第11話 敵との邂逅
いよいよ、初めての遠征が始まる。目的地である森へ到着した僕たちは、出発前の最終準備をしながら指示を待っていた。
ここに来て2週間、最初は塞ぎ込んでいたが、今では目標も出来て前を向けている。そのきっかけをくれたのは……
見つめる先には友人と楽しそうに話している彼女の姿があった。僕の視線に気づいたのだろうか、彼女は軽く手を振ってくる。勘違いかもしれない。けれど、僕は勇気を出して、右手を腰のあたりまで持って来て、軽く手を振り返した。
その反応に彼女はどこか嬉しそうにふっと笑みを零して、また友人と話だす。
「~~~っ!!」
嬉しそうに笑った顔、かわいすぎでしょ!!僕は思わず天を見上げながらそんな風に思う。ようやく準備が終わったという事もあり、僕は改めて入る森に視線を向ける。
馬車でこの町に来るにあたって見えた、森全体の規模は、それほど大きくなかった。いうなれば、RPGで最初の町の近くにありそうな、ごくありふれた森だろう。
「それじゃあ、チームを組んでいく。基本は四人一組だ」
教官の声があたりに響いた。僕たちのクラスは三十二人。つまり四人ずつなら丁度八チームに分けられる人数だ。
当然のように命を預けるのなら信頼できる人選をしていき、相良や佐野、西宮さんに親友の天音さんだ。彼女もまた「戦乙女」という職業だった。魔法を使え、盾と槍をも使いこなす、中間的な職業だった。
聖騎士に似た職業であるものの、魔族などに特化している光属性というよりは元素魔法(火や水など)に適性がある職業らしい。かなり強力な職業らしい。
そんな中で当然のように僕はあまりものになってしまう。周囲がチームを組む中で、僕は三人組の所に入れてもらう形になった。当然のように反応は良くない。
「よろしく」
と声を掛けても返ってくるのは
「あぁ」
というどこか気のない返事だけだ。歓迎されていないことくらい、嫌でも伝わってくるし当然の反応だとも思う。これから魔物と戦うというのに、足手まといがいる分負担が増えることは目に見えているからだろう。
きっとその反応は今までなら落ち込んでいただろう。けれど、今はこう思う。”自分に出来ることをやるしかない”と。彼女を少しでも守れる為に今は出来ることを探そう。そう思うのだった。
***
当然のように僕たちだけで森に入るわけではない。各チームに一人教官となるような人物が派遣されるその人物は……
「今回は僕がお前たちを担当する」
そう言って現れたのは、いつも世話になっているガレスさんだった。どこか自信満々で告げつつ、チラリと僕の方を見つめる。その笑みを見ただけで自然と胸の奥に安堵が広がるのが分かった。
どこか笑みを浮かべた彼は僕の肩を軽く叩いた。
(気合い入れていけよ)
そう言われた気がして、
「はい」
は背筋を伸ばし、力強く頷いた。そんな僕たちのやり取りを、同じ班になった三人はどこか怪訝そうな表情で見つめていた。
やがて全員の準備が整うと、それぞれの班は間隔を空けながら森の中へと足を踏み入れていった。
***
森の中へ足を踏み入れる。昼間のはずなのに、不思議と薄暗く感じた。頭上を覆う木々が陽光を遮り、森全体がどこか湿った空気に包まれている。風が吹くたびに、葉擦れの音がさらさらと響く。その何気ない音にさえ、僕はびくりと肩を震わせていた。
周囲へ意識を向ける。だが当然、魔物の気配なんて僕にわかるはずもない。ガレスさんが同行してくれているという安心感はある。それでも、初めての実戦を前にした緊張だけはどうにもならなかった。
それは他のクラスメイトも同じだったらしい。森へ入る前までは軽く談笑していたというのに、中へ入ってからは誰一人として口を開かない。重苦しい沈黙だけが続いていた。
しばらく歩くと、分かれ道へと差しかかる。
「……どちらかを選ぶんですよね?」
班の中心になっていた左近寺が、ガレスさんへ尋ねる。
「ああ。どちらへ進むかはお前たち次第だ。魔物も動いているからこそ、どちらを選んでも遭遇するときは遭遇する」
その言葉に左近寺は少し考え、
「……右へ行こう」
そう決めた。さらに十五分ほど歩いただろうか。
「あっ……」
川辺に、一体の魔物がいた。緑色の肌。小柄な体。粗末な棍棒。ゲームで何度も見たことのあるゴブリンがそこにいた。いつものような雑魚的がそこにいる。なんてことは思えない。映像とはまるで違う、妙にリアルなそれに思わず息を潜める。
実際に目の前で見るそれは、呼吸をし、ゆっくりと水を飲む。それは僕たちと変わらない生物のそれで、けれど魔物だと分かる外見だった
(これと……戦うのか)
そう思った瞬間、身体が小さく震える。そんな中でも左近寺が自分を奮い立たせるようにふぅ~っと息を大きく吐き、
「行った方がいいよな」
と問いかけてくる。それに平山が頷き、
「うん。この距離なら奇襲できると思う」
唯一の女子である、浜松さんもまた
「そうだね」
と三人が小声で相談を始める。それに僕は何も言えなかった。この緊迫した場面で、変に空気を悪く指せないために頷き返すだけにした。
僕たちはゆっくり、ゴブリンへ近づいていく。
——ガサッ。
誰かの足が落ち葉を踏んだ。その音に反応し、川で水を飲んでいたゴブリンが勢いよく振り返る。
「グギッ!」
低く濁った鳴き声が森へ響く。その瞬間。僕たち四人の身体は、一斉に強張った。
本物の魔物。それと向き合ってしまったという現実が、一気に押し寄せてきた。そんな僕たちを見て、ゴブリンは口元を歪めた。
まるで獲物を見つけたような、醜い笑み。そして四人の中に一人だけいる少女へ視線を向ける。
浜松さんだった。ゴブリンはいやらしく舌を出し、よだれを垂らす。その視線だけで、何を考えているのか理解できてしまった。
「ひっ……」
浜松さんは顔を青ざめさせ、その場へぺたりと座り込んでしまう。完全に魔物に呑まれている状況のなか、
(——まずい)
そう思ったときには、もう身体が動いていた。




