第4話 僕だけ魔法をつかえない
期待に胸を膨らませた魔法の実践は、当たり前のようにみんなが魔法を発動させていく中、僕だけが、何も起こせなかった。
「……うわっ、できたよっ!」
「ほんとに魔法使えている!!」
なんて女子の歓声とともに、僕は焦燥感だけが募っていた。
「……まさか、使えないなんてことは、ないよな」
そんな現実、受け入れられるはずがない。震える声で教わった呪文を唱える。まずは火属性を試してみる。けれど、何も起きない。
次に水属性、光、土、風と教えられた五つの属性魔法を、一つずつ試していく。けれど、その度に反応が起きる物は何もない。周囲にいる女子たちは楽しそうに会話をしながら、身体に風を纏せたり、杖から光を出したりしてはしゃいでいる。
西宮さんもまた、
「ほんとに魔法が使えてる!!」
なんて、はしゃいでいた。それどころか、某アニメのように床を氷らせてその上を滑ったりなど、劇場のような再現までしていた。
舞踏会の演出のように友人を手に取りながら、魔法の火花や雪がパラパラと振る姿は少し幻想的で、普段見られない無邪気な光景に内心はしぃでいた筈だ。
けれど今あるのは自分だけが置いていかれそうだという恐怖だけだった。
いや、出来る筈だ。もっとイメージを明確にしたら。例えば大まかに、小川のせせらぎをイメージして……なら、水道水からでる水、そもそも水を……。
そんな風にイメージを変えても、自分の身体にあるだろう魔力に意識を向けても反応は一切なかった。だから、少し縋るように講師に尋ねる。
「あのっ……魔法ってどうやって発動したら」
「呪文を唱えれば自然に発動する。慣れないうちは基本」
僕がイメージだけでやろうとしたのだろう。それでも……
「発動しないんです。どの属性も」
そう告げると、彼女は僕の胸に手を当てる。先程までの焦燥感以上の驚きに、思わず思考が停止する。
(いい匂いがする。というか胸おっきい、ローブが垂れて中の下着が……)
なんて思考が飛んでいると彼女は首を振った。
「……君の魔術回路は、少し変わっている。おそらく、属性魔法には適性がない。これは兵士の領分かな」
なんて淡々と告げられる。その声は聞き取りやすく、心地いい。だから内容は入ってきている。それでも受け入れられなかった。
「それって、僕は火や、水などの魔法は使えないってことですか?」
「そうだと思われる。というか異世界人だからかな、分からないってのが正しい。でも、あなた一人だけ?」
「うぐっ……」
一人だけという言葉にダメージを喰らう。悪気がないのだろうが、彼女は今僕が最も心に刺さる言葉を選択していた。
周囲から聞こえてくるのは楽しそうに魔法をつかってはしゃぐみんなの姿だ。いつの間に覚えたのだろう、既に応用までしている……。
「そう……らしいですね」
どこか悔し気に下唇を噛みつつ僕は答えた。結局その後も僕は魔法を使う事ができず、その日の午後から戦士の訓練の方へと向かうのだった。
***
殆ど男子しかいない戦士の方は地獄だった。むさくるしい、痛い、きつい。そんな言葉の連続で、すぐに逃げ出したい程だった。
部活をやってきている運動部のやつらがついていけるのは分かる。だけど、なんで僕と同じように帰宅部だった奴らまであの練習についていけているのか分からない。
「この世界に来てから体が軽いんだよな」
「分かりますぞ。スムーズに動くでござるな」
やめろ、その口調。普段ならともかく今は無性に腹が立つ。僕一人だけ地面に突っ伏しながら、ゼーゼーと息を吐いているのは、身体能力が著しく低いからだった。
なにより、身体能力を強化する魔法を皆が使えているというのに、現在の僕は一切使う事が出来ていない。
魔力量は僕の方が圧倒的にある。戦士であるが故に、剣聖に選ばれた奴でも50だ。その倍はあるというのに僕は一切発動することが出来ていない。
「それにしても勇者御一行様はすごいですな。身体能力がやはり違います」
なんて褒めているのだ。きっと僕には言っていないことが分かる。結局その日はずっと走らされるだけで僕だけは魔法を使う事ができなかった。
みなはそれぞれの職業に合った剣士や弓士など、専門の教えを受けている。というのに僕だけが置いてかれていた。
「どうする、魔法が発動するまで残っていくか?」
暗に僕だけそう告げられていた。クラスメイトと引き離されたくないだろうという配慮のつもりで言っているのだろう。けれど、それは脅迫に近い。何もできないお前は当然のように残っていくよな?
そんな周囲の視線を感じる。結局僕はその言葉に頷いて返すことしか出来ない。だって「はい」なんてさも乗り気な回答をしたくなかったから。
その日は夕食に遅れるほどには鍛錬をつんでいた。ついた時にはほとんどが片されており、ちょっと口に入れただけで後にすることになるのだった。




