表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルター・イグジスタンス  作者: 夢見る冒険者


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/15

第8話 確かな成長

西宮さんを支えられるくらい強くなる。そう決意したのはいいけれど、どうすれば強くなれるのかは分からない。


いや、心の中では結論が出ている。自分一人ではできないからこそ、教官を頼るしかないと。それでも、もしも頼み込んで逃げたらきっと僕はもう立ち上がることが出来ないだろう。


さっきまでの決意が揺らぎそうになり、それでも彼女のどこか安心したように笑う姿に僕は自ら追い込む事を決意する。


そう誓った翌日。僕は覚悟を決めて、教官のもとへ向かった。始めは朝の誰もいない時間に教官に頼み込もうと思った。クラスメイトに蔑まれるのが嫌だから。見捨てられたくないから。でもそれじゃ変わらないから。そう考えて、僕は皆が集まって訓練が開始する数分前に一人の教官へと歩き出す。


一番厳つい見た目をしていて、一番怖そうな人。けれど、一番根気強く僕に付き合ってくれたのも、その人だった。


「少しお話良いですか?」

「おお、いいぞ」


ラグビー選手のようにガッチリした体格で、僕たちと同じく黒髪の男性がいつも通り穏やかな視線でこちらを見る。彼だけは真っすぐに僕の目を見てくれている。


「一つ、お聞きしたいことがあるんです。この世界で鉄は、価値がありますか?」


その問いかけに彼は少し怪訝そうな顔をする。どこか鋭い視線で僕の表情を探る。その真意を推し量るように。やがて、敵意はないと判断したのだろう、素直に教えてくれる。


「もちろんあるさ。戦時中だからな。武器も防具も不足している。鉄はいくらあっても足りない」


その言葉を聞いて、僕は深く息を吐いた。どこか安堵しつつ、僕はポケットから鉄を取り出す。5g程度の小さな塊を掌に載せて、彼に見せた。


「これをどうしたんだ?」


スッと視線が鋭くなる中、僕は動揺することなく淡々と告げる。


「スキルで砂から作成したんです」


それを示すように僕は訓練場の砂を一つまみして、鉄を作成する。


「今の僕自身に何が出来るかは分かりません。それでも強くなりたいんです。僕が鉄を供給します。その代わり僕を鍛えて下さい」


そう告げた僕は地面に跪き、鉄を右手で握り締めながら土下座をしていた。地面に頭を擦りつけるようにして。


「……何をしている?」


教官の低い声が響く。怪訝そうに意味が分からいという声色だった。


「僕達の国に受け継がれる、最上級のお願い事をする時の行為です」

「そうか……」


どこか噛みしめるように小さく呟き、沈黙が続いた。やがて、ふっと目の前の空気が軽くなり、大きな声が聞こえてくる。


「お前さんは強くなりたいんだよ。それはどれくらいだ……」


問いかけられた言葉に一瞬迷う。相良くらいなんて言って良いのかと。自惚れた考えだとそう告げられるような気がして、みんなの蔑むような視線を想像してしまう。


「せめ……」


そう口にしようとして、立ち止まる。どこか嘘をつくその事が彼女に対する裏切りのようなが気がした。月明かりに照らされて笑う姿の彼女を思い出し僕は、真っ直ぐ教官を見つめて宣言する。


「誰よりも、強くなりたい。勇者よりも!!」


それが僕の一番の願いだった。彼女の隣に立ちたい。恋人になりたい。もちろん結婚してその先の人生だって共に歩みたい。そのためになら、何だってする!!


僕の覚悟を推し量るようにスッと教官が目を細める。その視線から僕は一歩も引かず、その視線を真っ直ぐ見つめ返した。もう、逃げたくないから。


やがて教官はふっと笑み零す。目を爛々と輝かせて。


「昨日までの勢いだけで言ってるようには見えねぇな」


歯をむき出しにしながら、クックックと笑いながら僕の横にまでくる。そして、ドンッと背中を叩きながら告げる。


「分かった。この俺ガレスが専属で教えてやる。もちろん、みんなの訓練後にはなるがな」


その言葉に僕は顔を上げる。そこにはどこか嬉しそうに笑う、初めて見る優し気な彼の表情があった。


「厳しくなるがいいか?」

「はい!お願いします!!」


僕は迷いなく頷いた。


***


その日から、本当の訓練が始まった。朝からひたすら走る。足が鉛のように重くなる。肺が焼ける。何度も膝が折れそうになる。それでも。


「お前さんの覚悟は、その程度か!」


その怒声が飛ぶたびに、僕はもう一歩だけ前へ踏み出した。彼女の隣に立ちたい。守れる存在になりたい。その想いだけが、僕を動かしていた。


午前中いっぱい走り続け、魔力が回復した頃を見計らって鉄を生成する。魔力が尽きれば、また走る。その繰り返しだ。当然周囲のクラスメイトはそんな僕をどこか小馬鹿にしたようにふっと笑う。


出来ない奴が一人いて安心するように、標的になっている獲物がいるように。でも何でかな、今はその視線を気にすることがない。まぁ、気にすることが出来ないくらい、目の前のことが苦しいってこともあるんだけど……。


みんなの訓練が終わってからも魔力を使う感覚を教わる。もちろん鍛錬の合間合間に鉄を作成していた。


「お前さん、身体強化は使えないな。原因に見当はついているのか?」


訓練が終わった後も当然様に走らされていた。そうして、地面に仰向けに倒れ込み、ぜーぜーと荒い息を繰り返す中で返事をしようと口を開くものの、息が上がりすぎて声にならない。


「ああ、しゃべらなくていい。イエスなら縦、ノーなら横。それだけで答えろ」


教官は手を軽く上げて制しながら告げる。そう言われて首を横に振る。


「もう一度発動して見ろ?」


ガレス教官は少し考え込むように顎へ手を当てた。


「なんというか、じっくり観察してみると、魔力の流れが気力悪いな」


教官は腕を組みながら眉をひそめた。


「何かに押しつぶされてるような……いや、互いに反発し合ってるような感覚があるが原因はさっぱりはわからん」


僕は少し息を整えながら尋ねる。


「はぁ、はぁ……その原因が、分からない限り……はぁ……使えないって、こと、ですかね?」

「あぁ、身体強化も、他の魔法も使えねぇだろうな」


その言葉に、つい悔し気に眉をひそめてしまう。


「まぁ、焦らずに原因を探っていこう」

「はい!」


そうして頷いた後も僕は今できることに注力し、部屋へと戻るのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