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オルター・イグジスタンス  作者: 夢見る冒険者


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第5話 どうしたらいいのだろうか……

次の日も一人だけ体を作るために、鍛練をさせられた。魔法を上手く使えない僕にはそれしかできないから……。


もちろん、教官だって僕の事を見捨てたわけではない。他の生徒が練習に入れば、隙を見て、僕にも付き合ってくれる。魔法を発動させるために、必要な指導をしてくれて。それでも、魔法を発動させることは叶わなかった。


だからだろう。僕の優先順位が低くなるのは。指導中でも他の生徒が呼んだらそっちに教官は向かう。けど、それは当然だろう。魔王軍がすぐ近くまで迫っている状況で、撃退の可能性を含む彼らと、現状何もできない僕。どっちを優先させた方が良いのかは明白だった。


彼らだって慈善でやっているわけではない。追い詰められている現状で最も可能性が高いことを常に選択する必要があるのだ。そう……分かっていても、どこか納得は出来なくて、つい先ほどまで教えていた教官の方を見てしまう。


彼も視線には気付いているのだろうが反応はしない。それが人類のためにならないと判断しているから。


彼らの方を羨まし気に、立ち止まって見ているからだろう。クラスメイトから視線が突き刺さる。お前だけサボっているのかと。出来ないお前が悪いとでも言うようなそんな周囲の視線が痛くて、僕は逃げるように、また外周を必死に走る。


少しでも受け入れられるようとに……。


***


その次の日も、僕は一人だけ外周を走っていた。周囲のどこか楽し気な喧騒を聞きながら。


彼らは今日も楽しそうに自分を強化しながら、訓練に勤しむ。日を追うごとに、コツを掴んで言ったのだろう、魔法使いこなしていた。最初こそ強化された自分の動きについていけず戸惑っていたものの、教官たちの教えにより今では戦い方に順応し、その力をものにしている。


中でも相良は群を抜いていた。それに親友の佐野も負けていない。初めて数時間で動きに順応した彼らは先行して武器を持った訓練に入っている。それすらも上手く扱う彼らに対して、教官たちは感心し、神に感謝していた。


「まさに、神の祝福ってやつだな」


なんて、どこか希望をもった視線で彼らに期待を寄せている。そんな彼らが羨ましかった。僕には持ち上げることも出来ない、大きな剣を軽々と振り回し


「こんなの、余裕だろ」


なんて、次々と技術を取得してい佐野と、すました顔で何でもすぐに習得する相良を見て、僕はグッと奥歯を噛みしめた。悔しくて仕方なくて……。


その視線に気づいたのか佐野はこちらを見て視線を鋭く。視線をずらす彼の目には僕が怠けているよに映っているのだろう。彼の4分の1の速度も出ていないのだから。


けどな、お前は何でもこなせる奴だからそう思えるんだよ。こっちだって好きでこんなに遅くは知ってるわけでじゃない。僕だって、お前みたいに早くは知れたらって思ってんだよ!!!


そう声を大にして言いたかった。そうした先を想像できないわけではないから僕はまた一人走り続けた。


***


昨日悔し気に見つめたからだからだろうか。翌日、佐野が僕のもとへ歩み寄ってきた。


「いい加減、真面目にやれよ、お前」


肩で息をしながら、その場にしゃがみ込んでいた僕を見下ろすように、佐野は冷たい視線を向ける。その目には、鬱陶しいものを見るような軽蔑が滲んでいた。


「頑張ってますってポーズが見え見えなんだよ。あと、その悲壮感丸出しの顔もやめろ」


今にも胸ぐらをつかみかかってきそうな勢いで睨みつけながら、佐野は吐き捨てる。


(ふざけんなよ!僕がどれだけ必死に食らいついているか分からないくせに)


心の中で僕はそう叫ぶ。


最初から何でもできて、この世界でもすぐに順応して。努力すれば結果が返ってくる側の人間に、何もできない僕の苦しみなんて理解できるはずがない。


悔しさに拳を強く握り締める。


「僕だって……!」


そう言い返した瞬間、佐野の鋭い視線に射抜かれ、それ以上言葉が続かなかった。


「落ち着け、亮介」


僕たちの争っている姿に気付いた相良がすぐに近寄ってくる。


「だってこいつさ、自分だけがこのクラスで一番不幸です、みたいな顔してるじゃねぇか。見ててしらけるんだよ」


佐野は吐き捨てるように続けた。


「そういった気持ちを抱くのは分かる。それでも、白石だって遅くまで残って頑張っている」

「遅くまで残るだけなら、誰だってできる。頑張ってる姿を見せるだけなら簡単なんだよ」


佐野は僕を真っすぐ睨みつけながら続ける。


「お前には、必死さが足りねぇんだよ」


(は?お前に僕の何が分かるんだよ!!)


