族は、何かに気付いた様子だった。


◇


「いや〜危ないところを助けていただきありがとうございます。助かりましたぁ」


 青年貴族は、妙に低姿勢な話し方で感謝を伝える。


「まさか噂の魔女様御一行だったとは」


「俺は魔女ではない」


 即答で否定するオーリ。


「うんうん。正体を隠して諸国漫遊という感じですね!申し遅れました。私は、プラム・アダマスと申します」


 青年貴族は、オーリの言葉を聞き流すように自己紹介をする。


「アダマス?なんか聞いたことあるけど、なんだっけ?」


 少し前に聞いた気がするけど、あんまり良く聞いていなかったから、わからないや。


「代替わりしたっていう領主だよ」


 聞き覚えのある名前に、私が首を傾げていると、ヴォルフが教えてくれた。


「あはは、領主に見えないって街の人からもよく言われますね」


 領主プラムは、慣れている様子で笑っている。


 (それって、貴族としてどうなんだろう?)


「助けていただいたお礼をしたいのですが、宜しかったら街に来ていただけますか?勿論、街までは護衛として依頼させていただきたい」


「みんなはどうする?」


 私がみんなに聞くと、ヴォルフが呆れた様子で話す。


「言っとくが、断るのは無理だぞ?貴族からの依頼なんて、ほぼ命令みたいなもんだからな。たとえ相手が落ち目の貴族だとしてもな」


 ヴォルフは結構、危ない言い方をしている。


「引き受けることに問題はない。何か情報が得られるかもしれないからな。それにあの実力なら、罠だとしても大した脅威にはならん」


 オーリはちょっと物騒な事を言ってる。


 二人とも、言葉にようしゃがない。プラムの顔が引きつってる。


「オーリさんも師匠も、本人が目の前にいるのに、そんな言い方はないと思いますよ?たとえ事実でも」


 ハジャルは二人の言葉を注意しながら追撃の矢を放っていた。


 (ハジャルが一番酷いこと言ってる気がする)


 私はプラムに引き受けることを伝えた。


「さっきから、全部聞こえてるんだけど」


 プラムは顔を引きつらせながら小声で呟いた。


◇


 私達はプラムの案内でアダマス領の首都に向かった。私とオーリはプラムの馬車に乗っている。


 街道は少しデコボコしていて、プラムの馬車は時々跳ねていた。


 「当面は街道整備が急務ですね。誰かの腰が死ぬ前にやらないと。――痛え!」


 街に向かう途中、プラムは馬車の揺れで、天井に頭をぶつけた。私の身体も馬車の揺れにあわせて浮く。


 オーリはなんともない様子で座ってる。よく見たら、馬車の窓をガッチリ掴んで動かないようにしていた。


 オーリはプラムと領地の運営や近隣の街のことを事を話していた。私にはよくわからない内容だった。


「この街道の荒れ。先代の領主は、どのような領地運営をしていたんだ?」


 オーリが質問すると、プラムは気まずそうに、苦笑いしながら答える。


「恥ずかしい話ですが、父は領地運営を殆どしていませんでした」


 前の領主だったプラムのお父さんは、領地を放ったらかしにして、毎日遊んでいたらしい。


「急な病で倒れて、代理として領主になったはいいものの、領地は荒れてるし。野盗は蔓延ってるし。オブシディア領の跡地争いで周りはギスギスしてるし」


 プラムは、項垂れながら呪文のように領地の現状を話している。


 使い込みとか、傾くとか、会話の中に知らない言葉がたくさん出てきた。


 (福祉?産業?よくわからないや。後でオーリに聞いていよう)


 暫く馬車に揺られていると、街が見えてきた。大きな城壁に囲まれた街だった。


 (よく見たら壁の一部が剥がれてる。オーリなら壊せそう)


 私とオーリは領主邸に案内された。ヴォルフとハジャルとは一度別れた。宿を探すらしい。


 案内された領主邸は思っていたよりも質素な邸宅だった。


 (屋敷よりもずっと小さい、庭も狭いな)


 私が庭を見ていると、オーリは地方の領主はこれくらいの規模の邸宅が普通だと教えてくれた。


  (そうなんだ。知らなかった)


