第1話 現実はやっぱり甘くない
突然覗き込まれた彼女の顔は、アイドルように小顔で目がぱっちりとしていて——『まつ毛長いな~』なんて感心したように見惚れてしまう。
未だにボーっとし続ける僕の事を、ますます心配そうに見つめる西宮さんに僕は慌てて答える。
「……だ、だいじょうぶ……です」
どこかたどたどしい返答になってしまうのは許してほしい。彼女とお近づきになりたいと思い続けるも、あの日直の日以来まともに話せていないのだ。それが、偶然にもこうして話せるなんて当然想定できるはずもなく、ものすっごく動揺していた。
彼女はそんな僕の、どもった感じを気にすることなく。
「良かった」
と温かな笑みを返してくれるのだ。もしも女神様がいるのだとしたら僕は彼女が良いとそう本気で思ってしまう。どこか浮ついた気持ちのなか、ふと皆の視線がこちらに集まっているのが分かる。
どうやらこの世界に来て一番最後に目覚めたのが僕らしい。どうりで彼女が話しかけてくれるわけだと納得する。きっと彼女以外僕に近付きたくないからこそ、心優しい彼女が起こしてくれたのだろう。真っ先に彼女が声を掛けてくれたなんて変な勘違いをしなくて良かった。
身体を起こすと、端の方でも一人起き上がるのが見えた。相良か……それに僕は安堵する。どうやら彼もまた僕とほぼ同じタイミングで目を覚ましたのだろう。中心人物である彼と同時刻なら文句は言われない……はず。そう思いたい。
いや、そもそも相良と僕じゃあ、好感度も何もかも違うんだけどね……。
全員が起き上がったことを確認したのだろう。周囲を取り囲んでいる中世ヨーロッパ風の豪華な服装に身を包んだ人たちが口を開く。
***
その内容はありきたりなないようだった。この世界には魔王と呼ばれるものがいて、侵略を開始している。それを助けてほしいということ。
もっと騒ぎ出すかと追われたクラスメイトは思いのほか大人しい。一度は見たことがあるアニメの内容だったからか。それとも、一心に視線を集める彼に後は託しているよう思えた。
その視線を受けた相良はすぐに首を振らなかった。
「一度考えるために、どこかに部屋を用意して貰えませんか?」
王様に打診すると、隣にいた宰相らしき人物と話しあい承諾される。別室に移動した僕たちは、彼を中心に話を進めていった。それも順調に……
普通だったらもう少し現状に動揺して、その中でこういった話に慣れている僕が。
『一端は様子を見た方が良いんじゃない。この世界で何処に行く当てもないから、まずは現地での知り合いを増やすべきだと思う』
なんて助言をして、それに
『そうだな』
なんて相良が同意する。そして、『こんな状況でもお前は冷静なんだな。白石は』とどこか、一目置かれて、『相良の方こそ、異世界に来たって言うのに冷静すぎじゃない?』『そんなことないよ。ただ、クラス委員長としての役目が僕を支えているだけだ』
と、彼が熱っぽい視線で僕の方を向いてさ、
『これからも迷った時に相談しても良いか?白石は慣れてそうだし』なんて感じで話が進んで行くんじゃないの?そんなやりとは一切なくて、相良は全ての懸念点を上げていく。僕と同じような、王様が信頼できるのかということから、考えていなかった食料の調達など現実の厳しさも。
なにより、衣食住が揃っていない状況では野党や人さらいの可能性もあると。この世界の治安の良さや文明の発展についても考慮できない今は従う方がいいとまで言ってのけるのだ。
(いや、コイツどんだけ考えてんだよ!!)
思わず心の中でツッコんでしまうが、明らかに彼の方が正しかった。当然その堂々とした振る舞いは周囲のものを安心させる。西宮さんだって、頷きながら、真っ直ぐに彼を見つめていた。
(……く、苦しい)
胸のあたりを抑えながら、やっぱり僕は彼に敵わないと思い知らされる。果たして僕だったらここまで堂々と言えるのだろうか?そんなことがよぎる中で、会議は一旦王様の要望に従おう方向に出た。ただし、こちらの条件も一部飲ませる。そうしないと言いなりになるし、対等な関係を築けないからとのことだ。
僕はまた自己嫌悪に陥る。僕ははたして人間関係のことまで考えられていたのだろうか?と……。
その後は順調に話が進んでいく。王様に対しての条件は、戦闘への参加は無理強い品という事。辛いものがいるのなら立ち止まることを許可してほしいという事だった。それに王様の方も譲歩を引き出す。
「わかった。ただし勇者様だけは、どうか協力してほしい」
とのことだった。その返答に彼は答える
「もしも自分が勇者であれば、参戦しましょう。他の人の場合はその時に再度相談させてください」
多分誰者が分かっていた。きっと彼が勇者であるという事を。だからだろう、王様は「わかった」と素直に俯いたのだろう。
***
どこか自己嫌悪に陥る中でもやっぱりこの瞬間だけは誰だってテンションが上がる。自分だけの特別なスキル。規格外の才能。あるいは、英雄になれるだけの圧倒的な力。
自分の才能が分かる瞬間というのはワクワクするものだ。どんな能力を得れるのかな?なんて浮かれてしまう中でクラスメイトの能力が示されていく。
「すごい、剣術適正がS、それに剣聖だと!!」
「それはすごいのか?」
ぶっきらぼうな言い方にどこかムッとするも相手が勇者一考だと分かったからだろう。すぐに顔色を変えて頷く。
「すごいもんだ。剣聖だけでもこの世界に5名しかいない職業。その上、適性Sまで付くと貴公を含めて3名だ」
「そりゃいいことを聞いた」
相良の友人である、将希がふっと笑う。バスケ部でセンターをやっているだけある。ガタイはこのクラスで誰よりもよく、身長だって183cmある。普通に羨ましい。というか赤髪ってやっぱりカッコいいななんて思ってしまう。
その後は続々と凄い職業だらけだ。西宮さんもまた
「聖女!! それに、回復適正S 魔術耐性S 異常状態耐性Sだ……と」
それには宰相と思しき人が腰を抜かしていた。傍目にも分かるこれまでどんなに多くても最大2つのスキルしかなかった。それもAとCとか言った組み合わせ。それが全部Sランクというのが凄いのだろう。
回復薬で懸念すべき毒や魔法での影響がないのだから当然のように重宝される。そしてやっぱり勇者は彼だった。
「僕が勇者でしたか。先の約束通り、私は戦いに参戦いたします」
その言葉に王様はただ呆けながら
「あぁ」
とだけ頷いていた。当然だろう。だって彼は、
職業:勇者
スキル:全魔法適正 全魔法耐性A 異常状態耐性S 剣術適正S 魔力集約
5つのスキルを手に入れていたのだから。他の面々ですらどこか驚いたのか、嬉しいのか、笑いながら乾いた笑みを浮かべていた。
「魔力集約に全魔法適正」
「何百年に一人の逸材だ」
「神は我々を見捨てていなかったのだな……」
最後には彼を見て泣き出す者たちまでいる。それほどまでに追い詰められていたという状況であり、彼はこの世界の希望であると特別であると分かる。
やっぱりと思っていてもどこか期待していた自分がいる。2%くらいは自分にも可能性があるんじゃないかって期待していた。けどやっぱり彼が勇者だったのだ。
遠くで彼を見つめながらどこか悔しい気持ちを胸に秘めるのだった。




