第10話 メリットとデメリット
「坊主、お前、それ!!」
翌日の教官は僕が強化魔法を使ったことに驚いていた。まさか使えるようになると思っていなかったのだろう。目を丸くして、口を半開きにした初めて気を抜いたような表情をしていた。それに苦笑する。
「はい、昨日クラスメイトから教えてもらったんです。魔力を発動させるコツを」
西宮さんのように言葉化できるのはきっと同じ世界から召喚されたからだろう。この世界の人は魔力が常にあるからこそ、使えて当然というヤツで多分感覚で使える。僕たちがどうして日本語を話せているのか理解できないのと同じように。
「そうか……なら、もっと厳しくできるな」
そう嬉しそうに彼は笑っていた。……え、冗談だよね?と思うがもう遅かった。これまでは能力を強化できないから加減していたものが、それ込みでもっと厳しくできるという事だろう。完全に、どこまで成長できるか楽しみにする人の顔だった。
「ははっ……」
乾いた笑みを浮かべつつ、僕は追い込まれる。それこそ地面にうつぶせに倒れ込んで、砂利を口の中に入れるくらいには……。
ぐっと歯を食いしばって立ち上がるとガリッという、砂の感触が歯を削る。目の前に立つ教官は、そんな僕の様子を楽しそうに見つめながら、次の事を考えている。その目は決して悪意からくるものではないと分かるだからこそ。
「お願いします!」
そう素直に向き合えるのだ。
***
今日もまた地面に仰向けになりながら空を見上げていた。
「にしてもお前さんの出力は凄まじいな」
「その代わり消費も凄まじいですけどね……」
「そうだな」
なんて苦笑しているが僕には笑えなかった。まさか常人の4倍ほどの出力なんて予測も出来なかった。まぁ、すぐにガス欠になってしまうというデメリットが存在するんだけどね。
「ただ、その出力のおかげで、他の仲間に追い付けているんだ。出力を調整すれば、化けるぞお前」
にやりと悪い笑みを浮かべる彼に、僕も同調してしまう。だって、あれほど差が開いていたクラスメイトと差を縮められるってことだから。もちろん、スキルでの差は大いにあるし、相良たちと比べたら天と地の差だ。それでも、ようやく背中が見えて来た。
「それじゃあ、続けるぞ」
「はい!」
頷いた僕は教官の元へ、前を向いて返事をするのだった。
***
それからは8時~18時30分ごろまでは訓練。その後は寝る前と起きた直後に鉄を生成するという流れになっていた。以前よりも少なくなってしまったが、その方が価値があると判断してくれたようだった。
そうして努力したこの2週間でのステータスはかなり変化していた。
力:10➔35
防御力:10➔30
魔法耐性:10➔22
俊敏性:10➔40
魔力量:100➔135
上り幅に関してはクラスメイトの方が正直いいとは思う。知っている相良なんかは、全ステータスで150に達したそうだ。以前までの僕ならそれに嫉妬していたんだろうけど、どうしてかな今はただ、目の前のことに目を向けたいと思っている。
だからこそ当然のように周囲の視線にはどこか焦りの様なものを感じていた。当然佐野や相良は一切僕のことを気にしない。彼らの方が圧倒的だから。それでも下位にいる文化部出身のやつらは、追いつかれるかもしれないとの焦りを感じているようだった。
まぁ、一番はあの教官にしごかれるから、今日はどうやって乗り越えようかと試行錯誤しないといけないんだけどね……。
いよいよもって僕も基礎訓練から武器を使ったものへと移っていく。
「お前さんはどんな武器を装備したいんだ?」
「そうですね、大切な人を護りつつ戦えるものが理想です」
「なら、片手剣に盾だな」
「それでお願いします」
そう言って彼との訓練は開始された。
「ほら、視界を作らないと攻撃されるぞ」
本能的に武器を怖がってしまうからだろう。僕は自分視界を盾で遮ってしまい。すぐに相手の攻撃を喰らってしまう。
「ぐぽっ……」
なんて情けない声を出しながら僕は一人地面に蹲ってしまう。
「ほら、いっただろ?」
たしかに注意してくれた。剣を避けられないタイミングで。そう告げたいのだが、今はただ、痛みにのたうち回っていた。何とか痛みを身体能力で抑えつつ、立ち上がる。
「どうすれば視界を確保できるんですか?盾をもう少しずらすとか?」
「それでもいい。ただ、盾で攻撃することも意識しろ。でないと、回り込まれるぞ」
「つまり、左から来たら、体重を乗せたりして、相手にぶつかるとか?」
「そうだ、立ち回りを覚えろ」
教官と僕は武器を合わせながら、鍛錬をしていく。
「重心を意識しろ、それぞれの武器で重さが違うんだ」
「バカ野郎、すぐにステップを踏めるように、重心を落としすぎるな!」
そんな声が聞こえながら僕は彼の攻撃にふっ飛ばされる。やっぱり体格差は当然のようにあって、教官の攻撃で簡単に揺らいでしまう。そのための、身体強化だというのに、その調整も難しかった。
魔力を常時使えば当然のようにすぐにガス欠になってしまう。なるべく消費しないようにとすれば、簡単に弾かれる。当然相手によって異なるのだから、すぐに対応できなければ死ぬ。
そう意識しても上手く攻撃をいなせず、ゼーゼーと息をしながら僕は地面に仰向けになって倒れていた。
「にしてもお前さんはホントに変わったよな。以前と違って変にビビったりしねぇ」
「そんなことしていたら、教官にふっ飛ばされますからね」
「違いねぇ」
と彼はどこか楽し気に笑っていた。だからかな、僕も少し真面目に答える。
「何より、護りたい人がいるのに引けませんから」
「なるほど、好きな奴がいるのか」
「別に好きとは言ってませんよ」
僕は動揺したように声が上ずりしつつ答える。その表情をニヤニヤ見ている時点でバレているのだが、それでも僕は気丈に振舞っていた。けれど彼はそんなことを気にすることなく、どこか温かな目で告げる。
「その気持ちを大事にしろよ、どうしたって戦場じゃあ冷静でいられなくなる。逃げたいって弱腰になっちまう時が絶対に来る。それでも、踏ん張れるのは大切な存在がいるヤツだ。お前さんがそれを持っているのっては、凄く意味があることだぞ」
どこか悲し気に告げる彼の目には、昔の仲間を思いやるような温かさもある。そんな少ししんみりした空気を感じ取ったのだろう。
ほら、さっさと続きをやるぞ。なんて彼は言いながら、また武器の鍛錬へと戻るのだった。
***
「現在の様子はどうだ?」
「勇者様方は順調に成長されております」
「白石と呼ばれたあの子は……」
「鉄の生成や、ガレスとの鍛錬など、他と比べても問題ないくらい成長をしております」
「ほぉ、それは意外だな。何が彼を変えた」
「報告では、西宮と呼ばれる聖女と、少々話していたと。それがきっかけと言われております」
「なるほど、聖女か」
その言葉に王様は安心をした。誰よりも慈悲深い心を持っていなければなれない聖女。その方が手助けしてくれたなら安心だと王は安堵する。
「では、そろそろ遠征に入っても問題ないな」
「はい、ここで彼らが本当の意味で戦場に立てるのかその真偽が問われるかと思われます」
「そうか……」
王は呟きながら考える。どれくらいのものが、初めて魔物と対峙して更に戦おうと決意してくれるかと。なにより、勇者が立ち向かう決意をしてくれることを懸念する。
(どうか、我らに救いを)
王は敬愛する神に向かって祈りながら、話し合いに戻るのだった。