「どうぞこちらへ。今、お茶をお持ちしますので」


 プラムに案内されて、応接間に通される。


 廊下を歩いている途中、向かいから誰かが歩いてきた。


 側仕えのメイドを連れて歩く、長い黒髪、黒い瞳の背の高い女性だった。


 オーリは、足を止めて、壁沿いに立ち礼をする。オーリは小声で私にも道を開けて礼をするように促す。


 立場の上の人への対応ってやつらしい。


 女性は、オーリを一瞥した。オーリは目を閉じたまま礼をしている。


 女性の足が止まる。私を、じっと見ている気がする。


 しかし——それだけだった。


 女性は、そのまま何も言わずに通り過ぎていった。


「王妃様、視察お疲れ様でございます」


 プラムが、深く頭を下げた。


 女性――王妃リンナは軽く頷いて、廊下の向こうへ歩いていった。


 オーリは、その後ろ姿をじっと見ていた。


 「まさかこんなところで出くわすとはな。まあいい、オパリア顔を上げろ、行くぞ」


 オーリの呟きの意味が私にはわからなかった。


「メルディア――?」


 女性が一瞬振り返り、ママの名前を呼んでいた気がしたけど、私は振り返らずにオーリの後を歩く。


 (あの人、ママに似ている気がする。顔は見てなかったから、わからないけど)


◇


 応接間で、プラムから改めて礼を言われた。


「本当に、助かりました。最近、この辺りの治安が悪化していまして」


「野盗の他にも、何かあるのか」


 オーリが聞いた。プラムは気まずそうに話を始めた。


「実は――お呼びしたのは折り入ってご相談がありまして。カルダ山脈の街での事は聞いております」


 オーリは少し嫌そうな顔をしていた。


「違法な商人が、街に入り込んでいるようなんです。人攫いの噂もあります」


 プラムの表情が、暗くなった。


「調べようにも、私にはまだ、そこまでの力がなくて」


「情報は?」


「はい。少しですが」


 プラムは、資料をいくつか見せてくれた。オーリは、それを丁寧に確認していった。


 そのうちの一つの名前に、オーリの目が留まる。


「情報が少ないな。領地内での被害は?」


「まだはっきりとした物は無いです。ほかの領主から聞いた情報がほとんどなんです」


 オーリは資料を確認すると野盗についてプラムに尋ねた。


「先ほどの野盗達は?」


「最近現れ始めたのですが、捕縛しようにも拠点がわからなくて。被害を受けた周辺の調査でもめぼしい情報を得られませんでした」


 オーリは何か考え事をしていた。


 お茶とお菓子は、まあまあ美味しかった。


◇


 その日の午後、私とオーリは領主邸を後にして、少し街を散策することにした。


「少し休憩だ。街を見てくる」


 オーリが言った。


「わたしも行く!」


 私は、オーリの隣を歩く。


 街を歩きながら、露店を見て回った。そのうち一つの露店で奇妙な人形を見つけた。


「なにこれ、目つき悪い」


 銀色の髪、金色の瞳をした少女の人形だった。かわいらしいけど、ちょっと目つきが悪い。


「魔除け、厄除けの白薔薇様人形だよ」


 露店の店主が言った。オーリは何とも言えない複雑な表情をしていた。


「こういう事か、なるほど」


 オーリはぽつりと呟いていた。


「オーリ?知ってるの?」


 私は、人形の事をオーリに聞いた。


「知ってはいる。――が、魔除け厄除けにはならないと思うぞ?」


 オーリは目を逸らして気まずそうに答えた。


◇


 オーリは、街を歩きながら何か考え込んでいた。


 (まさか、人形が売られているとはな――ロックス商会?いや、レインから聞いた記憶は無いな)


 オーリは、路地の少し先を歩きながら、思考に没頭していた。


 (あの時の俺自身、ヴァルテール領の事に専念していたとはいえ、オブシディア領について聞いたことがなかったな。俺が消えた後なのか?)


 街の喧騒から少し離れた路地を歩きながら、オーリは今後の方針を思案していた。


 (ロックス商会に接触を図るか?別人として取り次げるか怪しいな。先ずは周辺都市の情報を集めてからだな)


