第9話 魔力の開花
なんでかな、教官に鍛錬をお願いした日から身体は悲鳴を上げることが多くなったのに、辛くない。西宮さんの支えになれるように強くなる。その気持ちが明確になったからかもしれない。
それに、今まで伸びなかった魔力の数値が少しずつ増えていることも関係しているだろう。2日前まで動かなかった数値は今確認したところ118まで上昇していた。それが嬉しい。初めて努力が数字になって返ってくる。教官の、「昨日よりは良くなってきているな」なんて言葉が嬉しい。
だからかな、こうして前を向けるのは。教官と別れた先、食堂に向かう途中で偶然にも西宮さんと出逢う。僕の顔を見た彼女はどこかふっと笑う。
「表情も明るくなったね」
少し嬉しそうに笑う彼女に、僕は
「西宮さんのおかげだよ。ありがとう」
ずっと伝えたかった気持ちをようやく伝えられた。まぁ、自分から言いに行けよってことだけどね。
「私はそんな大したことしてないよ」
彼女は照れたように笑う。僕は首を横に振った。
「僕にとっては、大したことだった。西宮さんが伝えてくれた、自分を変えてくれた人がいるって言ったよね」
「うん。その人がいたから今の私がいる」
「僕にとっては西宮さんが、そういった存在なんだよ。下を向いているしかない現状で、前を向かせてくれた。目標をくれたんだ」
目を丸くして彼女は僕を見つめる。
「そっか、なら良かった」
なんて嬉しそうに微笑むのだ。はぁ~、ほんと好きすぎる。
「改めてありがとう、西宮さん」
「どういたしまして」
ふふっと笑みを零す姿に、胸が温かくなる。やっぱり憧れじゃなくて、好きなんだな。その事実を再度認識していると西宮さんが僕の瞳を見つめながら尋ねてくる。
「前に魔法を発動できないって悩んでいたよね」
「うん。そうだね」
それは今もまだずっと上手くいっていなかった。それでも、
「西宮さんのおかげかな、魔力を使うようになって大分魔力を認識できてはいるんだ」
「そうなの!?」
「うん、使用する魔力量が減ったし、回復量だって少しずつ早くなってきている」
まぁ、以前として魔法は使えないんだけどね。
「そっか、なら丁度良かったよ」
西宮さんはそう言って一枚の紙をポケットから取り出し、僕の目の前に差し出してくる。折られた紙を開いたその先には何やら文字が描かれていた。
「私なりにね、魔法が発動するまでの事を言語化してみたの。参考になるか分からないけど、一度試してみて」
丸く優しい文字で書かれた物には、魔法を使う手順が描かれていた。思わず目を見開きながら彼女を見つめてしまう。
「……いいの?」
「うん!」
その言葉に思わず自分の感情が高鳴ってしまうのが分かる。好きな人から自分を手助けしてくれるような内容のメモ。それを喜ばない男子はいないと思う。
「ありがとう、西宮さん!!」
僕は頭を下げつつ、差し出された紙に手を伸ばす。彼女の手に触れないように気を付けつつ、その紙を両手で受け取った。
描かれている内容に目を落として、どこか納得する。そっか、魔力の源泉は人によって違うのか!というかこれって……
「他の人にも聞いてくれたって事?」
「うん。沢山の人に聞いた方が確実かなっておもって」
「ごめん、そんなに色々として貰って」
「いいんだよ。私がしたいだけだし……なにより最近の白石君には元気を貰っているんだ。楽し気だからね」
そんな言葉までかけてくれる。なんて出来た人なんだろうか。なんてどこか崇拝気味に彼女を見つめてしまう。
「にしても早速試してみたいって顔だね」
「……うっ、ごめん。内心テンション上がってる」
彼女と話しているこの時間も楽しいだが、どうしてかな今は教えてもらった方法を早く試してみたいと思ってしまうのだ。
「いいよ、私も友達を待たせているからね。何か成果があったら教えてよ」
「うん! ありがとう!!」
彼女にお礼を言ってから僕は、食事を手短に済ませ自分の部屋へと一目散で戻るのだった。
***
部屋に戻った僕はベッドに腰掛けながら自分の魔力を意識し始める。
戦士であれば丹田。魔法使いであれば脳。そして両者の中間に位置する者は、心臓に魔力の源泉を持つらしい。
僕の場合はどうやって身体の中を探っていく。今までだって、魔力を使度に身体が温かくなるのを感じていた。
それは上半身の部分で、やっぱり丹田ではない。なら心臓か?そう思うけれど何だか納得がいかなかった。なら……と探っていく。
魔力を身体の中で感じる事。これは最近ようやくできるようになってきたことで、その感覚の中で一番温かいところを探る……
ポッと照らされたように光が灯った感覚がする。その先は——えっ!?
反応があるところを認識して驚いてしまった。だって僕には魔力の源泉が二つ存在していたからだ。
——心臓と瞳。その二つから温かな反応が返ってくる。二つ源泉があるなんて書かれていない。勇者である相良もまた心臓のみとされていた。
最初に魔法を教えてくれたあの女性も、僕の源泉が心臓にあると判断したからこそ心臓に触ったのだろう。そして元素魔法に適性のない僕を、戦士の方だと認識したはずだ。でも違った。
つまり、僕は自分の源泉を理解していないから魔法を使えていなかったのではないだろうか?どちらから供給すればいいのか分からないからぶつかり合った。もしくは両方からではないと発動しないという事だろう。
僕は源泉となる瞳と心臓から、右腕に魔力を移動させて発動しようとする。けれど、それは上手くいかなかった。
「……もしかして」
なんて呟きながら、僕は瞳から脳、脳から心臓。そして血液が循環させるように魔力を流れさせていく。そのおかげだろうか、これまでと違って変な抵抗がなかった。一気に出力が上がったような感覚になる。
今だったらいけるかもしれない。そんな確信を僕は持つそして……
全身を魔力が多い、能力が強化される感覚があった。全ての感覚が研ぎ澄まされる。体全体を指先まで明確に意識することが出来て。どこかブレる体の芯に一本の大木が存在するような安定感があった。
それを意識できるのはきっとここ最近教官にしごかれたおかげだろう。その事実にふっと笑みを零しつつ、魔力を霧散させる。
「ふふっ……ふふふ」
思わず笑みが零れるのが分かった。何度も試すように身体能力を強化する。ただ……
「解いた後の倦怠感が凄まじいなこれ……」
それは、電動自転車を始めて使った時の感覚に少し似ていた。まるで追い風が吹いているかと錯覚する程の加速と、電池が切れた時に急に脚が重くなったかと錯覚するような倦怠感。それを感じる。
だから慣れが必要なんだなと認識しつつ、その日は魔力が切れて、急激な眠気に襲われるまで続けるのだった。