思わず煮えたぎるような怒りが沸々湧いてくる。抑えようとした気持ちは抑えきれず、彼の方をキッと睨むが佐野は一切動じない。逆に呆れたように、見下した視線のまま告げた。


「必死に走ってるっていうなら、一度くらい地面に倒れて動けなくなるまで走ってみろよ。お前、そこまで自分を追い込んだことないだろ」


そう言われて、言葉が出なかった。佐野にはそういった経験があるのだろう。けれど僕はこの世界に来てからも、以前の世界でもそこまで追い込んでいなかった。きついと、これ以上息が続きそうにないと思ったら休んでいた。


佐野は薄ら笑いながら続ける。


「余裕があるから止まれるんだよ。まだ限界じゃねぇから、今もそうやって休んでんだろ?」


その指摘に僕は何も言えなかった。佐野の言う通りで、僕が限界まで追い込んでいなかったから。そんな自分の甘えた部分に言及されて、思わず悔しくなり奥歯をギリッと噛み締めた。


たしかに僕は佐野からみたら甘いのかも知れない。それでも僕は必死にやっていた。こんなにも辛いことを続けたことは無かった。なにより。お前らの方が楽しそうに訓練してるじゃないか。余裕があるのは、お前らの方だろ。


そう言い返したかった。


だけど、言い返せない。今や佐野だけでなく、周囲の視線も僕に集まっている。これ以上言い訳するなと言いたげな冷たい視線が集まっている。。


そんな空気の中で反論できるほど、僕は強くなかった。結局、相良が場を収め、その話は終わった。


皆が訓練が終わった後も、魔法を使おうとして、出来なければ、必死に走り続ける。それでも何一つ成果は得られないまま、みんなとの差が広がっていく。


だからかな、「こんなことを続けて、意味があるのか」


そんな考えが、何度も頭をよぎるのだった。


***


その夜。ベッドに横になっても、頭から離れないのは佐野の表情だった。


『必死さが足りねぇ』


その言葉が、何度も何度も胸の中で反響する。僕だってやっているんだと悔しくて、悔しくてたまらなかった。だから


(いいぜ、やってやるよ、倒れるまでは知ればいいんだろ)


添う悔しさに歯を食いしばりながら、なかなか寝付けない夜が明けるのだった。


**


翌日、僕は倒れるまで走った。これで文句はないだろ。そう言い返すように、自分を追い込んだ。


限界まで。息が切れても、足が震えても止まらない。そして、そのまま意識を失った。目を覚ました時には、空は夕暮れに染まり始めていた。


慌てて訓練場へ向かう。けれど、向けられる視線は昨日と何一つ変わらず、教官には厳しく叱られた。


「そこまでやっても逆効果だ」


そう言われても、僕は負けたくなかった。だから翌日も、自分を限界まで追い込んだ。地面へ倒れ込むまで走る。けれど今度は気絶しなかった。


ああ、結局、どこかで自分にブレーキをかけている。それが分かってしまう。地面にぶつかったら怪我をするだろう。教官にまたしかられるだろ。なんて冷静に声が僕を止める。なにより、一日経つだけで、相良に対して抱いていた悔しいという気持ちが薄れつつあった。


そうして、三日目になる頃には、佐野への反発心も消えていた。残ったのは、一つの事実だけだった。結局、僕はその程度なんだという、自己への情けない気持ちだけだった。


言われて意地になって。少し苦しくなったら、心が折れて。続けられない。結局佐野の言った通りだった。僕は、本気で必死になっているつもりだっただけだ。その事実が、どうしようもなく悔しかった。


涙が滲む。震える右手で自分の左袖をぎゅっと握り締める。胸元を抱き寄せるように腕を回す。そうでもしなければ、自分が壊れてしまいそうだったから。


僕は涙を流しながら、静かに夜空を見上げる。そこには、数え切れないほどの星が輝いていた。


「……綺麗だな」


思わず、そんな言葉が漏れる。世界が変わっても。空は変わらず美しかった。その光景に心を奪われながら僕は一人、静かに泣き続けた。


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