「オパリア、一度宿へ向かうぞ――」


 オーリは思考を一旦切り上げオパリアへ振り返る。


 オパリアの姿が、なかった。


「オパリア?逸れたのか?」


 オーリが、周囲を見回す。通りの人混みの中に、少女の姿はない。


 オーリは、足元に何かを見つけた。


 ――桜の花の髪飾り。


 初めてオパリアと二人で街へ出かけた時に買った、あの髪飾りだった。


 オーリは、地面に落ちている髪飾りを拾い上げる。


「逸れた、というわけではないようだな」


 オーリの瞳に、仄かな光りが宿る。


◇


 髪飾りの落ちていた場所から、痕跡を辿った。


 路地裏へ続く、微かな足跡。


 オーリは、迷わず走り出した。


 路地裏の奥に、走る人影が見えた。その背に、オパリアを背負っているのが見えた。


 オパリアは、意識がないのか。ぐったりとして抵抗する様子がない。


「待て」


 オーリの声に、人影が振り返った。


 その瞬間——目の前に、何かが立ちはだかった。


◇


 虎の顔をした、大柄な獣人だった。


 顔に大きな傷がある。


「――そこをどけ」


 オーリが、低い声で言った。


 虎獣人は、斧槍を構えオーリの言葉へ返答する。


「悪いが、通すわけにはいかない」


 オーリと虎獣人の間に、緊張が走った。


 その時——


「オーリ!」


 ヴォルフが、駆けつけてきた。


「そいつは俺が引き受ける!先を追え!」


 ヴォルフは、剣を抜きながら虎獣人の前に立つ。


「お前は――チッ。面倒な奴が来たな」


 虎獣人が、ヴォルフを見て目を見開いた。


「久しぶりだな、タオ。こんなところで何やってんだ?」


 ヴォルフは剣を構え、虎獣人――タオを見据える。


「早く行け!」


◇


 オーリは、頷いて虎獣人の横をすり抜けた。


「ここは通さん!」


 虎獣人タオの身体から、無数の槍のような青白い稲妻が放たれ、オーリに殺到する。


「よそ見してんなよ。相手は俺だぜ?」


 懐に踏み込んだヴォルフは、剣を振り上げる。


「チッ」


 虎獣人タオは、舌打ちと共に後方へ跳ぶ。オーリへ向かっていた稲妻が逸れ壁に刺さる。


 オーリは、立ち止まらずにオパリアを背負った人影を追って、路地の奥へ走っていく。


「人攫いとはな。獣人の誇りってやつはどうした?食っちまったか?」


「貴様には関係ない」


 ヴォルフの軽口に、苦虫を噛み潰したような顔で牙を剥くタオ。


「関係なくはねぇよ。うちのお姫様を攫って。ただじゃすまねぇぞ?こっちのママは怒ると怖えぞ?」


 ヴォルフはニヤリと笑い、瞳に仄かな緑色の光を宿す。


◇


 路地裏の細道を駆け抜けるオーリ。角を曲がった先に、誰もいなかった。


 複数の道が、枝分かれしている。


 (どこへ行った——まだ遠くには行っていないはず)


 オーリは、周囲を見回した。魔力を集中させ、気配を探る。


 しかし、何も感じ取れなかった。


「チッ」


 オーリは、舌打ちとともに地面に拳を振り下ろした。石畳が大きなヒビが入る、周囲の建物が少し揺れる。


◇


「大層ご立腹だな」


 しばらくして、ヴォルフが追いついてきた。


「あの虎獣人は?」


 オーリは振り返らずに聞く、ヴォルフは肩をすくめて答える。


「逃げられた。やっぱアイツ強えぇわ」


 ヴォルフの服は、所々破れていた。


「オパリアは」


「――見失った」


 オーリの声が、静かに震えていた。


「手がかりは――無い」


 オーリは、路地を眺めて立ち尽くしていた。


◇


「捜索する」


 オーリはそう言って、動き出そうとした。ヴォルフは、オーリの腕を掴み引き留める。


「待て、相手が誰かもわからねぇのに、どこを探すんだ?」


 オーリは足を止めヴォルフへ目を向ける。オーリの表情には明らかな焦りが浮かんでいた。


「時間がない」


「だからこそ、慎重にいくべきだ」


 ヴォルフは、真剣な目でオーリを見た。


「プラムに知らせよう。この街の領主だ、街の地理にも詳しいし、兵も動かせる」


 オーリは、目を閉じて深呼吸をした。


「――わかった」


◇


 プラムに知らせるため、領主邸へ向かった。


「お待ちください!領主は只今会談中です!」


 オーリとヴォルフは応接室に足を運ぶ。静止する使用人の声を無視して応接室の扉を開け放つ。


「オーリさん?何かあったんですか?ずいぶん慌てたご様子ですが――」


 プラムが、驚いた様子でオーリへ尋ねる。


 オーリが、事情を説明しようとした瞬間。


 応接室の奥から、声がした。


「――あなたがオーリ、噂になってる再来の魔女ね?昼間そばにいたのはオブシディア家の生き残りだったのね」


 オーリは声の方へ目を向け、露骨に嫌な顔をしている。


「挨拶と話は後でさせてもらう。今は急いでるからな」


 オーリは女性へ短く答える。そこにいたのは。


 長い黒髪の女性——王妃リンナだった。


「何があったのか、私にも聞かせてほしいわね」



 【第12話へ続く】



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